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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
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第3話 はじまりの砂漠

 何もない砂漠をのんびり歩いてると、ショウトは視界にわずかな歪みを感じた。

 

「ん……なんだ今の」

「エリアチェンジしましたね。そんなわけでここから第一の砂漠に入ります。その名もずばり、『はじまりの砂漠』です!」

「そのまんまだなー」


 ステラの解説にのんきな感想を述べ、ざっくざっくと白砂を踏みしめて歩を進める。

 

「ああー! ちょちょ、待ってくださいショウト! 歩くのストーップ!」

 

 なんでかステラが慌てている。

 

「簡単に説明します。この砂漠の攻略条件はいたってシンプル。エンカウントしてくるモンスターをひたすら倒しながら東へ進むのですが……」


 エンカウント。その単語にショウトはワクワクを隠し切れなかった。

 

「ほう? つまりこっからは戦闘が発生するというわけだな!」

「ですです。言うてもここら辺のモンスターは練習相手にすらならないでしょうけどね。レベル一の弱っちい子ばっかりですし」

「はっはっは、その見積もりはちょっと甘すぎるんじゃないかなステラちゃん」

「と言いますと?」


 ショウトは満面の笑みを浮かべ天を仰いだ。

 

「なんせ俺は自分の戦い方をさっぱり覚えていないんだー!」

「どええー!? マジですか!? そこ忘れちゃってましたかー!」


 ステラが汗マークを頭部に表示させて苦笑する。

 

「ええと……その……いっそ巻き戻ります? 次のショウトは覚えているかもですし」

「何をおっしゃるお嬢さん。だがそれがいいってやつだよ。今の俺はまさにレベル一の初心者プレイヤー。だからこそ攻略のし甲斐があるってもんだ」

「ふむむむむ???????」


 わけがわからないという感じで頭部に疑問符を大量に浮かべている。

 ここは言葉で説明するよりも行動で示そう。

 

「こうするんだよォーー!」


 勢い任せの全力疾走である。

 

「またですかー! と言いますかそんな一気に歩数を稼いだらエンカ判定が……」


 取り残されたステラが不安げにつぶやく。


「あれ……エンカ係数の変動が……なんですかこの殺意に溢れた減算量……」


 すっかり見えなくなってしまったショウトの疾走ルート。そこに溢れんばかりのエンカウント判定が実行されつつあるようだった。

 

 砂漠の地面がずもももと膨れ上がりモンスターの姿を形成していく。

 現れたのはファンタジー系のゲームに出てくるような連中ばかりだ。


『ゴブー!』『グゴォー!』『キシャシャー!』


 背が低く姿勢の悪い亜人ゴブリン。巨漢のごとき体躯を誇るオーク。翼の生えた小悪魔インプ。

 そういった連中がポンポンポンポン砂漠から出現し、エンカウントの原因となった者を追跡すべく群れを成して走り出す。

 

「こ、この数はさすがに……わたしも手伝うべきでしょうか。ですがですが、砂漠の攻略にはパワーと魔力の節約が何よりも重要だと以前のショウトが言っていましたし」


 むむむぅーと唸りつつ、ステラもモンスター軍団を追う形で砂漠を駆け出した。気持ち遅めに。






 

 数百メートルほどのスプリントを終えると、背後から真っ白なモンスター軍団がわらわらと百鬼夜行のように押し寄せてきていた。

 

 数はざっと五十体。半分は小柄なゴブリンだ。残りはオークとインプと、見えづらいが浮遊する霊魂みたいなモンスターや液状のスライムっぽいのも紛れている。

 

 いかにも『モンスター』という感じの連中ばかりだ。初見だというのに懐かしさすら感じてしまう。


「こんなに沸いてくるのか。思ったより多いぞ……!」


 ショウトとしては嬉しい誤算この上なかった。

 今の自分はまごうことなきレベル一の弱小プレイヤーのはずだ。

 そんな初心者同然の自分が大量の――こういった表現は好きではないが、雑魚モンスターとソロで対峙しているのだ。

 

「いいねこの大乱闘感! 試してみよう。俺のゲームチカラを。今の俺はなんにだってなれる。どんな戦いだってやってみせる」

 

 まさに逆境。この戦いを潜り抜ければ大幅なレベルアップは間違いなし。

 

 ガシガシと両手の拳を打ち鳴らし、ショウトは不敵に叫んだ。

 

「さあさあ、どっからでもかかってきやがれ! 今の俺はたぶん弱いぞぉー!」

『ゴブブー!』『グゴッゴォ!』『キシャシャシャー!』


 モンスター軍団が雄叫びを上げつつ一斉に襲い掛かってくる。

 砂煙が激しく巻き上がり、ショウトの最初の戦いが幕を開けた。

 

 

 


 

 

 ボコスカ! ボコスカ!

 そんな擬音が聞こえてきそうな砂煙あふれる光景がステラの前方に広がっている。

 

「どどどどうしましょう! これはちょっと参戦しにくい雰囲気ですね……こういうボコスカな戦いならなんか大丈夫そうな気はするのですが……」


 せめて回復まほうぐらいは準備しておこう。

 ステラはそう考えてその場で待機していた。

 

『うみゃー』


 足元に小柄なIEMがすり寄ってくる。それは猫の姿をしていた。平均的な猫のサイズよりもかなり大柄で、しなやかな体躯を持つ種族だ。ステラには旧知の相手だった。

 

「あら、あなたはサーバルキャットのサーバルAさん。どうかされましたか?」

『うみゃみゃみゃ。みゃみゃー』


 真っ白なサーバルキャット型のIEMは懸命に何か伝えようとしている様子。

 

「ふむふむ。巻き戻る世界に大きな変化が? そういえば、確かにここ数回の砂漠はやたらとハッスルしてましたね。みずみずしいエネルギーすら感じるような……」

『みゃみゃ。みんみー』

「見たこともないIEMがたくさん……そうですか。何やら穏やかではなさそうですね」


 伝えるべきことを伝え終えたのか、サーバルAと呼ばれたIEMはしっぽを振って軽やかに駆けていった。

 その姿を笑顔で見送ると、ちょうどボコスカな煙が晴れつつあるタイミングだった。


「ギャー! ショウト―!」

 

 そこにはショウトが真っ黒こげで転がっていた。全身からぶすぶすと黒煙が立ち昇っている。

 

「かかか回復まほう! 回復まほうをー!」


 駆け寄ったステラが手をかざすと、淡い緑色の光がショウトの体を包み込む。

 

 全快したらしいショウトがむくりと起き上がり、自らの体を見回して、

 

「うっわ、ダメージが全部消えてる……すごいなこれ。本当に魔法なんだ」


 装備中のマントはボロボロのままだったが、あれは元からそういうデザインと聞いた。

 

「ビックリしたのはこっちですよ! 巻き戻らなかったのが不思議なぐらいです」

「いやーそこまで苦戦はしなかったんだけどさ、火の玉みたいなのに自爆されちゃって」

「それは災難でしたね……ともあれ、エンカ率がめっちゃ上がってるようなので慎重に進んでいきましょう」

「ふむ……」


 あごに手を当て、真剣な面持ちで考え込むショウト。

 

「ごめんあと一回だけ! 今度はヘマしないから!」


 再び砂漠を全力疾走し始める。

 

「どえぇー!? あの、ちょ、節約! 節約は大事ですよー!」

「レベル上げだって重要さー!」


 さきほどよりもスピードが上がっているらしく、一瞬で見えなくなってしまった。レベル上げとやらの効果はちゃんと発揮されているようだ。


「元気が有り余ってますね……これはこれでアリよりのアリなのでしょうか」


 第一の砂漠はゲーム的に言うならチュートリアルだ。出現するモンスターはどれもレベル一の下位種ばかりで、本来のショウトなら見向きもしないような子ばかりだった。

 

 一気に砂漠を進んで、エンカウントしたモンスターをまとめて狩っていく。

 なんだかんだでこれが一番早い攻略方法なのかもしれない。

 

 ただ――

 

 ステラは遥かな蒼穹を見上げる。

 

「終わりかけていたはずの世界が、まるで息を吹き返したかのようです。眠り続けるあなたは、空の上でいったい何を考えているのですか。わたしは何もわからない。わたしの声は決してあなたに届かない。ですから!」


 そして誰かを真似るように全力疾走を開始した。

 

「いつかそこにたどり着いたら、言いたいことまとめて言ってやりますからねー!」

 


かんたん用語解説


IEM

あいいーえむ。モンスターとほぼほぼ同義語。人間にとっては、地球を侵略した敵種族。


ゲームチカラ

作者もよくわからん謎ステータス。ゲームヂカラとも。

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