11 ギルド編④ ~Cランククエスト~
「ねえ、全然見えないわよ」
朝日は上空からクエスト目標の”思能者”を探していた。ジルちゃんの”思能”で翼を生やし、バタバタと羽音を立てながら空中に浮いていた。そこら辺の家屋よりも数メートル高い場所に位置している。
俺達はあれからベーグルという街にやってきた。アップルタウンよりも少しさびれた町で城下町のように
アップルタウンという大きな都市の通り道として発展した町であった。そのため、小さな出店や宿などが見られる。
「あと5分くらいで”思能”切れちゃうかもしれないんで降りてきた方が良いかもです!」
ジルちゃんの助言で朝日は地上に戻ってきた。
「結局どんな”思能”なんだけ?」
「能力としては、圧縮する能力らしい。クエストの募集内容には書いてあったよ」
と俺は答えた。
「とりあえず、休憩しない?ジルちゃんの”思能”使ってたら結構疲れちゃった」
「あそこのお店に入りますか?喫茶店見たいです!冷たい物も飲めそうですよ」
「いいわね。暑いし入りましょう」
俺達は近くの喫茶店に入る事になった。
「それで、どう探す?」
「朝日の”思能”で探すしかない?」
「まあそうなんだけど。こんな街中で探すなんて結構難しくない?」
朝日はだるそうに頬杖を突きながらストローでアイスコーヒーを飲んでいた。
「そうですねえ。確かに探すのが大変そうですね、見つけたら簡単そうなんですけどね」
ジルちゃんはそう言いながら、パンケーキにシロップをたっぷりかけ、ナイフで切り分けながら幸せそうに口に運んだ。
「まあね」
確かに。探すのが大変だ。能力もかなり地味で見つけないものなので仕方がない。本人が使ってくれないもしくは朝日の前を通りすぎてくれない事には俺達には発見のしようがない。
どうしようか迷っている時に奥の席から店主の叫び声が聞こえた。
「だから、何度も言ってるだろう!うちの店で”思能”を使うのはやめてくれ!他の店だとその”思能”で店ごとまる焦げ、死人まで出てるんだ」
「あんたがまずい飯を出すのが悪いっしょ。それに私の”思能”はそんな能力じゃない。味を変える”思能”だし」
「だめだ。うちの店じゃ、禁止している」
「おい、おっさん金出してるのは俺達だぜ」
もめてるのはカップルのようだ。店主は断固として店内での”思能”の使用を禁止しているようだ。ただ、カップルは出された食事に不満があるようで味を変えようと能力を使おうとしていた。
「ダメだっているだろ!出ていけ!」
「うるせえ、じじいだな」
男は店主に向けて人差し指を弾いた。
すると、店主の男に命中して壁に吹き飛ばされた。
「おい、朝日。あいつの”思能”を見てくれ」
朝日は急いでカップルの男を確認した。
「あいつね。ターゲットはジャック・ジョン」
「めっちゃラッキーじゃん」
俺達は男に駆け寄った。
「なんだよ。お前ら?」
男はだるそうに俺達を睨みつけた。
「”思能者狩り”だな?」
「なんだ?ギルドの連中か?」
「ああ、お前を捕まえにきた」
俺はそう言って、男の腕を捕まえた。
勝った…… これでこいつが何かしようとしても”思能”で消せる。
「ジャック・ジョン。観念しなさい」
と朝日が問い詰めた。
「へえ、お前他人の情報を盗める口か。その名前を知っているってことは」
「だから何?」
「いや、高値で売れそうだなっと思って。”脳吸い”もきっと気に入ると思ってな」
ジャックはそう言って、右腕を払いのけた。
俺は咄嗟に”思能”を発動しようとしたが間に合わなかった。
俺達は物凄い横風が吹いたかのように、外に弾き飛ばされた。窓ガラスは粉々に割れ、外の民家に叩きつけられた。俺達は頭を守る事で精一杯であった。
ジャックはゆっくり歩きながら、外に出てきた。
「お前、”思能”を使おうとしただろう?でも発動できなかった。発動処理時間も把握できてないとか初心者か?」
「詳しいな」
俺はそう言って、ジャックに駆け寄り体に触ろうとした。
触れさえ、触れさえすればこちらのもんなのだ。
「お前らが相手にしているのは”思能者狩り”だぜ?油断しすぎじゃないか?」
そう言って、ジャックはまた指を弾いてきた。俺は被弾し、思わず足を止める。
奴は空気を圧縮して俺に飛ばしてきていた。つまりそれは無限に球を撃てる事を意味していた。永遠に奴は攻撃できるのだ。
これじゃ近づけない……
「お前の”思能”は接触して発動するタイプとみた。しかも一撃必殺タイプだ。お前のあの余裕そうな顔が物語っている。戦闘経験のなさが明白だぜ。いいか、そういうタイプの人間は近づかせなければいいだけだ。対応なんてのは簡単なんだよ」
やばい。このままじゃ全く近づけない。被弾も多く、所々出血し始めた。
痛みも加速し、立ってるの厳しい。
「一人ならね」
朝日はそう言って、触手のように伸びた腕を鞭のように唸らせながら、ジャックに向けて攻撃をし始めた。
どうやら、ジルちゃんが朝日の体に”思能”を使っているようであった。
ジャックは指を弾いて攻撃を繰り出しながら、朝日の攻撃を交わし後退していく。
「九条!早くそいつの腕を消して!腕さえなければあいつは攻撃できないから」
朝日の助言に俺は頷き、ジャックに向かって走りだす。
ジャックは俺を妨害しようと攻撃を繰り出すが、すかさず朝日の攻撃が飛んでくる。
そちらの処理で、どんどん俺とジャックの距離は近づいていく。
「この野郎!!」
ジャックは両腕を交差して、空間をとんでもない風量の攻撃を繰り出してくる。
「待ってたよ。その一撃を」
俺はそう言って、右手でジャックの攻撃を消し、ジャックの両腕をつかみ取った。
ジャックはなんとか藻掻こうとするが、俺は直ぐに”思能”を発動させ両腕を消した。
「何とかなりましたね」
ジルちゃんと朝日が駆け寄ってきた。
「やったわね」
朝日の腕はもう元に戻っていた。
こうして、俺達は何とかクエストをクリアできたのであった。