葵の印象。
入学早々、葵は有名人だった。
その容姿に成績優秀な上、運動神経も抜群だ。
口数少なく、くだらない話は一刀両断。冷たい眼差しに、無表情。
幼馴染みである阿佐美以外は、葵に気がある男子しか近付かなかった。
葉月も、はじめは葵を敬遠していた1人。
確かに、入学したばかりの葵には頷けるものがあったのだ。
しかしある日、阿佐美と話す彼女を見た時、葉月には、葵がまるで普通の女子高生に見えた。
現に普通の女子高生なのだが…。
それまでの葵には、そのような印象は1欠片も感じられなかったのだから仕方がない。
それからというもの、ムードメーカーの阿佐美がいつも一緒にいることも相まって、少しずつクラスの子たちとも仲良くなった。
はじめはみんな葵の意外な1面に驚き、戸惑っていたが、最後には多少緊張するも、葵を避けるような子はいなくなった。
「葵ちゃん…。」
早くみんなの誤解を解かないと。
だって、葵ちゃんは…
さっきも、困っている私に声をかけてくれた。
ちょっと天然な発言が多くて…
鋭く見える眼差しは、緊張を隠すため…
無表情なことは…確かに多いかもしれないけど、それ以上に…
「すぐにみんな、分かってくれるよ。」
葵に微笑みながら、葉月は葵が手に持っているビブスをソッと受け取る。
寂しそうに影を落とす笑顔から…
「そうだね。」
明るいお日様みたいな笑顔になれる、人なんだから。