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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
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第2話 大津波、横スクロール、成層圏

 背後に迫る津波から、二人の旅人は猛ダッシュで逃亡していた。


「いやー全力で走るのは気分がいいなあ!」

「わかります。なんかこう体の奥底からパワーがみなぎってきますよねー!」

 

 念のため確認しておくが、ここは視界の全てが砂漠だらけの大地である。

 砂漠で津波。不自然極まりない光景だが、ゲームのイベントにケチをつけるのは野暮というもの。

 

 この津波を殺意マシマシの極悪イベントだとステラは言った。

 つまり自分たちは、高い確率で津波に飲み込まれて巻き戻ってしまうのだろう。

 それをなんとかして攻略するのがゲームの基本スタイルと考えてよさそうだ。


 とはいえ、逃げる以外の選択は存在しない。ならば全力疾走あるのみ。 

 

「時にステラちゃん。君の走り方って一体どうなってんの!?」

「Bダッシュ的なスピード特化モードです! 快適ですよー!」


 まっとうな猛ダッシュのショウトとは違い、ステラはギュオオオンと砂埃を上げながら滑るように砂上を駆け抜けていく。渦を巻いたようなエフェクトが下半身にくっついている。ホバー移動というかグルグルダッシュというか。

 

「それやってみたいな。俺にもできる?」

「そうですね……なんと言いますか、下半身をグルグルするイメージで……」 

「できたぁー! うおおおー!」


 自らの下半身が渦巻くようなグルグルモードに変形している。

 なんとも爽快な気分だった。心なしかスピードも上がっている気がする。


 だがそのBダッシュ的なモードチェンジにショウトは気を取られ過ぎていた。


「ショウト! 足元ー!」

「む、うおっとぉ!」


 下半身が何かにぶつかり、盛大にすっ転ぶ。

 

「つられてわたしもズコー!」


 なんかステラも思いっきりずっこけていた。

 

 転んだ原因は二十センチほどのオブジェクトだった。

 真っ白なキノコにパンみたいな足をつけたデザインの――モンスターだろうか。

 

「なんだよこいつ。キノコのモンスターか?」

「ショウト―! うしろうしろー!」


 キノコ野郎を観察していると、周囲の地面が影という影で埋め尽くされる。

 

「あ」「ギャー!」


 一瞬ののち、二人は断末魔とともに砂漠の藻屑となった。




「わたしはたぶん、まほうつかいです。時にショウト、あれは津波でしょうか?」


 IEMの少女と懐かしさを感じる挨拶をかわしていると、遠くから水飛沫をあげ左右に広がりまくった水の壁が押し寄せてきていた。


「砂漠で津波だって!? いやそれよりも俺たちは今……あれ!?」

「あっさり巻き戻っちゃいましたね。とにかく逃げましょう! すたこらさっさと!」

「よく分かんないけど走ろうか!」

「はい! 津波なんてへっちゃらへーのほいさっさですよ!」


 飛び出すように走り出す。ステラは楽しげに渦巻き付きのホバーダッシュ。

 ショウトは不思議そうな面持ちでノーマルダッシュしていた。


「なあステラちゃん。さっき俺たちさ」

「後で説明します! と言いますかショウト、足元ーー!」


 前方数メートル先で白いキノコみたいなモンスターが身構えている。ショウトが目視するとそいつは身震いして死を悟ったようだった。

 

「おっとごめんよ!」


 勢いに任せて踏みつぶす。クッションを踏んづけたような柔らかい感触を最後に、キノコ型モンスターは霧と化して消滅した。

 

 走り続ける二人だが、ショウトはある事が気になってしょうがなかった。


「なあ、やっぱり俺たちって何度も」

「だーかーらー! ショウトー! 前、前ー!」


 そこに待ち受けていたのは砂漠にぽっかり空いた漆黒の空洞だった。なぜか周囲の砂が流れ落ちることなく悠然と黒い穴でいる。


「あっ」「ひー!」


 それが運命であるかのように二人そろって飲み込まれていく。

 落下の感覚は一瞬で、すぐさま視界は暗転し――

 

 

 

「わたしはたぶんまほうつかいです。津波が迫っています! 落とし穴はジャンプで!」


 ステラが早口でそう言うや、ショウトとステラは三度目の逃走を開始し、


「待って! 待ってよ! なんかコレおかしくない!?」


 逃走を開始した。


「うおおー体が勝手に走り出すー!」

「すたこらさっさと走り出しますー!」


 キノコ型モンスターを踏み潰し、不自然な黒い穴を飛び越え、その先へ。


 空中に手頃な立方体があったので飛び上がって叩いてみた。


「コインいっこゲットです!」

「なんに使うんだよこれー!」

「たくさん集めておくといいかもです。ショップなどは未実装ですけどー!」


 地面に手頃な土管が生えていたので誘われるように飛び込んでみた。


「ワープゾーンのようです。ショートカットできますよー!」

「そういう事かー! 俺にも少しわかってきたぞ、世界の仕組みが!」


 どういう原理なのか別の土管から出てくると、砂漠の津波はなおも丁度いい塩梅で二人の背後に迫っていた。このまま走り続けるしかないようだ。

 

 亀のような小型モンスターが群れをなしてのこのこと歩いている。


「邪魔だ! どけえ! マジごめーん!」


 リズムを取るようにまとめて踏んづける。甲羅がちょっとしたジャンプ台になっていたためにテンポよく踏み散らしてしまった。そいつらは霧になって消えた。


「連続キルボーナスみたいです。コイン大量ゲットー!」

「こうなったらなんでもかんでも取りまくってやるぞぉー!」」

「その意気です! 気合いでぶっ飛ばしましょう!」


 上空から危険な物体が色々ふってきた。トンカチや鉄アレイといった当たると痛そうなものに混じり、ちくわやこんにゃくといった柔らかいものまでセットだ。

 

「ゲットしたアイテムでパワーアップできるかもです!」

「ちくわしか取れなかったんだけどおおーー!」


 そんな感じで小型モンスターを踏み潰し、空中の立方体をぶっ叩き、コインやらパワーアップアイテムやらを順調にゲットしていく。

 

 ついでに三回ばかり巻き戻りの憂き目に遭いつつも、

 

「あれがゴールのはずです!」


 ステラが示したのは砂漠にそびえる雑なデザインの城郭だった。材質は砂で、やはり白い。なんというか、子供が頑張って描いたような城とだけわかるデザインだ。


 ただし、ゴール判定が行われる座標はその手前だった。

 

「あの旗を取ればいいんだな!?」


 長い道のりの果て、およそ百メートル先にぽつんと刺さった一本の白い旗。


「だと思います。せっかくなので勝負しましょう!」

「よし乗ったー!」

「ではわたしもちょいと気合いを入れまして――加速まほう!」


 ほぼ同じスピードでホバー移動していたステラがぎゅんと速度を上げる。それは疾走と言うよりも滑空。超低空の飛行ダッシュ!


「魔法!? なんか嘘くさいけどほんとに魔法使いなのか……ええい俺だって!」


 先手を取られたが、ショウトにも勝算はあった。これまでの道のりで手にしたパワーアップアイテムだ。

 

 アイテムの効果を確認している暇はない。色とりどりの菌類、ほうれん草、ちくわなどをまとめて貪ると、体の奥底から謎のパワーが沸き上がってくる。

 

「あっつ! あッッつ! うおおおおおパワーがみなぎるーーー!」


 全身に炎のような赤いエフェクトが生じ、ショウトは爆発的に加速した。

 先に旗のもとへ辿りついたのはステラだったが、刹那のタイミングでかすめ取り、

 

「っしゃーーーー!」


 ショウトは勝利の雄たけびをあげた。

 加速の勢いのまま砂漠に倒れ込みガッツポーズを取る。

  

「やりますねぇ! これで津波イベントはクリアできたと思います」


 敗北を気にした風もなくふんわりした笑顔でステラが歩み寄る。

  

「やっぱり津波は消えてますね。でも……なんでしょう。まだ何か……とてつもない悪意を感じるような……」

「ゼエゼエ……なんだって? また何か……ゼエ……変な現象が……ゼエ……」

「ひとまず落ち着いてください。わたしの気のせいかもですし」


 結論から言うと気のせいではなかった。


 再び、地鳴りが聞こえた。発信源は明らかに倒れ込んでいる砂漠の真下だった。

 ゴゴゴゴゴ――と大地が脈打つように揺らぎ始め、いくつもの亀裂が走る。

 

「あ、これヤバいやつですね。回避不能攻撃と言いますか……」

「え、ちょ、おい、今度はなんだーーー!?」


 そして二人を襲ったのは、地面から吹き出す間欠泉のようなエフェクトだった。

 超がいくつも付属し、天へと向かって突き上がるとんでもない規模の水柱だ。

 

「うおわーーーー!」「あひゃーーーー!」


 絶叫とともに空高くかっ飛ばされていく。

 まるで天に昇りながら地獄に落ちる気分を味わっているかのようだった。



 

 豪快な打ち上げタイムが終わり、二人の体は遥かなる上空で投げ出された。 


「いやいやいや飛びすぎだろー! どこまでいってんだよ!」

「ええと……地上から約二十キロぐらいですかね……」

「成層圏の下の方かあ。ゲームじゃなかったら凍り付いてるな……」


 結構な高さではあるが、ここはまだ余裕で地球の重力圏だ。

 ゆえにまもなく、逆再生のように重力に引かれて落ちるのだろう。

 

 しかし。


「ねえショウト。見てくださいよ」

 

 自由落下の開始直前に見た光景は、この上ないと思わせるほどの絶景だった。

 

 水柱に運ばれたそこは遥か上空二十キロメートル。

 対流圏を超え、見渡す限りの青と白で彩られた星の全貌がうかがえるほどの。

 

 空、だった。

 

「…………すごいなこれ。神様にでもなった気分だ」

「…………ええ、とても綺麗」

 

 水平線の果てに黒と青の境目が曖昧に交わっているのが見える。

 雲間からのぞく大地の色は白一色。

 

 海の青と大地の白。

 人間とIEMの戦いによって漂白された、これが現代の地球の姿だった。

 

 

 

 ショウトは堰を切ったように笑いだした。なんだか無性にそうしたくなったのだ。

 本当に面白くておかしい時にしか出ない、すっきりした笑い声だ。

 

「こんなの、もう笑うしかないだろー! 俺たちの地球は真っ白だ―!」

「ですよね。こんなイベント、今まで一度もなかったんですけど……」

 

 そして始まる、避けようのないフォールダウン。

 莫大な風に煽られながら衣服をはためかせ、二人そろって落ちていく。

 

 仰向けになるような体勢で落下中のステラがつぶやく。


「にしても成層圏ですか。ここまで来ても、まだ届かないのですね……」 

「ああ、宇宙か。いつか行ってみたいけど、俺にはまだ地球でやる事があるんだ」

「いえ、そういう感じの話ではなく……」


 ステラが口ごもる。IEMの少女は青い瞳を伏せて割かし真剣な面持ちで。

 

「ショウト。この夢の世界は一体のIEMが作りだしたネットワーク空間なんです。わたしはここで生まれ、ずっと砂漠を旅してきました。何度も、何度も」

「そうなんだろうね。でも、俺は……」

「いいんです。わたしのことを覚えていてくれて、とても嬉しかった」

「それだけじゃない。確か約束したよね。なんだっけ……ええと……ううむ……」


 首をかしげるショウトを横目に、ステラはふんわりと苦笑して、 

 

「ふふふ。では大事なことなのでもう一度言います。ショウト、わたしはこの小さな世界を……あ、今のナシで」

「えぇ、なんでぇ!?」

「と言いますかめっちゃ落ちてるので話す余裕がぁーーーー!」

「その通りなんだけどすごい気になってぇーーーーー!」




 それから。

 二人は砂漠の地面に激突し、落下のお約束ともいえる人型の穴を二つ穿った。

 そしてもちろん、即死級のダメージを受けて巻き戻るのだった。

 

 


 何度目になるかわからない初対面のあいさつをかわした後、ステラは言った。

 

「ばっちぐーです。津波イベントは起こらないようなので……行きましょう!」


 のんびりと歩きながら、なんでもないことのように。

 

「ショウト、わたしを人間の世界へ連れて行ってください」

「ああ、そうしよう。いい加減このゲームもクリアしないとだしね」

「ですです! モットーは明るく楽しく。気合いと根性もマシマシでー!」

「おっしゃ行くかー!」


 そんな感じで、最後の旅が始まった。

 

「……ところでステラちゃん、俺になんか隠してない?」

「ぎくっ! ききき気のせいだと思いますですよよよよ」

登場人物紹介


ステラ

本編のヒロイン。ある条件を満たすと巻き戻ってしまう砂漠で生まれたIEMの少女。

一見すると感情表現が豊かで、外の世界に興味を持っているようだが……?


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