第五十七話 全力で阻止しろ
自分の仮定を明確にして、それを検証することが必要だ。
だが、チャンスは一度きりだ。
明日奈は大丈夫だと言うけど、右目から伝わる鋭い痛みや神経のひきつりは、限界に近づいていることを示している。
それとも、検証を省いて、襲撃者を倒す方がいいのか?
だめだ、そんなことをしたら危険すぎる。
ターゲットの超能力の詳細を百パーセント調べておかなければ、想定外の動きが発生する可能性がある。
~~「詩葉、ターゲットから目を離すな!」~~
~~「了解!」~~
~~音楽ホールの外壁には監視カメラがついていない。~~
~~庭園や地面の監視カメラは襲撃者が下に飛び降りた様子や着地した動きを捉えているが、屋上から地面まで落ちる途中は映っていない。~~
~~明日奈の視力では、夜間に遠くを見ることは不可能だ。だから詩葉に任せるしかない。~~
~~詩葉は明日奈の親友であり、3年間生死を共にし、数々の事件を乗り越えてきた戦友でもある。一言の命令で、彼女は迷わず実行する。~~
~~詩葉はスコープで遠くを観察し、襲撃者が身を乗り出して庭園の端から飛び降りたのをしっかりと目撃した。地面にぶつかる直前に、まるでレンガで敷かれた歩道がなかったかのように、飛び込むようにして、全身が中に消えてしまった。~~
~~「どうだ?」~~
~~「彼は地下に潜りました。」~~
~~詩葉は見たことをそのまま報告し、明日奈はさらに襲撃者が着地した場所を尋ねた。詩葉は音楽ホールの前に黒い影の一部を指差した。それは地面に立っている柱で、光に照らされて長い黒影を落としていた。~~
明日奈はおおよそ理解したし、自分の推理の正しさを完全かつ絶対に確信した。すぐに外界の時間の流れを止めて、さっき追加した段落をすべて削除した。
何度も取り消し線で現実を消し去っていると、明日奈はとうとう耐えきれなくなった。全身の筋肉や骨が裂けるような感覚に襲われ、右目の奥がえぐられるほど痛かった。
これは魂に刻み込まれた痛みだ。だから異空間で明日奈の霊体にも及ぶのだ。
『ほほう、見せてくれよ……おや、目が赤くなっているぞ。』
明日奈は丸まって、右手で力強く右目を押さえている、ショーンは隙間から恐ろしいほど真っ赤な色を覗き見た。
明日奈は気を遣えない。ショーンの皮肉な言葉に構っていられない。彼女はゆっくりと震える右手を見つめた。手のひらには赤い血がついていないし、右頬にも温かい血が流れていない。どうやら状況はまだコントロールできているようだ。
残念ながら異空間には鏡がない。そうでなければ、自分の顔を見てみたかった。
『あらあら、血が出ないなんてすごいじゃない。』
ショーンは少し残念そうに言った。明日奈の睨み付けに、その瞬間右目が火傷したように痛み、涙で目がいっぱいになった。もう少しで地面に倒れて転げ回るところだった。
『こんなに痛くても、権能を維持できるとは、なかなかやるじゃない。』
異空間はまだ存在しており、明日奈の魂も体に戻っていない。それは彼女がまだ意識を失っておらず、権能も途切れていないということだ。
ショーンの冷たい口調に慣れてはいるが、耳に入るとやはり気分が悪かった。明日奈は苦痛に耐えて、ゆっくりと足で立ち上がろうとした。
何としても、ショーンの前で恥をかくわけにはいかない。
ショーンは明日奈に前世の記憶を持って転生させてくれたし、不思議な能力も与えてくれた。でも、それらはすべて彼女自身のためだった。
――「観客」であるショーンは、「創作者」である明日奈にふんだんな「娯楽」を提供して退屈を紛らわせる必要があるのだ。
憎まれ口を叩きながらも、明日奈はある目的のために、ショーンから与えられた能力に頼らざるを得なかった。人から物をもらえば手厳しく処理できず、人に食事をおごってもらうと堂々と非難できない。しかも二人の魂は絡み合って離れられないので、この魔女の無理難題に耐えなければならなかった。
『よかったね、やっと襲撃者の超能力の正体をつかんだんだから。そうでなければ、こんなに莫大な犠牲を払っても何も得られなかっただろう。それこそ大損だよ。』
明日奈は一息ついてから、頭が冷えるとショーンに念話で伝えた。
ショーンはそれを聞くとすぐにニヤリと笑って近づき、襲撃者は一体どんな超能力を持っているのか尋ねた。
似たような異能者たちは、明日奈は資料やデータで見たことがある。通常は影の中に潜んで、自由に移動できる。だから茜をずっと追跡できて、誰にも気づかれなかったのだろう。でも他の異能者は影に自由に出入りできるのに、この襲撃者は高いところから落ちて入らないといけないようだ。使い勝手が悪すぎる。
それに音楽ホールのスタッフに化けているのも気になる。もしかしたら襲撃者の超能力にはもっと制限があるのかもしれない。例えば影の中に潜んでいる時間に限りがあって、たまに出てこなければならないとか。超能力がクールダウンしている間は、スタッフとして動き回っているのだ。
襲撃者の超能力がわかったのなら、遠慮はいらない。でもその代わりに、明日奈の権能は限界に近づいている。これからチームのみんなに任せるしかない。
明日奈はすばやく権能を解除し、魂を体に戻した。そばにいたショーンも同時に異空間から抜け出し、彼女のそばに舞い降りた。
「詩葉、飛び降りさせるんじゃない!全力で阻止しろ!」




