4
今日はお忍びで孤児院の慰問に行く。
王太子妃になったらもっとこう行動が制限されるかと思ったが杞憂だった。
まぁなにせ私が王太子妃になってまだほんの数日。
まだ私の姿絵は出回っていないし、国民に姿を見せたとは言え、いくらバルコニー下の広場が人でひしめき合っていたとしても、国民の総数を考えれば僅か一握りに過ぎない。
そして何よりバルコニーから広場まではそれなりの距離があるので私の顔はそこまではっきりとは認識されていないと思われた。
それに陛下やルイス様のように一目で王族であるとわかるような色彩はもちえていない。
この国ではプラチナブロンドに碧眼というのは直系の王族のみが持ち得るものなのだ。
かく言う私はというとこの国にごくありふれたダークブラウンの髪に榛色の目。
うん、目立つ要素が皆無なのである。
まぁだからといって許可も得ずに出てきたわけではない。
さすがにそこまで無鉄砲ではない。
むしろ自分では慎重な方だと思っている。
なのでもちろんちゃんと侍女と護衛にお供をしてもらっている。
馬車の小窓から外を見ていると街は未だにお祝いムードで興奮冷めやらぬ感じだ。
お忍びなので外装は地味なものだが流石王家所有の馬車というべきか、乗り心地はとても良く音もさほどしない。
だからなのか、大声で話す街の人の会話が意外とよく聞こえた。
「なあ。おまえ、この間王太子様と王太子妃様を見たか?」
「ああ、いや。行ったんだが、人が多くて広場には入れなかったんだ」
「それは惜しいことをしたな。俺は早くに行ったから最前列で見れたんだ!」
「へぇ、そりゃ羨ましい。で、どうだったんだ?」
「おお。それが、お二人ともそれはもう同じ人間かと疑うくらい綺麗でよ。仲良さげで、この国はこれからも安泰だと安心したね」
「そうか、それはよかった」
ん?誰の話だ?2人とも綺麗で仲良さげ?
失礼ながらあなたの目は節穴か!とツッコミを入れたくなった。
まあ王太子が綺麗なのは間違いない。問題は私だ。
あんなきらきらしい生き物の横に並ぶとせいぜい引き立て役くらいにしかならないかと思ったが、ルイス様レベルだと周りまで美しく見せてしまえるのだろうか?
というか最前列でもそこまではっきりとは見えなかったよね?
まぁしかしすでに王族の一員となった以上、私を乏しめるということはまかり間違えば不敬罪でしょっ引かれかねない。
日常の会話でさえお世辞を言わなければならないということにほんの少し申し訳なさを覚えた。
まあそれはさて置き仲良く見えたというのも解せぬ話だ。とは言え不仲に見えるのは困るのだが。
それにしても仲良く見える要素などあっただろうか?
2人揃ってぺらっぺらの笑顔を貼り付け、ひたすら前を向き手を振っていただけで、会話や見つめあうことはおろか視線さえ交わしていないのだ。
これでどうして仲良く見えたのか本当に不可解だった。
まぁあれかな。これもルイス様の美貌の効果なのかな。
美しい人がちょっと微笑むとそれだけで全てが美化されるのかもしれない。
そんなことを考えていると気づけば馬車は郊外の孤児院に到着していた。