8 ギルド編①
それから俺達はしばらくサムバアの所で働いていていた。
ギルドの登録金も溜まってた頃にサムバアに唐突に声を掛けられた。
「おい、九条。お前さんは戸籍持ってないんだって?」
「ああ」
「それは一体どういう事なんだい全く。あんた孤児なのか?」
そう言えばサムバアに言ってなかった事を思い出した。
「俺は別の世界から来たみたいなんだ。なんか井戸の中に落ちてここに来た。サムバアそんな話聞いた事ある?」
「聞いた事ないね。そんな話。まあ、なんでもいい。私の知り合いに戸籍を作ってくれる奴がいるそこに行きな。どうせ、ギルドに登録する時に必要になるよ」
俺はサムバアの紹介で戸籍を作ってもらえる場所に行くことになった。
後日、俺は一人でサムバアの紹介先に向かった。この街は大分栄えている。日中の人通りも多く、街の人々はウィンドウショッピングやカフェでお茶したりして楽しんでいる。
ふと街の中心部に目を向けると巨大な球体のようなドーム状の建物が目についた。以前、朝日に尋ねた事があった。
「なあ、あの建物って何なの?」
「あれは発電所ね。中に特定の”思能”を持った人が働いている施設ね」
「例えば?」
「電気系が多いんじゃない?それから物体を回転させたりとかそういう能力かしら」
目的地にたどり着いた。
扉を開けると、顔じゅうにピアスをした長髪の男が出てきた。
「君がサムバアから言われてた子だね。入って」
俺は中に入った。
「戸籍を作りに来ました」
「聞いてるよ。入って」
「ここに必要な情報を書いて」
そこには、氏名、生年月日、そうして住所が書かれていた。
俺は以前の自分の戸籍情報と同じように記載していった。
「こういうのを使う人多いんですか?」
「ここでは孤児が多いからね。決行この商売需要があるんだ。まあ、大半は犯罪者だとかだけどね」
「でも君は孤児とかじゃなさそう。聞いてもいい?」
「俺は井戸の中に落ちて、ここに来たんです」
「井戸の中ね。心辺りあるよ」
「え?」
「大分前だけど、結構身なりがちゃんとした人だったんだけど、その時も思わず僕も尋ねちゃって。そしたら君と同じことを言っていた」
「何て人ですか?もしかしたら、同じような境遇の人かも」
「ごめんね。個人情報だから離せないや。でも一つだけこの街には住んでると思うよ。前もここら辺で見たから」
「そうですか」
「はい。記入ありがとう。あとはこっちで申請しとくよ2,3日ぐらいで申請通ると思うよ」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言った後に、その店を後にした。
その後、朝日と俺は合流した。
「戸籍は作成できた?」
「2,3日で申請通るって」
「そっか、じゃあこのままギルドの登録も行っちゃう?」
「申請通ってないのにいいのか?」
「大丈夫。資本金さえあれば大丈夫だから」
俺達はそのままギルドの登録に向かった。
アップルタウンの南西に位置する場所に”思能者”が集う。そこでは多くの仕事が舞い込む。13階建ての広い建物であり、1階部分に相当する箇所に受付が存在する。まるでどっかの大企業のビルのような構造をしている。
建物の入り口に入ると、案内係がおり、俺達を見つけると近寄り声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルド登録をしにきました」
と朝日が答えた。
「それでしたら3階になります。右手のエレベーターにお乗りください」
案内に従い、俺達はエレベーターに乗った。
「結構ちゃんとしているんだな」
「そりゃこの街を支えてるのは”思能者”達だからね」
3階に付き、俺達は受付を済ました。
案外登録は簡単だった。
必要事項の記入と入金をするだけでスムーズに進んだ。
「こちらでクエストの確認などはこちらのオンラインページで確認できます」
朝日がそのページのリンクを保存していた。そういえば俺、こっちの世界のスマホを持っていなかった。帰りに買わなくては……
「私達のギルドでは原則3人チームで組んでもらう事になってます。もしメンバー人数集まらないようであればこちらにて補充させて頂きます。また、ギルド登録時に”思能テスト”を受けていただきます」
「”思能テスト”?テストを受けるんですか?」
「はい。そちらで”思能”の確認と分類分けをさせて頂いてます」
「分類分けって何ですか?」
「”プレイヤー”、”コントローラー”、”サポート”の3種類に分かれています。メンバー構成も基本的にその3構成を推奨しています。後ほどテストにご案内しますのでそちらの待合席でお待ち下さい」
俺達は待合席に座って呼ばれるのを待った。
「テストとかあるのか」
「らしいわね。私もあまり詳しく知らなかったけど」
「そういえば、俺……スマホ持ってないからオンラインでクエスト確認できないや」
「そうね、帰りに買いましょ」
それから暫くして、先に朝日が呼ばれた。
「行ってくるわ、後で落合いましょう」
うんと俺は短く返事をした。
彼女はそう言い残して、テストに向かって行った。
何だか急にソワソワしてきた。いわば、これは実技テストみたいなものなのだろうが何だか落ち着かない。時間が長く感じられる。まだか、まだかと待っていると俺の名前が呼ばれた。
「九条さん、お入り下さい」
呼ばれた部屋に入るとそこは小さな部屋であった。
そこかしこに防音材が張られており、部屋に入った瞬間耳に違和感があった。
「それではこれからテストします。目の前に右手があります。まずそれを握手する形で握って下さい」
「はい」
と俺は返事した。部屋の防音材のせいか、全く声が響かず変な感じがした。音が吸収されている感じがする。
俺の目の前にある右手ははく製のような白い右手であった。
俺はそれに右手握手した。ひんやりと冷たい。人の手ではないのは間違いない。
「それでは”思能”を使って下さい」
俺はアナウンスに従って”思能”を発動する。
消えろ……消えろと強くイメージしながら念じた。
すると、その白い手が光始め、次の瞬間俺は一瞬吸い込まれる感覚に陥った。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。テストはこれにて完了です」
「結果はどうなんですか?」
と俺が尋ねた。
「あなたの”思能”は物を消す能力になるため、”プレイヤー”になります。」
と天井のアナウンスが答えた。
部屋を出ると、朝日は待っていた。
「結果はどうだった?」
「”サポート”よ。九条は?」
「”プレイヤー”」
と俺は答えた。
「そう、じゃあチームは組めそうね」
「ああ」
「はー疲れた。帰りましょー」
「その前にスマホを買ってもいいか?」
「ええ。いいわよ」
俺達はこうしてギルドを後にした。