10 ギルド編③~Cランククエスト~
アップルタウンの中心に位置する噴水広場には人通りが多かった。燦燦と照らす太陽のせいか、皆涼しい噴水の前に集まってきているのかもしれない。待ち合わせ場所に活用している人も多かった。
綺麗に敷き詰められた石のタイルの上を無邪気に走り回っている子供や、噴水の中に入って水浴びを始める子供もいる。それを注意する親、涼しみにきたカップルなどで賑わっていた。
俺達は待ち合わせ場所の噴水広場のベンチに座りながらもう一人のチームメンバーが来るのを待っていた。
「一体どんな人がくるのかしら。やばい奴じゃなければいいけど」
そう言って朝日はそわそわしていた。確かに朝日の気持ちも分かった。なんだか俺も落ち着かない。
スマホが”ビビビッ”と激しく震えた。
顔をあげるとそには、一人の女性が立っていた。
「もしかして、今日クエストを受注した人ですか?」
「はい」と俺は短く答えた。
「よろしくお願いします!」
元気に敬礼して返事をした女の子が招集メンバーであった。
「私はジル・ビルと言います!ジルちゃんって呼んでください!」
元気に挨拶してくる彼女は自己紹介を始めた。綺麗に編み込まれたツインテールは薄いピンクと茶色のグラデーションしていた。
「お兄さんとお姉さんのお名前は?」
「俺は九条で彼女が朝日」
と軽く自己紹介した。
「あなたが”コントロール”の子?」
「ええ、そうですよお~。良かった~優しそうなお兄さんとお姉さんで。立ち話もなんですから、近くのカフェで自己紹介も兼ねて少しお話しません?暑いですし少し涼んでから行った方がきっといいですよ」
彼女の言う通り、今日は暑い。何だかジメジメして、服が纏わりつく。少し背中も汗ばんできてもいる。
確かに少し冷たいアイスコーヒー飲んでからでもいい気がしてきた。
朝日の顔色を伺ったところ朝日も特に反対という訳でもなさそうであった。
俺達は了承して近くのカフェに入る事にした。
「それで、ジルちゃんだっけ?あなたの”思能”はどんなものなの?」
「まずはお姉さんとお兄さんのから知りたいなあ」
ジルちゃんは、机に頬杖を突きながら甘ったるい声で要求してきた。
朝日は一瞬イラっとした様子が伺えた。
「あっそ。別に私はねあんたの”思能”聞かなくてたって分かるのよ」
そう言って朝日は右手で筒の形を作り、ジルちゃんを右目で覗き込んだ。
「なるほどね。あなた人の体を自在に変形できる能力なのね」
「へ~。お姉さんすご~い。分かるんだ。そう言う能力なんなんだね」
ジルちゃんは不敵な笑みを浮かべながらにやにやしていた。
「それでお兄さんは?」
「俺は……」
俺が答えようとした時だった。
女性の悲鳴が聞こえた。
店主が大声で叫んだ。
「ひったくりだ!捕まえてくれ!」
まじかよ。こんな時にタイミングが悪いと思いながら、俺は犯人を追いかけ店の外にでた。
犯人は物凄いスピードで走り去っていく。早すぎないか……
「おい、あれってまさか”思能”持ちじゃないか?」
「かもね。追い付けないかも」
と朝日が答えた。
「大丈夫だよ」
「何が?」
「お兄さんじゃなかった、九条君後ろ向いて」
「早く追わないと逃げられるぞ?」
「いいから、いいから」
そう言って、彼女は俺の背中に両手を付けた。そうして俺の肉を掴むとまるでお餅でも伸ばすかのようにグニャグニャともみ込んだ。まるでちょっとエッチなマッサージみたいだ。
「できた。翼」
ジルちゃんの言葉通り、俺の背中には大きな肌色の翼が出来上がっていた。
「さあ、それで羽ばたいて追いかけて下さいな」
ジルちゃんは俺の背中をバシバシ叩いて追いかえるよう後を押しした。
確かに俺の背中に翼の感覚がある。俺はそれを羽ばたかせひったくり男を追いかけた。
速度は増していきあっという間にひったくり男に追いついた。
俺は男の目の前で羽ばたきながら待ち伏せした。
「は、早すぎだろ」
男はすぐに堪忍すると盗んだ鞄を渡してきた。
暫くして、ジルちゃんと朝日がやってきた。その時には翼は消えてなくなっていた。
「これが私の”思能”なんですよ。タイムリミットはあるけど便利でしょ?」
「ああ」
「確かに凄いわね。私も!私も翼欲しい!」
「あ~お姉さんじゃなかった……朝日さんは骨ばってて無理かも」
朝日は『何でよ!!』と怒鳴り声を上げて二人でじゃれ合っていた。
確かにジルちゃんという彼女の能力は非常に便利かもしれない。
「それで九条君の”思能”は何ですかあ?」
「俺の”思能”は……」
そう言って、ひったくり男に詰め寄った。
「な、なんだよ」
俺はひったくり男の頭を掴む。
「や、やめてくれ」
俺は”思能”を発動させた。イメージした。男を……消す。男の……
「た、助けてええ」
ひったくり男は情けない声をあげながら崩れ落ちた。
俺の”思能”が発動した。
男の髪の毛だけが綺麗さっぱりなくなっていた。
「これが俺の”思能”。物を消す能力さ」
二人は茫然と開いた口が塞がらなかった。
「凄いけど、九条君それはちょっと可哀そうじゃない……」
「九条、あんたそれは可哀そうよ……」
二人の受けは最悪であった。
俺はひったくり男に平謝りしながら髪の毛をお返ししたが時すでに遅しであった。