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視察へと出発する日の朝。


「謹んで辞退申し上げます」

私の馬に一緒に乗ろうと言うルイス様の提案をにべも無く一蹴する。

「なぜだ?」

「1番の理由は護衛的観点からです」


隊の中でひとつだけ2人乗りだと狙われるリスクが上がる。

1人で乗るよりどうしてもスピードが落ち、動きも鈍くなってしまうため、敵に遅れを取る原因になりかねないのだ。

ルイス様は剣術も相当なものだと聞く。

私という足手まといがいなければ、大抵の場合においては自分の身は守れることだろう。

なので私が相乗りするのは、王太子であるルイス様ではなく、隊の指揮をとる騎士団長でもなく、囮役でもない残りの3人の誰かが望ましい。

私がひとりで乗れたらそれが1番よかったのだが、生憎騎士団の精鋭についていけるだけの腕は持ち合わせていない。

それならば相乗りをさせてもらった方が、まだ足を引っ張らないと言うものだ。

しかし誰を選んだらいいのかは少し困るところだ。

「よろしければ私の馬にお乗り下さい」

私が考えあぐねていると、私の意をくんで残りの3人のうちの1人が声をかけてくれた。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

「はい、かしこまりました」

「では、行きましょうか」

こうして私たちは団長に促され出発した。


今日から約3週間、私は王宮を離れる。

実はこの期間を狙ってちょっとした悪戯を仕掛けてきたのだ。

公爵領で父の仕事の手伝いをしているときや陛下の側近を務めているとき、もっとこうであったらいいのにと言うことが多々あった。

我が国には私と同じ思いを抱いている人が少なからずいる。

今回各方面に働きかけ、陛下に奏上してもらうように話をつけていたのだ。

陛下はもとより、私の後任である側近をはじめ、陛下の周りはみんなとても優秀である。

しかしルイス様と私が抜けたところに数多くの奏上が上がってくれば、流石に殺伐とした日々を送る羽目になることは想像に容易い。

まあ帰ってきたときにどんな目にあわされるのかは考えたくもないが。

どうせこれからも使いっぱしられるのなら一矢報いてみたかったのだ。


3日後、何事もなくかの辺境の地に到着した。

事前に知らせていた通り、私たちが砦に入った次の日には配置されていた騎士団員が入れ替わりで一旦砦を後にした。

ただ私たちはここにいる間、本来の騎士団員の役割は果たせないので、一旦退場した団員は運び込まれる荷に紛れて帰還してもらうことになっている。

帰還後は監視に気づかれないように砦内でのみの活動にはなってしまうが仕方が無い。


それにしても、、

私はこの砦に入ってから違和感を感じていた。

嫌な予感がする。当たっては欲しくないが現状を考えれば不自然なことではない。

「あの、ルイス様」

「なんだ」

「もしかして隠密が?」

殊更に声を落として問う。

「ああ。よくわかったな」

やっぱり!

砦入りしてからというものねっとりと絡みつく視線を感じていた。

というか存在を悟らせるのはどうなのだろうか。

それにしても、こんなところに来てまであの視線に悩まされることになるとは。勘弁してほしいものだ。

「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません」

しかしそんな憂鬱は長くは続かなかった。

今回の件では砦の内部に裏切り者がいる可能性があったため、隠密は私たちが来ることが知らされる前からこちらに潜入しており、内部に裏切り者がいないかを調べていた。

その結果、知らせを受けたあとも特に怪しい動きはなかったということで、当初の予定通り私たちは砦入りを果たした。

そのため隠密はルイス様に報告を済ませると隣国の手の者を調べるために砦を後にしたのだ。


砦の指揮官と騎士団長は、日々顔を突き合わせて守備の見直しについて議論を繰り広げている。

こちらは滞りなく完了するだろう。

現在難航しているのが隣国の手の者の目的を明らかにすることだ。

これが掴めなければ対処の仕様が無い。

私たちが砦入りしてからすでに1週間経ったが、その間にわかったことといえば、改めて隣国の手の者と思われる人物たちは、身のこなしからして一般人ではないということ。

彼らがしていることといえば、普通に働いていたり観光をしているようだったりと基本的に特に不審な点はないようなのだが、何かを探している様子であるということ。

しかし砦に監視が置かれている以上、何かしらの目的があるのは間違い無いのだ。

現場はにわかに焦りの色を滲ませていた。

「一体、隣国の目的はなんなんだ」

ルイス様が呟いた。


滞在期間が2週目に入ると、騎士団長は概ね守備の見直しを終えたようで、砦の者たちに稽古をつけたり、通常の砦での業務を遂行するようになった。

隠密は今は隣国に行っている。

危ない橋を渡ることになるが、そうも言ってはいられなくなっていた。

それにしても今回の任務での私の役割は一体なんなのだろうか。

こうしている今も陛下の意図がさっぱり掴めないままだった。


当初予定していた滞在期間が過ぎた。

ようやく帰還した隠密の報告によると隣国に特に怪しい動きはないと言う。

結局隣国の目的を明らかにすることは出来なかった。

目的が明らかになった場合はそれに応じて対処する手筈だったが、明らかにならなかった場合は隣国の手の者を全員抹殺することになっている。

そのため隣国にこちらに攻め入る口実を与え、こちら側の不利になることがないように、隠密が隣国に潜入している間に、我が国にいる隣国の手の者が彼の国の要人ではないということは確認済みだ。


彼らの抹殺は、ルイス様と私以外の任務に当たっている5人と隠密で遂行された。

これは我が国で起こったことであり目撃者もいない。

おそらく隣国は何も言ってはこない、むしろ藪蛇になってしまう恐れもあるため何も言ってはこれないだろうが、もし言ってきたとしても我が国としては知らぬ存ぜぬで押し通すことになる。

その後軽い事後処理を終えたのち、私たちは帰路についた。

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