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僕らの世界  作者: 若槻風亜
始まりは自覚から
12/21

始まりは自覚から 7

「な、何でしょう今の……何か凄く重いものが叩き落されたような」


 トーキにしてみれば感覚で思ったことを言葉にしただけなのだが、まさかそれが答えとなるとは思っていなかった。


「っトーキ君、すぐにここから離れるわ! 急いで!!」


 表情を厳しくしたマリーニアはトーキの背中を押して駆け出そうとした。するとその時、背後の森の木がいくつも倒れ、黒い影が吹き飛んでくる。


 思わず立ち止まってしまったトーキがよくよく地面に転がったその影を見ると、それは鎧を身に付けた縦にも横にも人の2倍は大きなトカゲだった。手足の役がはっきりしていて、手にはトーキの身長ほどある剣が握られており、足には分厚いブーツを履いている。


 倒れていたそれはムクリと起き上がるとあれほどの衝撃で吹き飛ばされたのにもかかわらず平然とした様子で続いて森から出てきた影に向かい合った。その影を見て、トーキは目を瞠る。


「ガーリッドさん!」


 剣を抜き放った状態で森から出てきたのは朝食以降ずっと離れていたガーリッドだった。彼が相手をしているということは、あれがリザードソルジャーなのだろうか。


 そうにしてはガーリッドの負傷の具合がひどい。満身創痍と言っても過言ではないほどの状態だ。彼にとってはリザードソルジャーは余裕ではなかったのだろうか。昨晩マリーニアだってそう言っていた。


「あ? お前……マリーの姉さんもか。姉さん! そいつ連れてこっから早く逃げろっ!! まだあと――――っ!? 前見ろっっ!!」


 切羽詰った怒鳴り声。その必死な声がトーキに背後に対する恐怖を覚えさせぞわりと背筋を冷えさせた。恐怖に硬くなりながらも懸命に振り返れば、傷ひとつ負っていない状態の、ガーリッドの前にいる魔物と同じ魔物がそこに立っている。


 鈍く輝く剣の刃と血走った獣の目、そして山のような体躯を前にトーキは頭が真っ白になった。契句を唱えなくてはという意識すら残っていない。見開いた目は魔物が剣を振り上げる様をただ見上げる。


 トーキが正気を取り戻したのは真横から放たれた威圧感を感じた時だ。覚えのあるそれは、地上に降りた月の女神が纏うもの。


「――――『我が名に従え。(くう)を裂き放て』――――」


 唱えられた契句に答えて金色の光が満ちる。トーキは必死に1歩下がった。たった1歩だったが、すっかり縮こまってしまった体を1歩でも動かせたのは上出来だった。


 そしてその1歩だけでも敵との間にトーキが距離をとったことに、コントラクトメイトの名を呼ぶ刹那マリーニアはほっとしたように見える。


「『月光の射手ムーンライト・アーチャー』!!」


 呼びかけに応じて現れたのは帽子を眼が見えないほど深く被り背中にかかとにつくほど長い金の髪を垂らした狩人の姿をした女性だ。


 ほっそりとしたあご。高い鼻。ふっくらとした唇。帽子に隠れ半分しか見えない顔はそれだけ見ても造りが整っていることが窺える。全身からは月が纏うような柔らかな金色の光を放っていた。


 マリーニアの背後に浮かんだ状態で現れた狩人の女性は、マリーニアの肩に手を当てるような動作をするとその姿が半透明に変わる。


 すると、マリーニアが構えていた弓が金色の光に包まれ出した。


 そして間も空けずに放たれた矢はこれまでトーキが見たものとは比べ物にならないほどの威力を持って魔物の腹を撃ち抜く。魔物を貫いた矢が後方へ飛び去る頃に、傷から噴水のように血を撒き散らしながら思い出したように魔物が倒れた。


 再び、今度は目の前で訪れた振動にトーキはバランスを崩して転んでしまう。


「大丈夫トーキ君?」

「は、はい。……マリーニアさん、この魔物……」


 よろよろと立ち上がりながら目の前で白目をむき倒れている魔物に目をやる。最初はこれがリザードソルジャーだと思っていたが、今はそれが真実かどうかもあやふやだ。


 マリーニアは同様に魔物を見下ろした。


「これがリザードソルジャーよ。1体ならガーリッド君も余裕だろうけど、こんなに群れを成しているんじゃ無理だわ。ギルドの情報が間違っていたのね。…………でも、こんなに群れになるなんて単体じゃ考えられない(・・・・・・・・・・)


 |リザードソルジャーの特性上ありえない現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・に、現状が起こりえる条件(・・・・・・・・・・)を探すべくマリーニアは厳しい眼差しで辺りを見回す。だが、それ(・・)を見つけることは出来ない。


 最初は戦いにトーキを巻き込むわけには行かないと思って逃げることを選択するつもりだったが、この状況ではガーリッドを放っておくわけにはいかない。このまま放っておけば彼は間違いなく消える(・・・)


 そうこうしている内にもガーリッドの背後にまたリザードソルジャーが増えていた。怪我のために動きが悪くなっており1匹が終わる前に2匹増えてしまったようだ。あの負傷は恐らく先に何匹か相手取ったためだろう。


 マリーニアは掩護を選択するとトーキを振り向いた。


「トーキ君、今この場で『あなたの制約を解除することを宣言します』」


 解除の文言が唱えられると、ネックレスのトップが薄い光を放ち、次いで再びその光をなくす。ただそれだけだったが、トーキはネックレスをかけた時より続いていた違和感が退いたことから制約が解除されたことを感じ取った。


「――――戦わなくていいから、身を守っていてね」


 言うや否やガーリッドの方へ駆け出すマリーニア。低い丘を駆け滑りながら放った矢は(あやま)たずガーリッドを囲んでいたリザードソルジャーを狙い撃つ。しかし別のリザードソルジャーが盾を構えそれを弾いた。


 マリーニアは威力が減ってしまったことに驚きはしたが、その後の攻撃すらあまりダメージになっていないことを見て取り、この大群を見た時から(・・・・・・・・・・)予想していた通りの魔物の状態に眉を寄せる。だが考えもしなかったことではないので大した衝撃を受けずに2撃目3撃目を重ねた。


 その一方で、彼女の落ち着きとは反対にトーキは驚いたように目を瞠る。


「! あのリザードソルジャー、光の耐性持ちだ」


 魔物について詳しくないトーキだが、逆に魔物ことをよく知る幼馴染のおかげで多少の知識はある。


 〈リーブズ〉にはそれぞれ『属性』というものがあり、その流れからか魔物にも同様に属性はある。これらの属性は各々の攻撃に威力を付与したりそれ自体を力として活用したりする。相性がよければ威力は増すが、逆に相性が悪ければ付与の分は消え、それ自体を力とした場合はその威力をなしにするのだ。


 属性は火、水、土、風、雷、木、闇、光の8つがあり、光と闇以外は強弱のサークルが出来る。火は水に弱く木に強い、などだ。そして光と闇は対極になり、この2種はお互いに受け入れあい拒否しあう――つまり、お互いが打ち消し合う。


 マリーニアの『月光の射手ムーンライト・アーチャー』の属性は光で、リザード系の魔物は確か土であったはずなので、本来なら相殺は起こらない。


 この属性は変わることがない。そうである以上、マリーニアの『月光の射手ムーンライト・アーチャー』の属性を消したのはリザードソルジャーの属性ではなくあのリザードマンが個体でもつ『耐性』のためだ。


 属性が一部例外(・・・・)を除き全てに配されるのとは逆に、稀に、魔物なり人なりに自分の属性の相性に関係ない属性を無効にする因子を持つものが生まれる。その因子が『耐性』だ。


 あのリザードソルジャーは光を無効にする因子――――光の耐性を持つのだろう。そのため、マリーニアの攻撃が通常の矢の威力だけに変わってしまったのだ。


 いくらシルバーランクのハンターとはいえその膂力(りょりょく)は女性の域を出ない。下位ランクの魔物ならまだしも、中位ランクの、鎧を纏った魔物を撃ち抜くのは無理なのだろう。マリーニアの心情を知らないトーキはそう考えた。


 だがあのリザードマンを倒さなければ他のリザードマンを狙ってもアレが止めてしまうので攻撃が届かない。しかしガーリッドは満身創痍。パレラもいない。今何とか出来るのはトーキだけだ。


「僕が、僕がやらなくちゃ……」


 言いかけた自分の両頬をトーキは思い切りはたく。やりすぎてジンジンと痛みが響くが、これくらいがちょうどいい。このくらいしないと、またトーキは「義務」に逃げてしまう。


 深い呼吸を繰り返して、トーキは戦場を強い眼差しで見据えた。


「僕がっ、やるんだっ!!」


 『やらなくちゃいけない』んじゃない。『助けなくちゃいけない』んじゃない。そんな義務感じゃない。仲間のために『やりたい』ことをするんだ。仲間を『助けたい』んだ。


 これは義務じゃなくて、トーキの意思だ。


「――――『我が名に従え。地を駆け吠えよ』――――」


 契句を唱えるとトーキの周りの空気が震える。周囲に満ちるのは茶色の光。


 トーキは大きく空気を吸い込んだ。そして、その名を叫ぶ。


「『大地の狼(グランド・ウルフ)』っっ!!」


 呼びかけに応じ、人の大人ほどの大きさの黒く長い毛の狼が現れた。双眸は鮮やかな新緑の色をしている。



義務なんかじゃない。

大切な人を守りたいと思うこの気持ちは。

仲間を救いたいと思うこの気持ちは。


<お知らせ>

ネックレスの件に

「……(´・ω・`)?」

と、思った方は「始まりは自覚から1」を

はじめの方だけごらんください;


ネックレスについてを追記しましたo(_ _)o


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