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ある侍女の観察記録 1

もうちょっと甘い感じを出したかったのですが、そもそも侍女視点の時点でそんなに甘くならないですよね、、

ルイスもだいぶ本編とイメージが異なり、少し残念な感じになっています。

私の名前はアンナ。

王太子妃であるセレスティーヌ様付きの侍女をしている。


王太子様は常に無表情のため氷の貴公子と呼ばれており、対するセレスティーヌ様は常に笑顔のため花の妖精と呼ばれている。

私も貴族の端くれなので、セレスティーヌ様の侍女になる以前から、何度かお二人を見る機会があったのだが、私が見た限りでは王太子様は常に無表情だったし、セレスティーヌ様は常に笑顔だった。

お二人のそれ以外の表情は見たことがなかった。

友人に聞いてみても皆同じだった。

お二人は国民から絶大な人気を誇っており、若い貴族の憧れの存在でもあったが、私は人間らしい感情を窺い知れないお二人を、ほんの少しきみ悪く感じていた。


現在お二人の間には、2歳になるリアム王子とつい先日生まれたばかりのマーガレット王女の2人のお子がいる。

私は、リアム王子が生まれたタイミングでセレスティーヌ様付きの侍女を増やすことになったようで、そのときからセレスティーヌ様の侍女をしている。

当時からお二人はとても仲の良い夫婦だと噂されていたが、私はこれに懐疑的だった。

しかしそれは侍女になってすぐに覆された。

王太子様が笑っていらっしゃる!

王太子妃様が可愛らしく怒っていらっしゃる!

そう、お二人はプライベートではとても表情豊かだったのだ。

この様を初めて目の当たりにした日の衝撃は、数年経った今でも、昨日のことのように鮮明に思い出すことができるほどだ。

とは言え王太子様が無表情を崩されるのはセレスティーヌ様と2人のお子に対してだけであり、セレスティーヌ様もそれは同じだった。


セレスティーヌ様は産後の肥立ちがあまりよろしくない。

リアム王子を生まれた際もそうだったが、今回も体調を崩されていた。

しかしそれは命に別状があるほどではなく、気分が優れなかったり体がだるかったりする程度。

ただ産後の肥立ちが悪くて儚くなるというのは、市井では決して珍しいことではない。

それもあり王太子様はとても心配されている。

もちろん心配をするのは当然のことだとは思うのだが、王太子様の場合はいささか過剰な気がしなくもない。

なんというかあまりにもセレスティーヌ様に対して過保護なのだ。


産後セレスティーヌ様は、夫婦の寝室の続き部屋である王太子妃の部屋ではなく、別室で過ごされている。

王族ともなると子育ては乳母に丸投げというのも珍しい話ではないが、セレスティーヌ様は子育てに積極的だった。

乳母の仕事を完全に奪ってしまわぬように気をつけながらも、出来るだけ自分でしたいと考えられていた。

今も体調が優れないために、王女様を乳母に預けているが、可能な限り一緒の時間を過ごされている。


「セレス!無事か⁉︎」

「ルイス様、おはようございます」

セレスティーヌ様は少し困り顔だ。

「毎日言っておりますが少し体調が思わしくないだけなのです。そんなに慌てていらっしゃらなくても大丈夫でしてよ?」

「そんなことはない。セレス、きみに万が一のことがあったらどうしたらいいのだ。産後の体調不良を甘く見てはいけない」

毎朝のお決まりのやりとりである。

王太子様は普段は完璧な方なのだが、セレスティーヌ様のことになるとどうも他が見えなくなるらしい。

本来であればいくら夫婦といえども先触れをだして面会を求めるのが常識であるし、入室の際もノックを忘れるようなことはあってはならないのだが、王太子様は毎度全てをすっ飛ばされる。

セレスティーヌ様が何も言わないので先触れはまあいいとしても、ノックくらいはしていただきたいものである。

そうこうしている間に王女様が目を覚まされたらしく、乳母が王女様を連れてきた。

王女様はセレスティーヌ様とは別室でお休みになられているのだが、セレスティーヌ様のご要望で目を覚まされるとこうして連れてこられることになっている。

ちなみにリアム王子はこの時間帯はセレスティーヌ様の元への訪問を王太子様によって禁じられている。

執務前のこの時間、王太子様にはあまり時間がない。

王太子様はいかに自分の息子であれど、貴重なセレスティーヌ様との時間を奪われるのは承服しかねるらしい。

なんとも狭量と言わざるを得ない。

「おはよう、マーガレット」

セレスティーヌ様が笑顔で王女様に挨拶をされる。

「おはよう。今日も元気そうで何よりだ」

王太子様も乳母から王女様を受け取りながら挨拶をし、頬にキスをされる。

王太子様はそれが済むとすぐに乳母に王女様を返される。

なんというか相変わらずブレないお方だなと思った。

お二人目が生まれた今でも王太子様にとっての最愛はセレスティーヌ様なのだ。

この間、セレスティーヌ様は何もおっしゃらない。

ここで余計な口を挟むと間違いなく王太子様がこの部屋に居座り続け政務に遅れるからだ。

「セレス、愛している。今日もゆっくりしているのだぞ」

「私も。愛しておりますわ、ルイス」

これもお決まりのやりとりである。

セレスティーヌ様は王太子様のことを基本的にルイス様と呼ばれる。

ただ、以前のこのやりとりで王太子様がそう呼ばれた際に、どうしてルイスと呼んでくれないのかと言い募られ、危うく政務に遅れそうになって以来、セレスティーヌ様はこのやり取りの時は絶対に敬称を付けずに呼ぶようにされているのだ。


別れの挨拶を済ませてもまだ離れ難いのか、王太子様は一向にその場を動かれない。

「殿下。もう間も無く政務の時間ですわ」

セレスティーヌ様がきっぱりと言い放つ。

「セレス、殿下などと呼んでくれるな」

すがるような王太子様に、けれどセレスティーヌ様はお答えになられない。

セレスティーヌ様は基本的に王太子様のされることを受け入れられ好きにさせていらっしゃるが、こういったことは頑としてお譲りになられない。

しばらくすると渋々折れた王太子様が「行ってくる」と言いようやく動きだされる。

「くれぐれも無理はしないでくれ。また来る」

「はい、行ってらっしゃいませ」

そうしてセレスティーヌ様は王太子様を見送られた。


セレスティーヌ様はこの後、リアム王子と一緒に朝食を取られる。

ちなみに王太子様は朝食をとられない。

朝食の時間を削ってセレスティーヌ様との時間を捻出されているからだ。

もちろんセレスティーヌ様はこれに反対され、「そのようなことをなされるのであれば面会は拒絶いたします」と言い放ったのだが、王太子様もお譲りになられず、結局執務室で軽食をとることで折り合いがついていた。

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