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1 始まり①   

俺の周りには不思議といつも人が寄り付かなかった。俺、個人としては至って普通の人間だと思う。そう思ってるのは俺だけなのかもしれない。高校になっても友達一人いない俺は客観的に見て嫌われ者だ。少なくともクラスの奴からは好かれていないのは明白だった。


でも別に対して気にしていない。なぜなら、俺は生まれながらに勝ち組だからだ。両親は都内で多くの土地を所有している地主だ。だから、別に働かなくても生きていける。最悪ニートにでもなって親の脛齧って生きてれば何とかなる。


だから、俺人生を適当にのらりくらり生きてきた。高校受験で焦るのが嫌だったので中学受験をしたし、別に勉強しなくて入れるレベルを選んだ。俺はそうやって楽な選択肢を選んできた。


俺の学生生活は友達が一人もできず、ただ外を眺める日々と机に突っ伏してる時間だけが過ぎ、気づけば

二年生になっていた。来年は大学が受験を控えているため修学旅行は高二の時に行われる。


俺は余った班に入れられ名前も大して知らないクラスメイトと、寝泊まりをすることになった。修学旅行先は京都であった。初日は奈良に向かい先生同伴のもと、お寺などを回ったりして、その日は奈良の旅館に泊まった。


そうして、二日目からは京都に向かい自由行動としして班で行動することになった。

俺はとても退屈だった。お寺にも神社にも興味がない。興味があるのは鹿ぐらいだ。鹿に鹿せんべいをあげるのが今回の修学旅行で唯一の楽しみだった。


動物はいい。言葉を喋らないからコミュニケーションを取らなくて済む。エサさえ持ってれば勝手に向こうの方から寄ってくるし餌を食べたらどっかに行く。

 

俺達の班は何故か山奥の寺に行くことになった。多分他のやつも人混みが嫌いなのだろう。静かに木漏れ日が漏れるお寺に俺たちは向かった。


「静かな場所だね」


一人のクラスメイトが気を使ったのか話かけてきた。


俺はめんどくさくて無視した。何でそんな事をしようと思ったのか、単純に気分じゃなかったからだ。

というのと、こいつは一度質問しだすととまらなくなるタイプの奴だ。他の奴にそんな話かけかたをしてたのを見た事がある……


そういう総合的な判断から無視にしたのだ。俺の判断は間違ってない。


「お寺好きじゃないの?」

続けて、第二弾の質問が来た。


「別に……」

俺は適当に返事した。会話は終わり。はいおしまいの合図だ。

分かりやすい。


「おい!! ほっとけよ、そんな奴」

と別のクラスメイトの男が言った。どうやら俺は他のクラスメイトにも嫌われているらしい。


「おい、ここに井戸があるぜ」


また、別のクラスメイトの一人が見つけて指差した。もしかしたら俺らがトラブってるのを気にして話をそらしたのかもしれない。


なんか、そう思ったら申し訳なくなって、俺も黙って井戸の中を覗き込んだ。

かなり深く底が見えない。下に水が溜まっているのか?


その瞬間、俺は背中押された。俺は慌てて踏ん張ろうとしギリギリの所で耐えた。


「何すんだよ!!」

俺は大声で叫んだ。


「お前さあ……気に食わないんだよ」

さっき俺につっかかってきた奴だった。


「は!? お前に何かしたかよ?」

「お前見下してんだろ? 俺達の事?」

そう言ってそいつは力一杯、俺を押し始めた。


「やめろよ。本当に落っこちる」

「落としてたんだよ。ほら! お前らも押せ!」


そう言って、俺が無視しようとしたクラスメイトも誘った。

その瞬間何かに取りつかれたかのように雄たけびを上げながら俺に向かって俺を井戸の底に力一杯押し込んだ。


その衝撃で俺は井戸の中に頭から落っこちた。

後方からクラスメイト達の笑い声だけが響き渡っていた。


井戸に落ちた俺はどんどん下に落ちていった。


下に水が張ってるかと思ったが、さっき地上から見た時は全く見えなかった。

そのため、水は枯れ固い岩肌であれば死ぬだろうなと思いながら俺は落ちっていた。


落下速度は増していく。このまま底にぶつかると思ったが全く底につかない。俺は何度も底を見ようと目を凝らしてみたが暗闇で何も見えない。


聞こえるのは俺の叫び声だけだった。どんだけ深い井戸なのだろうか?

そうして、俺は次第に考えるのを辞めて、ただひたすらに落ちていった。


頬に何か冷たい感触が感じられた。気がつくと俺は浜辺の上に横たわっていた。


「目が覚めましたか?」


女の声がした。俺は声の方向に顔を向ける。しかし、まだ目は光に慣れておらず目が開かない。細目でゆっくりと声の主の姿を確認した。


そこには一人の女性の姿があった。どうやら俺に声をかけたのはこの女性らしい。

和服を着た綺麗な女性で後ろで髪結んでいる。


「ここは?」

「”思海(しかい)”です」

「”思海(しかい)”?」

と俺は尋ねた。聞いた事がない。


「ご存じないですか?」

「はい…… ここはそもそも日本ですか?俺はさっき井戸の中に落ちて気づいたらここにいたので」


「ちょっと、待って下さいね」

彼女は怪訝そうな顔をしながら暫く黙って俺の顔を見つめていた。そうして、どこからともなくスマートフォンのようなものを取り出し俺に会話を聞かれないように少し離れた場所に移動して電話をかけ始めた。


彼女は暫く電話をしていて、電話を切り俺に向かって話始めた。


「複雑な事情がありそうですが、一旦話を進めさせて下さい」

「ここは先程も説明したように”思海(しかい)”と言います。ここには力を求める者達が集まります。

ここには”思魚(しぎょ)”と呼ばれる特殊な魚達が生息しています。その”思魚(しぎょ)”を口にすると不思議な力を得る事ができます。それをここでは”思能(しのう)”と呼んでいます。特殊な力を得られるのです。その力を求めてここには日々多くの人が訪れます」


彼女が”思海(しかい)”と呼ぶその海には青黒くただただ俺の目の前に広がっていた。少し先を見つめると魚影が見えた。濁ってはいないが透き通っている訳ではなかった。


「なるほど。そういう場所なんですね。俺にはただの海にしか見えないけど」


「じゃあ、試しに口にしてみます?」


彼女は満面の笑みでどこからか釣り竿を持ち出し俺の方に手渡した。

その顔はまるで保険の営業マンのようなこれから売り上げが出る事を確信しているそんな表情をしていた。


「この釣り竿は?」

「この釣り竿の釣り針にあなたの髪の毛を括りつけて海に放り投げてみれば”思魚(しぎょ)”が釣れます」

「なるほど……特殊な釣り竿なんですね」


「いいえ、それはただの釣り竿です。大事なのはあなたのDNAです」

俺は彼女の言う通り、髪の毛を一本引き抜き釣り針に括りつけた。


本当にこんなので釣れるのか……


俺は半信半疑で釣り針を海に投げ入れた。しばらくすると、魚影がわらわらと群がり餌をつつくように寄ってきた。そうして一匹の獲物が掛かった。俺は急いで竿をあげた。


そこには一匹の透明の魚が釣れていた。体の中身が透けていて血管も臓器も何もかも見えている。


「これが”思魚(しぎょ)”?」


その魚は全く暴れもせず、ただたじっと俺の方を見つめていた。


ふとほんのりいい香りがした。香りの先には彼女がいた。海風がそっと彼女の香りを運んでくる。

彼女は気がつくと俺の横におり、俺と彼女の距離はほんの目と鼻の先くらいであった。


この距離で見ると彼女の顔が整っているのが良く分かった。綺麗な二重に形の綺麗な鼻、ぷっくり膨らんだ唇にサラッと艶のある黒髪を後ろに束ねていた。

彼女は屈みながら俺の方に歩み寄る。そっと肩が触れ合った。


「それが”思魚(しぎょ)”です。あなたのDNAに惹かれて選んだんです。それを食べて下さい」

「この魚を?」

「そうです」


彼女の言葉を聞き釣った魚をまじまじ見つめた。

確かに体が求めているように感じる。俺は”思魚(しぎょ)”を口に入れて咀嚼した。五回程、咀嚼した後に飲み込んだ。その瞬間体に電流が流れるような感覚がした。確かに身体中の血中に何かが流れ伝っている気がする。


しかし、特に体に変化は見られない。


「特に変わった様子は見れないけど……」


俺は両手を何度か開いたり閉じたりしてみたがそれでも何も変わらなかった。


「いえ、変わっています。」

「どうして分かるんですか?」

「私も”思能(しのう)”を持ているからですよ。私の思念は他者の”思能(しのう)”とその使い方が分かるんです」


「じゃあ、俺の”思能(しのう)”は何ですか?」

「ちょっと待ってくださいね」

そう言って、彼女は右手で筒の形を作り、片目を閉じて俺の方を除き込んだ。

しばらく彼女は俺の方を見ていたが、一瞬だけ唇を緩めその仕草を悟らせように唇をかしめ、唾を飲み込んだのを見逃さなかった。


何か金目の物でも見つけたようなそんな仕草だった。


「分かりました」


と彼女は囁くようにに呟いたのだった 。


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