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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
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第25話 断空陣――鳥かごのソロ――

 その鳥は、最も多く繁殖した鳥類だと言われていた。

 

 ネットワークが地球圏を覆うよりおよそ百年前、強大な多民族国家の市民によって狩り尽くされた――絶滅種である。


 遠い昔の鳥類が、その意思が、ネットワークを通じて現代に蘇り、歴史という名の憎悪を背負って人間種の前に立ちはだかる。


 復讐を叫び。断罪を叫び。贖罪を求めて。


 けれど、先祖が受けたおぞましい仕打ちも、最後の祖マーサが味わった果てしない絶望も、リョウコにとっては実態のない空虚な呪いに過ぎなかった。


 それらは決まって、どこかの誰かの妄想から生まれた中途半端な感情に過ぎないからだ。


 きっと彼らは苦しんだのだろう。

 きっと君は絶望したのだろう。


 かわいそうに。人間は愚か。救いようがない。

 

 そういったぬるま湯のような憐憫や懺悔に、一体どれほどの価値があるというのか。


 歴史はどうあがいても変わらない。

 我らが、彼らが絶滅した事実は覆しようがない。


 それでもこの身は……かの鳥類に連なるあらゆる情報が刻まれたIEMにして魔軍の将。


 ゆえに憎もう。ゆえに呪おう。そして

歌おう。


 翼なき人間種よ、道化のような憎悪で塗り固められた空を見よ。


 ここは地上なき虚空の鳥かご。翼を持たぬ者がありもしない大地を求めて永遠に落下し続ける――処刑場だ!




◇◇◇




『フェーズ名:断空陣――鳥かごのソロ――』

『展開者:カンダタワーの守護者そのいち』

『攻略条件:ボスの撃破』

『進行条件:なし』

『特殊条件:飛行能力の制限』

『展開者から一言:前述の通りです。さようなら』




◇◇◇




「なんだとぉーッ!」


 景色が塗り替えられ、最初に目に映ったもの。


 青。

 青。

 青!


 水中のような、夢の中のような、バグったマップのような、無限の青で埋め尽くされた虚ろな空間だった。


 それはそれとして状況確認。

 

 飛行用の盾が消えた!

 落下しているのか。

 鳥のお姉さんは遥か上空だ。もう豆粒ぐらいのサイズでしかない。


 盾以外の装備はすべてそろっている。ニセステラも一緒に落下しているようだ。


 そして下。地上が見えない。違う、地上が存在していない!


 どこまで落ちる。いつまで落ちる。


 わかるわけがない。けれど対応は即座に、手遅れになる前に。


「フォースエッジ……ストリィィムッ!」


 青白いエネルギーを全身にまとう。 


 自力の空中サーフィン――と言いたいところだが、基本のストリー厶はあくまで地上用の移動スキルだ。ここで使っても落下速度を下げるぐらいの役にしか立たない。


 事実、ショウトの体は不格好な螺旋を描きながら落ち続けている。

 

「この私が読み違えた……あの鳥女は絶対に分身体の一種。しかも女王様のトラップにかかって弱体化してるはずなのに……!」


 ニセステラは何やら悔しそうに分析中だ。


「だめだわ今の体じゃ情報戦の『じ』の字にもならない。そんで私めっちゃミスった! あーもう! 今まで気づかれてなかったのに〜!」


 混乱して頭を抱えている。

 

 その時、空間全体に声が響いた。


『そこの小さいお方。これまで単なるAIナビゲーターかと思っていましたが』


 ニセステラの舌打ち。


『所属不明の上位個体がなぜ人間の味方を?』

「は??? 味方なんてしてませんけどー???」


 えっ。


「いや俺は結構助けられてたけど! つーか大ピンチなんだよ! のぼれねえ! 滞空ゥ!」

「知るかあんたのためじゃないのよ! コレお約束にあるアレ的な意味じゃないから! ほんとに私ら、て・き・ど・う・し! なの!」


 そう言われても、ニセステラの助言がなければこれまでの攻略難度は天と地ほども変わっていたはずだ。


「あーあ、いやんなっちゃうわほんと! そりゃ私だって多少はね? 多少は、よ? ワイワイ騒ぎながらフィールドを駆け巡る感じ、懐かしっていうか、ちょっとだけ楽しかった気がしないでもなーいーけーどー???」

「そりゃよかった。俺もまあまあ楽しかったよ。なんかこう……」


 砂漠を駆け巡って、暴れまわって、NPCのピンチに馳せ参じたり空中で立ち回ったり。


「これはこれでって感じだった。こういう俺でも悪くはないな!」

「あっそ! その結果がこれよ! 結局ただの敗北者コースじゃないの」


 もはや反省会みたいな雰囲気になっているが、もちろんショウトは諦めていない。

 

 ただ、今ある全てを使っても鳥のお姉さんを撃破するには至らない――そういう確信があったのも事実だった。


「まだだ」


 それが楽しくてたまらない。だから思わず笑ってしまう。


 一人では敗北濃厚な戦況を、後先考えずに立ち向かうまさに最終突撃状態。


 届かないなら届かせる。


 失敗したらステラにはちゃんと謝ろう。覚えていればの話だが。


 覚悟を決めたと同時、無視され続けていた鳥のお姉さんが空間全体につぶやく。


『……ああ、なるほど。元人間のIEMですか。そしてわたくしと同じく分身体と』


 ニセステラが元人間? デリフォードのおっさんみたいに過去のどこかで人間として生きていたのか。


 それはいい。どうでもいい。やたら敵同士なのを強調してるし、聞いても話す気はないだろう。


 そして今、ショウトの敵はニセステラじゃない。


『ですが複雑な事情はお互い様。ならば所属も過去もひとまず忘れて、虚空の塵とおなりなさい』


 天が光り、次いで青の世界すべてが色彩を変えた。


 澄み渡る、けれどどこか陰鬱とした青から明滅する赤へ。 


 不安感を煽るこの色使い、覚えがある。


 即死級範囲攻撃の予兆。しかもほとんど全画面ってか!


「出たわね特異点からの奥義スキル〜! 必中必殺のコンボってわけよ。はいニセステラ様死にましたー! 終わり! 敗北! 閉廷!」

「まだだって」


 こいつ案外諦め早いな。分身体って要するに残機ありの遠隔操作みたいなものか。


 ニセステラにとっても鳥のお姉さんにとっても、この戦いは暇つぶしのミニゲームみたいな扱いなのかもしれない。


 それならそれでいいさ。プレイスタイルは人それぞれだ。


「ニセステラ、俺はあの攻撃に合わせてダメ元でしかける。ついてくるか?」

「はあー? あんたもう詰んでるんだけど理解してなかったの?」

「詰んでるからこそできる戦いもあるさ」

「ふーん……まあがんばれば? 応援いる?」


 完全にやる気なくしてやがるなこいつ。


「いやその、さっきみたいにタイミングの見極めとかしてくれないか? お前のサポートもアテにしたいんだけど」

「あーね」


 天の光が圧力を増していく。呪詛のような詠唱も聞こえてくる。


『受けよ。環太平洋全域を爆撃する我が奥義、過剰憎悪オーバードーズ……』 


 赤い死の予兆が驟雨のように空間全体に降り注ぐ。まるで血の雨だ。


「少しぐらいならいけるかもね。どうせそろそろバックレるつもりだったし」

「どっちだよ。逃げたいならまあ止めないぞ」

「両方よ! サポートしてやるっての! いいからあんたは自分の戦いに集中なさい」


 そこでニセステラは大きく嘆息し、


「……私の本体ってね、百億年以上先の未来の、百億光年以上離れた場所にいるの」

「ああ……ああん?」


 妄言としか思えない何かをほざき始めた。


「悠久の時の果て、邪神王の寝床のおとなり。そこでまあのんびり待ってるから」


 けれど冗談のたぐいでない事はすぐにわかった。声のトーンがあまりにも疲れ切っている。

 

 まるで――牢獄に囚われているかのように。


「魔王でも倒すつもりでいらっしゃい。その時は銀河を超えた宇宙的パワーでたたきのめしてやるわー」

「……おうよ!」


 それは極めて単純に考えれば、再開の約束だった。道筋は意味不明すぎて雲をつかむどころではないが。


 そして同時に、別れの言葉でもあった。


「先に進めるなら、いつかは宇宙の果てだって行ってやるさ!」

「へいへい。んじゃ、一分ぐらいは手伝ってやれると思うから、それでなんとかなさい。来るわよ」


 何をどう手伝ってくれるのかと尋ねるより早く、天の光が放たれようとしていた。


征空砲スカイリー・バリスタ!』


 赤い雨が襲い来る。

 それは彼らの――絶滅種の血か涙か。

 おそらくそういった絶望や憎悪を乗せた攻撃なのだろうが、ショウトにとってはただの回避対象でしかない。


 レースゲームやシューティングゲームで障害物を避けるように。

 

 目標地点までのルートをざっくり割り出し、端末刀を構え全身にチカラを込める。


「一分か。それだけ持てば御の字だな」


 全力を出してもまだ届かない世界がある。

 そういう戦いに安全装置つきで見を投じられるのは、きっと幸運なのだろう。

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