コクマロ・カリーと王道の味
ボン・カリーの両親はラブラブだ。
その両親の馴れ初めもまた、非常に美味しいのだ。
父であるコクマロ・カリー伯爵が婚約者集団からあぶれたのは、この前も話したかと思うが、父は急遽婚約者を探さねばならない状態になった。
本音を言えば伯爵家に侯爵もしくは公爵令嬢を迎えねばならないとちょっとドギマギしていたのでホッとしたそうですわ。
しかし、この時父は20歳。
妙齢の目ぼしい令嬢は売却済みでありました。
ただ、父大好きなお方たちが黙っては居りませんでした!
『私の妹はどうだい?』
と、にこやかな顔で言われたのは王太子殿下のロール・ド・ゴールデンパイさま。
『妹君で婚約をなさっていないのは8歳の妹君だけですよ。ロリコンになりたくないのでご勘弁を』
『では私の従妹はどうですか?』
と、こちらもにこやかなスター・ルビー公爵令息。
『それは先日お生まれになったばかりの従妹さまのことですかね?さすがに自分の子供レベルの方はお断りします』
最後ににこやかに口を開かれたのはトゥーンブロード・シュールストレミング公爵令息。
『では私の妹……』
『妹君には断られましたし、尚且つ隣国に嫁ぐでしょうが!』
思わず派手に突っ込まれた父に三人はにこやかに笑われたそうです。
父は思わぬ方向でモテモテですわね!
ええ、皆さま、父と親戚になっておきたかったらしいです。自分の父に言うのも変な話ですが、父は優秀です。
現在、我が国で三人しかいない最高特別執行官……つまりは国王陛下が開廷を指示した司法裁判で判決を下せる言うなれば裁判官の一人です。しかも王族に対しても有罪を出すことの可能な司法の要でもあります。
我がカリー伯爵家は『法の番人』なんて、大それた異名もあるぐらいですからね。
それだけ、凄い人なんですけれども、私からすればお父様は巻き込まれ体質のハイスペック器用貧乏です。
さて、そんな父は婚約者探しを始めることにしました。
ただ、伯爵家以下の家でないと、まともな令嬢は残っていない現実を目の当たりにしました。
一瞬、めんどくさくなって、8歳でも、0歳でも、大きくなるのを待つかとか思ってしまったそうです。
まあ、そんなわけには行かないので、父は友人であるグラン・ダポテート伯爵令息に相談されたそうです。
ああ、私の親友ありますサラ・ダポテート伯爵令嬢の父と言った方がよろしいでしょうか?ポテトグラタン……失礼、グランさま父の憔悴した様子に驚いたそうすわ!
今でも仲良しでありますが、当時でも同じ地位で、愚痴の言える相手であったそうです。
『ニシン嬢が異国に嫁ぐ!?お前の新しい婚約者候補!?』
さすがに聞かされた情報のぶっ飛び具合にグランさまは開いた口がふさがらなかったそうです。
『ああ、という訳で何かいい話はないか?』
この時、父は釣書の数々を調べては絶望して、を繰り返して本気で疲れていたそうです。詰まれた釣書はほとんど『論外』に振り分けされていたそうです。
『う~ん……あ、待て、もしかして』
そう言われたグランさまはゴシップ記事の内容を話し出しました。
自分たちの父の時代……私から見ればお爺様たちの時代ですが、とってもやらかした某令息がいらっしゃったそうです。なんでも婚約者がいるのに婚約者を蔑ろにして、しかも男爵令嬢に貢ぎ込んだ馬……ウマシカがいらっしゃったらしいです。
ええ、我が国の第一王子だった男らしいです。
あ、その前に言っておかねばならないのですが、先王陛下というか、現在は譲位されておりますが私たちのお爺様世代の方でして、なんと先王陛下は第二王子でいらっしゃいました!
まあ、その兄上……こと第一王子が、やらかす、やらかす。
婚約者候補四人はそっぽ向いておりまして、側近も聞く耳を持たない第一王子に呆れるしかありませんでした。
そして時の国王陛下(要するに今現在だと先々王陛下ですわ)は、第一王子を見捨てる決断を下し、第二王子に王太子としての教育を始められました。つまり、第一王子の婚約者候補たちへのスライドが起こったのですわ!
まあ、その辺りは深く考えないでいただきましょう。
ただ、そうなると第一王子が邪魔なわけです。
しかし、それでも大事な息子でありますが、国王としては次代の邪魔になる者をそのままにしておくわけにはいきません。
まあ、やらかしまくった第一王子を入れ込んでいる男爵令嬢の家に婿入りさせてしまえばいい!と思いつかれました。
ただ、国王陛下は第一王子に秘密裏に最後の機会をお与えになりました。
その機会に気づき、自らを省みて婚約者候補たちを大事にするなら第二王子をはじめとする側近たちに第一王子の御代を支えせる。
その機会に気付かずに、男爵令嬢を選ぶならば、王室から追放し、その血筋に加護を与えないように排除する。
……まあ、第二王子が先王陛下と先に言ってしまいましたので、結果は然りですわね。
そのウマシカの第一王子殿下は王位継承を剝奪され、男爵令嬢の家に婿入りさせられました。
まあ、男爵家は青天の霹靂で、大変だったとか?
『で、その話がどうしたっていうんだ?』
『トンビが鷹を産んだのさ!』
『は?』
『元第一王子であったコブラー男爵とその夫人は今も変わらず……まあ、そういうことだ』
『まあ――その噂はよく聞くな』
『しかし、その子供が非常に優秀らしい!』
『優秀?』
『今年、卒業予定の学園の主席の名前は?』
ニンマリと笑われるグランさまにお父様は怪訝な顔を成されたそうです。そして、しばらく考えた後、ハッとした顔になられました。
『ポール・コブラー男爵令息!』
『そう、その問題児二人の子とは思えないほど謙虚で、優秀!王太子殿下も従弟に当たる彼を思わず評価したほどだ!』
『ほお、意外だ……』
『しかもここから先にお前の求めている話があるぞ?』
そう言ったグランさまの口車と馬車に乗せられて、父はコブラー男爵領に向かわれたそうです。
コブラー男爵領は自然豊かな土地でありますが、決して裕福という訳ではなかったそうです。何せ、麦の採れる平地は自然豊かな土地の三分の一程度。つまりはあまり税収も見込めない土地でありました。
そしてコブラー男爵家は学園に子供を通わせるのもやっとでありました。
ああ、先に説明しておかないとなのですね!
貴族の後継ぎたちは必ず学園と呼ばれる王立学校に通わせます。ここで領地経営を学び、税を学び、社交を学び、貴族社会へと進むのです。
私の家は幸いにして困窮する穂ではなく兄弟全員通わせていただけたのですが、そうでない家は借金してでも一人通わせるのです。
なぜなら、学園を卒業しない限り、我が国では貴族家の当主となれません。
コブラー男爵家は四人の子供がおり、その二番目の青年が今年、学院を首席で卒業されたコブラー男爵令息でした。
しかし、お父様は調べ上げられた資料を見てため息を吐かれました。
学園は12歳から6年間生活する場所です。コブラー男爵令息は実家に帰るのもお金がかかると6年間一度も帰らず、王都で文官の手伝いのような仕事でお金を稼ぎ、何とか卒業なさりました。
彼の努力を見た周りの同級生や、先輩方は不要な制服や、日用品を彼に渡しました。
あまり、人の努力のことなので言いたくはありませんが、貴族から貴族が使用品を貰うというのは『施し』として恥ずべき行為であり、下に見ている証でもあります。
当時のコブラー男爵令息のご友人たちは悩みつつも、彼の為に恥ずべき行為をこっそりと行っていたそうです。
コブラー男爵令息の先輩たちも彼の状況を知って、教科書などをこっそりとお渡しになっていたそうです。教科書などは特に高価ですので、なるべく見えないところでこっそりだったり、コブラー男爵令息の部屋の前に、誰からか分からぬように置いてあったり……。
彼を下に見るわけでもなく、なるべく対等に……。
なんとも紳士的な先輩方だったことでしょう。
まあ中にはそういう恥ずべき行為を面と向かって侮辱的にしてくる人間もいたそうですが、ご友人たちが先回りして、もっと良いものを用意していたそうです。
彼が並大抵ではない努力していたからこそ、周りは手を差し伸べたのでしょう。
それだけコブラー男爵令息が素晴らしい人間だと伝わってきます。
そのコブラー男爵令息には姉が居ります。自分と同じ20歳。コブラー男爵令息が学園に入学するためのお金、入学後の授業料、寮に滞在するためのお金、用意したのはその姉君だと知りました。
コブラー男爵令息が入学するとき、姉君は14歳。自分は学園で悠々自適な学園生活を送っていた時に、同じ年の少女がどれほど苦労してお金をかき集めたのか……そう思うと胸が痛くなってしまいました。
辿り着いたコブラー男爵領は黄金色の穂が広がる豊かな領地でした。
もっと荒廃した土地を想像されていたお父様は思わず開いた口が塞がらなかったそうです。
黄金の穂の中に籠を持って立っている女性が居りました。
金色の髪が波打つように風に流されて、その髪を抑えながら父を見た目は深い緑。着ているドレスはお世辞にも綺麗とは言えないが、その人が令嬢だとすぐに分かったそうです。
何よりも髪が、王太子殿下とよく似ていたそうです。
『何か、御用でしょうか?』
見惚れた……まあ、もう濁す必要はありませんね!見惚れてしまった父はフリーズアウトしてその令嬢を見つめておりました。怪訝な顔で令嬢から声を掛けられてハッとなさったそうです。
『す、すみません。コブラー男爵家へ参ったのですが……。』
『我が家に何か?』
暗い表情の令嬢に思わず息を呑まれたお父様!それもそのはず、そのコブラー男爵令嬢は誰もが見惚れると言われた馬鹿……えっと、ウマシカ……違った、元第一王子の美貌と、頭はあっぱらぱーですけれども、元王太子殿下を落とした美貌の男爵令嬢の子供です。
とても美しい女性でありました。
痛んでいるブロンドの髪も、農作業で荒れた手も、土のついてしまった頬も、全てが美しく見えたそうです。
『もしかしまして、コブラー男爵令嬢であられますか?』
父の言葉にその美女は麦畑の中から歩いてこられました。黄金の麦畑から出てきた令嬢……そう、私の母、アイリス・コブラー男爵令嬢ですわ!
母は、それは、それは、怪訝な顔で父に挨拶をしました。
『コブラー男爵の娘、アイリス・コブラーでございます』
父はもう、全部が金色の世界だったでしょうね……。母のカーテシーが非常に美しかったそうです。
実際に母のカーテシーは美しいと思います。王妃殿下初めとする国王陛下の元婚約者候補を見慣れた父が母のカーテシーに見惚れたのは、もしかしたら……。
『そうか……私と結婚してください!』
――ええ、父は本気で馬鹿だと思います。
この話を聞かせてくださった父の親友のグラン・ダポテート伯爵も、さすがにここで苦笑いを浮かべておられました。なぜグランさまが父のこの奇行をご存じかって?父と同じ馬車に同乗していたからです。
『……お戯れを』
母の一刀両断。絶対零度の気持ち悪いものを見る目は、父のハートの目が一気に人参色の目に戻ったらしいです。それぐらいブリザードが吹き荒れていたそうですし、笑顔に青筋浮かべた表情で父を見ていたそうです。
あとで聞いた話ですが、母はこの時、母の美貌を聞きつけた商人、貴族、様々なところから声を掛けられていたそうです。
正妻……ではなく、妾にならないか?と。
父としては正妻に望んでいたのですが、タイミングも、いろいろと大失敗でした。
母からしたら第一印象最悪の父です。
ここから先は父からではなく、見守ってくださった父の親友、グランさまから聞いた話です。
父はそれから仕事の傍ら、何度も何度もコブラー男爵領に出向かれました。もう、今まで王太子殿下に振り回されて、ぶちゃ振りされても涼しい顔でやり切る父(正直それは誰ですか?と突っ込みたかったです)が別人のように母を口説いていたそうです。
ええ、王太子殿下に花の店を聞き、スター・ルビー公爵令息に宝石の店を聞き、トゥーンブロード・シュールストレミング公爵令息に本の店を聞かれたそうです。
『アイリス嬢!今日も作業に精が出るね!ところで今日は……』
『いりません』
全部受け取っていただけなかったそうです。
使えねぇな、高位令息、と思いっきり舌打ちした父に、御三方は震えあがったそうです。と、言うか、王太子殿下に舌打ちしたのですか、お父様?
しかし転んでもただは起きぬ父。
『今日はお菓子を持て来たんだ!
王都で人気なお菓子と、長持ちするお菓子を持ってやってくる父。母はそのお菓子に釣られ……えっと、惹かれ……う~ん、誘惑されて?
まあ、農作業の合間にお茶を一緒に飲んでくれるぐらいの間柄にはなったらしいです。父、お茶まで持参。しかも、自ら入れた紅茶を保温ボトル(※母の為に作った土魔法と炎魔法の複合特注品)に入れてくる。
特に寒い冬など、母は有難かったらしい。
ですから、それは誰ですか?
父はその後も毎週のようにコブラー男爵領に向かい、母と交流したそうです。
何度かドレスを送って、箱のまま突き返されたそうですが……。花は受け取ってくれるようになったそうなので、高すぎないコンパクトな花が来るようになった……と母から聞きました。
その節はありがとうございます、王妃さま……。
『華美ではない、手のひらサイズの花束にしたらいかが?王都をお忍びで見回るときにロールさまから頂きました』
と、超・的確アドバイスを成されたそうです。ええ、後で震えた王太子殿下がいたとか……。
しかしながら、母は父の『結婚してください』に頷いてはくれませんでした。
まそこで父は母の弟君、要するに叔父ですがポール・コブラー男爵令息に声を掛けられました。
要するに将を射んとする者はまず馬を射よ……言い方悪いですが、外堀から埋め込もうとしたわけです。ポール叔父さまは学園首席で卒業後、父と同じ司法官となられておりました。
つまりは同じ職場です。
しかし、叔父さまはガルガルの傷付いた猫さん状態でした。そこに現れる伯爵令息、しかも職場の先輩に、姉の好みを根掘り葉掘り聞かれる状態。ええ、叔父さまは上手く父を避けておりましたが、父がネバーギブアップ精神を見事に発揮されまして、とうとう叔父さまは激怒なさったそうです。
『姉上を邪な目で見ないでください。僕は反対です!姉上はただでさえ苦労されている!今だって、下の兄弟たちの学費の為に必死で働かれているのだ!お願いだからそっとしておいてくれ!』
叔父さまの怒りの言葉は司法部の部屋中に響き渡ったとか……。
え、なぜグランさまが知っているかですって?グランさまも同じ職場ですわ。
『君は、姉君が大切なんだね』
父の的外れな言葉に叔父さまは更にヒートアップしたそうです。
『当たり前だ!姉上が私に字を教えてくれた!計算も、書類の書き方も、領地の管理も、全部姉上が教えてくれた!僕よりも頭の良かった姉上が学園に行くべきだたんだ!なの、両親は散在するしか出来ないし、挙句に借金!姉上を借金の代わりに愛人として売ろうとしている!もうこれ以上、姉上に不幸を押し付けないでくれ!』
叔父さまの絶叫はそれこそ文官棟に響き渡ってしまったそうですし、叔父さまの目には涙が浮かんでいたそうです。しかし、静まり返ったその部屋でケロッと話し出したのは父でした。
『なおさら諦められないな……。ちなみに、君の弟君って今いくつ?』
『はあ!?』
『いいから、弟君二人だったよね?いくつ?』
『えっと……12歳と10歳です。』
『なるほど!成績は優秀?』
『……同世代の頃の私より賢いです』
叔父の言葉にざわつく司法官室。ええ、それもそのはず。何せ、叔父さまは卒業後すぐだというのに、即戦力レベルの実務能力。それ以上に賢い弟君がいる……唾を付けておきたい司法官室の激務に泣かされる司法官たち……。
『よし、ならやっぱり私と結婚してもらおう!弟君たちの学費、私の家で見ればいい!』
『は?』
『君の優秀さはこの部屋の誰もが知るところさ!なら今の内に弟君たちも手を付けておきたい!あと姉君を何としても私の妻に欲しい!あ、なんなら弟君の寮費浮かせるために私のお家来る?君も王都の屋敷借りているんだろう?姉の旦那の屋敷ならタダで住めるよ?』
ええ、ノンブレスの弾丸論破だったそうですわ。
叔父さまはキョトーン。その場の皆さまもキョトーン。お父様はニコーだったそうです。
『えっと……あの、コクマロ卿』
戸惑った叔父さまはなんとか父に話しかけたそうです。
『はい、なんでしょうか?』
『あの、姉を、もしかして、娶りたい、の、ですか?』
『ええ、そう言っているではありませんか!』
『あ、いや、あの……妾、とかで、なく?』
『えっ!?あんな美人で頑張っている人を妾!?なんで!?他に目移りする必要ある!?』
その瞬間、叔父さまはへなへなっと座り込んでしまったそうです。ええ、同僚の方々は『うん、わかる。あいつ、ああいう奴なんだ、悪気はないんだ』って慰めてくださったらしいです。
まあ、叔父さまはこの時、18歳。どうにかしたいのにどうにもできずに絶望感ばかりが増している青年でした。父の底抜けの明るい声でケロッと言われた言葉がどれほど救いだったか……。
聞いただけで泣きますわ。
そこから父は早かった!速攻で当時の国王陛下に『アイリス・コブラー男爵令嬢と結婚させてください!あと、コブラー男爵は全く使えないので、さっさと息子のポール・コブラー男爵令息に家督継がせてください~』ってハンコ押させて、その書類持って、叔父さまとコブラー男爵領へ。
ちなみに司法官室の皆様は何も言わずに父と叔父さまの有給届を代理で書いたそうです。付き添いでグランさまが執行官として同席されたそうです。
あ、余談ですが。
コクマロ・カリー伯爵。我が父と。
グラン・ダポテート伯爵。サラさまの父。
ポール・コブラー男爵。叔父さま。
この時、馬車に同乗された三名が、我が国で現在三人しかない最高特別執行官ですわ。
まあ、権力に屈せずに、判決を下せる清廉潔白な御仁という証でもあります!
そんなこんなでコブラー男爵邸へ参りました。
たどり着いた瞬間、まさかの修羅場!
酒に酔ったコブラー男爵夫妻が母をあろうことか商家の五十過ぎのエロおやじに売ろうとしておりました!ゴロツキたちが抵抗する母を掴んでその身体をべたべた触っているではありませんか!
それを見た父がどうしたかというと……。
土魔法で地面から無数の串刺し……。
グランさま曰く『優秀なんだよ。魔法の腕も一級なんだよ。……キレると何するか分からないタイプだって初めて知ったよ。』と非常に疲れた顔で言われておりました。
『なんだおまえ!』
『え~っと、そちらのアイリス嬢の婚約者です。ほら、この通り、国王陛下の印もございます』
ニコニコ笑う父が書状をコブラー男爵夫妻に見せつけておりました。そっと母の腰を抱いて、周りが手出しできないように牽制しつつ……。
その間にも地面からニードルアタックが繰り返されて、ゴロツキたちは逃げ惑っていたそうです。
ですから、それは本当に誰ですか?
『娘の婚姻は私たちが決める!』
『ご冗談を……。あなた達がしようとしたのは婚姻ではなく、奴隷契約。しかも実子とは言え、貴族の娘を売るなんて、あなた達は貴族ではありませんね?』
『何を!俺が誰だと!』
『ええ、コブラー男爵。知っております共。妻になる人の父親ぐらい調べます。ですが、ここでさようならです。ありがとうございます。今、あなたがクズだと分かったので、遠慮なくできますね?』
そう言った父はちらっとグランさまを見られたそうです。グランさまは持ってきていたもう一つの書状を出されて宣言されます。
『ホース・コブラー男爵。およびヴェニソン・コブラー男爵夫人。貴殿ら二人は王国法第38条『貴族の子女の許可なき異国もしくは平民との婚姻を禁ず』の項目に抵触したとして拘束いたす』
グランさまの言葉にあれよあれよとウマシカ夫妻は護衛……に見せかけていた王国騎士に捕らえられて、格子で全面吹き曝しの馬車に詰め込まれて王都へ送られたそうです。
考えたくないですが、この方たち、私の祖父母なのですよね……。考えないようにします。
あれよあれよの流れについていけない母は、自分の腰を抱く父を見上げました。
『すみません、色々と順番が逆になっておりますが、先に言わせてください。』
そう言った父は母の前で跪いて小さな小箱を開きます。その箱にあるのは、指輪。金のベースに黄色味かかったイエローダイヤモンドと、ルビーの指輪。
『私と結婚してください』
その瞬間、母の目から涙が零れたそうです。今まで、誰も助けてくれず、誰にも助けを求められず、苦しくて、泣きたいのに、弟たちの手前、泣くことが出来なかった母の初めての涙でありました。
その感動的な場面ですが、グランさまと叔父さまはどうしていいか分からなかったそうです。
何せ、その横では父のニードルアタックがゴロツキたちを狙い続けており、騎士たちがゴロツキを捕えたいのにニードルに邪魔されて手出しできなかったのですから……。
ええ、本当にそれは誰ですか?
ああ、それからですか?
ええ、父が当時は国王陛下であった先王陛下に……。
『陛下の兄上がやらかしたせいで私の妻(※まだ婚姻前)が売られそうになったのですが?あと臣籍降下するときに普通、男爵家に持参金渡しますよね?無いのはなんでですか?コブラー男爵家は本来ならばヴェニソン夫人の兄君が継ぐ邸だったのにそれをスライドさせておいて何もしないとはどういうことですかね?あなたのクソ兄貴だけ押し付けて、何もしないとは、王家はなかなか酷いことされますね~』
ええ、ご察しの通りノンブレス弾丸論破で国王陛下に言い放ったそうです。
慌てる先王陛下。調べれば父の言う通りで、ちょっと先王陛下は先々王陛下を恨んだとか?ついでに当時王太子であられた現国王陛下や、側近の方々は絶対に父を怒らせないと心に決めたそうです。
速攻で地雷踏み抜いたらしいですが、そこは忘れて貰って結構です。
『我がカリー伯爵家は『法の番人』でございます。こちらにつきまして、厳正に対処いただけますか、陛下?』
先王陛下は20歳の若造に真っ青になられたとか。私の父は緑の中辛ぐらいかと思っていましたが、どうやら青の辛口だったようですね……。
ただ、これにより、王家より持参金と、迷惑料的なお見舞い金がコブラー男爵家に入りました。借金を一括返済されました。
コブラー元男爵夫妻は鉱山へ送られました。その判断は18歳にて家督を継いだ叔父さま……ポール・コブラー男爵が行いました。
元々コブラー男爵家の実務は母たちの伯父が担っていたそうです。彼は妹の愚行を止められなかったこと悔い、姪、甥を見捨てられず耐え続けていたのです。その大伯父さまは亡くなるまで叔父さまたちを領地の代行官として支えて続けてくださいました。
持参金と見舞金のおかげでコブラー男爵領は安定し、母の弟……叔父さまたちも学園に通うのに苦労しなくなりました。父は宣言通りに婚約者として母を王都の屋敷に招き、叔父さまたちも王都の屋敷に住まわせました。
『節約しておいて悪いことはないでしょう!』
と、快活に笑われる父に、コブラー男爵の皆様は何ともホッとされたそうです。
父の言葉が、まあ、あの、フラグだったんですけれどもね……。
もうこの頃には母は父にメロメロだったそうですが、父の方の愛が重かったそうです。ええ、今も変わりませんわ。
母はその後、その見舞金を持参金として我がカリー伯爵家へ嫁がれました。
母がこっそり教えてくれたのですが、母は毎週のようにお茶とお菓子を持って、色んなことを話す父に惹かれていたそうです。でも、自分の弟たちがまだ学園に居たこと、なによりも両親がクズ過ぎたことで、父に迷惑をかけそうで受け入れられなかったそうです。
ええ、母は父が正妻に迎えたいという意思を、ちゃんと受け取っていたのです。
照れ顔でこっそり教えてくれたお母様、とってもかわいかったです!
ああ、そうそう。
知っていますか?
男爵いもって、日本での呼ばれ方で正しくは『アイリッシュ・コブラー』というのですよ。
ふふっ、こくまろカレーと男爵いも。もう最高の組み合わせでしたでしょう?
あ、そうそう。母の兄弟たちなのですがね何度も出てきましたが長男がポール・コブラー男爵。
次男がペコロス・コブラー、三男がキャロット・コブラーというお名前なのです!
小玉ねぎと人参。それにポール叔父さまとお母様。
とっても美味しいじゃがいも多めの家庭的なカレーになったって言っておきます!
【本日のお品書き】
みんな大好きお母さんのこくまろカレー




