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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
26/28

第23話 人間は滅ぼさない

 得体の知れない不安があった。


 その原因の一端というか、半分ぐらいは目の前の光景にある気がしないでもないのだけど。


「おいおっさん! 本当にやれんのか!?」

「問題ない。青銅騎士団を甘く見ないでもらおう」


 瓦礫にまみれた砂漠の上、青い鎧のおっさんことデリフォードが身の丈ほどもある大盾を頭上に掲げている。そしてその不安定な足場でバランスを取りつつグラついているショウト。


 これが現状の危機を最速で乗り越えるための作戦らしい。


「あんた一人で団なのか……」

「そう言った。こう見えて私も今はIEMなのでな。人間とは一味違うぞ」

「別に、何も変わらないよ。俺もあんたも、同じ星の生まれさ」


 要するショウト一人を荒れ狂う嵐の元凶――ボスの居場所まで送り込み、なんやかんやで討伐する感じの流れだった。

 

 肝心のボスはどこにいるのか。狐耳の少女はてっきり上空から見物でもしているものと思っていたのだが、ショウトやデリフォードは確信を持ってこう断言した。


 カンダタワーに決まっている、と。


 そうなのかな。確かにこの砂漠で唯一目立つ背景だし、それっぽいような気はする。ただ彼らはそれぞれが独自に得た情報からその結論に至った様子だった。


 なんだか疎外感を感じなくもない。いつも通りの事だけど、自分は安全な場所でみんなの無事を祈って……待ち続けて……あれ? 


 なんだろうこの記憶。おかしいな。覚えがないのに懐かしい。不思議な感じ。


 だめだ。こめかみが痛い。これ以上は思い出せそうになかった。


「――では行くぞ少年。死ぬなよ!」

「ああ! おっさんやネコさん達もな!」


 デリフォードが腰を落として体をひねる。重いものを投げる動作だ。


「おおおお!」


 青い鎧の周囲から燃え上がるようなエフェクトが爆ぜて弾けて連鎖する。

 何かのスキルを使ったのだろうか。


「初歩的な肉体強化スキルであるニャ。ただ重ねがけの回数が尋常ではない。十やそこらではないと見た」

 

 少女の隣で身をかがめているネコAが解説する。


「初歩でもすごくない? あんなにたくさん」

「ウム……おそらくあの騎士、レベル一の最上位か」


 のんきに雑談している二人を尻目に、デリフォードは続けて叫ぶ。


「おおおおおおおおおおおおッッ!」


 うるさい。


「ナイツオブブロンズ! 投擲ィーーーッッ!」

 

 宣言通り、ショウトが乗った大盾をチカラいっぱいぶん投げて。


「ショウトくん!」

「んあ?」

 

 瞬間、少女は弾かれるように名前を呼んだ。

 

 こっそり見守るつもりだったから、本当は何も伝えないでいようと思っていたけれど。


 というか、どうせあの人は自分の言葉なんて右から左だろうし。でも、だからこそ、絶対に聞き逃しちゃいけない一言を瞬時に紡いで。


「先生がー! 怒ってたよー!」 

「……? そうか!」


 あ、だめだ。全然覚えてなさそう!


 結局ショウトの姿は、不思議そうな顔のままどんどん小さくなっていき、やがて嵐の壁へと吸い込まれていったのだった。




◇◇◇




 嵐の壁を突き破り、カンダタワーへ向けて一直線に飛翔する。


 ちょっとした空中サーフィンだった。ボード代わりの大盾はそれなり以上に不安定だが、乗り心地に文句をつけている場合じゃない。


「あーあ、飛んじゃった」

「ニセステラ! 今まで隠れてたのか?」

「当たり前でしょ。もともと私はあいつら全員ここで消すつもりだったし。じか……労力の無駄」


 人前では姿を隠すつもりらしい小さなニセステラが肩のあたりに出現する。


「それよりあんたさ、また誘い込まれたわよ」

「どういう事だ」

「あんたが脱出した瞬間に嵐が閉じたの。中の様子はわかんないけど、もうあそこに用はないって感じ? さてはて、この意味がわかるかしらー?」


 なんの興味もなさそうな聞き方だった。


「もしかして……俺、狙われてる?」

「さあ? まあ今のあんたって、どこぞの合体小魚みたいなもんだからね。一匹だけ黒いやつ」


 人間一人の状況が嫌でも目立つと言いたいのだろう。


「そうか、ようやく……」

「ふーん、気合だけは十分ってとこかしら。ぷぷぷのぷー」


 何やらバカにされている気がする。

 

「なんだよ。文句あんのか?」

 

 べっつにーと観戦気分でゴロゴロしているニセステラ。


 まだカンダタワーまでは少し距離がある。世間話でもするか。青いっぱいの景色に風が気持ちいいし。


「俺はさ、基本的には勝ち負けにこだわらないつもりなんだよ。なるべくだけどな」

「あらあら、負けたときの言い訳にはちょっと早くないかしらー?」

「そうだな。勝っても負けても、お互いを尊重しあえるような満足のいく戦いならなんの不満もないよ。でもな」

 

 軽口のつもりだったのだが、ショウトは思わず自身の心の深いところに触れてしまう。


「憎しみはだめだ。憎んで戦って、憎んで殺して、殺されたからまた憎んで……なあニセステラ、お前はそれが何か知ってるか?」

「月並みだけど……憎しみの連鎖ってやつよね。お約束にもあるわ」


 ショウトの真剣さに感化されたのか、ニセステラも真面目な感じで答えている。


「間違いじゃないけど、違う。……戦争だよ」

「あーね。あんたら大好きだもんね、人類史はセンソーの歴史だ〜なんて、使い古されたお約束よね〜」


 ショウトはグラつく上半身を制御し、鋭い眼光でカンダタワーを見据えた。


「もうわかる。あそこにいるボスは、俺に戦争をしかけてきやがった。元々ここはステラちゃんが守るべき世界だ。そこで負けるつもりはなかったけど、もう一つ、剣でも言葉でも勝たなきゃいけない理由ができた」


 端末刀フォースエッジを物質化させ、臨戦態勢に入る。


「何よそれ。なんかされたの?」


 先刻、わずかに気を失った時に見た夢――人類の繁栄を感じさせる都市郡、肌の色が違うだけでいがみ合う異国の人間、青空を埋め尽くす無数の鳥、その死骸。


 時代も場所も様々だったようだが、共通点はわかりやすかった。


 我らの祖が味わった絶望を、憎悪を、お前の精神に侵食させてやろう。


 そんな幻聴が聞こえてくるほどの、徹底的な憎しみの記憶を刻み込まれたような。

 とにかく憤懣やるかたない夢だった。


 それらをかいつまんでニセステラに伝える。


「そうねぇ、ネットワークが模倣したまがい物の感情とはいえ、それを歴史の情報とともに精神汚染に利用するなんて……」


 訝しむようにニセステラがつぶやく。


「こいつ侵食型か〜? あくまで誘いと考えると、眷属や強化とのハイブリッドあたり?」

「そう言われてもさっぱりわからん。長い説明は時間がある時にでも頼むよ」

「それもそうね」


 ニセステラが肩の上で仁王立ちをする。

 二人そろって似たようなポーズである。一応、こいつもやる気になっているのか。


「さ、お目見えよ」



 

◇◇◇




 フォールダウン――荒れ狂う嵐の囲いを抜け、妙な板に乗って飛んでくる人間の反応がある。


 この時を待っていた。


 どこの馬の骨だか知らないが、あのお方が気にかけるほどの人間種である。

 ただものであるはずがない。


 こんな場違いなエリアに単身で乗り込んで来たのだ。当然、腕に覚えはあるのだろうけれど。


 どれほどのチカラを持とうと、決して届かない、届かせてはならない領域というものを教え込んでおかなければ。


 リョウコ・ジャニングバートは静かにつぶやく。


「人間は滅ぼさない。それがあのお方によって定められた絶対なる掟。ですが」


 そして見た。盾か何かを乗りこなし、滞空している自分にまっすぐ向かってくる人間の姿を。


「……新たなる世界、その生態系に影響を及ぼしかねない害獣は、早急に駆除しなければ」




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