ボン・カリーとジャガイモ
昨日書きましたhttps://ncode.syosetu.com/n7145ld/の短編を改変しました。
内容を足したので長くなっております。
お兄様の話も書きたくなったので、長編に変更です。
何があったか覚えていないけれども、最後に飲んだ夏の夜、週末のビールが死ぬほどおいしかったのは覚えている。
目が覚めたら赤ん坊ってまさにラノベ展開!
しかも目の前で見せられる魔法の数々に、異世界ひゃっほい!
なんて思った赤ん坊の私は、飲みかけミルクを吹き出しそうだった。
「これが妹?なんか猿みたい?」
そんなことを言ったのは一番年の近い兄、バーモンド・カリー。我が家の三男。
ちゅぱちゅぱ、ミルクうめー!の気持ちで哺乳瓶からミルクを飲む私は、リンゴとハチミツがトレードマークのあのパッケージが脳裏に浮かぶ。
「バーモンドが生まれたときもこんな感じだったよ?」
そう返したのは二番目に年の近い兄、ジャワ・カリー。我が家の次男。
ちゅぱちゅぱミルクを飲み続けた。でもやっぱり思い浮かんでくるのは長方形の箱。
ええ、もちろん思い浮かべましたよ……南国の木を……。
「そうそう、だんだん目とかぱっちりして来るんだよ」
そう笑いながら言ったのはゴールデン・カリー。我が家の跡取りであり、長男。
哺乳瓶から口を離して、ぷはっ!うめっ!ってなりつつも、浮かんだよ。うん、金の箱に『カレーライス!』みたいなあの箱が……。
「あぶ、あぶ!」
言葉にならない声を上げるのは末っ子にして長女の私。
ボン・カリーである。
オレンジと黄色と赤のあのレトルトしか浮かんでこない。
なんでよりによって、こんなにカレー食べたくなるお家に生まれたのか、本気で泣いた。ギャン泣きした。
でも与えられるのはお乳だった。
魔法と中世の価値観が混ざり合った異世界に転生した私。
我が国で可もなく不可もなくな堅実な中堅の家カリー伯爵家に生まれた。
前世的に言えば美少女なのだけれども……。
わふわのウェーブのかかった柔らかい金髪と、ニンジンのようなオレンジ色の目だな~。
なんて、黒目黒髪だった自分を覚えている私は、やっと慣れてきた今の自分の容姿をまじまじ見る。
鏡を見ながらうん、美少女!
――とは思うが、この世界の人間的に言うと普通。
この美少女で普通とか、美形の概念バグりそう!って思うじゃないですか?
でもね、マジで上には上がいるのですよ。
直視できないレベルの美形たちが……。
なので私は俗にいう、偏差値50の顔面なのです。
そんなカリー伯爵家の長女、ことボン・カリーはただいま12歳。
絶賛、婚約者探しの最中です……。
早いな~、と現代人の記憶を持つ私は思う訳ですが、この辺りから探しておかないと売れ残っちゃうらしい。
世知辛いな、異世界。
その候補を紹介された私は眩暈がしそうだった。
まず婚約者候補一人目を紹介しましょう。
メークイン・ジャガ伯爵令息。長男で年齢は私より1歳年上の13歳。金髪ストレートに緑の瞳の少年。
無口であるけれども剣が得意。特に剣術の鍛錬は欠かすことない真面目な性格。でも紳士的な人だ。ちなみに父上は騎士団長。
あ~、よくある展開!
つまり煮崩れしにくい系ね。
続いて婚約者候補二人目。
キタ・アカリ公爵令息。次男。こちらは1歳年下の11歳。ふわふわの柔らかい金髪に緑の瞳の少年。
お話大好きで人懐こい、笑顔がかわいい人だ。ちなみに父上は宰相閣下で、兄上がいるから、伯爵家を継ぐとかなんとか……。スペアとして優秀であろうとするけれども、本が大好きでもった知識をすぐに確認したくなる好奇心旺盛な子。
つまりホクホク系ね。
さらに続いて婚約者候補三人目。
ノーザン・ルビー公爵令息。長男。こちらは同じ歳の12歳。紫色の艶のあるふわふわ髪に琥珀色の瞳の少年。なんとなくナルシスト。自慢話が多い。
ただ、この中で唯一『天才』と呼ばれる。魔法使い?この世界では魔法士っていうらしいけれども、魔法士としては12歳で魔法騎士団と呼ばれる国内最高機関に所属する天才。まあ、まだ学生なので特別措置らしいけれども。
紫じゃん。カレーには合わん。あ、でも煮崩れしにくい。
最後になりますが、婚約者候補四人目。
ヤツ・ガシラ侯爵令息。長男。こちらは少し年上の16歳。ダークブラウンのふわふわ髪に銀色の瞳の青年。
これアウト。女癖悪い。子供もいるとか噂が……。ちなみにお見合いと称してガシラ侯爵邸に招かれたけれども、その時、笑顔が胡散臭いな~、と思ったらメイドのお姉さんと『あっはん』『うっふん』していた。
つか、八つ頭って里芋でしょ?コブ付きまでそのままじゃん。
流石にヤツ・ガシラ侯爵令息はその場で断る方向にしたかったので、見た瞬間、悲鳴を上げて、泣きながら見たモノをそのまま実況しておいた。
青ざめるガシラ侯爵夫妻。まさか、息子が婚約者候補の来ているところでホニャララ致すとは思っていなかったらしく、夫人は気を失われた。あとで聞いた話だが、ヤツ・ガシラ侯爵令息は女癖が悪すぎて、婚約者選びが難航して、苦し紛れにだいぶ年下で、気弱そうな令嬢に粉を掛けたと……。
私、気弱そうな令嬢だそうです。
なんか、カレーに合う品種を選べば上手く行くのでは?なんて思っている、私。
でも一つ言わせて……男爵イモはなぜ居ない!!
カレーは男爵イモでしょう!
と、叫びたいが、それらしい男爵イモはいないようだ……。
まぁ、これは私――ボン・カリーのお話だ。
そんな私、ボン・カリー伯爵令嬢は現在18歳。
まあ、カレーに合うジャガイモを探して婚約したがはずが、今、とてもじゃないけれどもカレーに合わない彼の膝の上に乗せられている。
「ボン?どうしたんだい?」
甘~~~~い声でそんなことを言ってくるこの人。どうしてこうなったんだっけ?と思い出してもよく分からない。
もうすぐ学園を卒業する私は、この人と結婚する。
どうでもいい話をしよう。
まず、婚約者候補その1であった、メークイン・ジャガ伯爵令息。
彼との婚約は一番に潰れた。メークインさまが学園で運命の人を見つけられたからだ。
ホワイト・シチュー辺境伯爵令嬢。
私よりも1つ年上で、メークインさまお同じ年。学園で切磋琢磨し合った剣術に優れるご令嬢です。銀色のサラサラ髪をリボンでまとめられて、金色の瞳は鋭く研がれた剣のように美しいです。
その髪が揺れながら戦う姿は王子様です!
ええ、とても人気な令嬢です。メークインさまよりも人気です!令嬢たちに!
そのお二人が婚約なさったのは学園の剣術大会で男子生徒が混ざる中、過去最高の4位という成績をお残しなったホワイトさまが、悔しそうに泣かれていたのを見たメークインさまが心臓を打ち抜かれたらしいです。
『強くあらんとする彼女の涙が美しかった……』
と、皆さまがいらっしゃる前で大暴露のプロポーズ!その時はまだ、私の婚約者候補でしたので、慌てたジャガ伯爵とメークインさまが我が家においでになり、それこそ土下座の勢いで謝られ、同時に婚約のお話しは無かったことに!とお願いされにまいりました。
まあ、乗る気でないのは分かっていたので、
『ホワイトさまとの仲を応援いたしますわ!』
と、元気いっぱいで返事をしておきました。
その後、気になさったホワイトさまも私に謝りに来られましたが、今では良きお茶飲み友達になりました!カフェに一緒に行くお友達です!
もはや、シチューとメークインは組み合わせが美味すぎます!
続いて、婚約者候補その2であった、キタ・アカリ公爵令息。
彼は本当に大変だったと思います。まず彼の生家であるアカリ公爵家による大規模な不正事件がありました。
事の発端はある子爵家が水害によって領地が悲惨なことになられました。そこで国王陛下は子爵家に見舞金をお送りになられたのと、三年間の税金免除を言い渡されました。子爵家はその時、復興の為に領地から出ることが出来ず、当時の宰相様……アカリ公爵が代わりにサイン成されました。
ところが、子爵家には見舞金も、税金免除も伝えられず、なんとか領地を運営成されておりました。そこで、子爵家は苦肉の策として、長女を王都に送り込み、文官として働き、領地にその給金を送ってもらうことにしたのです。
あれ?と思われますわよね?
ええ、見舞金と税金をなんとアカリ公爵が着服していたのです!
それだけでなく、他にも着服が判明し、叩けばどんどん出てくる埃状態!アカリ公爵家には膨大な慰謝料と罰則金が降りかかりました。
そんな中、キタさまは某金持ちの商家に売られそうになったそうです。まあ、いわくつきでして、少年が泣き叫ぶのが好きだというお方のお家らしいです。
そこでキタさまは生まれて初めて家に反抗なさいました。
『堅実な領地運営をして、地道に返すべきだ!』
と。
しかし楽を覚えたお父上も、兄上も、産みの母であられるはずの母上も皆、キタさまを売ることに賛成であられました。
キタさまは絶望しつつ、冬の雪が降りしきる川に身投げをしようとしたのです。
ただ、幸運の女神というのは居られるそうで、その瞬間を止めたのは私の学友でもありますサラ・ダポテート伯爵令嬢でありました。
サラさまは伯爵家の令嬢ですが。兄上が夭逝したため、急遽家督を継ぐことになり、婿探しの真っ最中でありました。ましてや病気の中、必死に生きた兄上を見ておられたのです。
簡単に命を捨てようとしたキタさまを許せなかったそうです。
『何をなさっておりますの?』
『もう疲れたんだ……楽をしようとする家族にも、何もかも』
そこでサラさまは思いつきました。サラさまは私の婚約者候補であったキタさまが優秀な方だと知っておりました。あとで聞いた話ですが、私との婚約が無くなれば速攻で婿候補にランクインさせる予定だったそうです。
サラさまはまずボロボロで凍えている状態のキタさまを、ご自分の家に連れ帰ったそうです。よく分からないままにキタさまはあれよあれよと着替えさせられ、あれよあれよと我がカリー伯爵邸へ連れ込まれました。
『ねえ、ボン。貴女は彼と婚約するつもりはありますの?』
学友……言ってしまえば親友であるサラさまにそう尋ねられて驚きましたが、アカリ公爵家より、『婚約のことはなかったことに』の手紙が届いておりましたので、そちらを見せつつ、苦笑いをしました。
『実はお父様とお話ししていたのですが、キタさまの婚約をこちらからお断りすれば、キタさまが窮地に立たせられるのは何年も前から分かっておりました。ですので、お父様は時間稼ぎの為にキタさまを婚約者候補から外さずにおりましたの』
実は私の父であるカリー伯爵はキタさまの境遇を知っておられて、哀れに思い、知識を付けさせて、いずれアカリ公爵から逃げられるように時間稼ぎとして私の婚約者候補としていたのです。父としてはあわよくば私との結婚も望んでいたらしいですが……。
『なら遠慮はいらないわね!キタさま、私と結婚してください!』
驚いたキタさま。私は何となく、サラさまがキタさまに惹かれているのを知っておりました。だって、いつもキタさまの話を聞いてくるのですよ?さすがに気づきます!
『え?』
『ああ、サラさま?私の父も巻き込みましょう!あとすぐにお父様もお呼びになって!』
もう決まった早く、私の父カリー伯爵とサラさまの父ダポテート伯爵がその日のうちにキタさまとサラさまの婚約ではなく、婚姻の承諾を国王陛下より頂きました。
何せ私の父カリー伯爵とサラさまの父ダポテート伯爵はわが国の司法官です。国王陛下といえども、この2家を敵に回す勇気はなかったのでしょう。
そこからサラさまの快進撃が始まります。
もちろんアカリ公爵家より猛抗議がありましたが、国王陛下の承認、不当な人身売買、その他諸々の余罪が出てきて、アカリ公爵家は粛清さることとなりました。
キタさまはアカリ公爵家に生まれた者として、運命を共にされるつもりでしたが我が父は我が家の養子にしてしまわれました。
――ということで、キタさまは私の弟になりました。
お兄様たちもキタさまを弟として可愛がり、時には厳しく、時には優しく、サラさまに守られるだけの男にならないように鍛えました。
キタさま……我が家の兄たち、それぞれに優秀ですが、3人分の凄さを吸収されたハイスペックキタさまへと進化なさいました。
潰されされかけたキタさまは、その後サラさまと地道に愛を育まれ、粉々の心はゆっくりとまとまったようです。
婚姻市場で非常に有望株になられたキタさまですが、サラさま一筋で、周りに目移りするどころか、サラさまが目移りしないか心配する甘々の旦那様になられました。
サラさまと私は義理の姉妹としての縁も結ばれて嬉しい限りです。
ほくほくマッシュポテトがマヨネーズとかの調味料でまとめられるポテサラ……。
あ、うん、これまた美味しい気配しかない。
最後に、婚約者候補その4であった、ヤツ・ガシラ侯爵令息。
これは非常に予想外だが更生された。
意外だ、意外過ぎる。
彼を構成させた女神はニコ・ロガシー子爵令嬢。
薄茶色の髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳を持つ知的美人。ヤツ・ガシラ侯爵令息と同じ年で、結婚市場的には売れ残りという扱いの方でした!
彼女は先ほどお話しに上がりました元宰相様の不正の犠牲になられた子爵家のご令嬢です。ただ、彼女がアカリ公爵家の不正を暴いた本人であられるのに、文官たちからは『女のくせに余計なことをした』と針の筵となり、退職に追い込まれたのです。
幸いにして、国からの見舞金と今まで払った税金がロガシー子爵家に戻り、ロガシー子爵領は目覚ましい復興を遂げました。ニコさまはそのまま領地で未婚のまま生涯を終えるつもりでありました。
そのニコさまに目を付けられたのが、藁を掴む思いのガシラ侯爵夫妻です。土下座する勢いで、ニコさまに息子との婚姻をお願いしました。
『国王陛下が許可なさればいいですよ』
と、やけくそで言ったところ、ヤツ・ガシラ侯爵令息の悪評を聞いていた国王陛下は確かにニコ・ロガシー子爵令嬢なら更生するかもな。ダメなら取り潰しだな、なんて軽い気持ちで婚姻の証明書にハンコポーン!である。
ここで王命による結婚になってしまったニコさま。
命令とあらば、やり切るお方でしたので、ニコさまは素直に結婚なさいました。
ニコさまは最初から実務能力で妻に選ばれたのを自覚なさっていたので、『愛は求めませんが、世間体は守ってください』と婚姻を結ばれた初夜に宣言なさったとか……。
そこからニコさまの快進撃がはじまります。ズバズバとはっきりとした物言いで、ガシラ侯爵夫妻に息子を甘やかしすぎだと叱り、ヤツ・ガシラ侯爵令息には何故愛人がダメなのか、滾々とお伝えになられました。
そこでヤツ・ガシラ侯爵令息は自分の名誉が地に落ちるどころか、地面にめり込んでおられれることを自覚されました。
もしかして……と思い、つながりのある女性陣をそれとなく調べたところ、養育費を払っていた子供たちは軒並み別人の子供!しかも、騙しやすそうだからとカモにされていたのだと気づきました。
それでいいのか侯爵令息……。
ヤツ・ガシラ侯爵令息はそこからニコさまに自分のダメなところをとことん言ってくれとお願いしたそうです。
そのダメ出しを聞いた使用人の話ですが、『普通の人間なら自殺するレベルのダメ出しだった』とのことでした。
ヤツ・ガシラ侯爵令息の偉いところはその言葉をちゃんと聞いて、直されようとしたことです。少しずつ、一歩ずつ、確実に更生なされました。そして浮き出るのはガシラ侯爵夫妻の甘やかし癖。
ヤツ・ガシラ侯爵令息は嫌な予感がしまして、ニコさまにご相談なさいました。
『もししたら、ガシラ侯爵領は領主代理にいいようにされているかもしれない』
ヤツ・ガシラ侯爵令息は本来精査しなければいけない父の領地の報告書と、たまたま見つけた穀物の取れ高記録に齟齬が出ているのに気が付きました。ニコさまも気づくことのない巧妙なトリックです。
領地経営の知識がある人間ほど、引っ掛かる書類の不正ですが、幸か不幸か、領地経営の知識が無かったヤツ・ガシラ侯爵令息だからこそ気が付いた不正です。
そこでニコさまとヤツ・ガシラ侯爵令息は秘密裏に領地へ向かい、現状を見ることにしました。そして、ヤツ・ガシラ侯爵令息の指摘通り、不正が横行しておりました!
ニコさまとヤツ・ガシラ侯爵令息は協力して領民たちを巻き込み、領地代理の不正を暴きました。しかし、領主代理の不正は監督責任のある領主の罪であります。ニコさまとヤツ・ガシラ侯爵令息は誠意をもって国王陛下へ謝罪申し上げました。
国王陛下は逆にびっくり。
正直、結婚して半年でここまでの成果を上げると思っておりませんでした。
『流石はニコ嬢……。ではなく、ガシラ夫人』
『いいえ、この不正は夫のヤツ・ガシラ侯爵令息がお気づきなられました』
まあ、衝撃の一言ですわよね。国王陛下、王座から滑り落ちました。不思議なのですが、王冠はずり落ちませんでした。
この事件により、ヤツ・ガシラ侯爵令息がガシラ侯爵を継ぎ、前ガシラ侯爵夫妻は領地へと退くことになりました。それからのヤツ・ガシラ侯爵令息……じゃなかったガシラ侯爵は今までとは打って変わって、領地経営も、王都でのお仕事も真面目にこなすようになられました。
女癖の悪さも話を聞くことがなくなり、なんと婚姻から2年半後、やっとニコさまと初夜を迎えられたそうです。
ニコさまとの初夜はあっという間に王都に話が広がり、ガシラ侯爵領はそれこそお祭り騒ぎだったとか……。
余談ですが元ガシラ侯爵夫妻は、良い嫁を頂いたと、涙を浮かべているらしい。
ニコさまはすぐに後継ぎ息子を出産なされましたが、子供の教育はビシバシやられているそうです。
ゲテモノなんて言われたヤツ・ガシラ侯爵をここまで美味しいもの変えたニコさまに拍手喝采ですわ!
こぶ付き芋をコロコロころがしてねっとり甘い姿に変えてしまうのは、自分がやるのでないから格段に美味しいですわよね!
そして、残るはノーザン・ルビー侯爵令息。
ええ、ここまで話せばお察ししていただけますわよね?
もうすぐ結婚する予定の方ですわ。
どうして彼と婚姻にいたることになったか、正直に言えば私もよくわかりません。婚約者であるノーザンは百人いたら、百人が振り返るほどの美形です。それこそデート?でしょうか?出かける時に女性の目がハート型になるのを見たのは数えるのも大変になるほどです。
正直……ほんとうに、正直の話ですよ?
私、ノーザン様は一番に婚約候補から外れると思っておりました。
何故って?
ハイスペックすぎて困るからですよ。絶対にノーザンのお嫁さんになりたい令嬢は多いと思いましたので、なるべく交流しないようにしておりました。
が、手紙はまめに届きますし、月一回はお出かけに誘われます。学園に入りましてからはお昼休みの食事は必ず一緒です。
う~ん、これでは他の婚約者候補と交流できない、なんて思っていたところでメークインさまがホワイトさまに陥落。キタさまは弟になられた。
こうなると婚約者候補を他に探さないとかもしれないと悩んだところで、ノーザンさまから驚きの提案を頂きました。
『そろそろ、本当の婚約を結びたいのだが……』
『え?』
『嫌か?俺としては上級生の忙しくなる前にちゃんとした婚約を結びたいのだが』
『え、私は繋ぎの婚約者候補ではありませんの?』
その時のノーザンの何とも言えない笑顔は忘れられないほど青筋立って怒りを必死で抑え込もうとする顔でした。
隣で聞いていたサラさまに言わせれば『火に油を注いで、まる揚げにしましたわね』なんて呆れるように言われましたが、そこからノーザンは所かまわず耳を塞ぎたくなるほど甘い言葉を吐かれるようになられました。
その甘い言葉を膝の上でささやかれる私は、もう完熟トマトのように真っ赤に染まっていたことでしょう。
可愛いだ、食べたいだ、早く結婚したいだ、囁かれる言葉の数々にどうしていいかわからず、サラさまとキタさまが居りませんでしたら、私はパックンだったのでは?と思わざるを得ません。
ノーザン・ルビーは揚げると美味い系だったのかもしれません……。
【本日のお品書き】
1.甘口ボン・カレーとノーザン・ルビーのほくほくポテトフライ
2.メークインを包み込む暖かホワイトシチュー
3.キタアカリのなめらかマッシュポテトサラダ
4.八つ頭の濃厚煮っ転がし