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悪役令嬢は今日も今日とて恋愛相談を待っている。  作者: 聖願心理
一章 ドジっ娘ヒロインと騎士カップルのドタバタ劇
28/47

18 悪役令嬢はやりたいようにやる!

「ロイド、そこに座りなさい。作戦会議をするわよ」


 突きつけられた現実をなんとか受け止めると、ロイドにソファに座らせる。

 私も執務用の机から、ソファに移り、ぐでぇと力を抜く。


 疲れた。予想以上の事態に発展していて、驚き疲れた。


「僕もそろそろ作戦会議が必要だと思ってました」

「あ、ロイドもそう思う?」


 だよね。こんな出来事があったんだもん。

 今後どうするかをふたり確認しておくのは必須だ。


「失礼ながら、お嬢様。僕が先に話してもよろしいでしょうか?」

「ん? いいけど?」


 ロイドが自分の話を先にしようとするのは珍しい。多少無礼というか、遠慮のないところがあるロイドだが、こういうときは主である私を優先することが多いのに。


 どうせ似たような議題なんだし、そう率先して話す必要性もないはずなんだけどな。

 ロイドがそう主張するのだから、よっぽどなんだろう。


 私の許可が降りると、ロイドは咳払いをし、私の瞳を真っ直ぐに見てくる。


「お嬢様は悪役令嬢になりたいんですか?」

「はい?」

「もし、お嬢様が本気で悪役令嬢を目指すのであれば、僕も色々とやり方を変えなければなりません」

「えーと、その話はさっき終わらなかった?」


 メレディスに会う前に、散々説教されたよね?

「破滅したいのかー!」とか、「ヒロインをいじめたいのかー!」とか。


「あれはあくまで、お嬢様が道を違えないためのお話です。僕が今聞きたいのは、お嬢様がこれからどうしたいのかです」

「え? 今までと変わらず、より多くの恋バナを聞くために奔走するけど?」


 今更、何を聞くんだろうか。

 私が恋バナを聞くためにあれこれと頑張ってきたのは、他でもないロイドが一番知っているじゃないか。


 そう不思議そうな顔をすると、ロイドは呆れたような、困ったような、複雑そうな顔をした。


「そういうことじゃないです」

「え? じゃあ、どういうこと?」

「え? これ僕の説明が足りないんですか? 話の流れからなんとなくわかりません?」

「わからなかったけど」


 自分の説明不足を私の理解力が欠如しているみたいに言わないでほしい。


「……つまり、お嬢様は破滅をする覚悟で悪役令嬢をやるのか、破滅を回避するためにフラグを折るのか。どちらを目指すんですか?」

「え? それってどちらか選ばなきゃだめなの?」

「先程も言いましたが、中途半端が一番ダメです。中途半端に悪役めいたことをやると、ゲームの強制力でややこしいことになりますよ」


 確かに、いじわるをしたり反対に優しくしたりと、立場をふらふらしていたら、私を貶めたい人――もしくはゲームのシナリオに、付け入る隙を与えてしまう。


 だからどっちかを選んで、その道を確実に歩んでいった方が、簡単だし目標も達成できる。

 その考え方は理解できるし、ロイドも私のためを思って言ってくれているんだろう。


「けどさ、そう簡単にいかないのが恋愛なんだよ」

「え?」

「オリヴィアとメレディスもそうだったように、恋愛って一筋縄じゃいかないんだよ。だから、協力するこっちも臨機応変に対応できるようにしないといけない」

「つまり?」


 そう、つまり。


「そんなどちらか選んで、その道を歩いちゃったら、恋バナを聞く回数が減っちゃうんだよ! だから、私はどっちも選べないし、選ばない!」

「どうしてそうなるんですか?!」


 ロイドがついに頭を抱えた。


「お嬢様は、自分の命と恋バナ、どっちが大事なんですかっ!」

「難しい質問だね」

「ここで『恋バナ』と即答しないんですね……」

「だって、命がなかったら、恋バナだって聞けないじゃん?」

「どうして至極真っ当なことを言うんですか……」


 私が真っ当なことを考えないみたいに言わないでほしい。

 狂人じゃないんだよ、私は。


「そうだねぇ。例えば、男が女に告白しようとしている現場に遭遇したとしよう」

「唐突な例え話ですね。そして、お嬢様の場合、遭遇したんじゃなくて、告白するという事実を知って、その場にいそうです」

「……そこはどうでもいいんだよ」


 否定はしない。

 だって、その可能性はゼロじゃないから。むしろ、そっちの方がありえるから。


 細かいところをつっこんでくるな……。

 流石、私に長年仕えているだけある。


「そして、そこに通り魔が現れて、男を刺そうとした!」

「怒濤の急展開ですね」

「そうしたら、迷わず間に入って、私が刺されるよ。こういうときなら、命は惜しくない」

「付き合っても付き合わなくても、そのふたりに相当なトラウマを与えますね……」


 確かに。私が仮に死んじゃったら、告白が成功する可能性は低いんじゃない? もしくは、告白を仕切り直さないかもしれない。

 そんなことになったら、最後の力を振り絞って、「ちゃんと告白するように」と言うことにしよう。


「逆に、お茶会と言う名の恋バナ大会が翌日にあったとして、そのときは何が何でも一日を生き残ろうとするね」

「……お嬢様は全くぶれませんね」


 ロイドはツッコミをいれる気も失せたのか、だんだんと声に力がなくなっている。


「オリヴィアにもメレディスにも言ったけどさ、私は私のやりたいようにやるだけだよ。多少のことなら何とかなる力はあるしね」

「何とかならない場合はどうするんですか?」

「そういうときは、ロイドが何とかしてくれるでしょ?」

「……っ!」


 ロイドが息をのんだ。


「違った?」

「……違いません」

「でしょ? ロイドがいれば無敵でしょ」

「でも、僕でも何とかできないことがあるかもしれませんよ?」


 ロイドは自信がなさそうに聞いてきた。

 実力はあるんだから、ロイドなら何でもできそうな気がするんだけど。

 まあ、いくら完璧とはいえ、彼も人間だしな。できないことくらいはあるか。


「じゃあ、そのときは一緒に逃げよう。もしくは、一緒に罰を受ける?」

「逃げる一択でお願いします」

「あはは。私もそれがいいや」


 どうせ、罰を受けることになったとしても、それは十中八九冤罪に決まってる。

 どんな手段でもとるとは言っても、流石に法に触れるようなことはしないだろうし。


「多分、これからも私は恋バナのために、どんな手段でもとると思う。でも、本当にやばいときは、ロイドがちゃんと止めてね? それも専属執事の仕事だよ?」

「専属執事の仕事かどうかはわかりませんが、責任を持って、僕が止めるので安心してください」


 ロイドが優しく微笑むのを見て、安心するのと同時に、少し胸が高鳴った気がした。


「そして、私の話なんだけど」


 不思議な空気が場を支配していたので、それを打ち消すように話題を転換した。


「オリヴィア様とメレディス様のことですか?」

「そうそう。あのふたり、こじらせてるよねぇ」


 そう言うと、何故かロイドが怪訝な顔をした。

「お前が言うな」って言われてるみたい。


「何かおかしなことでもあった?」

「いえ、別に」


 ロイドはぴしゃりと言うので、これ以上聞いても口を開かないだろう。

 たいして気になる事でもないし、話を進めることにする。


「当人たちに発破をかけても、進展なんてしないことがわかったから、もう他の手段をとるしかないよね」

「お嬢様、まさか……?!」


 そう、そのまさかだ。


「外堀から固めていこうと思うの。これが一番だわ」


 にやりと微笑むと、ロイドは「マジか」と言いたげな顔をした。




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