6 アップルタウン③~死体探し編~
俺達は直ぐに物陰に隠れた。
足音は確実に近づいていた。
「ねえ、ちょっと!?」
と朝日が小声で叫ぶ。
「なに?」
と俺も小声で聞き返す
「死体消してないじゃない!早く“思能”つかってよ!!」
「あとでいいだろ!とりあえず、声を出さず黙ってようぜ」
足音はいきなり走り出し、扉を蹴りで開けた。
そこには一人の男の姿が見えた。
”脳吸い”
「隠れてんだろ?お前ら”脳吸い”ども」
俺達は声も出さずただひたすらに気配を消していた。
一体だれが来たのだ?同業者か?
今こいつ”脳吸い”って言ったか?また新しいワードが出てきた。一体この世界にはどんな化け物がいるんのやらもう検討もつかなかった。
「なあ、”脳吸い”ってなんだんだ?」
と俺は小声で朝日に尋ねた。
「わ、わかんない。初めて聞いた」
朝日は首を振った。
俺は物陰から様子を伺った。しかし、暗くて顔が良く見えない。でも性別は男だということはわかった。背格好や声で明らかに女性ではなかった。
「出てこれないなら燃やすぜ? やれやれ”脳吸い”っていうのは隠れてチューチューするのが好きなのか?」
男はそう言うと、右手に巻いた焦げた茶色の包帯を解き始めた。
「そこか?」
男は右手を俺達とは反対の柱に向けた。物凄い勢いで、炎の渦が現れ、当たり一面が赤く燃え上がった。鉄筋コンクリートの柱や壁が、真っ黒こげだった。
「おっとそっちか?」
今度は俺達の柱に向けて右手をかざした。
「ちょっとたんま!私達は”脳吸い”じゃないわ!」
そう言って朝日は急いで男の前に飛び出していった。俺も朝日に続いて男の前に現れた。
「誰だ。お前ら?」
「私達は葬儀屋よ」
「本当かな?”脳吸い”はすぐ嘘つくぜ」
そう言って男はまた、右手を突き出し、“思能”を発動した。
「え、うっそ!?きゃあ」
朝日は悲鳴をあげながら頭を抱える。俺は急いで朝日を庇いながら右手で炎を打ち消した。
「あっぶねえ。今の死んでたぜ。“思能”様様だわ。」
「あ、悪い。まじで”脳吸い”じゃないぽいな」
「だからそう言ってんでしょ!」
と朝日は切れながら叫んだ。
「こんな夜中に死体漁るなんて、”脳吸い”と疑われてもしょうがないぜ」
「てか、”脳吸い”ってなんなのよ。そしてあんたも誰なわけ?」
「ああ、自己紹介が遅れたな俺は“思能”ギルドに所属している。“思能ハンター”だよ。名前は緋村亨。趣味は火遊び」
緋村と名乗る男は右手の炎で遊びながら自己紹介を始めた。
美形の男であったがどこか鋭く鋭利な目をした男で、髪は黒く所々燃えたように毛先が赤く見えた。
少し短髪でどこか清潔かもありつつ怪しげな男だが身長はそれ程高くはない。170㎝前後のように見えた。
「それで、あんたはどうしてここに来たのよ?」
「”脳吸い”の情報を聞きつけてね。狩りにきただけだよ」
「てか“脳吸い“ってなんなのよ」
「脳を啜って、その人の記憶や“思能を取り込む奴らだよ」
「残念ながら私達がここに来た時そんな奴いなかったわよ。てか、そんなのが私達と間違えるわけ?」
「ああ、普通の人間の見た目しているからね。そうか、おかしいな。何か物音しなかった?何か啜っている音とか?」
「あ、確かにこの部屋に来る前にしてたかも」
「じゃあ、いたね。となると多分“思能吸われて、その“思能で逃げられたかな。まあいいや。俺はこれで帰るとすると、最近眠れてないんだ。夜にこういう仕事が舞い込んでくるから。でもそういいや、あんたなかなか興味深い“思能を持ってたね。ギルドに登録してないの?」
「これからするのよ」
「そっか。じゃあ、これ渡しておくね」
そう言って緋村は俺に連絡先を渡してきた。
「なんでこんなもの?」
「あんたの“思能”がレアだからだよ。“思能”のレア度はより自然現象から離れるとレア度が増すんだ。物やエネルギーを消滅させるっていうのはなかなかレアな現象だ」
「じゃあ、俺はそろそろ行くね」
そう言って緋村はそそくさと帰っていた。
「なんだったのかしら。」
「さあ?あ……」
ゴミ袋に詰め込まれた死体は綺麗に黒ずみになっていた。どうやら、緋村の炎で燃えカスになってしまったようだった。