3 始まり③
「こんな奴にいいようにされてんのかよ」
と俺が叫ぶが朝日は反応しない。
俺には余裕があった。何せ、俺の”思能”は触れたものを消せる力だ。
どう考えても俺に利がある。触りさえすればいいのだから。
「何笑ってやがる?」
グリムと呼ばれる男は俺に問いかけた。
「お前なんてイージーゲームだからな」
「おいおい、ルーキーが大きく出るね。教えてやるよ、”思能”を使った戦い方を」
そう言ってグリムは何かを地面に投げつけた。その瞬間白い土煙が舞った。土煙は一瞬で俺の周りを囲みあっという間に視界を奪った。土煙に紛れてグリムの位置が分からなくなった。
俺は少し焦った。急に位置が分からなくなると例え能力としてこちらは有利だとしても心理的に焦ってくる。俺は奴の位置を把握しようと首を振った。
しかし、見つからない。前方にはいないのか?
後方を向いて背後を確認した時、すでにグリムは左腕を振りかぶっていた。
俺は慌てずに右手を奴の腹に触った。
大丈夫……大丈夫だ。触れば、勝ちなのだから。
俺がにやりと笑い”思能”を発動させようとした。さっきの感覚を思い出しながら、強くイメージする。この男を消す事を……
しかし、何も起こらない。俺は困惑した。
グリムの顔を見ると笑っていた。
「おい!どうなってるんだよ」
俺はたまらず叫び声をあげた。不安が声にのって少し震えた。
「青いんだよ。お前は」
グリムの言葉と同時に俺は吹っ飛ばされた。
グリムのパンチをまともに喰らい、吹っ飛ばされたのだ。
俺は何とか受け身をとって、体を起こした。
一発のパンチが重い。呼吸の整えるのに少し時間がかかった。
「は?なんで使えないんだよ」
あいつの攻撃で唇が切れて血の味がした。
俺は舌で傷口を舐めながら考えていた。
さっきまで使えた”思能”が使えない。対象が人になったことで使えなくなったのか?
いや、でも朝日には使用できたのだ。
だとしたら、奴の”思能”なのかもしれない。
「考えるよな。俺がどんな”思能”なのか。そうして動けなくなっていく。俺はお前の能力を知っているがお前は知らない。これがどれだけのアドバンテージがあるか分かるか?」
だんだん、頭がクリアになっていく。状況はまずい。
この熊のように大きな体格をしたグリムと呼ばれる大男は体格では優に負けている。肉弾戦になったら俺が勝つ可能性なんてほぼない。
「おい、朝日霊!あいつの”思能”を教えろ!いいのかよ、あんな奴にいいようにされて」
朝日霊は震えながら、何か伝えようと口を開こうとした。
「おい、朝日! しゃべったらどうなるか分かってるか?」
「今しかねえぞ!早く教えろ!」
「お前はうるせえぞ!」
また、グリムは俺の方に向かってくる。
俺は手元の石を拾い上げて、”思能”を使おうと思ったがやはり発動しない。
仕方なく俺は石を投げる。グリムに当たり、頭から血を出していた。
しかし、グリムは止まらず俺に向かってきて、胸倉をつかんだ。
「このまま絞め殺してやるよ」
「てめえ、このくそはげ」
やばい。どんどん意識が遠のいていく。酸素が吸えない。苦しい……
その時、後ろから石が飛んできた。
「グリムの”思能”は視界に入ってるものの能力を封じる能力よ」
どうやら石を投げたのは朝日霊であった、
「てめえ朝日!!」
「うるせえくそはげ!くたばれ」
朝日は中指を立てながら舌を出して挑発した。
グリムは頭に血が上ったのか、朝日の方に視線をずらした。
俺はすぐさまグリムの後頭部を掴んだ。
「し、しまった」
俺はそのまま”思能”を発動した。
グリムは断末魔と共に俺の手の中に吸い込まれ消えていった。
「危なかった」
俺は呼吸を整えながら尻餅をついた。しんどい……
「本当にグリムをやっちゃうなんてね」
「良かったじゃん。これで自由だろ?」
しかし、朝日は首を振った。
「まだよ。これがあるもの」
確かに朝日の首には透明な鎖の首輪が付いていた。
俺はそっと彼女の首に触れ、首輪を触った。そうして、能力を発動した。
すると、首輪は粉々になり空気中に気化するかのように消えていった。
「これで本当に自由だぜ」
「ありがと」
「まあいいって事よ。それでこれからどうするの?」
「道案内が必要でしょ?あんたに付いていくわよ」
「決まりだな。じゃあ、これからよろしく」
そう言って朝日霊に手を差し出した。朝日霊は俺の手を握って笑った。
「よろしく」
こうして俺達は共に旅をする事になった。