5 アップルタウン②~死体探し編~
俺達は後日、俺達はサムバアの指定した場所に向かった。
「昨日はよく眠れた?」
「眠れるわけないじゃん」
と俺はぶっきらぼうに答えた。固く冷たい木の床に薄い、毛布を敷いて眠ったがあまりに固く体のあちこちが痛い。挙句の果てに寝返りを打つ度に床が軋むのだ。
「案外やわね」
「朝日は眠れたのかよ?」
「当たり前じゃない。何年あそこで寝てると思ってるのよ」
俺ははっとした。思わず口元に手を当てる。そんな貧しい家系だったとは可哀そうに……
「なんか……ごめんな」
「謝んな!バカ!」
そう言って、朝日は俺の頭をぽかぽか殴った。
サムバアの指定した場所は暗い路地裏に佇む雑居ビルであった。アスファルトが荒れていて、ヒビが入っている。そこかしこにその隙間から雑草が生えている。雑居ビルの外からも何だかひどい悪臭がする。
『なあにただの物品回収だ。大した仕事じゃないよ』
サムばあはそう言っていた。本当にそうなのか?
「なあ、朝日。凄い臭いじゃない?」
俺が朝日にそう問いかけると朝日は既に鼻を抑えていた。
「何を今更?サムバアがそんな綺麗な仕事渡すわけないじゃない。」
「てかサムバアって何の仕事掛け持ちでやってるの?どう考えてもあのバーの店の仕事じゃないでしょ?」
「火葬屋」
「え?まじ?」
「そうよ」
朝日は呆れたかの顔で俺に向かって言い放った。
「まじかよ。じゃあ、この匂いって・・・」
「ぶつぶつ言ってないで行くわよ。」
そう言って、朝日は雑居ビルの中に入っていた。
俺もその後に続いた。
俺達はそそくさと進み、階段を見つけた。
「確かここの3階よね」
そう言って、朝日が階段を登ろうとした時、奇妙なもの音が聞こえた。
誰かがいる男だ。
それは何かを啜っている音に聞こえた。
「ねえ、あんた先行ってよ」
「まあ、そうなりますよね」
俺も内心ビビりながら階段をを登っていた。
カツカツと二人分の足音が響く。しかし、さっきしたあの何かを啜っている音は聞こえなかった。
いなくなったのかもしれないし、何より気のせいなのかもしれない。
そう思いこませながら階段を上がっていた。
3階にたどり着くと、奥の部屋が空いていた。そこから悪臭から漂ってくる。どうやらサムバアの依頼内容はそこにありそうだった。
しかし、さっきの物音が再びした。あの何かを啜っている音だ。
「な、何かいる気がする」
朝日は俺の背中にびったりついて俺を押しながら先に行けと合図する。
俺達はなるべく足音を立てずに、扉の前でたどり着いた。
「どうする?」
「1,2,3で扉を蹴破って入りましょう。何かあったら、あんたの”思能”で消しましょう」
俺は頷くとカウントダウンする。3.2.1そうして思いっきり扉を蹴破って部屋の中に入った。
しかし、そこには誰もいなかった。
あるのは死体だけだった。
「誰もいないわね」
俺は死体を観察した。
死体の周りには血の池ができていた。
どうやら、腹を刺されたらしく腹からの出血が酷い。
屈んで確認すると、頭に穴が空いていた。何かハンマーとかで殴られたのだろうか?
「さあ、さっさと片づけるわよ」
そう言って、朝日はどこからともなくごみ袋を取り出した。
「準備いいね」
「慣れてるからね。じゃあこれに詰めて」
「え?俺がやるの?」
「そう、はい」
「え?」
と俺が戸惑っていると朝日は呆れた顔をした。
「なに?女の子にこんな汚れ仕事やらせるわけ?」
「いや、俺……ほら死体とか触った事ないし」
(いやこれは本当だ。なんなら死体を見たのも初めてだ)
「まあいいわ。私の方がお姉さんだし」
そう言って朝日は手際よく死体をゴミ袋にしまい始めた。
なんだろうこの、ゴキブリをお母さんに掃除してもらうような感覚は。あ、別に死体をゴキブリだと言ってるわけじゃない。
「なあ、なんでサムバアっていつもこういう仕事請け負ってるの?」
「そうよ。葬儀屋なんだから。それによくこの街は”思能”での殺し合いも多いからねよく人が死ぬの。それに身寄りのない人も多かったりするから、サムバアが代わりに仕事引き受けてる感じなんじゃないかな?」
「聞きたかったんだけど、俺達ってずっとサムバアのとこで働くの?他に仕事先とかないわけ?俺やだよ。ずっと死体回収なんて」
「あるわよ。”思能”を持ってる人限定のギルドがある。そこに行けば仕事がもらえる」
「じゃあ明日にでもそこに行こう」
「いいけど、ある程度お金貯めてからいかないと、ギルド登録金が必要なのよ、だからはい」
そう言って朝日は俺に死体を入れた袋を渡した。
「え?」
と俺は尋ねる。
「あんたの”思能”で消しといて。そっちの方が早いし」
「ええ……」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとしまう!」
そう朝日が叫んだ瞬間、階段を昇てくる足音が聞こえてきた。
俺と朝日は一瞬で静まり返り、お互いに顔を見合わせた。
「だれか来ている。」
朝日が小声でそう言うと、俺は頷いた。