15 ギルド編⑦ ~Cランククエスト~
ガスマスクは驚く事に俺達が以前、来たことがある場所に向かっていた。そこは俺達がサムバアの依頼(死体回収)で来ていた雑居ビルであった。
ガスマスクは2階に向かった。2階には一人の男が屈んでいた。
「ビル様。只今、戻りました」
最初俺達はその男が何をしているのか、よくわからなかった。しかし、男が振り向くと口周りは血だらけになっており、男の手には人の頭があった。
男は何も言わず、ガスマスクの方を見ていた。
「ビル様の食事中に話かけるな」
柱の陰から一人の女性が出てきた。
ガスマスクはすぐさまが頭を下げ非礼を詫びた。
「すみません、アリアナ様」
「分かれば良い。話は私が聞く」
「今ある男に子供達を集めさせております」
「順調か?」
と女は尋ねた。
「調達で使用している人間がもうやめたいともうしておりまして……」
「殺したのか?」
「いえ」
とガスマスクは答えた。
「なぜ殺さなかった?」
「まだ使えるかと……」
「甘いな、お前達に何のためにこのガスマスクを与えたのか分かっているのか?」
「す……すみません」
「やめろ……」
男は食事が終わったのか、手の甲で口元の血を拭いた。
「争いなど意味がない、そこの君こっちに来なさい」
そう言って、ガスマスクを指さした。
ガスマスクは近づいた。
「そのマスクを取って」
言われた通りガスマスクを取った。
髪の長い女性で額や顔は傷だらけであった。
「可哀そうに」
男はそう言うと、女の脳みそに人差し指を突き刺した。
女は声にならない声で悶絶しながら、体をうねらせていた。
それは彼女の意思で動いているのか筋肉が反射的に動いているのか分からない。
「人はそう変わらない。私はとある医者にそう教わった。でも私は変われた。どうしてか分かるか?」
彼女は返事しない。アリアナと呼ばれていた女性もただ、じっと見つめている。
「私もこうして貰ったのだ」
彼女は叫び声をあげて、ぐったりと倒れた。そうして、動かなった。しかし、暫くして急に起き上がった。そうして、ずっと笑っていた。もう会話ができるレベルのようには思えなかった。
「ねえ、あれって昔言っていた”脳吸い”って奴じゃ」
朝日が小声で俺に尋ねた。
「ああ、”脳吸い”って確かAランクだったよな」
「そうね」
「俺達で太刀打ちできないかもしれない。一旦引こうか……」
俺達は一度引こうと思ったその時だった。
「どこに行こうとしているのですが、3人方?」
そこにはバグダードさんが立っていた。
「バ……バグダードさん?」
「夜は……これからですよ?」
「バグダードか……」
”脳吸い”は静かに囁いた。
「ビル様、お待たせしました。今日のメインディッシュです」
バグダードさんは深々とお辞儀した。
「あんた…… はめたのか?」
と俺は叫んだ。
ニック君は足が震えていた。まあ、こんな状況じゃ仕方ない。
俺は走ってバグダードに触り、”思能”を発動しようとした。
しかし、やすやすと交わされた。バグダードは思ったよりも身軽だった。
「あなたの”思能”は知ってますよ。物を消せるんですよね。素晴らしい能力だ。でも、あなたにはふさわしくない」
4対3だ。しかも朝日は戦闘用の”思能”じゃないし、ニック君はどういった”思能”かも知らない。
状況として最悪だ……
「やばいな……」
俺は額から嫌な汗が流れた。朝日の顔を見ると、朝日も顔を引きつってる。
みんな3人とも状況がやばいのを把握しているのだ。
その時、天井から何か物音がした。目を向けると天井がどんどん黒くなっていき、大きな穴が空いた。それと、同時に大量の炎がなだれ込んできた。
俺達は飛び退いて何とかしのいだ。
「手助け必要か?」
声の主は、緋村だった。
「ひ……緋村か?」
「おお、九条か、元気そう……ではないか。この状況だもんね」
緋村は辺りを見回して状況を確認していた。そうして、”脳吸い”の姿を確認すると笑った。
「あー、ビンゴ。犯人は戻ってくるって本当だったんだ」
「どうしてここに?」
「見回りしてるんだよ。そしたら、たまたま見つけた。それだけよ。それにしても今日は付いている。なんせ、”脳吸い”だ」
「私もいますよ」
すぐさま、バグダードが緋村に攻撃を仕掛けた。しかし、緋村は見向きもせずに炎の渦を繰り出した。
バグダードは舌打ちをした。全く近づけないようであった。
「雑魚に興味はねえよ」
「私もいるわよ」
今度はアリアナが攻撃を仕掛けた。アリアナは耳を塞ぎ、口から大量の水を吐き出した。
緋村は床に両手を付き、俺達の周囲を囲うように炎の渦を作り出した。
「とりあえず、体制を整えるか。この中で戦えるのは…… 俺と九条と…… そこの君は?」
「に…ニックです」
「そっか、ニック。お前は?何ができる?」
「僕は氷を操れます」
「まじかよ……じゃあ、戦えるなとじゃあ三人かーー」
緋村の話を遮って、突然炎の中にさっきのガスマスクの女が笑いながら飛び込んできた
勿論体は燃えている。衣服に火が付き、体中も燃えて煙が出ている。
「こいつまじかよ」
ガスマスクの女は自身の体を傷つけ始める。彼女の血は空気に触れる度に爆発するかのように湯気をあげている。
「あいつの血はやばそうだ」
緋村が炎で消そうとするが、動きが早く当たらない。
「ニック、あいつの動きを止めれるか?」
ニックは頷き、地面にキスした。その瞬間床が氷に覆われ、ガスマスクの女の足元は凍った。
ガスマスクの女は笑いながら、自分の足を割ろうとしたが、すかさず緋村が炎で跡形もなく燃やした。
「やるじゃん。ニック」
「あんた強いのになんでそんなビクビクしてるのよ」
と朝日が尋ねた。
「いや、僕一人だけだと緊張するんですけど。緋村さんみたいな強い人いるとあんま緊張しないで能力使えるんです」
「それどういう意味よ」
朝日が軽く頭を殴った。
「掛け算の人なんだな」
と俺も内心イライラしながら言った。
炎の渦を解除すると、そこにはバグダードが一人立っていた。
「ビルさんはいませんよ」
「お前に興味はねえよ」
「あなた達をここで足止めするよう言われたのです」
「何度も言わせんなよ。雑魚に興味ないって」
「それはあなたですよ」
そう言って、バグダードは床に手をつけた。すると、バグダードと緋村の床だけが崩れ落ちた。
「これでサシになりましたね」
「おい、大丈夫か緋村?」
俺は上の階から声をあげて緋村の安否を確認した。
「あー大丈夫。九条達はそこに居ていいよ。段々ムカついてきたわ。こいつは俺一人でやる」
「へえ、楽しみですね」
「一段、ギアをあげる。頼むから直ぐに死んでくれるなよ」
そう言って、緋村は自分の人差し指を脳に突き刺した。
そうして、まるで鍵を開けるような仕草をした。
すると、緋村の体中から炎が噴き出した。
緋村は笑って、走りだした。いや、走り出すという小さな爆発の威力に押し出されたようなスピードであった。
バグダードはその速さに追いつけていない。俺も一瞬の事過ぎて目で追う事はできなかった。
気づけば、バグダードの体は黒焦げになりもう闘いは終わっていた。
「結局こうなっちまうんだな……」
緋村は少し残念そうであったが、こうして俺達は何とか生き延びる事ができたのであった。