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コクマロ・カリー伯爵とメインディッシュ

ボン・カリーの両親はラブラブだ。


その両親の馴れ初めもまた、非常に美味しいのだ。



まずボン・カリーの父、カリー伯爵から紹介しよう。


金色の髪に、人参のようなオレンジの瞳を持つ父。

コクマロ・カリー伯爵。現在49歳。


若き頃は国王陛下の側近として学園時代は過ごしていたらしい。


兄たちの時点で『あ、察し……』って思っていた人も多いでしょうが、ええ、ひらがなでドーンと主張されて、美味しそうなカレーライスがプリントアウトされたあのパッケージです。私としては緑の文字(中辛)のイメージが強いですが、青だったり、赤だったりもありますわね!


そんな父には婚約者候補が四人いた。今は廃止されたが、当時はちょっと困った婚約者システムだったらしい。


王太子殿下につける側近は三名。そして王太子殿下の婚約者候補は四人。

おおよそ想像は付いたでしょう。王太子殿下の婚約者となられなかった三人はスライドで側近の婚約者となるシステムだったそうです。


ちなみに、父たちの代で起きた事件の所為で、このシステムは消えさった。


まずは元父の婚約者候補たちを紹介しよう。


1人目はポワソン・ビスクマール公爵令嬢。

もはや絹と言っていいほどなめらかで光り輝く銀髪に、深い海のような青い瞳のお方です。透き通る肌はまるでお人形さんのようで、『ビスクマールのビスクドール』と言われていたそうです。凛としたちなみに博識な方で、ビスクマール公爵領が港町なこともあり、四か国語を通訳なしでお話になられる才女でありました。



ポワソンが魚料理で、ビスクマール……魚介スープ?

う~~ん、こくまろカレーって魚介カレー合うのかな?



続きまして2人目、カルネ・ストゥファート侯爵令嬢。

ダークレッドの艶のあるストレートな髪の毛と、完熟トマトのようにつややかな赤い瞳を持たれるお方です。健康的な方で、乗馬がお得意で、色んなことを試されるのがお好きな方でありました。

魔法もお得意で、お家も『炎のストゥファート』と呼ばれる炎の魔法士を多く派出されたお家です。



カルネはお肉で、ストゥファートは肉料理……つまり焼肉全般ってことかしら?

こくまろカレーにお肉は王道ですね!



さらに続きまして三人目、ロースト・チキン公爵令嬢。

ええ、お兄様の元婚約者候補チャパティ・フライパーン伯爵令嬢の窮地を華麗に救ったタンドリー・チキン公爵の叔母さまに当たります。ふわふわの金髪と、オレンジ色の瞳を持たれるお方で、ピアノを初めてとする、音楽に精通されたお方です。異国の楽器にも精通され、初見でも少し使い方を聞けば綺麗な音色を奏でるという素晴らしいかたです。



ローストチキンとこくまろカレー!!それはきっと美味ですわ!



最後になりましたが四人目、ニシン・シュールストレミング公爵令嬢。

名前からして臭いますわよね……。北の海を含む、我が国最大の領地を持つシュールストレミング公爵家の令嬢でして、雪のような白銀の髪と藍色の瞳、何よりもほっそりとした雰囲気の方でした。



さすがにシュールストレミングカレーに入れる勇気はないわ。

むしろ、開けた瞬間にテロと勘違いされる臭いですわよ!?



まあ、こちらの四名が当時の王太子殿下の伴侶の座を狙われておりました。

全体的に主役級ですわ……臭いも含めて……。


さて国王陛下……当時では王太子であられたロール・ド・ゴールデンパイ王太子殿下。

赤が少々混ざる金の髪と、琥珀色の瞳を持たれる方です。まあ、本人曰く、『優秀ではないのは自覚しているので、支えてくれ』と言っておられたそうです。


父に言わせれば、『自分の力量を解っておられて、だからこそ周りの意見をしっかりときいて吟味できるお方だ』と懐かしそうに話しておられました。



まあ、では四人の婚約者候補がどうなったかというのを話していきましょう。


まず国王陛下であるロールさまを射止められ、現在は王妃殿下となられたご令嬢から紹介いたしましょう。


ポワソン・ビスクマール公爵令嬢を当時の王太子ロールさまが見初められました。


このお二方の出会いは運命のようだったと、父は言っております。父は側近の中で唯一、伯爵家の令息でした。他2人は公爵家の令息ですし、ご両名ともロールさまとは血縁もあります。本来では侯爵家以上から側近を選ばれるそうですが、あと一名が決まらず父に白羽の矢が立ったそうです。


余談ですが、父ともう一人、私の親友のサラさまの父親であるダポテート伯爵も名が上がっていたそうですが、『三人』という意味の分からない規定があり、父が選ばれたそうです。


まあ、父のことは空の彼方に飛ばして忘れていただいて結構です。


ロールさまとポワソンさまの出会いに戻りますが、お二人が出会ったのはまさかの王都の朝市!


朝市って?と思われますでしょう?

王都で週の終わりの朝に各地の名産品を持って売ったり、買ったりできる露天市場ですわ!

ちなみに、税金を取られないというので、市民や、商人たちはここぞとばかりにいろんなものを売ります。


あ、高価なものには税金がかかりますし、朝市は食品限定です!



察していただけると思いますが、ロールさまはその朝市に行きたかったのです。ええ、巻き込まれるのはゼロ細弱小伯爵家の令息……つまりはお父様ですわ。


お父様は長いものに巻かれて、朝市に出かけました。そこでロールさまは不思議な海産物を見つけました。それの食べ方を聞こうと思ったのですが、何せ千客万来の朝市です。皆さま子供の相手などしてくれません。


そこで、大声を出そうとしたロールさま!

父はやべっ!?って叫びそうだったそうです。


ええ、ロールさまは悪ガキ、クソガキでしたそうで

『私は王太子だぞ!』

と叫ぶところだったそうです。


その叫びそうなクソガキ……おっと失礼、王太子殿下の口を塞がれたのが、銀の髪を持たれたお人形のような令嬢であられました。


『お……ロール様?何をなさろうとしておりましたか?』


絶対零度の冷たい視線で王太子殿下を見下げる令嬢。


ええ、この方こそがポワソン・ビスクマール公爵令嬢でありました。

父はこの時、ポワソンさまが女神に見えたそうです……。


『私の話を聞いて貰うつもりだ!』


『アホなのですか?』


『何故だ?』


『ここであなたが叫んだら、大混乱になりますわ。庶民の暮らしをいたずらに乱すのは、おう……お家の恥となります!』


『では普通に聞けばよいのか?』


『……ならば、我が領にお越しください。漁師たちに聞く方が良いです。ここは売り買いの場所で、商売の時間を邪魔してはなりません』


いつもは人形のようにすまし顔のポワソンさまはゴミでも見るかのようにロールさまを見ていたとか?ただ、いつも動かなかったポワソンさまの表情がこう変化するのを見て、ロールさまは見惚れていたそうです。


パイって、折りたたまれると美味しくなりますものね、ええ。


ロールさまはポワソンさまのお家であるビスクマール公爵領を訪ね、港で、いろんな我が国の海産物を学ばれました。そして、ロールさまは我が国の特産物を学ばれるようになりました。


それまでは全くと言っていいほど、我が国の特産品を学ぼうとしなかったので、王宮中の人間がポワソンさまに拍手喝采だったとか……。


父は王太子殿下のフォローのために覚えた特産品が無駄になった、と笑っておられましたが、今とても役に立っているのだから良いでしょう。


まあ、コレがきっかけになりまして、ロールさまはことあるごとにポワソンさまを訪ねて、市場調査と言う名のデートを重ね、もう本命はポワソンさまで確定だと周りは思っておりました。


が、そこで大事件が起こりました。


なんとポワソンさまが隣国の王子に攫われたのです!


隣国の王子は港町で見たポワソンさまの美しさに目奪われて、国に無理矢理連れ帰ろうとしたのです!


しかも隣国と言っても海を挟んで隣の国。


我が国に海軍があると言っても、向こうは海賊上りの海軍!一枚も二枚も上手で、ポワソンさまを異国で汚されてしまう!と戦争待ったなしの状態になってしまいました。


ところが王太子殿下はそこでとんでもないことを致しました。


なんと王太子殿下は異国の船が出たのがビスクマール公爵領の港と知ると、すぐにそこに駆け付けました。

そして小回りの利く大型漁船の船長の協力仰ぎ、単身(※父も一緒だったのですが、そういうことにしてください)で異国の船を海上で急襲。



なんとポワソンさまを奪還なされたのです!



他の漁船の船長たちも協力して、まあ、ちょっと凄い嫌がらせをしつつ、異国の船を撃退されたのです!


いつもは凛として背筋を伸ばされるポワソンさまはロールさまに助けられ、抱きしめられた瞬間、耐えきれずに泣いてしまったそうでございます。


漁師の皆さまはその微笑ましい姿を、目をそらしつつ、安全運航で港へ向かわれました。

無傷の状態のポワソンさまを連れてビスクマール公爵領の港に戻られたロールさまを待ちかまえていたのは人々の歓声です。


それもそうです、ビスクマール公爵領の市民からすれば、ポワソンさまは大切な姫君!

姫君を国の王太子殿下が奪還して帰ってきたとなれば大歓声の大喝采が巻き起こるのは間違いないでしょう!


その後すぐにロールさまとポワソンさまの婚約が成され、今では仲睦まじく生活しておいでです。

我が国の特産品を異国に売り込む手腕は、なかなかに素晴らしいですわ!



魚介スープのパイ包!絶品ですし、最高ですわ!



さて続きましてはカルネ・ストゥファート侯爵令嬢。

『炎のストゥファート』に相応しい彼女は炎魔法の使い手です。実は、ポワソンさま誘拐時に一緒に居られた一人でありました。彼女は炎魔法で相手の船を焼こうとしたのですが、それはポワソンさまも危険にさらすと周りに止められたのです!


その彼女が選んだ手段は、発煙筒代わりに大きな炎魔法を天に撃つという手でした。


ただ事ではないとすぐに軍や、自警団、王太子殿下などがその場に集まりました。ポワソンさまの誘拐時、カルネさまがこの行動をしなければ初動が大きく起きくれた事でしょう。


さて、カルネさまは泣きたくなる気持ちを抑えて、ポワソンさまがお帰りなるのを港で待っておりました。


一緒に居た中では自分が一番強い自信があったのです。――なのにポワソンさまを守ることが出来なかった、と悔しい気持ちでいっぱいだったそうです。


そんな悔しい気持ちで海を見つめている折に、隣に来たのが王太子殿下の側近であられましたスター・ルビー公爵令息です。紫色の髪と、金色の目を持たれるお方です。


ええ、私の夫、ノーザンのお父上です。


スターさまはカルネさまを慰めたそうです。


『君の咄嗟の行動が、まだ何とかなる状態に繋がったのだ。誇るべきだ』


『でも……間に合わなかったら?やっぱり、船を焼いた方が良かったかもしれないわ』


いつもは自信満々のカルネさまがそのように落ち込まれるところを見たスターさまは心臓を打ち抜かれてしまったようです!


無事にポワソンさまが港に帰られたとき、誰よりも早く、誰よりも強く、ポワソンさまを抱き締めたのはカルネさまでした!カルネさまもポワソンさまも泣きながら抱きしめ合って、無事を喜び合いました。


ポワソンさまがロールさまと婚約なさったことで、カルネさまも婚約を考えねばなりません。ただ、我先に申し込みをしてきたのはスターさまでした。


彼は真っ赤な薔薇を持って、カルネさまに笑いかけたそうです。


『あなたが王太子妃となるために大きな努力をなさったのは知っている。王太子殿下を忘れてくれとは言わないが、どうか、私を見てください』


真剣な眼差しでそんなことを言われて、喜ばない女性はいないでしょう!しかもスターさまはノーザンとよく似ております。要するに美形です!


『……ポワソンさまが攫われた時、何故、私たちが必死だったかわかりますか?』


カルネさまの言葉にスターさまは困ったそうです。その顔をみて、カルネさまははにかんだ笑顔をスターさまに向けられました。


『ポワソンさまがいなくなったら、私たちの誰かが王太子妃にならねばなりません。王太子殿下を支えられるのはポワソンさま以外に考えられない。ですから、私たちは必死でした。ポワソンさまを救ったのは王太子殿下ですが、あの時の私の心を救ってくださったのは、スターさま貴方ですわ』


ええ、最高ですわ!まあ、お二人の間にノーザンが生まれたことを考えれば、その先は自ずと想像がつくでしょう。今でもラブラブカップルですし、お二人で遠乗りの狩りに行くこともありますわ。


じゃがいもの肉料理ってたくさんあってしまって悩んでしまいますが、カルネさまは赤がお似合いなのでトマトでしょうか?



高火力で煮た、じゃがいもとほろほろお肉のトマト煮の言ったとこですわね!美味ですわ!もう、最高ですわ!



お次はロースト・チキン公爵令嬢。

なんとなく想像がつくでしょうが、彼女もまた、ポワソンさまの誘拐の時、おそばに居られました。カルネさまが船を焼き払おうとしたのをお止めになったのは彼女でした。


カルネさまの機転で何かあったのを知らせたのを見たローストさまは、自らの特殊魔法をすぐに使われました。


特殊魔法というのは詳細が解明されておりませんが、何故か使える変わった魔法の事です。

ローストさまは『音魔法』という、音を遠くまで飛ばす魔法をお持ちでした。


ただ、一つ言っておかねばならないのは、特殊魔法は希少な魔法で、その魔法を使えるとなれば、他国から狙われることも多くなってしまうのです。


非常事態で、自らが危険になると知りながらも、彼女は『音魔法』でポワソンさまの危機を港中に伝えました。魔力の少ない彼女が港中に『音魔法』を広げるのは体力的にも危険でした。


しかし彼女の勇気が次の一手に繋がりました。彼女の『音魔法』のおかげで、ポワソンさまの危機を知った漁船の多くが港に戻ってきたのです。


ローストさまはそのまま気を失われてしまいましたが、目が覚めた時にポワソンさまが手を握ってらっしゃって、涙を浮かべて抱擁なさったそうです。


さて、困ったことに、ローストさまは王太子殿下の婚約者候補でなくなり、新たな婚約となったのですが、ローストさまの特殊魔法を隠すことは最早できない!そうなると、必然的に相手は決まってしまうようなものでした。


王太子殿下の側近の一人、トゥーンブロード・シュールストレミング。ええ、ニシンさまの兄上です。

北の広大な大地を持つ我が国の初代国王の王弟が切り開いた地であり、その末裔であられるシュールストレミング家以外で、ローストさまを守り切れるお家はないとのことでした。


ローストさまはそのまま婚約となったのですが、トゥーンブロードさま、皆さまトゥーンさまと呼ぶので真似させていただきますが、トゥーンさまは雪のような白銀の髪に、満点夜空を思わせる群青の瞳を持たれるかたで、やはり北の地を守られる屈強なお方です。


ローストさまがそのまま嫁がれましたが、トゥーンさまは今にも折れてしまいそうなローストさまとどう接していいか分からなかったそうです。


ただ、北の大地では大好きな音楽も意味がないとピアノも弾かなくなったローストさま。トゥーンさまは日に日に落ち込むローストさまを見て、一大決心をします。


王都のチキン公爵に、ローストさま愛用のピアノを譲ってくれないかと願います。チキン公爵はそれを快く受けまして、トゥーンさまは冬の雪が降りしきる中、ピアノをシュールストレミング領まで運ぶことにしました。


ただ、その日は猛吹雪。


シュールストレミング領でトゥーンさまをお待ちになっておられたローストさま。自分だけ置いて王都に行かれたトゥーンさまに複雑な感情を抱いておいででした。


――もしかしたら、トゥーンさまは誰かを思っていたのかもしれない。

――美しいポワソンさま?

――勇敢なカルネさま?

――まさか妹君のニシンさま?


考えれば考えるほど、思えば思うほど落ち込んでしまうのでした。


その夜、騒がしい音で目が覚めたローストさまは何事かとエントランスに降りれば、使用人たちが慌てながらお湯やら、毛布やらを用意している。


『何があったのですか?』


執事に確認したローストさま。


『旦那様が氷河に落ちました!低体温症です!』


それを聞いたローストさまはトゥーンさまの寝室まで走り出しました。真っ青な顔で眠っているトゥーンさまを見たローストさまは思わず涙が出てきてしまいました。


ああ、私は、この人が好きなのだ。と自覚なされたそうです。


まるで氷のように冷たい手を握れば、その星空のような群青の瞳がゆっくりと開かれる。


『ああ、ロースト……君か……ここは寒いな……君のピアノをききたい。君が楽しそうに弾く、ピアノと君が好きなんだ』


虚ろな目でローストさまの姿を捉えたトゥーンさまは穏やかでとろけるような甘い顔をされて顔で微笑まれました。トゥーンさまはまた眠られました。


突然の告白に真っ赤になってしまったローストさま。


そこで気を効かせた執事がトゥーンさまの手紙をローストさまにお渡しになられました。父にあてた手紙の書き損じでした。


『ローストの愛用していたピアノを譲っていただけないだろうか?新たなものでもいいかと思ったのですが、やはり馴染んだピアノの方が良いかと。』


そんなはじまりの手紙に書かれる自分に向けられた甘い言葉に、思わず顔を伏せてしまったローストさま。


『こういうことは……直接、言ってください』


そう言ってボロボロ泣き出してしまうのでした。


一瞬意識が沈んだトゥーンさまが目を覚ませば涙を流すローストさま。驚いて、起き上がったトゥーンさまはローストさまの持たれる手紙を見て、驚いてしまいました。


『その、すまない』


『それは、何に対する謝罪ですか?』


『……私の、気持ちだ』


『私は、トゥーンさまがポワソンさまかカルネさまを想っているのだと思っておりました』


『え!?』


『私が……『音魔法』なんて使ったせいで、私を娶らねばらなくて、それでっ!』


『違う!寧ろ神に感謝した!君をこのシュールストレミングに連れて来られると歓喜した!君が嫌でも、この地に縛り付けられる、そんなことを思う自分が嫌だった!』


思わぬ告白に、ローストさまは真っ赤になられたとか!お二人はその後、ゆっくりと愛をはぐくまれたそうです!



シュールストレミングは臭いが凄いですが、栄養価満点!慣れれば美味!ローストチキンとシュールストレミングを薄いパンのトゥーンブロードで包めば、それもまた美味ですわ!



最後はニシン・シュールストレミング公爵令嬢です。

ええ、ここまで来たらこの方もポワソンさまが誘拐された時、ご一緒だったのはわかりますわね?


彼女はその時に、追いかける漁船の船長たちにあるものを渡しました。シュールストレミング領の特産の……魚、ニシンやタラの缶詰です。


『よろしいですか?相手の船がもしも追いかけてくるようならば、この缶詰に穴をあけて、相手の船に投げ込むのです!いいですわね!?』


漁師様曰く、とても好い笑顔だったそうです。


ええ、皆さま想像される、テロレベルの悪臭を放つという、あの缶詰です。同じようなものがシュールストレミング領に存在するのです。


漁師の皆様は追撃に来た船に、ニシンさまの言われたとおりに穴をあけた缶詰を投げ込みました。ええ、結果はお察しの通り……。吐き出す船員、海に逃げ出す船員。挙句に猫まで海に逃げ込んでおりました。


ちなみにそれを遠目で見ていたニシンさまは綺麗な高笑いを海に響かせておりましたそうです。


ええ、なんとなく、このままこの方が私の父に嫁がれると思うじゃないですか?


違うのです……。まさかのまさかです。


なんとニシンさまが投げるように指示した缶詰ですが、それを不可抗力で持ち帰った異国の船。なんとも悪臭が凄かったそうですが、それをたまたまその国の第二王子が拾ったそうです。


臭いはともかくとして、栄養価の高さ、なによりも保存方法に感銘を受けられました。投げ込まれた缶詰を海の中で開けて、それを食べた船員が意外と美味だというのです。


なによりも、持ち帰ったその臭い缶詰を食べた島国特有の下痢が止まらなくなる病気に罹った人間が食べたところ、徐々に回復するということが起きたそうです。驚きつつ、同じ病気に罹った者たちに食べさせたところ、全員とは言わないが、八割の人間が完治しました。


第二王子は逃げ帰ってきた海賊上りの海軍兵から、兄のしでかした他国の令嬢……しかも王太子殿下の婚約者の誘拐未遂事件のこと聞かされました。


第二王子は眩暈がするような気分だったそうです。


第二王子はその頭の痛くなるような兄の愚行を父王に報告しました。

異国……サンドパン王国の国王は自分の息子がしでかしたことの重大さに真っ青になられました。


サンドパン王国の国王はすぐさま第一王子を捕えて牢へ入れ、第二王子にすぐさま動くように命じました。

謝罪のための使節団を送りたいと我が国に通達いたしました。第一王子の暴走、その後の処遇までしっかりと書かれたその手紙を持ち、我が国に謝罪に来ましたのはその第二王子でありました。


我が国で対応なさったのは王太子殿下……ロールさまです。


ロールさまが王太子であると知った第二王子は、次期王はこうでなくならない。兄ではダメだと決意を新たにしました。その覚悟を見た当時の国王陛下はサンドパン王国の第二王子にあることを伝えました。


『貴殿がこの先、貴国を導くならば、我が国は貴国と友好を結ぶだろう。しかし、貴殿の兄君であるなら、我らは剣を持つだろう』


第二王子となら友好を結ぶが、第一王子なら決裂。


その意味を正しくとらえた第二王子は覚悟を決められました。


王宮での謁見が終わると、第二王子の前に、落ち込んだ様子の令嬢が立たれました。目上の者に対するカーテシーを披露して、第二王子が挨拶するのをお待ちになられております。


『サンドパン王国の第二王子、メスルナ・サンドパンだ。ご令嬢、楽に。』


『ありがとうございます。シュールストレミング公爵家のニシン・シュールストレミングと申します。王国の尊きお方にご挨拶を』


ニシンさまのご挨拶はさすが王太子殿下の婚約者候補と言わざるを得ないほど洗練されて、美しいものであったそうです。


『シュールストレミング公爵令嬢が私に何か?』


『謝罪を、しに参りました』


頭を上げずに答えた彼女。そこでハッとし第二王子は『楽に』ともう一度言った。ニシンさまはそこで顔を上げられました。ええ、サンドパン王国では見ることない、透き通るような肌に、雪を思わせる白銀の髪。そして魅入られそうな藍色の瞳に。第二王子はくぎ付けとなったそうです。


『謝罪?』


『貴国の船に投げ込んだ缶詰の件です』


それを聞いた第二王子は『ああ』と思わず声を上げた。


『申し訳ございません。あの缶詰の匂いが酷いことは身をもって知っております。本来であれば水の中で開ける代物。それを嫌がらせのように貴国の船に投げつける指示を出したのは(わたくし)でございます』


『え?』


『さすがに、兄にも、両親にも、『やりすぎだ!』と怒られました。それによって海に落ちて溺れた人間もいると聞きました。大変申し訳ございません』


シューンと音を付けたくなるほど落ち込まれたニシンさまを見て、第二王子は思わず笑われてしまったそうです。


『いいえ、元を辿れば我が兄の所為。ご令嬢が気になさることはありません。むしろあなた様があの缶詰を投げてくださったのでしたら、我らはあなたに感謝せねばなりません』


どういうことかと思ったニシンさまでしたが、第二王子の話を聞き、どんどんと笑顔を浮かべたのです。


『そうなのです!あの缶詰は整腸作用がありまして!』


笑顔で説明をされたニシンさま。第二王子はそこで一つ決意を固めました。


『ご令嬢……いえ、ニシン嬢。有意義なお時間をありがとうございました』


第二王子は帰国後、すぐに動き始めました。サンドパン王国の王太子の地位を手に入れました。兄を追放し、次の世が盤石となるように国を安定させました。第二王子には二人、弟君が居られるのですが、弟君たちは第二王子を支えるおつもりで、三人で力を合わせて改革を進めました。


そして第二王子……こと、メスルナ・サンドパン王太子殿下は正式な書面で我が国に書簡を送られました。


『サンドパン王国は貴国と友好を願いたい。貴国と友好の証として、ニシン・シュールストレミング公爵令嬢を王太子妃として迎え入れたい』


おおざっぱに言うとこんな感じだったそうです。


青天の霹靂の我が国。だけれども、サンドパン王国との国交は渡りに船!幸いにしてニシンさまと婚約を結ぶ前だった父のところに


『ごめん、ニシン嬢は諦めてね?』


的な書簡が来たそうです。


父、一人あぶれる。


ニシンさまは驚いたそうですが、一度話したこともあり、なによりも、自分の生まれ故郷である嫌われモノの缶詰を評価してくれたのを嬉しく思っていたそうです。


ニシンさまはサンドパン王国へ嫁がれることになりました。


元々王太子殿下の婚約者候補です。王太子妃となられる準備もなさっておりました。少々、向こうの言葉が拙いそうですが、嫁がれるまでの間に、ポワソンさまに従事して、サンドパン王国の王国語をマスターされました。


なんでも、お相手の第二王子……ことメルスナさまはわが国の言葉を覚えて、ニシンさまが寂しくないように、わが国の言葉でお話をしてくださるそうです。


余談ですが、シュールストレミング領の缶詰はサンドパン王国へかなり輸出されているそうですが、ニシンさまがかの国で水の中で開けるだとか、正しい食べ方を広めたおかげで、需要は高いそうです。


私もチャレンジしましたが、下処理でこれほど変わるのは驚きでした。


今ではサンドパン王国の国王夫妻となりましたが、仲睦まじい姿は海を越えて我が国にも届いております。



シュールストレミングとメルスナ(ベビーリーフ)のサンドイッチ!一度食べたら病みつきで美味ですわ!



現国王陛下の元婚約者候補たちは軒並み主役(メインディッシュ)でしたわね!


ちなみにこちらの元婚約者候補の方々は今でも仲良しさんだそうでして、ニシンさまが我が国にお帰りになるときは、四人でお集まりになって懐かしむようにお話をされるそうです!



え?父ことカリー伯爵の妻はどうなりましたかって?


長くなりましたので次回にしましょう!





【本日のお品書き】

1.魚介と愛情たっぷりのビスクマールパイ包み

2.お肉とじゃがいものじっくりコトコトトマト煮

3.熟成ローストチキンとシュールストレミングのトゥーンブロード巻

4.シュールストレミングとベビーリーフのサンドイッチ



こくまろカレーは次のメニューで!


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