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僕らの世界  作者: 若槻風亜
始まりは決意から
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始まりは決意から 3

「終わりじゃないって……なんか策でもあるのかトーキ?」


 驚いた様子でレイギアが尋ねると、トーキは悔しげに首を振る。唇を真一文字に引き伸ばす表情を見て、その言葉がすがるだけのものだと今さらながらに気付いたレイギアだったが、次のトーキの言葉を待って黙り通した。


「……正直、何もありません。だけどもしかしたら闇堕ちした人を助け出す方法がどこかにあるかもしれない。僕は、それに賭けます。――――そのためにギルドの仕事を手伝わせてもらうことにしたんです。〈堕ちた者〉の情報が一番入るのはやっぱり彼らを追うハンターだから」


 確かにその通りだ。ハンターは生活がかかっている以上情報収集に余念がない。競争精神が強い者はそうでもないが、協力精神旺盛に交流を持てば他のハンターからもその手の情報は集まる。ただ安穏と町に暮らし彼女の安否を気遣うよりよほど現実的だろう。


 だが、一口に「ハンターになる」と言ってもそんな簡単なものではない。


「ギルドの仕事するって――――お前まだ14だろう? ハンターライセンスとれるのは15からだぞ?」


 そんなことは知っているだろう。言外に問いかけてくるレイギアの目を真正面に受けて、トーキは分かっているというように頷く。


 世界中には〈コンダクター〉・ノーマルの(さかい)なく多くのハンターが存在するが、彼らは必ず「ハンターライセンス」なるものを所有している。これは彼らを統括するハンター協会が発行するもので、正式なハンターであることを証明するものだ。


 ハンター協会はライセンスの取得資格の第1条に「15歳以上」と記載している。他の条件には場合によって例外が発生するが、この項目に関してはいかなる場合も例外を許されることはない。もちろん、〈コンダクター〉のトーキも同様だ。


 けれど、〈コンダクター〉であるがため、別の例外が許される。


「トーキは契約してる〈リーブズ〉のレベル高いネ。一緒に行く人いれば問題ないヨ」


 何故かパレラが誇らしげに胸を張る。レイギアはそんな彼に一度目をやってから〈コンダクター〉に許された例外を思い出してひとり納得したような様子を見せた。


 ハンター業に関して、〈コンダクター〉にのみ許された例外。それは契約した〈リーブズ〉のレベルがハンター協会が定めた規定値より高く、本人の人間性が認められ、なおかつランクの高い(・・・・・・)ハンターが同行するときに限りハンター業に参加することを許可する、というもの。この場合に限り〈コンダクター〉はハンターライセンスを必要としない。


「まあ確かに、トーキの〈リーブズ〉のレベルは規定を十分に満たしてるし人柄も悪くねぇ。規定は十分満たしちゃいるが……誰がついていくんだ? ランクシルバー以上じゃなきゃそいつは無効だろうが」


 ハンターのランクは全部で8つある。上からダイヤモンド・ゴールド・プラチナ・シルバー・パール・スチール・ブロンズ・アイアンとなり、その中でも更に細かい順位付けがされている。トーキが「賭ける」と言った例外は上から4番目のランクであるシルバー以上のハンターが同行しなくては成立しない。


 言っておくが俺は断るぞ。トーキの事情もそのルールも知っていてなお、そう言って先手を打つレイギアをトーキは責めるつもりはなかった。


 彼はランクプラチナの上位で、向かう先はレベルの高い〈リーブズ〉を連れているとはいえてんで素人のトーキがついて行けるような場所ではない。もし彼がトーキの同行者になると言うならば彼は行く場所のレベルを下げなくてはいけない。安全面の配慮も同行者の義務だからだ。


 トーキにだって生活を賭けて戦っている彼の邪魔をする気は毛頭ない。それがいくらメルティのためであっても、だ。


 第一、彼の性格上どんな理由があろうと面倒くさければ何でも断るのは分かっている。


 それなりに長い付き合いをしてきたせいで、トーキはすっかり、レイギアが尊敬せざるを得ないほど強い男だがそういう点では頼りにならない駄目な大人だと理解していた。


 だからこそ、すでに別の手は打ってある。


「大丈夫です。マリーニアさんの仕事に同行するという形を取るということで許可をもらえました」


 すでに許可を貰っているトーキの行動の早さにミヤコが「抜け目なーい」と笑う隣で、レイギアは目をぱちくりさせ、次いで視線をパレラ――――の、更に奥。カウンターの向こう側にいる金糸の髪と海のような(あお)い目をした女性に目をやった。


「おいおいマリーニア。エンデル・ギルドのカウンターガールに納まったお前がまたハンター稼業に戻るってのか?」


 大きめな声を出して問いかけると、女性――――マリーニアは頬に手を当て微笑んだ。


「戻る、っていうよりはトーキくんが行きたくなったら一緒に行く感じかしら。ただ、今マスターもいないでしょ? だからこっちのお仕事で外せなくて、どうしても都合がつかなくなったらアヴィッシュに頼む形を取るつもり」

「パレラはアヴィッシュ嫌いネ! アヴィッシュ一緒よくない!!」

「うわっ、パレラ様ご乱心!?」


 いきなり大声を出してずっと付けっぱなしのヘッドホンをぎゅっと耳に押し付けるパレラ。基本的に笑顔しか見せない彼が見せるあからさまな嫌悪にミヤコは苦笑いを浮かべる。


 今話題に出たのはアヴィッシュ・レーグという男で、エンデル・ギルドを拠点とするシルバーランクハンターの一人だ。ちゃらちゃらと軽い感じはあるが親しみやすくてミヤコは気に入ってる相手なのだが、どうやらパレラ的には完全アウトの部類らしい。


 何で? と訊かないでいたのは、やはり故郷の世界が空気を読まなければ暮らしていけないところであったからだろうか。


「あらあら、パレラってばそんなに嫌わないであげて頂戴。あれでも私のいとこなんだから」

「マリーニャのいとこでも嫌いなものは嫌いネ! ここの仕事あいつに押し付けてマリーニャ一緒に来るヨ」

「あらあら」


 困ったように、しかしどこか楽しそうに笑うマリーニアはパレラの頭を優しくなでて宥める。


 頬を膨らませる友人に、彼があの人物を嫌う理由を知るトーキは苦笑した。会うたびにあんなこと(・・・・・)をされたら、もし自分が彼でもアヴィッシュのことを嫌っていただろう。


(――――ただ、人目があるところでは自重してるだけマシ、かな?)


「んなーーう」


 それまで寝ていたはずのベルルが丸まって目を瞑ったまま低い声で鳴いた。どうやら止まってしまっている話の続きを促しているらしい。トーキははっとして話を元に戻す。


「というわけで、これから今まで以上にお世話になりますので、よろしくお願いします」


 トーキが深々と礼儀正しく頭を下げると、最初にミヤコが応じ、次にマリーニアが応じ、続いてベルルが尻尾を軽く振った。


 最後残ったレイギアは応じようとして無精ひげの生えたあごをさする。


「よおトーキ、お前学校どうするんだよ。親父に何か言われねーのか?」


 町や国によって異なるが、少なくともここ・エンデルでは義務教育というものは存在しない。しかし学校は数箇所あり、形式は複数ある。


 たとえば、強制的に勉強させるわけではなく日ごとに内容を変え誰かが授業をやっているところに誰かが参加するという形だったり、予定をしっかり組んで毎日登校させたり、などだ。


 トーキたちの通う学校は後者であり、予定が組まれ勉強を行うため授業費も高い。そのためそこに通うのは富裕層の子女が多くいる。かといって、トーキの家は特別裕福なわけではない。母親が「立派な人物になるためにも勉強が大事だから」と推したため、そこに入ることになったのだ。


 そのため今回の件で母には渋い顔をされたが、父の反応は真逆だった。


「大丈夫です。父さんにも『大切な人のためなら学校なんて小さいこと言わなくていい』って言われたんで」

「わーお。トーキ君のお父さんって男前だねー。いいなー。……いや、それよりこの世界の学校制度がうらやましい……」


 うらやましがったと思ったら突然落ち込みだすミヤコ。学校に何か嫌な思い出でもあるというのか。訊いてくれるなオーラが出ているので訊かなかったが、少し気になるトーキであった。


「そこのアホはほっといて……とにかく問題はねーんだな。じゃ、もう何も言わねーよ。改めてよろしくな、トーキ」


「はいっ!」


 返事と共に炎のような決意がほとばしる。


 これが、動き出した運命のはじまり――――。


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