バーモンド・カリーと隠し味
知っての通りボン・カリーには三人の兄が居る。
そして他の兄たちの婚約者と元婚約者候補たちもまた、何というか、美味しいのである。
最後は三男のバーモンド・カリーを紹介しよう。長男、次男とは異なり、領地でバッサッバッサ魔獣狩りしております22歳。美形と言えば美形ですが、無骨系で、ある意味でバーモンドお兄様は婚約者選びが一番難航していました。
カッコイイのですが、深窓の令嬢には人気が無いのです。
昔の美少女時代のバーモンドお兄様を知る私は、時の無情さというものを痛感しております。
金色の髪と黄金色に焼けた肌。琥珀色の瞳を持つ細マッチョです。もはや屈強な騎士です。王都ではガタイの良い方のゴールデンお兄様とも、ジャワお兄様とも並んでも屈強な男感が強いですが、他の騎士に比べると細いらしいです。え?他の騎士様の身体はどうなっているのですか?
深窓の令嬢には人気のない兄ですが、深窓でない令嬢たちからは大人気でありました。
……ええ、魔獣が多く生息する魔の森に隣接する辺境伯爵家。
魔の真の森に隣接する辺境伯爵家は四家あるのですが、四家とも魔物からの国防の要であらます。ただ、まさかの四家の跡取りが娘で、しかも皆様バーモンドお兄様と同じ年という事態で、優秀で強い次男坊・三男坊を求めていたのです。
想像つくでしょう……。肉食女子がバーモンドお兄様争奪戦を繰り広げるのです。
なお、バーモンドお兄様は死んだ目をされておりました。
まず一人目から紹介いたしましょう。
アップル・ハニー辺境伯爵令嬢。はちみつ色の瞳と、熟れたリンゴのように真っ赤な髪。とってもスレンダーな長身方で、無駄なものが一切ついていないような方です。無駄なもの……何とは言いませんがとっても王子様体型です。快活と笑う豪胆な令嬢で、剣術がお得意だそうです。学園時代は女子剣術部門で一位、二位を争う腕前であられました。
あ、うん。バーモンドのパッケージを思い浮かべるのは仕方ないですよね……。合うに決まっているよ!
二人目をご紹介いたします。
シナモン・シュガー辺境伯爵令嬢。ふわふわの薄茶色の髪と、秋空のような澄んだ青色の瞳の令嬢。こちらもスレンダーですが、あのメリハリのある均衡が取れた身体つきらしいです。程よい……あの、はい、を持ちまして、お尻もきゅっと……男性の皆様は目が行ってしまわれるお方です。剣術が得意だそうでして、学園時代はアップルさまと女子剣術部門の双璧であられました。
シナモンとバーモンドカレーってどうなんだろう?ピリッとスパイスで大人の味かな?
三人目をご紹介いたします。
メープル・シロップ辺境伯爵令嬢。おっとりされた方で、動物との交流がお得意な方ですが、赤茶色のふわふわ髪と、琥珀色の瞳を持たれる左の泣き黒子が印象的な令嬢です。もう本当にふわふわマシュマロボディ。どこがとは言いませんが、抱きしめられた瞬間の至福は義妹候補の特権です。弓が得意な方で、弓術は学園時代に男子に交じっても一位という非常に優秀な方です。
メイプルシロップ……バーモンドカレーに甘さを足してお子様味かな?
四人目をご紹介いたします。
ショコラ・ノワール辺境伯爵令嬢。クールな知的美人!艶のある黒髪に、カカオのような赤茶色の瞳。キリっとした美人さんでビターチョコレートです!スレンダーでありますが、切れ長の目はとても知的で、お話しするのは少々苦手らしいですが、時々見せる笑顔が可愛い!ちなみにショコラさまは魔術が得意らしく、魔獣相手に氷魔法でバンバン撃たれる姿はかっこよすぎます!
バーモンドカレーの隠し味にチョコレート。コク出そうだな。
まあ、おおよそ想像がつくでしょう。
長身、カッコいい、強い。三拍子そろった御姉様集団です。
こちらの御姉様集団、令嬢人気が高いのです。そんじょそこらの男では許さない雰囲気があります。
ええ、この空気を私は知っております……タカラヅカカゲキ……ええ。はい。
正直に言えば出来レースでは?なんて思いましたが、肉食系女子のお姉さま集団はそれぞれに物凄いアピール合戦。バーモンドお兄様は無骨ながらも紳士的に、お姉さま集団と交流成されました。
ただ、この勝負を勝ち取ったのはアップル・ハニー辺境伯爵令嬢でした。
本音を言えばやっぱり!です。
が!バーモンドお兄様がアップルさまを選んだ理由が、予想外過ぎました!
まあ、街で私の誕生日プレゼントを選んでいたそうです。テディベアでしたが、バーモンドお兄様が選んだものが、あの、その、本物の魔獣系のぬいぐるみだったそうです。たまたまそれを見てしまったアップルさまは「そんなの女の子が喜ぶわけないだろ!」と兄を叱責。アップルさまは仕立屋の系列のテディベア専門店にバーモンドお兄様を連れて、選ばせたそうですが……あまりにセンスがなく、アップルさまが言うがままに買ったそうです。
ただ、そこでバーモンドお兄様が偉いのは、お礼にアップルさまによく似た赤いテディベアも買い、それをアップルさまにお渡しになったそうでして……。
そこでアップルさまが恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんだ顔が可愛かったそうです。
ええ、わかりますわ、ギャップですね!
ただ、この後、やはり他のお姉さまは黙っておりません!どこに惚れたかと聞かれたバーモンドお兄様!
「テディベアを渡したときに見せた笑顔が可愛かった」
と、素直に答えるバーモンドお兄様。アップルさまは熟れた林檎の如く真っ赤に染まっておりました。
ただ、辺境伯爵令嬢のお姉さまたちはライバルでもありますが、幼馴染でもあります。バーモンドお兄様の言葉を聞いた三人は。
「見どころあるな」
と、まじまじ感心するシナモンさま。
「わかるわ~。アップルの可愛いものを見た時の顔は可愛いわよね~」
と微笑ましく言うメープルさま。
「それは、負ける」
ポソッと言われるショコラさま。
皆様、アップルさまのそう言うところが可愛らしいのを知っていたらしいです。最近は私の部屋で一緒にテディベアを見せ合いっこしております!アップルさま可愛いですわ!
ついでなので、ご紹介いたしましょう。
まずはシナモン・シュガー辺境伯爵令嬢です。
アップルさまと(令嬢人気の)双璧を成しておりましたシナモンさま。彼女は年下の公爵令息から猛烈アタックを受けることになりました。
グリュー・ブラッドワイン公爵令息。
ダークレッドの髪と、深緑の瞳の青年で、バーモンドお兄様同様、細マッチョさんです。
一歳年下だそうですが、学園時代からシナモンさまを思っておられたそうですが、当時は年下で体格もシナモンさまに負けており、完全スルーされ続けたそうです。
それでもあきらめずに、シナモンさまに釣り合うためにかなりの努力を成されたそうで、剣術、戦術、弓術と戦う男としての技術を磨かれました。
その涙ぐましい努力を見てバーモンドお兄様もアップルさまも協力したとか……。
二年程で屈強な男になられて、シナモンさまにプロポーズ!
ですが、ここでシナモンさまも女傑だと思いました。
『私が欲しくば私を倒せ!』
カッコよすぎましたが、宣言した場所が場所でして、王都の大競技場でお二人は結婚を掛けて勝負となりました。
ええ、3時間の激闘の末、グリューさまがシナモンさまの剣を吹っ飛ばしました。本当に激闘ですが、長期戦に持ち込んだグリューさまの作戦勝ちだと、隣で観戦されたバーモンドお兄様とアップルさまが教えてくださいました。
シナモンさまは負けた後に快活に笑われておりましたが、その場で唇奪ったグリューさまは勇者です。
皆さまの黄色い悲鳴が素晴らしいことになっておりました。
その後グリューさまが婿入り成されて、シナモンさまをでろでろに溶かしておいでです。
グリューワインはシナモン溶かしますもんね……大人の味!
続きまして、メープル・シロップ伯爵令嬢。
彼女は王都の狩猟大会でダントツぶっちぎりの一位を取りまして、国王陛下より『褒賞に望むもの』を尋ねられました。そこで彼女が望んだものは、ええ、まあ。
『プラップジャック・パンケーキを婿に望みます~』
ゆったりとした声で言われたことに国王陛下があわあわ。側近たちもあわあわ。会場中もざわざわ。
プラップジャック・パンケーキ元公爵令息。私の婚約者候補であったキタ・アカリ公爵令息も巻き込まれた元宰相アカリ公爵をはじめとする大型不正事件。その際に、父親であるパンケーキ元公爵の不正の証拠を持って逃げ、それを国王陛下のところまで運んだ勇気のある青年だ。
ただ、一部では父親に協力していたこともあり、今は軟禁状態。彼の実務能力の高さを捨てられないが、罪人の息子をどうするべきか、国は頭を悩ましていたのだ。
『私は実務が苦手です~。御覧通り、戦うしか能がありません~。なので優秀な実務を出来る彼を下さい~。辺境の地であれば、彼を存分に使えます~』
ちなみに戦うしか能がないと言った彼女の背後には大小さまざまな百近い獲物が積み上がっていた。国王陛下は『人となりも知らずに、それでいいのか?』と尋ねられました。それに対してメープルさまは迷った様子もなくおこたえになりました。
『武芸の得意でない彼が、書類を持って逃げるなんて、自殺行為です~。でもそれだけ、正義感を持っていた証明でもあります~。その時点で、私は彼以外考えられなくなりました~』
一応、一応ね?心配した国王陛下が一か月お試しでフラップジャック・パンケーキ元公爵令息とメープルさまを交流させたそうですけれども、もうメープルさまは押せ押せで、フラップジャックさまは戸惑いつつも、彼女の実務が苦手な面を見て、支えることを決心成されたそうです!
メイプルシロップとパンケーキ!王道ですわね!
最後はショコラ・ノワール辺境伯爵令嬢。
この方は想像以上の大物釣りあげました。
まず、彼女は氷魔法の天才です。
まあ、ノワール家は『氷のノワール』と呼ばれるお家でもありますので、納得です。余談ですが、ショコラさまも剣術、弓術と優れますが、他の御三方ほどお強いわけではありません。ショコラさまに言わせれば御三方の武芸は『桁違い』だそうですが、私からすればショコラさまの魔法も『桁違い』ですわ?
あの、そんな飲み物がぬるいからってコップに氷を作らないでください。氷は高級品です。あ、お姉さま方!?そんな簡単にショコラさま頼まないでください!?氷は高級品です!
さて、ショコラさまが辺境の森でバンバン氷魔法をぶっ放していたところ、森から怪しい人物が出て参りまして、その男を一発ノックアウトさせて捕らえました。
まさか、その方が少し離れた帝国の第三皇子で、帝国の次期魔塔主候補だと誰も思いませんでした。
ロール・ブッシュドノエル。ブッシュドノエル帝国の第三皇子。しかも国交が全くない国の王子をノックアウトさせたと国は大騒ぎ!?ただ、ブッシュドノエル帝国の皇帝陛下は何とも常識的な方で『うちのバカ息子が大変申し訳ございません』と親書を送られてきてくれました。
まあ、このロール第三皇子に皇位継承権はあるが、魔術以外に興味はなく、フラフラ遊んでいるうちに魔の森へ入り、気が付いたら女性の氷魔法で一発ノックアウト。
ええ、要するに頭がイカレテしまわれました。
そこからショコラさまに猛烈アタック!国王陛下はどうしていいかわらかず、国の側近たちも戸惑い、頭が痛そうなブッシュドノエル帝国の皇帝陛下が苦肉の策で、『第三皇子を婿に上げるから、国交結ぼうよ!いちおうちゃらんぽらんでも第三皇子だし、次期魔塔主候補で魔法得意だし!』と提案。
ええ、我が国はショコラさまを犠牲になされました。
まあ、そこで黙っている辺境の伯爵令嬢たちではございません。
アップルさまも、シナモンさまも、メープルさまもガチギレ、王都に辺境伯爵軍が連携して向かうのでは?と一発即発の状態!
が、ショコラさまが
『意外と楽しいし、魔法のこと話せるの嬉しい』
とポソッと、でもはにかんでお話になられました。まあ、我が国では魔法士も居りますが、使いこなして攻撃に出来る方は少なく、故に魔法士は貴重です。しかも魔法を改良できる御仁となればさらに少ない。ある意味でショコラさまにうってつけの相手でありました。
一気にトーンダウンする辺境伯爵令嬢たち。
まあ、その後、帝国からたくさんの魔導書と共に第三皇子が婿入りされました。魔の森の近くには帝国と我が国共同の魔法解析機関が生まれて、ロール第三皇子が機関長を務め、ショコラさまをデロデロに甘やかしつつ、二人で魔法研究に勤しんでいるそうです。
ブッシュドノエルはチョコレートクリームだし、スポンジで包み込むなんて……絶対美味しい!
【本日のお品書き】
1.りんごはちみつとろ~りとけているバーモンドカレー
2.シナモン溶け込む大人のグリューワイン
3.メイプルシロップがしみこむ王道パンケーキ
4.チョコレートクリームで包み込むブッシュドノエル