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ワケあり脱獄者と7人の守護者(旧.主と七つの宝珠)  作者: 旧成 アノマ
第一章『学びと成長』

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第一話『逃走』

本日二つ目です

 この星で最も大きな大陸、『創環(そうかん)大陸』の中心地、宗教国家『氷霊国(ひょうれいこく)』。その中心に位置する氷霊国最大の教会、中央教会の地下では、重苦しい鎖のすれる音が今日も響き渡っている。この地下牢には多くの人が収容されているが、その中でもひときわ大きい牢獄が一つ。鎖の音の主はここにつながれていた。

 整えられていない黒い髪に、すり切れた布地を身にまとった、まだ成人もしていないその少年は、両手足を、その腕と同じぐらい太い鎖につながれている。特に慌てる様子もなく、薄汚れたその姿から、それが長いこと継続された状態であることがうかがえた。右手には真っ赤な球が握られている。


 その地下牢に、わざとらしい足音とともに男が歩いてくる。真っ白い帽子とマントを身にまとい、赤い腰ベルトからはこれまた純白の剣をぶら下げている男だ。彼は少年とは対照的に小綺麗に整えられた姿をしている。このことから、彼がこの地下牢に人を収容する側の人間であることが分かる。

 男の手には一かけのパンがたくさん詰まった袋がある。どうやら、収容された人のご飯の時間らしい。そのうち少年の番が回ってきて、ひときわ大きいその監獄の前に立ち止まるとこう言った。


「14番、今日の飯だ。」


 投げ入れられたパンのかけらは、少年の元まで届いていない。よく見れば、パンのかけらだったと思われる黒い塊が所々に飛んでいて、布地から見え腕や足は生きているのが不思議なくらいに弱々しく細い。まともにご飯も食べられていないのだろう。


 男が少年の前を通り過ぎた後、少し顔を上げた少年は、果たして端整な顔立ちで、その目には弱々しい体とは対照的に、強い意志の宿る、何かを決意した目をしていた。


「この後次の監視が来るまでにはおよそ1時間か。それまでになんとかしないと。」


 この少年―刹零(せつれい)黒羽(こくう)―は15歳の誕生日の今日、この場から脱獄することを決めていた。何年も前から綿密に計画し、監視の規則性や、鎖の外し方、牢獄からの脱出の仕方を研究し続けてきた。今日はそれを実行に移すときだ。


 黒羽は、脱獄を成功させるために監視の位置を正確に把握する必要があった。彼がその際に行った方法は、目を閉じ、よく耳と、床に当たる足の感覚を研ぎ澄ますことだった。床の振動、音の響きから、監視が今どこにいて、この後どう動く予定なのか。

 数年にわたり培われてきたその力は、人間の力を逸脱しているように思われる。


 黒羽(こくう)は目をつぶった。先ほどの監視が今どこにいるのか。

 監視が通り過ぎてから約30分。彼は動き出した。手足の鎖は太いものの、接続部分がすれて弱まっている。どこかの接続部が切れれば良いと思い、立ち上がってがむしゃらに手足を動かす。まず右手、次に左足が外れ、右足、左手、とすべての鎖が外れる。長いことものを食べていなかったせいで、痩せ細った体で牢を抜けることは容易かった。


 問題はここからだ。幸い鎖が外れたものの、それは牢の壁から離れただけで、手枷足枷や、そこにつながった少しの鎖はそのままだ。黒羽はひとまず、何か隠せそうな服やものを持っている人が監獄内にいないか少し観察した。そこには一人、どこか小綺麗な服を着た男性がいる。自分よりも身長も高いため、もしかしたら枷を隠せるかもしれない。


「なぁあんた、あんたのその上着、俺に貸しちゃくれねぇかい。」


 黒羽の言葉に、きれいな白い長髪の美しい男性は顔を上げる。目には生気が宿っておらず、少し痛々しくも見えた。彼は、軽くうなずき自身の上着を脱いで渡してくれた。鎖につながれていたのはどうやら黒羽だけのようで、他の牢の人たちは、比較的自身の牢獄内では自由に動けるようだ。


 黒羽はありがたく上着を受け取ると、それを羽織る。赤い球は上着のポケットに入れさせてもらった。目をつぶり教会の人間の位置を把握すると、彼らに見つからないように教会を後にする。


 問題はここからだ。彼がこれからどこに向かうかは決まっていた。しかし、今の彼の姿はどこからどう見ても何かあった人でしかない。明らかに監獄から脱げだしてきた大罪人だ。


 そこで、彼は「変な男に襲われて閉じ込められていた」ということにした。体が痩せ細り、小綺麗な大きめの上着を上からはおっている、15歳の少年であれば、もしかしたら信じてもらえるかもしれない。できるだけ人目につかないように、薄暗い細い道を通る。しばらく歩くと、黒羽の姿を不思議に思った町の人に声をかけられた。


「おいあんた、一体どうしたんだい。」


 その声にビクッとする黒羽だったが、気のよさそうなおばさんで、自分の考えた言い訳を伝えた。幸運なことに少しも疑われることはなく、痛ましそうに顔をしかめて、彼女は黒羽の背を支えながら自分の家に連れ帰った。


「大変な目に遭ったんだね、一度うちで体を休めていきな。」

「あぁ、助かる。」


 家でキッチンに立ちながらスープを温めている女性は、黒羽にこれからどうするのか尋ねる。黒羽はこれから炎耀国(えんようこく)に向かいたい旨を伝える。


「おやそうかい。まぁあんたも追っ手が心配だろうし、早くこの国を出たいだろう?その手枷足枷はうちじゃどうしようもないけど、服ぐらいは用意してあげられるからね。ご飯食べて、服を着替えたら、検問のところまで連れて行ってあげるよ。」

「検問・・・?」

「あぁそうさ。といっても、国から出て行く場合は大抵特に調べられることは無いけどね。ただ、あんたは今奇妙なもんつけてるからね、何か聞かれたときのためにアタシも一緒に言ってやるよ。」


 黒羽は、長いこと地下にいたことで知らないことがかなり多いのかもしれないと知った。検問なんてものは知らなかったのだ。そんな話をしている間にスープの準備が出来たようで、彼女は黒羽の前に温かいスープが入った器とスプーンを差し出した。


 黒羽は恐る恐るスプーンでスープを口に入れる。暖かさが喉を通った瞬間、胸の奥じくりと痛んだ。かなり久しぶりに食べたまともなご飯はとても美味しく、黒羽に彼の両親を想起させた。涙を流しながらスープを飲む彼の姿に少々驚きつつ、彼女はそっとしておいてくれた。


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