第4話 謎狙撃、召喚まほう、隠し事
それはモンスター軍団とのボコスカな戦闘パートツーを終えた直後のことだった。
空の彼方から一条の光が飛来し、ショウトの体を正確に貫いたのだ。
「ぐわぁーーーー!」
素手で蹴散らしたモンスターたちが消滅するのとほぼ同時、ショウトは黒焦げになって砂漠の地面に倒れ伏す。
「ギャー! ショウト―! と言いますかデジャブー! ブびゅー!」
すぐさまステラが追いすがり、回復魔法のエフェクトっぽい淡い緑色の光を放つ。
「やはりこのやり方は危険すぎると思います! 今のもめっちゃやばかったですよ!」
「いや……違うんだよステラちゃん」
よろよろと立ち上がったショウトはいぶかしむように空の彼方をにらみつけた。
「この辺のモンスターはもう苦戦するほどじゃないんだけどさ。なんかね、あっちの方から光が飛んできたんだ」
「光……ですか」
「うん。あれはたぶん、いや間違いなく……なんて言えばいいのかな」
「それはもしかしてビームでしたか?」
「そう! ビーム砲の狙撃だった」
「ああ……わかります……」
ステラがめっちゃ苦々しい顔つきになって困惑している。
「そうですね……それはショウトを狙ったものです。様子見程度の攻撃なのでしょうが、まさか第一の砂漠から仕掛けてくるなんて……」
「ってことは知り合いか。よし倒そう!」
やる気満々のショウトにステラが待ったをかける。
「いえ、さすがに今はやめた方がいいです」
「そんなに強い相手なのかい? 戦えるのが楽しみだ」
「いえその、決して勝てない相手ではないのですが……」
何か事情がありそうだ。隠すほどのことでもなかったのか、ステラは静かに語る。
「あの子はゲーム風に言うとランダムに襲ってくる中ボスみたいなものです。それが非常に厄介でして、倒したとしても大幅にリソースを削られる上そのうち復活します」
「フィールドを徘徊してる野良の強敵って感じか。倒さなくても先に進めるような」
「はい。いずれは一戦まじえなければならない相手ですが、第二の砂漠を超えるまでは絶対に戦ってはいけません」
そういうことなら、とショウトは頭を切り替えた。ただ、疑問は残る。
「でもさ、向こうから襲ってきたらやるしかないじゃん?」
「ごもっともです。ですので、少々お待ちください」
ステラが地面に手を当てて何かをつぶやく。
「ぶつぶつぶつぶつ。召喚まほう!」
砂漠の上に魔法陣のようなエフェクトが出現し、しかしすぐに消滅。
「今のってもしかして呪文の詠唱? ぶつぶつでいいんだ!?」
「そりゃもう慣れたものですので。これでしばらくはビームされないと思います」
「そっか、りょーかい。ふ……誰だか知らねーが命拾いしたな!」
「お互いによく知ってる相手なんですけどね……複雑な関係と言いますか……」
ステラの召喚魔法が功を奏したのだろう。それ以降ビーム砲の狙撃に襲われることはなかった。
しばらく歩きで東へ進み、数度のボコスカな戦闘を終えてからショウトがぼやいた。
「なんかさ……違うんだよなぁ……」
「と言いますと?」
作戦会議とばかりにその場に座り込む。
「素手でボコスカやるのは俺のスタイルじゃない気がするんだ」
「そうですね、だと思います。前に自分で言ってましたよ、俺は格闘スキルなんて一つも覚えてないぞーって」」
「うーむ。スキル、スキルかぁ……」
ごそごそとマントの内側を探り、懐中電灯のような端末機器を取り出す。
「これさ、たぶん武器だと思うんだよね。すっげー手に馴染むんだ」
「はい。ショウトは戦闘時、ずっとその端末を使ってましたよ。名前は確か……」
「おっと待った。それ以上はいけない」
「ふむむむ。そのココロは?」
人差し指でトントンとこめかみのあたりを叩くショウト。
「いいかいステラちゃん。俺の記憶喪失は病気とかじゃない。ゲームの法則に従って課せられた、ある意味まっとうなプレイスタイルなんだよ」
「えぇと……つまりショウトはこの状況を楽しんでいるので、必要以上の情報は与えないでほしいというわけですか」
「わかってもらえて嬉しいよ。俺の抱えている疑問は、きっと君に聞けばほとんど解決するんだろうね。でもそれじゃダメなんだ」
「自分のチカラで攻略していくのがゲームの醍醐味、ですね!」
「そのとーり!」
意思の疎通が取れたところで、ショウトが懐中電灯型の端末を慎重にいじり始める。
「そんなわけでこいつの使い方だけど……」
左手で端末の胴体部分をつかみ、包み込むように右手をそっと添える。
そしてショウトはゆっくりと右手をスライドさせた。古風な例えだが、それは巻物をひもとくような手つきだった。
そこに現れたのは半透明の青白いウィンドウだ。端末のホーム画面とでも言えばいいのか、整列されたアイコンや文字列など様々な情報が表示されている。
「は? なんだこりゃ」
ただしその画面は何もかもがバグっていた。時刻などの表示は例外なく文字化けしているし、アイコンの方もモザイクだらけで何がなんだかわからない。
「どうかされましたか?」
不思議そうに首をかしげるステラを横目に、ショウトはあえてそのバグりまくった画面をスルーした。こうなっている原因はいくつか予想できるが、確信を持てる材料がなかったからだ。
そしていかにもわざとらしく驚いたフリをして、
「こ、これは……まさか……!」
「まさかまさか!?」
ステラが食い入るように反対側からウィンドウをのぞきこむ。
「ふつーの端末だな。市販品の」
「ズコー!」
そして盛大にずっこけた。
「いやそのあの、確かにそれは市販品の端末と聞いていますが、それでもそのー!」
「はっはっはっは」
「なんですかその意味ありげな笑い方ー!」
ささっと懐に端末をしまい込み、立ち上がったショウトはニヤリと笑った。
「ステラちゃん。君は俺に何か隠し事をしてるよね?」
「そりゃまあ……めっちゃしてますけどもー!」
「別にいいんだよ。俺たちは旅の仲間だ。でも、だからって抱えてる事情を今すぐ洗いざらい話す必要なんてない」
「お心遣い痛み入りはするんですけどもー!」
「それにこれは推測だけど、君の隠し事は俺のためでもあると思うんだ」
「ぎくぎく! なんだか今回のショウトは妙に鋭いところがありますね!?」
ひらひらと手を振ってショウトは砂漠を歩き始める。ステラもそれに倣った。
「つまりこういうことさ」
「聞きましょう!」
少しだけ声量を落とす。
「……隠し事をしてるのは君だけじゃないってこと」
「まあ……! それではショウトは、もしかすると……」
ステラは何かに感づいたようだった。そのためか、あえて言葉を濁したように見えた。
――ビームを撃ってきたやつじゃない。こいつはビーム野郎よりも遥かに格上の……おそらくはこの砂漠ゲームの支配者か。
なぜかはっきりと覚えている。そういう風に記憶を操作されたのだろうか。
何度か前の自分に起きた謎現象。時間が停止し、視覚に表示されたうさんくさい選択肢のことを。
「気に入らないなー」
「ええー! すすすいません! やっぱりちゃんとお話ししましょうか!?」
「違う違う! ただのひとりごとだから! ステラちゃんのことじゃないんだよ!」
「お気遣いいただき感謝感激ではあるんですけどもー!」
◇
徒歩の旅とは、基本的には静かで穏やかに進むものだ。
やたらとボコスカしたりドタバタする様子が目立つのは、そういうシーンを切り取って意図的に騒がしく見えるように配置しているためなのだろう。
では、誰がそれを? 決まっている。砂漠ゲームの支配者だ。監視者といってもいい。
砂漠のどこかにいるはずの相手には聞こえるとだろうと思いつつ、傍らのステラに届かないぐらいの小声でショウトがつぶやいた。
「初心者ロールプレイも潮時だな。最初はほんっとわけわかんかったけどさー!」
設定資料のような何か
ビーム
作中で出てくる『ビーム』とは、こうカラフルな光がバビューンとなる感じの攻撃全般を指します。