真琴と龍青。
「おーい。琴、龍、帰るぞー。」
宗次郎の病室に戻り、そろそろ帰ろうかという話になると、陸が2人の赤ちゃんに呼び掛ける。
それをみんなが笑いながら見る。
これは、赤ちゃんに呼びかけている陸を笑っているわけではなく、呼びかけている名前に笑っているのだ。
赤ちゃんの名前は、真琴と龍青。龍青を龍と呼ぶのは分かる気がするが、真琴を琴と呼ぶのは…どうなんだろう。
陸に聞くと、「呼びやすいから。」だそうだ。
「葵ちゃんも陸さんも、いつもありがとう。」
葵は宗次郎を見る。
どんどん痩せてるな…。
顔色も悪いし…。
「いえいえ。お安いご用ですよ。」
一瞬言葉に詰まる葵を背中に隠し、陸が答える。
「それじゃ楓花ちゃん、また来週。」
「ええ。今日もありがとう。」
運転席の陸も笑顔で手を振る。
楓花が家に入るのを見送り、陸の家へと車を発進させる。
「はあ…。」
我慢していたのだろう。
葵はタメ息を吐いた。
「…私、大丈夫でしたよね?…変じゃなかったですよね?」
葵が顔を上げて、泣きそうな顔で聞く。
「…最後はちょっと、危なかったね。」
陸が答えると、葵は唇を噛み締めた。
「葵。前も言ったね?
2人の傍にいたいと思うなら、覚悟がいるって。」
陸の言葉に、葵はグッと手を握って言う。
「分かってます。…大丈夫。」
陸は小さく息を吐き、顔を見られないように前を向く。
しかし、右耳を触る陸の顔を、葵が見逃すはずが、無いのであった。