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僕らの世界  作者: 若槻風亜
始まりは自覚から
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始まりは自覚から 9

 時を少しさかのぼり、トーキがオルフィアを呼び出した頃、一人場を離れたパレラは幼馴染達が戦っているのを見渡せる丘の上に立って遠望の構えを取っていた。目の側に袖が垂れていて見通しがよいとは決して言えないだろうに、パレラは全く気にせずに、トーキがリザードソルジャーを一撃で倒したことにはしゃいで飛び跳ねる。


「凄いネ、トーキ! やっぱりトーキもオルフィアも強いヨ」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねていると、突然足場(・・)が動きその体は今まであった場所よりずっと高い所に持ち上げられた。


「めうっ!?」


 足場(・・)はパレラを振り払うように大きくその身を揺すった。パレラはよろけながらも転んだり落ちたりすることなく、それどころか大きく飛び上がり空中で体を丸めて後転する。


 せっかく幼馴染の活躍を楽しんでいたのに邪魔をされて面白くないパレラは頬を膨らませた。


「めうっ。いきなり動いたら危ないネっ!!」


 下りる勢いと重力を込めて袖に隠れた両腕をそのまま足場(・・)に向けて振り下ろす。すると、すでにぼろぼろだった足場(・・)の鎧に4本ずつ交差するように8本の傷が刻まれ、大量の赤い水が噴き出した。


 足場(・・)が悲鳴を上げることなく再び倒れた先は地面ではない。そこには、足場(・・)と同じ形をしたものたちが数え切れないほど積み重なっている。どれもこれもが無残な姿になっていた。


 パレラは再び静かになった足場に再度降り立ちため息のような息を吐く。


「いっぱいいるのは分かってたけど、こんなにいるなんて思わなかったネ。失敗ヨ。昨日より多いネ」


 昨晩、嫌な匂いに目が覚めた。匂いを辿ればリザードマン――――タチトカゲとリザードソルジャーの中間のランクの魔物――――の大群。片付けて戻ればトーキたちの所にはタチトカゲの群れが襲い掛かってきていたと言う。


 リザードマンの姿を見た時から気になっていたこと(・・・・・・・・・)を確信したのはガーリッドがリザードソルジャーの退治依頼で来たと聞いた時だった。同時に、恐らくリザードマン同様多数いることはその時予想出来ていた。


 リザード系の魔物は、下からオオトカゲ・タチトカゲ・リザードマン・リザードソルジャー。この上にもあと4種が確認されている。この下位4種の中でもリザードソルジャーは上位種がいなければ基本的に単体で行動してるものだ。


 というのも、リザードソルジャーは個体としての攻撃力・防御力は下位種では抜きん出て優れているが逆に知能がまるでない。本能でのみ生き、戦い、行動する。下手をすれば同種同士で戦うこともある。そのためか集団での行動が出来ない。


 だが、そのリザードソルジャーも上位種が1体いるだけでその統率は一気に上がる。リザード系の魔物は魔物の中でも1,2を争うほど上下の関係がはっきりしている。どんなに知能がなくとも、本能が、上位種に逆らうことを許さないのだ。


 なので、たった1体でも上位種――――つまり“指揮官”がいると彼らは普段出来ない集団行動が出来るようになる。それは他の下位3種も同じであり、“指揮官”が「集まれ」と命じれば彼らはその地に集まる。


 そして今この地にこれほどのリザード系の魔物が集まっているのは他でもない。あれらを集めている“指揮官”がいるのだ。


「――――出てくるネ。そこのリザードナイト」


 笑顔だが命じた声は圧倒的な殺意を込めて放たれた。周囲から戻りつつあった鳥たちが再び離れていく。その羽ばたきの音が消えるか否かの刹那、背後の茂みが揺れた。


 リザードソルジャーよりの上等な鎧と兜を身に付け剣を携えた2本の足で立つ人のようなシルエット。しかしその身はうろこで覆われており顔はトカゲのそれによく似ている。リザード系上位4種の最下位、リザードナイトだ。パレラはそれを振り返る。


【人間風情が、生意気な】


 憎々しげに呟かれるがパレラは風に揺れる柳のようにそれを聞き流した。


「何でこんな所に、とかは訊かないネ。パレラはお前たちが何しようと興味ないヨ。でもお前達がここにいるとトーキの邪魔ヨ。だから、消えるネ」


 しっしとまるで犬を追い払うような動作をするパレラ。リザードナイトは不愉快そうに爬虫類特有の端のとがった丸い黄色の目を細める。


【愚かな。私がそうやすやすと退くとでも――――】

「お願いしてるわけじゃないヨ」


 リザードナイトの反論を途中で遮った低めの声は、まるでそれ自体が刃のようであった。そうと錯覚させるほどタイミングよく、リザードナイトの身が5つに裂けたために。


 先ほど手を払ったときに、すでに勝負はついていたのだ。だが瞬きほどの間も必要とせず細切れになり赤い水溜りに沈んだリザードナイトはまだ自分がどうなったのか分かっていないようだ。彼は夢の中で永遠にパレラと戦い続けるだろう。


 パレラは厳しい表情で、地面に落ちてこちらを見つめるような黄色い目玉を見下ろした。虚ろなソレの中にいるパレラの背後には、全貌がそこに映りきらないほど巨大な白銀の体毛に覆われたモノが映っている。


「どうせお前は消えないヨ。だから、パレラが消す、って言ってるネ」


 トーキの邪魔はさせない。トーキは傷付けさせない。それがパレラの一番強い「意志」。それを阻むのであれば阻む相手はパレラの「敵」で、パレラは「敵」に容赦はしない。


 パレラは大きく伸びをすると跳び上がって地面に降り立った。すたすたと歩いているが血を一滴も踏まないのは見事といえよう。


 さあ、トーキの元へ帰ろう。マリーニアとガーリッドの所に帰ろう。


 鞠が跳ねるように身軽に駆け出したパレラの背後には、1体のリザードナイトだったモノと、30体は越えるだろうリザードソルジャーだったモノが物言わぬ肉塊となって転がっている。


 辺りに漂うのは、残酷な結末の匂いだけだった。




その血で、

手が

顔が

髪が

体が

心が

汚れようと、

自分の為すべき事は変えられない。


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