3 この世界の説明回です
々語っていたが、長かったので忘れてしまった。というか、途中でまともに聞くのをやめた。
でも、「最高っ! マジ最高!」でまとめられる気がするので、なんの問題もないだろう。
というか、がっつりネタバレされたなぁ……。いや、別にプレイする気ないし、ネタバレ気にしない派だからいいんだけれど。
攻略対象は、さっきから言っているように五人。
ここザナドゥ王国の第一王子、セオドリック・ザナドゥ。
宰相の息子、アルフィー・モフェット。
駆け出しの騎士、メレディス・サクソン。
国立最高図書館長、ジェーロム・デッカー。
王宮庭師、クレイグ・オールディス。
より取り見取りだ。男爵令嬢が、こんなに色々なキャラを落とせるなんて、凄いね。
身分差ラブは萌えるからか。それにつきるのか。わからなくもない。
そして、この攻略キャラにつきひとり、メインとなる悪役キャラ、もしくはライバルキャラがいるという。
「そのキャラたちの性格も最高で……! 良い感じに恋を盛り上げてくれるんですよ」とロイドが熱く語っていた。あー、はいはいって感じだった。
私、ステラ・ラウントリーは、セオドリック王子ルートで、メインを張る悪役令嬢なんだそうだ。
「どうして?」
「ステラ・ラウントリーとセオドリック・ザナドゥは、婚約してるからですよ。ステラはセオドリックに恋をしてましたからね」
興味のなかった乙女ゲームの話だが、『ステラ・ラウントリーは、セオドリック・ザナドゥ王子と婚約している』という言葉には思わず反応してしまった。
王子と婚約なんて、普通にびっくりするでしょ。
「幼少期に婚約してるんですよ、おふたり」
「は……? 私と、王子が?」
「はい。年齢も近いですし、ふさわしい身分ですし、当たり前と言ったら、当たり前の話です」
「いつ婚約するの……?」
今の私はまだ、王子と婚約していない。となると、そう遠くないうちに王子と婚約するということだ。
「近頃」
「近頃っていつなの?!」
「そこまではわかりませんよ。悪役令嬢の過去の話なんて、ゲームで描かれません」
「なんでよ?!」
「悪役令嬢だからに決まっているでしょう」
「ふざけないで!」
悪役令嬢でも、少しくらい掘り下げなさいよ!
ライバルがいてこその恋愛でしょ?!
「そもそも、過去の話に詳しい日付なんて、出てこないでしょうに」
「意味がわからないわっ!」
「お嬢様の方が意味不明ですよ……」
そんな感じで、私が王子と婚約する日にちはわからずじまいだった。
とまあ、こんなのが基本情報だ。
「……王子と婚約しなければ一件落着じゃないの?」
要するに、王子と深い仲にならなきゃいいんでしょ?
婚約しなくて、恋もしなえれば、私に王子とヒロインの邪魔する理由なんてないし。
まあ、婚約してても互いに両思いだったら、私は潔く引くけど。
「政略的なものですし、そんなに簡単に破棄できるものとは思えません」
「それは一理あるわね」
王家と公爵家の話だもんね。簡単に行くはずはないかぁ。
「ですから、お嬢様には完璧な公爵令嬢になっていただきます」
「つながりがわからないんだけど?!」
どうしてそういう流れになった。
私にはその理由が全くもってわからない。完璧な令嬢になる必要はなくない?!
「完璧で、美しく、上品で、優しい令嬢ならば、セオドリック様も間違いなく、お嬢様に惚れるでしょう」
「待って、私が王子に恋する前提なの?! そして、ヒロインと正面からやり合うの?!」
勘弁してほしいんですけどっ!
「仮にお嬢様の恋のお相手がセオドリック様ではなくても、完璧な令嬢であれば他の方を落とすのは簡単かと」
「そのために今から頑張るの?!」
普通、好きな人ができてから、『少しでも可愛くなれるように、頑張ろう♡』みたいな感じでやるんじゃないの?! その方がキュンとくるんじゃないの?!
恋愛漫画好きな私としては、そっちの方が断然良いと思うんですけど?!
「備えあれば憂いなしです」
「備えすぎじゃない?!」
「そんなことを抜きにしても、お嬢様は公爵令嬢なんですから、それなりの振る舞いができるようにならなければいけません」
「その理由を最初に言えば良いのではないかしら?!」
これだから、乙女ゲーム脳は……。
「僕もお手伝いするので、心配しないでください」
ロイドは私のツッコミを無視して、話を続けた。
ロイドの手伝いはありがたいけど、絶対通常より高いレベルを要求されるよなぁ。
「具体的には?」
今だって、算術や歴史を始めとする勉学や護衛術、マナーやダンスのレッスンは専門の先生に習っているのだ。
五歳児がやる量や内容だとはぶっちゃけ思わないが、公爵令嬢だから仕方ない。身分には責任が伴う。
かなりの量をこなしているのに、これ以上増えたら私が困る。
こんなに小さいうちから圧迫しないで! もっと遊びたい! だらだらしたい!
「僕がお嬢様を教育します」
…………はい?
「と言っても、たいしたことはしませんよ。その日習った事を僕と一緒に復習して、週末にはその週に習った事を復習して、月末にはその月に習った事を復習するだけです。たまに抜き打ちテストとかやるかもしれないですけど、基本はそれだけです」
「……全然“それだけ”に聞こえないのだけれど、気のせいかしら?」
「これでも抑えているほうですよ?」
真顔でおっしゃるロイドさん。
怖い。完璧主義者怖い。
一緒に復習するとか言って、絶対完璧に覚えるまで繰り返すでしょ。
十分二十分で終わるものじゃないでしょ!
「というわけで、頑張りましょう、お嬢様! 全ては破滅を回避するためです!」
「……もう完全にやる気ね」
当の本人を置いてけぼりにするやる気ってこれいかに。
というわけで、前世が乙女ゲーマーな執事による、悪役令嬢の教育が始まったのだった。




