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静寂の中、ペンを走らせる音だけが響いている。

「セレスティーヌ」

「はい、陛下」

「そなた、王太子妃になったらどうだ?」

「は?」

なにを言っているのだ、一体。

冗談だと思いたいが陛下は冗談を言うような人ではない。

だとしたらなんという面倒事を押し付けようとしてくれているのだろうか。勘弁してほしい。

「恐れながら、身に余る光栄でございます」


私は基本的に表情豊かな人間ではないし、常に無表情な能面陛下と相対するときは、特に無表情であることに徹しているのだが、最近この男にしてみたら、むしろ無表情の方が些細な機微がよりわかるのではないかと思ってしまう。

それならば常に笑顔を貼り付けていた方が良いのではないかと思えた。

しかし今から方向転換するのは癪なのだ。

ならば無表情の精度をあげるほかあるまいか。

つらつらと考えつつも平坦な声で返すが、私の考えていることなど筒抜けな気がしてならない。

この間、陛下は執務机に向かい顔を上げることもなくずっとペンを動かしているにもかかわらず。


数日前のことを思い出し頭が痛くなった。

こうして私は王太子妃候補になった。

そう、候補なのだ。まだ。今のところは。

提案という形で提示されたことにも驚いたが、候補に留め置かれたことにも内心はびっくりしていた。

なにしろ陛下はこうときめたら迅速に有言実行する方だ。

今回は王太子の結婚ということで、流石にいきなり結婚させるなどという突貫工事もいいとこなやっつけ仕事はするまいとは踏んでいたが、そうそうに婚約者として発表されるのではとは思っていた。

まぁどっちにしても私が王太子妃になることはほぼ既定路線なのだろうな。そこまで考えて遠い目になる。

なにしろ私は自分で言うのもなんだが王太子妃にうってつけなのだ。

中身や外見はさておき、現在15歳である私はもうすぐ結婚適齢期であることに加え、18歳の王太子と年齢的にも釣り合うし、公爵家出身で身分も申し分なく、陛下の側近という地位まである。

まぁ側近という地位は一時的なものだろうが。

加えて貴族間の勢力バランスの観点からしても申し分のない人選なのだ。

この国には我が家を含め4つの公爵家がある。

皇后の出身家、王妃の出身家、宰相の出身家、そして我が家。

うん、かなりバランスがいい。


この国では男女問わず16歳で成人とされる。

王太子はすでに成人しているが、にもかかわらずまだ婚約者すらいないというのは何かしらの思惑があったのだろう。

おそらく状況によっては他国から王女を迎えるつもりだったのではないだろうか。

しかし、他国との情勢は安定しているとみなしたのか、我が国の王太子妃にふさわしいと思えるような主要な王女がすでに売約済みになってしまったからなのか、それとも国内に何かしらの不安要素があり国内の有力貴族との関係を強めたいと考えたからなのか。

まあ王太子に婚約者がいない理由がどうであれ、現状から逃げられる気がしない。

どうしたものか。ああめんどくさい。


しかも面倒事はこれだけではない。

陛下は私のような側近や護衛騎士のほかに隠密も抱えている。

私は隠密の姿を見た事はないが、最近新たな人員が加わったことは知っていた。

陛下の手駒に優秀な人材が追加されたということ自体はむしろ喜ばしいことだ。

ただ隠密の人員が増えてからというもの、どうもねっとりとした視線が絡みついている気がしてならない。

それはなんとも言い様のない息苦しさなのだ。

まるで真綿でジワジワと首を絞められいるかのような。

残念なことに自分が陛下の側近であるため、必然陛下と共にいる時間が長いのもいただけない。

まぁこれに関してはほっとけばいいだけだとは思われるが。


なんにしても最近はなんだか面倒事ばかりなのだ。

ようやく自分自身の面倒事に対処ができるようになったというのに。

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