召喚術士と魔法と本と妖精の未来の始まり
これは、自分で1から考えたオリジナル小説です。
過度な期待はしないでください。
あと、プロローグは現実世界の話ですが、これは異世界物です。
目を覚まして目の前に広がるのはとても広い大草原とキレイな青空。
(こんなに広い大地と空を見るのは何年ぶりだろうか?毎日毎日来る日も来る日も朝に家を出て会社で働いて夜に家に帰る。休みの日も疲れて家で引きこもってばかりだった)
ボク、セイカは今の現状に現実逃避をしながら、過去のことを思いふけている。
時折吹く風は心地好く、寝てしまいそうだった。
「さて、現状を整理しよう。俺・・・ボクは異世界転生をしてきたわけだが・・・」
話すたびに自分に聞こえる声は非常に声が高く、所謂、萌え声になっている。
「女神様よ、ボクにどうしろと?これじゃ、まるで何も知らない異界の地に放り投げられたみたいだよ・・・いや、ガチだったわ・・・」
普段はこういう言葉は例えとして使われることが多い。でも、これがリアルなのが今だ。
「そういえば、女神様がいうには少し離れた所に家があるらしいが・・・このおっきい草原を超えたところって感じなのかな?でも・・・」
この草原には何もない目印になるものどころか木一つ生えてない。
「一体、どの方向にあるんだよーーー!!」
高く大きい声がやまびこのように大草原に響き渡った。
(落ち着けボク、冷静になるんだ)
ヒーラーはステータスが他のより劣る。奇襲とか不意打ちをされると一気に致命傷になる。だから、周りをよく見て状況を把握。
ボクは、目を凝らすように周りを見回した。すると、サーマルカメラのように見え、ここより前の方角に家らしきものが見えた。
「うわ!何だ今の!サーマルカメラなんてボクは使ってないぞ!これが所謂、スキルというやつか?どうやって使ったんだ」
もう一度使ってみるが何も起きなかった。
「あれ?なんで?まぁでも、行く方向はわかった。早く屋根のあるところへ行き・・・たい」
また、とても心地の良い風が吹いてきた。ウトウトしたとも思ったら睡魔に負けた子猫のようにコテンと倒れてしまった。
「・・・はっ!」
自分の身体であるはずなのにそんな行動をしてしまった恥ずかしさに打ちひしがれながら急いでこの場から離れるように見えた家へ向かった。
体内時計での15分くらいの道を歩くと家らしきものが見えてきた。
「あ!あれかな?一度確認してみよう。目を凝らすように!」
再度やってみると先程のように青くいえばの形が浮かび上がり、それを覆うようにうっすらと半球体のようなものが見えた。
「うん、確かにあれで間違いなさそう。周りにあるのは結界かな?女神様がボク以外の住処にならないようにしてくれてたみたい」
それからしばらく歩くようやく、目的の家についた。
「徒歩には長いよ・・・魔法で飛べたりするのかな」
玄関の扉を開けたと同時にパリンとガラスが割れたような音がした。
「侵入者か!?」
唯一使えるスキルを使ってみると家の中には敵のようなものはなく、家の周りにある結界が消えてしまったようだ。
「まぁ、家に結界あったら怪しいよね」
この世界は機械文明は発展してないと言っていたが、見たことあるようなものが置いてある。
「これって機械なんじゃないの?」
商品表示のステッカーを見ると『電化製品』ではなく『魔具製品』となっている。
「これも一応、機械文明になるんじゃ・・・。そういえば、ボクこの世界のこと全然知らないじゃん」
何かこの世界のことを知るための何がないかと探すと1つの大きな本棚があった。
「うーん、何かあるかな?おっ、これ読みやすそう」
ボクが手に取った本は本というよりマンガ本だった。
「『はじめての◯◯』ってこっちの方にもあるんだなー・・・って、ボクは子供じゃねーよ!見た目はそうかもだけど!」
ボクはこれを読みやすそうな本と思って手に取ったことに恥ずかしさ感じ、それを吹き飛ばすかのように本を地面に思いっきり叩きつけた。
「こっちはどうだろ?」
近くにあったかなり分厚い本をみてみる。
「おおー、こんな感じでいいんだよ。・・・・・・読めない」
この世界の文字なのかボクにはさっぱりわからなかった。
ちょくちょくあるイラストはなんとなく分かるけど、文字が読めないから全部理解できない。
『はじめてのことば』『はじめてのよみかき』『はじめてのまほう』
ボクは読むのを躊躇うような本を手に取り、とりあえず読んでみる。
知ってはおかないといけないこの世界の言葉と読み、書き方。
さすがは子供向けの本、すごく分かりやすく、読みやすかった。
「前の世界では、こういう本に触れることなんて一切なかったからなー。というか、今更だけど、この世界にも本ってあるんだ」
『はじめてのまほう』
言葉関連は後々、深く理解していくとして。
やってきました。魔法の本。やっと魔法が使えるようになる。
手に取ると他の本より少し暖かった。
『このせかいでは、『まほう』をつかえることがかならずひつようになります。せいかつするのにもかならずつかわなけれはなりません。まず、はじめにこれをいっかしょにあつめてみましょう』
そこには、人の体のイラストの上に砂利のようなものがあり、それをイラストの中心に集めるようにという指示がある。
「これをしてなんの意味があるんだろう・・・」
ボクはパパッと中心に集める。
『つぎは、いそいであつめてみましょう』
次は、さっきと同じようなイラストに長方形が増えている。
「また?なんだこれ?」
ボクはさっきのようにパパッと集める。
『はい、1びょうでできましたね。すご〜い、とても
はやいですよ』
長方形の枠に『1びょう』と書かれている。
「へえー、本が測るんだ。流石、魔法の世界」
『つぎは、すこしむずかしいよ。こんどはいちばんちいさいものだけをちゅうしんにあつめてね。いちばんちいさいもというのはさっきあつめたちいさなまほうせきのことだよ』
「あれ、魔法石だったんだ」
ボクは小さい魔法石だけをパパッと集めた。
『はい、おつかれさまでした。これで、まりょくのねりかたをおわります。さっき、いしをあつめたのをいしきして、からだのまんなかにちからをあつめるようにしてみて』
「石を集めるように体の中心に・・・」
すると何か風のようなものが体内で血のように流れて、心臓に集まったような感覚を覚えた。
「おおー・・・これが魔力・・・なんかこそばゆいな」
『どうですか?からだになにかがながれてるようなかんじはしますか?それがまりょくです。まりょくがながれてるのをかんじたらつぎのページへ。わからなかったらまたまほうせきあつめをしてください』
「やっぱりこれが魔力・・・この本ってこんなに分かりやすいんだ、子供できたら教えてやらないと・・・待ってボクって今女の子なんだよね。じゃあ、相手は男・・・子供は作れないですね、はい。さて、次のページへ行ってみよう」
『つぎはさわらないでいしをあつめてみよう。こんどはまりょくにはんのうするまほうせきをちゅうしんにあつめてみよう。さっきやったことをつぎはからだのちゅうしんではなく、てにしゅうちゅうさせてみよう』
「手に・・・集中・・・」
ボクは、魔力の流れが手に流れてくるのを確認した。
『できたかな?つぎは、てとまほうせきをいとでつなぐようにしながら、ひっぱってみて』
「糸でつなげるようにして中心に引っ張る・・・」
すると魔法石が光だし、ボクが思う方向に自由に動き出す。
「なにこれ、楽しい」
『はい、できましたか?これで、まほうのきそはおわりです。つぎはじっさいにまほうをつかいましょう。でも、こんかいはここまで、つかれたでしょう?はじめてまほうをつかうとからだがおいつかなくてつかれがでます。むりをするとたおれてしまうからちゅういしてね。それじゃ、またねー。つぎは、『はじめてのまほう2』であいましょう』
「ふぅ、確かにここまでくるのとは別の疲れが出てる。まだ、慣れてないのかな?」
周りを見るともうすっかり日が落ち辺りは、薄暗くなっていた。
「はっ!どうしよう。お腹減ったけど、食べるものがないそれに暗い!」
壁を見て回ると手をかざすと反応するスイッチのようなものを見つけた。
「この世界にそんな技術はない。もしかすると魔力で反応するのかな?ええっと・・・魔力を手に集中させて糸でつなげるように・・・」
パッと電気がつき、当たりが光で満ちた。
「おおー、できた。ご飯はどうしよう?なんかないかな?」
キッチンを探索してみると乾パンみたいなものがある。
「うーん、まぁ仕方ないか・・・とりあえず、お腹を満たさないと」
完全に日が落ち、味気のない食事を済ませた。
「ねむい・・・非っ常に眠い!」
仕事という束縛から解放されたからなのか、身体が小さいからなのか、はじめて魔力を行使したからなのか、すごい眠気に襲われている。
「まぁいいか、現状何も出来ないし、寝てしまおう」
普段は小さく感じていたベットも今は大きく感じちょっと贅沢な気持ちでボクは眠りについた。
ボクはカーテンの隙間から差す太陽の光によって目を覚ました。
「んぅ・・・もう朝か。んっん〜〜・・・はっ、何でボクこんな伸びを・・・」
普段は長座体前屈のように身体を伸ばしていたが、お尻を突き上げて伸ばす簡単に言うと猫がやる伸びを無意識にやっていた。
朝起きてすぐに襲ってくるもの、それは尿意だ。人間の身体って不思議だけと、水分をそこまで取ってなくてもおしっこがしたくなる。
「・・・おしっこしたいけど、今ボク、女の子なんだよなー・・・けど、これからはこの身体で過ごしていくしかないから・・・ええい、なるようになれ!」
意を決しトイレへ行った。
「・・・まだ身体が子供だからか非常にキレイでございました」
(実物をはじめて見たのが自分のって・・・)
自分で言っといて悲しくなり、心の中で泣いていた。いや、実際に泣いていたかもしれない。
昨日と同じパンで朝食を済ませ、『はじめてのまほう2』をやって行こう。
『こんにちは。きのうはゆっくりやすめたかな?さて、きょうは『はじめてのまほう2』をやっていくよ。このせかいでは、せいかつするうえで、『ぞくせいまほう』というものがかならずひつようとなってきます。そこで、まず『ぞくせいまほう』とはまりょくとじぶんのそうぞうをたしたもののことをいうよ。ぞくせいには、ひ、みず、かぜ、かみなり、こおり。このごこがだれでももっており、つかうことができます。そのほかに、このごこのぞくせいをもたない、『むぞくせいまほう』やひかりのぞくせいをもつ『ひかりまほう』やみのぞくせいをもつ『やみまほう』があります。『むぞくせいまほう』はすこしのへんかならだれでもつかえる、たとえば、まえにやったまほうせきをうごかすことがあげられます。しかし、ひかりとやみはふつうのひとはつかえません』
「ふーん、地球にいた頃に見たアニメだと、大抵は人それぞれに適応属性があってその属性しか使えないとか無属性魔法は特殊だとか、光魔法や闇魔法は希少って言うのが多かったけどこの世界は、みんな使えるんだ。まぁ、光と闇はこの世界でもあまりいないようだけど」
『さて、いよいよじっせんです。まわりのちかくにひとはいませんか?だいじなものはちかくにありませんか?さいど、まわりをみてね』
「・・・1番被害を受けそうな本に言われてもな・・・」
『はいそれではまずひのまほうから。まず、このイラストをおもいうかべてほんのうえにまりょくをためこむようにしてください』
「これは多分、ロウソクかな?」
『このようにまりょくをかたちどるのはたいていはむぞくせいまほうです。こんどは、まりょくをゆびにしゅうちゅうさせて、ひをそうぞうしてさっきのロウソクのあたまにひをともしてください』
「ほいっと、おーしっかりとついた」
『おみごとです。では、つぎはみずのまほうをつかってみましょう。はい、それではイラストのようなちいさいおさらをつくってみしょう』
「無属性魔法便利すぎでしょう」
『それでは、そのおさらにみずをいれてみましょう。やりかたはさっきといっしょでひをみずにかえるだけです』
「さっきの考えを火から水に・・・あれ?一滴しか出ない」
『せつめいぶそくでした。じぶんいがいのひとがみずをだしてるのをそうぞうしてください』
「他人が水を使っている?水道みたいな感じ?おおー、手が水道になった」
誤解はしないでほしいが水道になったというのは水道のように水が出てると言う意味で受け取ってね。
『いいですね。いまは、このようにだれかがつかっているのをそうぞうしてください。そうすれば、だいたいつかえます』
「適当!?まぁ、ホントにそうしかいえないんだろうなー」
『ではつぎはかぜまほうを、このイラストをそうぞうしてつくる。そして、てにまりょくをこめてかぜまほうのそうぞうする』
「これは風車かな?懐かしいなー、最近遊んでる子供見てなかったなー」
『イラストができましたか?それでは、いきをふきかけてみましょう』
ボクは、躊躇いもなく息を吹き掛けて風車がくるくる回して遊んでいた。
「回った。これ、久しぶりに遊んだな」
『たのしめましたか?それでは、かぜまほうをつかってみましょう。これくらいのかぜまほうならいきをふきかけたほうがいいけど、これはれんしゅうですからかぜをはっせいさせましょう。さっきみたいにいきをふきかけるそうぞうでもいいし、いままでのやりかたでもいいですよ』
息を吹き掛けるのを想像するとそっちのほうが早くない?って思ってしまうので今までのやり方にしよう。
(大草原の心地いい傘を想像すると強すぎるから扇風機の弱風を想像しよう)
イラストの風車がくるくる回っている。
『つぎは・・・』
風車がくるくると回っている。
『・・・おーい』
くるくると回っている。
『つぎのべーじに・・・』
回っている。
『・・・・・・』
(はっ!つい見入ってしまった)
慌ててページをめくると。
『かざぐるまはたんのうできましたか?ここでじかんがかかるこってけっこういるのでいちじていしきのうもついてます』
(うわぁ恥ずかしい・・・相手は本なのに。って言うかやっぱり体が子供だからなのかこういうのに気が向いてしまう)
『さて、つぎはこおりぞくせいです。こおりぞくせいのつかいかたはふたつあります。こおりをそのままだしてつかうか、みずをだしてからそれにまりょくをさらにつかってこおりにするほうほうがありますが、こんかいはこおりをそのままつかうほうにしましょう』
(氷っていうとジュースとか何か飲み物のなかに入ってる四角いやつでいいかな?)
コトンと四角い氷を本の上に出した。
『はい、いいですね。そしてわたしはいっこくもはやくこおりをよけてくれることをのぞみます』
そう言われるとやりたくなくなる。
『まだですか?ちょっと、ぬれてきてつめたいです』
何もしない。
『まだですか?そうですか?えいっ・・・』
本が勝手に次のページへ進んだ。凄い勢いでページが捲られたため溶けかけ氷がボクのおでこに飛んできた。
「痛っ!何するんだよこの本は!」
『じごうじとくですね。『じごうじとく』というのは、『じぶんがしたわるいことのむくいをじぶんのみにうけること』ですよ。これで、ひとつかしこくなりましたね』
本に煽られるというおかしな経験をしながら最後の属性魔法にとりかかる。
『さいごにかみなりまほうとなりますが。これは、おちてくるかみなりをそうぞうしてしまうとぼうだいなまりょくといりょくになってしまうのでふくをぬぐときにバチバチってなるのをそうぞうしてください』
(静電気のことなんだろうけど、この世界は電気という概念がないから分からないのか)
『これはかみなりぞくせいにはんのうするまほうせきです。それに、かみなりぞくせいをくわえるとバチバチっとなります。かみなりぞくせいはつかうことがむずかしいといわれています』
「こんな感じでいいかな」
ボクは静電気を想像しながら魔力を練ると指と魔法石が一瞬だけバチっとなった。
静電気特有の痛みはなかった。まぁ、肌は触れてないから当たり前だけど。
『はい。これでこのほんはすべてかんりょうしました。それでは、さようなら。ひかりまほうとやみまほうはおとなむけのまどうしょになるので、きょうみがあったらじぶんでさがしてみてください。やくめをおえたこのほんはきえますので、ごちゅういを』
その瞬間、本が消えた・・・
消えたと言うか、変身したって言った方がいいかもしれない。
「はい、任務完了。小さい子に合わせた喋り方って疲れるのよねー」
(まぁ何となく気づいてたけど、本を読むというよりテレワークみたいな感じだったし)
そこで、ボクはふと気づく・・・
作者により作られた本であればまぁ、ジョークとしてとらえられるけど相手が生物であれば話は別だ。
こいつは、何度もボクを煽ってきた。
煽り厨、死すべし。
ボクは、完全に油断している手のひらサイズの羽の生えた人型の何かを手で捕まえる。
「・・・ちょっと、お待ちなさい。話があります」
「・・・?」
いきなり拘束をされたことには驚いているものの人間の手に拘束されたことには気づかず、左をキョロキョロ、右をキョロキョロしている。
動くたびに哺乳類特有の柔らかい部分が手に伝わってきてちょっと恥ずかしい。
そして、そいつは自分の体を見下ろしてやっと人間の手によって拘束されてることに気がついた。
「人間!?なんで?なんで私のことが見えてるの!」
「こんにちは。妖精さん、今から貴女にお話があります」
「ちょっと、離せ・・・離しなさいよー!」
「ボクの話が終わったらちゃんと話しますよ」
「何?何なの私がなんかしたっていうの!」
「分からない?分からないかー。じゃあ、教えてあげよう」
ボクは、氷魔法を使ったときに濡れたであろう、服の部分に氷をプラス、ちょっとやそっとじゃ取れないようにした。
「冷たっ!冷たいんだけど、ええいこうなったらまた・・・あれ?服まで凍ってる・・・ちょ、待ってホントに冷たいからこれ取ってよ!」
「ふーん、こうなったらまたどうするんですか?」
妖精は何かを察したかのように顔面蒼白になり、慌てふためき始めた。
「あ、あれは、あなたが言うことを聞いてくれなかったからでしょ!」
「どう?冷たい感覚は堪能できましたか?まだ、氷は溶けてるのでまだまだ楽しめますよ」
「あれは、あなたが勝手にやったことでしょ!八つ当たりは良くないよ!ねぇ、ちょっと早く取って服に溶けた冷たい水が染み込んで来てるから!」
おふざけはこの辺にしてちゃんと忠告しておこう。
「家に帰るまでが任務だよ。こういう、イレギュラーだって存在するんだから最後まで油断せずにね」
「そう・・・だね。今度から・・・気を・・・つけ・・る」
妖精は力無くだらーっとしてしまった。
「えっ?ちょっと、妖精さんどうしたの!」
「・・・」
返事がないただの屍のようd・・・じゃない。
服は冷たい氷のせいで冷えてるはずなのに、妖精は自分の手の体温より熱くなっており、顔が赤く紅潮している。
(この症状もしかして!)
ボクは妖精の小さなおでこに触れると熱くなっていた。
体温低下による低体温症の症状。
ボクは慌てて、無属性魔法で手のひらサイズより一回り大きめの布を2枚作り出し、妖精の羽に傷をつけないように優しく包み込ませ、もう一枚の布を机に敷き、妖精を寝かせた。
妖精のおでこに乗せれるくらいの無属性は難しすぎて作れなかったため、自分の服の裾をおでこサイズに割いて、水魔法で濡らし、おでこに乗せる。
「ごめんね、もっと早く気づいてればよかったね」
風魔法で妖精に風をあてながらボクは呟く。
しばらく時間が経ったころボクは妖精から花のような甘い匂いをしていること気付いた。
妖精は、人間でいう汗を流していたため、巻いた布がびしょびょになっていた。
小さい妖精の体にしては見過ごすことのできない汗が流れている。
この汗が止まってしまうと脱水症状を起こしてしまう。
(あまりやりたくないけど、緊急事態だ!仕方ない)
無属性魔法の2枚の布を消す。
やっぱり、服までびしょ濡れだ。
蒸れた花のような匂いから察するにこれは全部汗だろう。
「・・・妖精さん、ごめんなさい」
ボクは、妖精の服を脱がして全身の汗を拭き取った。
そこで、ボクは緊急事態に気付く。
「やっば・・・妖精の替えの服、用意できない」
ボクはこの世界の服はどのように作られて、どのような材料が必要なのか何にもしらない。
この妖精の服も触った感じは何かの乾いた葉っぱを自身の身体の形に合わせて作られてるっぽい。
(と言うか今更だけど、妖精って哺乳類なのか?羽根生えてるから卵生だと思ったけど、身体は人間の女なんだよな。よくゲームで出るモンスター娘って卵から産まれてる描写多いけど)
妖精の口に入るように水魔法の水を一滴また一滴と飲ませてあげ、
新しく作った布をまた羽根を傷つけないように優しく妖精を包み込み、もう1枚敷いて寝かせた。
やがてピークが過ぎ妖精は落ち着いたように眠っていた。
「よし、これで大丈夫。でも、使い慣れてない・・・魔法を・・使ったせい・・・で・・・疲れた」
ボクはそのまま寝てしまった。
「イレギュラー・・・存在・・・」
(あれ?体が言うことを聞かない)
「そう・・・だね。今度から・・・気を・・・つけ・・る」
(体が言うことを効かない・・・暗い・・・寒い・・・)
(なるほど、これが言ってた不治の病ってやつ?これに、かかると大体死んでしまうっていう)
(私なんか悪い事したのかな?でも、お姉ちゃんが言っていたな、自分普通だと思ってやった事が相手からしたら不快だったりするって)
(体が熱い、全身が熱い、頭も痛い、体も動かない。怖い怖い怖い、誰か助けて!)
「ごめ・・・妖・・・さん」
瞬間、私の身体は火の中から出れたような感覚がした。
(ああ、これが死んでしまうと言う感覚なのかな?ツラいことから解放される感覚・・・)
私はその感覚と共に目を覚ました。
「あれ?私、生きてる?」
あの辛かった時間が嘘の様に過ぎていった。
覚醒したことにより自分の今の状況を理解する。
布1枚だけに包まれていると言う状況に。
「ひゃあ!何これ!なんで私裸なの!?」
あたふたしていると綺麗に乾かされ、整えられている自分の服を見つけた。
「ごめんね・・・妖精さん、絶対に助けるからね・・・」
服の裾が破れており、包まれてる布から同じ魔力を感じる私を素手で捕まえたイレギュラーな存在が机に頭を預けて寝ていた。
「この声は、この子の?へぇー」
私は、いいことを思いついてしまった。
(うーん、なんだ甘い花の香りがする・・・)
ボクはその香りに目を覚ました。
「おはよう。イレギュラーくん」
ボクの顔の上に目を合わせるために肘を立てうつ伏せになっている。
「どう?私の身体の匂い。いい匂いでしょ」
「うん、花のいい匂・・・って、うわぁぁぁぁ!!」
ボクは妖精の姿に驚いてしまった。
「なんで、貴女はタオル1枚なのよ!服着てよ!」
「ええーだって、まだ乾いてないんだもん」
「そんなはず、あれ体が動かない」
「妖精は弱いから、身を守るために状態異常を駆使して、難を免れてるの。ちなみに、貴女はいま私の鱗粉で麻痺状態になっているからね」
「ボクを麻痺させて何の意味があるの?」
「あなたの少しの悪戯でわたしは死にかけたのよ・・・そんなことされたら警戒するでしょう?」
「あ、はい。ごもっともです・・・」
「なんか私に言うことはないのかしら?」
「ごめんなさい・・・何でもしますから許してください・・・」
「よろしい。ところであなたの名前はなんて言うのかしら?」
「ああー、そういえば、君は本だったから自己紹介とかしてなかったね。ボクの名前はセイカっていうの、そう言うあなたは?」
「うーん・・・名前聞いてから言うのもなんだけど、私は本の妖精としか言えないの・・・妖精に個人名はないのよ。まぁ、召喚術士と契約した者は術士が名前をつけるけど」
「なるほど。じゃあ、妖精さんでいいのか?」
「いいよ別に、ところであなたは何なの?」
「うーん?何って?」
「ほら、剣士とか戦士とか魔法使いとかさっき言った召喚術士とか」
「村人Aとか一般人じゃないの?」
「・・・あのねー。村人Aとか一般人とかが妖精を見ることは出来ないの。普通は。あなたみたいなイレギュラーさんなら見えるかもだけど」
「ふーん、そういうものなの?じゃあ、治癒術士とか?」
「この世界に治癒術士はありません。治癒魔法を使う人はいるけど、それ専門は戦闘じゃ何の役にも立たないからね」
「じゃあ、わかりませんなー」
「いやあのね、自分のステータスくらい見なさいよ。ほら、手に魔力を貯めて自分に魔力を送って『ステータス』って言えば見れるわよ」
「え?そうなの?知らなかった。『ステータス』」
唱えるとゲームでよくある四角いウィンドウみたいなものか浮かび上がり、自分の名前、HP、MP、スキルが現れた。
「普通は、他の人から見る暗号化されて見れないようになってるけど、私は本の妖精だから解読できちゃうから見られたくないなら、見ないようにするけど?」
「あなたに見られても何にもしないでしょ?強いて言うなら状態異常かかってるから見るくらいでしょ?」
「まぁ、確かに貴女を倒したところで何の意味もないからね」
「でしょ。だからいいよ見られても」
「・・・貴女、気づいてないの?今、わたしものすごく失礼な事言ったこと」
「?何のこと?」
「はぁ・・・まあいいわ。どれどれ・・・あら、貴女って召喚術士なのね?スキルは今のところ探知だけね。それと、シークレットスキル持ちなのね」
「シークレットスキル?」
「うん。スキルには2種類あって誰もが使うことのできるスキル『一般スキル』とその人個人もしくは親から引き継ぐ『シークレットスキル』が存在するの。『シークレットスキル』は持っているものにしか使えないと言う特徴があるんだけど、個人的に持ってるのは珍しいのよ?貴族たちは代々引き継いでいるからその家系に生まれたら持ってるけどね」
「え?じゃあ、誰かに狙われたりするの?」
「さっきも言ったけど、自分にしか使えないスキルだから命を狙ったりはしないと思う、まぁ、仲間に引き入れようとする人はいるかもだけど。でも、何のスキルか分からないしその確率だってものすごく低いよ」
「まぁ、確かにそんな事したら貴族は存在意義失うか」
「そうそう、だから心配しなくてもいいと思うよ」
「そういえば、召喚術士ってやっぱりあれなの?契約をしてその契約者をメインに戦うの?」
「そうね。大体はそういう戦闘スタイルかな?戦闘スキルがあれば、契約者と共に戦うっていう人もいるけど、召喚術士は支援スキル持ちの魔法使いと同じようになるから」
「あー、やっぱり、そうなんだ。そりゃ、戦闘に向かないわな」
「基礎ステータスは職業によって変わるけど、『ステータス』から自分が欲しいスキルが経験値と共に入るスキルポイントで覚えれるし、自分の行動によって新しいスキルを覚えたりはたまた、クエストによって確率で覚えたりするから、同じ職業でもみんな違うステータスになったりするよ」
「なるほど。逆にいえば、違う職業なのに似たようなステータスにもなったりするんだ」
「あと、召喚術士は契約者のスキルを覚えたり、対になるスキルを覚えたりね。因みに、契約条件は自分より弱い者かお互いが望むときかな?そうだ、私と契約してみる?」
「へぇー、あなたから言ってくるとは思わなかった。でも、いいの?」
「私は本を通じての教育者だから身体を張ってまで教える事が使命なの!それに、貴女といる方が楽しそうだしね」
「確かに、教え方上手かったよね。でも、いいの?あなたにも帰る場所とかあるんでしょう?」
「・・・帰ったところでまた、あの疲れる喋り方で教える本になるから・・・」
「ああうん・・・お疲れ様です。分かった。ボクはあなたと契約しようと思うけど、どうすればいいの?」
「無属性魔法で契約魔法陣を作り出して、術者と契約者が一定時間触れてればいいのよ。お互いに拒まなければそれで契約完了。簡単でしょ?」
「魔法陣を作るって六芒星でも作ればいいの逆にして」
「うん、それは、契約じゃなく悪魔を呼ぶ儀式ね。やめときなさい。寿命が奪われるわよ・・・。何も考えずに魔力を注ぎ込んでおけば勝手に自分の契約魔法陣が作られるわよ」
「悪魔、存在するんだ・・・冗談で言ったけど、危険そうだね・・・」
「まぁ、悪魔っていうよりアークデビルって言った方がいいわね。この世界には悪魔族っているけど、それは普通の種族。アークってつくやつがいて何かしらの問題となるの。まぁ、簡単に言うと負のエネルギーによって生まれた悪の生物。この世界での倒さなければならない存在よ」
「戦いは避けられないのですね。はぁ、のんびり過ごしたいのに」
「それ以外にも、共存者同士の戦争だって頻繁に起こるから・・・人族と魔族が全面戦争してた時代は過ぎたって言っても平和にはまだと遠いかな」
「触らぬ神に祟りなし・・・か、まぁどこの世界でもそれが一番なんだよな」
「?言ってる意味が分からないけど、ほら、さっさと契約しちゃいましょ。魔力を込めながら『契約魔法陣生成』って言えば勝手にできるわよ」
「そうだね。『契約魔法陣生成』」
すると地面に幾何学的な模様が浮かび上がり、光を帯びている。
「これが、契約に必要な魔法陣よ。少し時間が経つと消えちゃうからさっさと済ませましょう。魔法陣の中に入って一定時間触れてるだけよ」
「どういう風に触れるべき?」
「好きなようにと言うか普通に話してたから忘れたけど、貴女動けないんだもんね」
「これ、回復してくれませんか?」
「残念、使えるけど直せないのが妖精なの」
「うん、だろうね。大体予想してた」
「魔法陣、動かせるから頭の下に移動させて頭の中で言えば自由に動くから」
「はいはい、分かりました。・・・これでいい?」
「よろしい。じゃあ、契約開始」
妖精は、ボクの大きいおでこに小さいおでこを当ててじっとしている。
身体の大きさ的にボクの目の前には小さい身体の割にしっかりとした2つの膨らみが・・・
第三者目線から見たらすごく大変な恰好になってる気がする。
ボクは恥ずかしさから目を閉じることにした。
「・・・すごく言いづらいのだけど、今私達すごい格好してたよね」
「・・・うん、ボクもそれは思った」
「さ、さぁ!気を取り直して!これは、決まりではないんだけれど、召喚術士のマナーみたいなもので、契約者には名前をつけてあげるのがマナーなの、だから私にも名前を付けてくれたら嬉しいな」
「名前・・・名前かーボク、苦手なんだよね」
「何でもいいよ、一番分かりやすい術者と契約者のつながりだから貴女が命名するって言うのが重要なポイントだからね」
「うーん、『クーフェ』とか?」
「森の妖精=ブックフェアリーだから?」
「そうだよ、安直な名前で悪かったね」
「もっと簡単でもいいと思うよ」
「じゃあ、名前は『クーフェ』だけど、呼ぶ時とかは『クー』って呼ぶことにしよう」
「『クー』の方が可愛いから名前自体を『クー』にしない?」
「あなたは、名付け親の名前が気に入らないからって、全否定するの?せっかく、考えてくれたのに?」
「ゔっ・・・それはズルいよ。何も言い返せなくなるじゃん・・・」
「ボクは、この名前がなんか気に入ったから譲れないの。それに、本当の名前を呼び合ってたら何かあった時、抗えないでしょ」
「現在でもそう言う問題はたまに聞くけど、よく分かったね。この世界のこと、何も知らなさそうなのに」
「召喚術士の契約条件が『自分より弱い者』って言うから、そう言うこともあるんじゃないかと思っただけ」
「貴女は勘が鋭いのね。確かに、その問題もある。召喚術士は、どんな者とも契約出来るからそれを悪用する輩も少なからずいるからお互いに気をつけないとね」
「そう言う事が出来るのが召喚術士だから利用される可能性もあるわけか・・・なるほど」
「まぁ、そんな悪い話は置いといて、召喚術士はたまに契約した相手のスキルを獲得する事もあるの、ステータス見てみて」
ボクは、ステータスを確認するとスキルが1つ増えていた。
「・・・状態異常耐性って、私たち妖精が1番敵に回したくないスキルじゃない・・・敵にならなくてよかったよホント。あっ、そうだ。これ私のステータス確認してみて」
「どれどれ、まぁ本の妖精だし戦闘向きではないよね」
「わたしは戦闘にはまるで役に立たないの。唯一の戦闘スキルは全部の状態異常付与が出来るくらい」
「使い方次第ではヤバいやつ」
「そうね。生かすも殺すも貴女次第ってやつね」
「ハイ。精進します」
「それじゃ、これからよろしくね。イレギュラーくん」
「まだ言うか?まぁいいや、好きに呼んで。これからよろしくね、クー」
「うん、よろしくね。セイカ」
お互いに仲間として面白おかしいセカンドライフの予感を感じながら、互いに笑い合った。
どうも、セユです。
異世界ジャンルなのにプロローグで異世界に触れたのが最後だけではあれなので、なるべく早めに続きを書きました。
魔王側と人間側がドンパチやらないのが好きなので、この小説はそんなストーリーです。
まぁでも、戦いの無い本当の平和な世界なんてないので、そういうのは入ってしまいますね。
投稿は不定期なので、続きは首を長くしてお待ちくださいね。