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私とルイス様は完全なる政略結婚ではあるが、私としては結婚した以上はそれなりな関係を築きたいとは思っていた。



ルイス様は最近とてもお忙しいらしい。

朝から晩まで執務室で仕事をされているのだが、最近はようやく部屋に帰ってきたと思ってもまだ仕事をしているようなのだ。

これはあれだ。ワーカホリックというやつではないだろうか。

こんな状態が続けばいくら完全無血なルイス様といえども倒れてしまわれるのではとさすがの私も少し心配になった。

だが実際にルイス様をお見かけするといつもと変わらない麗しい姿なのだからいつも驚かされていた。

美形というのは本当にすごいのね。

しかしよくよく見てみると少しやつれたような気もする。

私に何かできたらいいのだけれど、、


その日の夜、相変わらずルイス様は部屋に帰ってきてもまだ仕事するようなので思い切って突撃してみることにした。


コンコンコン。

「ルイス様、少しよろしいでしょうか?」

「…ああ」

「失礼します」

返事があったのでルイス様のお部屋へと足を進める。

何気にこちらの部屋を訪れるのは初めてのことだ。

ルイス様は部屋に置かれた机に向かっていた。

あれ、ここ執務室だったかしらと錯覚しそうになるほど机は書類で溢れかえっていた。

「こんな時間にどうかしたのか?」

嫌味かしら?

「遅くにお邪魔してしまってすみません」

「いや、それは構わない。何か急ぎの用なのか?」

あ、違ったわ。

まだまだルイス様のお心を正確に察することはできないが、ここに来てルイス様との会話は意外とお言葉通りに受け取っていい気がした。

「ここのところお忙しくされているようなので、少し心配になってしまって。宜しければお茶をお入れしても?」

「…」

「ルイス様?」

「ああ、すまない。ではいただこう」

やっぱりお疲れなのね。


許可が得られたのでルイス様の部屋にある茶器を使ってお茶を入れる。

ルイス様は私がお茶をいれる間も仕事をしている。

「どうぞ」

少し迷ったが、机は書類でいっぱいだったし休憩も取って欲しかったので、ソファーの前に備え付けてあるローテーブルにサーブした。

ルイス様はそれをチラリと見やると直ぐに切り上げて来てくれた。

「ありがとう」

そう言って優雅な仕草でカップを口に運ぶ。

それはまるで絵画のような光景だった。

「…これは?」

「お口に合いませんでしたか?」

「いや、美味しいが、これはこの部屋にあったのか?」

「いえ、私の部屋からお持ちしました。私が寝れない時やリラックスしたい時に飲んでいるものなのですが…」

なにかまずかっただろうか?

そう考え、さっと血の気が失せる。

「あ、毒見……。私が先に飲むべきでしたわ。失念しておりました。申し訳ございません」

やばい。これは申し開きの仕様がない事態になってしまった。

「そうではない。それに毒見は王太子妃のすることではないはずだが」

「そんなことはございませんわ。私の代わりはいくらでもおりますがルイス様はそうではないのですから。この場合は私が毒見をすべきだったのです。以後気をつけます」

「…」

「ところでルイス様」

「ああ」

「最近とてもお忙しいようですので、私に手伝えることがあればなんなりとお申し付け下さい」

「きみは私の側近ではない」

「もちろんでございます。力不足とは思いますが、少しであればお力になれることもあるかと思うのです。これでも陛下の側近をしていたこともありますし、今も陛下のお手伝いをしております故」


そう、そうなのである。

王太子妃になるにあたり私は陛下の側近を辞すことになった。

しかし、引継ぎもちゃんと済ませたはずなのに、何故か今でも時々使いっぱしられているのだ。

私とてそんなに暇ではない。

王太子妃は王太子妃でそれなりに忙しいのだ。

王宮を切り盛りされているミレーユ様のお手伝いだったり、王太子妃としての人脈を築くためにお茶会を催したりしているというのに。

だからその忙しさを言い訳に王太子妃になってから初めて陛下に仕事を振られた時はつい報告を人に頼んでしまったのだが、それによってすぐさま呼び出される羽目になってしまった。

「教えたことをもう忘れたのか?」

陛下には仕事をやった者が報告をするようにと教えられていた。

その方が人を介することによるズレが生じる心配もなく、またその場で質問や指示ができスムーズに進行できるからだ。

「申し訳ございません」

「ところでおかしな顔をしているな」

恐らく貼り付けた笑顔のことだろう。

「生まれつきこの顔でございます」

「まあよい。遊びに来たわけではあるまい」

カッチーン。

自分が話を逸らしたくせに早く報告しろとはどういう了見なんだ、全く。


「きみの能力を疑っているわけではない。今も陛下の手伝いをしているのならきみもさぞ忙しいだろう。私への気遣いは不要だ」

ルイス様の声に現実へと引き戻される。

うっかり回想にふけってしまっていたようだ。

「わかりましたわ。出過ぎたことを申しました」

結局私の申し出はすげなく断られてしまったが、翌日からも私は毎夜ルイス様にお茶を振る舞いに行くことにした。



「あれは見かけによらずなかなか頑固だろう」

相変わらず陛下の話題は突飛だ。

今は陛下の執務室で振られた仕事の報告を終わらせて陛下が確認するのを待っているところだ。

まぁ多分ルイス様のことなのだろう。

是とも否とも言いにくいので、とりあえず笑みを深めておく。

「まあせいぜい頑張ることだ」

言われなくてもそうしている。

それよりあんたは飼い犬の躾をちゃんとしろと言ってやりたい。

相変わらず陛下の側は視線が煩くてかなわないのだ。

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