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リゴーン、リゴーン、リゴーン。
どこか遠くで鐘の音を聞く。
やっぱり不可避だったな。
あれから自分なりに手を尽くしたつもりだが、その甲斐もなく成人を迎えた私はあっけなく今日という日を迎えた。
今は大聖堂での誓いを済ませ、王宮のバルコニーで国民に手を振っているところだ。
そもそも王太子とはなんの面識もないのに、、
というのは語弊があるか。
公爵令嬢ということもあり幼い頃からそれなりに接する機会はあったが、それだって所詮多くの高位貴族の令嬢の1人に過ぎず、特に親しかったわけではない。
そもそも行儀見習いに来た令嬢を陛下の側近にすることなどあるはずがない。
王妃や王太子妃は基本的に政には口出しをしないが、だからといって無知でいいわけではない。
そう思うと王妃様付きの侍女を経て陛下の側近を務めるというのは短期間での王太子妃育成という観点で見ればとても合理的な采配に思えた。
一体いつから目をつけられていたのだろうか。
思わず今の状況を忘れ溜息が出そうになった。
移動の合間に改めて王太子を観察してみると本当に陛下によく似ていると思った。
微妙に色合いは異なるもののプラチナブロンドに碧眼、そして無表情。
ただ陛下が冷酷無慈悲なのに対し、王太子は事務的な感じがした。
初夜を終えてみて抱いた感想といえば「こんなものか、、」だった。
もちろん王太子がどうこうということではない。
初めての経験、それもあんなイケメンに抱かれるというのは正直とても緊張したが裏を返せばそれだけだった。
もちろん貴族として生まれた以上、政略結婚は覚悟していたし、自分が王太子妃になることも考えなかったわけではないが、通常王族に嫁ぐ場合は幼い頃より婚約を交わし妃教育を受けるのが一般的なのだ。
そのためここ数年は完全にその可能性を忘れ、家格の釣り合う家に嫁ぐとばかり思っていた。
今回は少々特殊と言わざるを得ない。
やはりギリギリまで他国の王女の輿入れを想定していたのだろう。
「殿下」
「殿下はやめてくれ。君も殿下なのだからおかしな話だ」
「ではルイス様と」
「ああ」
これは初夜の翌朝、結婚後初めての会話らしい会話である。
つつがなく初夜を終えたものの、相変わらず私たちの間にはよそよそしさが漂っている。
うん、でもこれが多分平常運転なのだ。
特に嫌われているという訳ではないとは思う。
陛下に慣れているせいか無表情のはずのルイス様の感情は意外にもわかりやすいよう気がして、ルイス様がほんの少し身近な存在に感じられた。
ただ一方でなんとも言えない気持ちになった。
というのも、陛下にしてみたら多分私はこんな感じだったんだろうなと思い至ってしまったからだ。
やはり無表情はかなり精度が高いものでないとダメだということを身をもって感じたので、もう潔く方向転換をしてこれからは常に笑顔を貼り付けるスタイルで行くことに決めた。