第22話 大乱戦ストライクブラザーズ!?
――……………………。
混濁とした意識の中で。
誰かの声が聞こえる。
『ねえお母さん。あの子はどうしてひとりぼっちになっちゃったの?』
『そうねえ。お母さんが小さい頃はまだいっぱいいたはずなのに、不思議よねえ……』
『なんだか可哀想だよ。檻の中に閉じ込められて、とても苦しそう』
『仕方ないのよ。弱い生き物なんだから人間が守ってあげないと。それにしても、ああ……一度ぐらいは』
『滅ぶ前に食べてあげたかったわね』
◇◇◇
誰かの声が聞こえる。
『やったよ兄ちゃん! 今日は三匹も獲れたからごちそうだね!』
『よこせ○○○○のクソガキが! ここは○○様の居住区だぞ!』
『あぐっ…』
『オラ! クセエえんだよテメエらはよぉ! コイツラに免じて見逃してやるからとっとと消えやがれ』
『やれやれ。クソまみれの○○○○と違ってコイツラは綺麗でいいねえ。最近は規制が厳しいっつうがよ、密猟者から奪い返したんだから生殺与奪の権利は俺が握ってるんだよな〜ギャハギャハ』
◇◇◇
誰かの声が聞こえる。
『すまないマーサ。僕らの罪を許してくれ』
◇◇◇
誰かの憐憫を感じる。
誰かの後悔を感じる。
誰かの希望を感じる。
誰かの愉悦を感じる。
誰かの祈りを感じる。
◇◇◇
誰かの声が聞こえる。
『人間を殺せ。やつらは終祖を辱めた』
『我らから空を奪い血肉を貪り、死体すらも利用して!』
『人間種に永劫の憎悪を!』
『人間種に永劫の贖罪を!』
『人間種に永劫の復讐を!』
「…………」
知った事かよ。
◇◇◇
気を失っていたのはほんの十数秒だろう。
もちろん戦場において致命的な隙ではある。だがこの場に居合わせたメンバーの助けもあり、スタート地点に巻き戻る事なくショウトの意識は覚醒していた。
「クッソ! 俺の考えた大乱闘ストライクブラザーズ大作戦が……ッ!」
「何そのどっかで聞いた事ありそうなやつ……」
割と本気で悔しがっているショウト。そこにささやかなツッコミを入れたのは見覚えある狐耳のNPC少女だった。
他にも謎のおっさんや謎の猫キャラが近くにいる。この突風吹き荒れる廃墟の砂漠で立っているのは四人だけのようだ。
「えっと、とりあえず状況を確認したいんだけど……君たちは?」
「それがしは猫である。名前はネコA」
「デリフォード寺井だ。所属は青チームだが故あって助太刀にきた」
「ワタシはNPCのモブキャラ。戦いはできマセンが回復アイテムが使えマス」
カウボーイみたいな猫の獣人。杖装備。
ガタイがいいプレートメイルのおっさん。大盾装備。
なぜかカタコト混じりな狐耳のモブっぽい少女。かばん装備。
……なんでカタコト? あのモブ少女、さっき普通に話していたような気がしないでもないが、ともあれ。
一体何がどうなってこの組み合わせになったのだろうか。
未だにチームの色とか把握しきれていないのだが、お三方が味方なのは間違いないと判断しショウトは即座に信用した。
裏切られても特に気にする性格ではない。ただ、信用に足る大きな理由として――
「ネコA……名前にA! ステラちゃんの眷属か!」
「ウム。いつも通り記憶が消されておるようだな人間よ。それよりも……あ、ニャー」
ネコAが何かをはぐらかす。すると横から巨体のオッサンが言葉を継ぐように口を開いた。
「ひどい顔をしているぞ少年よ。ここは戦場で、我らの命運が尽きかけているのは確かだが……悪い夢でも見ていたのか?」
「同感であるニャ。おぬし、姫の前で絶対にしてはいかん顔だぞソレは」
「……ああ、まあ、ちょっと」
悪夢と言われて思考を巡らす。
あの声はなんだったんだ。
声だけじゃない。僅かだが映像も見えた気がする。
巨大都市のダウンタウン。そこで生きる雑多な人々。
億を越えるであろう鳥の群れ。薄汚れ、血に染まる青空。
どこかの施設。檻に閉じ込められた一羽の鳥。
あとはもう、ひたすらに呪詛のような憎悪ような言葉の奔流だった。
朦朧とした意識の中でそれらが次々と移り変わっていき……登場人物のセリフと感情がダイレクトに注ぎ込まれるような感覚があった。
その結果。
自分は今、憎くて憎くてしょうがないという感情に支配されかけている。
率直に言ってキレそうだっだ。
さっきから腹が立ってしょうがない。
精神攻撃の一種かもしれないが、考えれば考えるほどイライラしてくる。
だから叫んだ。
「くそ、くそっ……ニセステラー! 俺の敵はどこだァーッ!」
返事はない。代わりにシステムが応答した。
『システムメッセージ:
ニセステラはちからを溜めている……!』
――いや何やってんのあいつ!? 暇だからってシステムで遊んでんじゃねーよ!
とりあえず話をする気も出てくる気もないらしい。
ならばどうする。
「きゃー! きゃー! 風! 風がまた強くー!」
「いかんな。少年のスマッシュ……失礼、ストブラ作戦による時間稼ぎもここまでか」
「デリのおじさん! ショウトくんの作戦が理解できたんですか!?」
「嵐の外から見ていたからな。要するに大量のエンカウントを利用した質量攻撃だろう。数千のモンスターを嵐壁にぶつけて風のリソースを大量に消耗させたのだ。おかげで侵入の手間が省けた」
おっさんと少女の会話にネコAが私見をまじえる。
「おそらくそのように適切な対処がしたかったワケではないぞご両人よ。こやつの事だから野良モンスターとここにいる全チームが入り乱れた大乱戦を目論んでおったに違いないのニャ」
「う、わかる! それはすっごくショウトくんっぽいかも〜!」
「ほう、窮地において遊び心から最良の結果を導き出すとは……さすが殿下の見込んだ人間というわけか」
それぞれが言いたい放題だった。
どの発言に対してもツッコミを入れたり訂正したりする余裕はない。大体合ってるし。
ショウトの精神的にも、時間的にも、今すぐ動かなければ戦局はどんどん絶望的になっていくだろう。
自らの内から生じた怒り。
誰かに注ぎ込まれた憎悪。
ちょっぴり恥ずかしい自分への評価。
それらをいったん横に置き、ショウトは努めてニュートラルに即席の仲間たちに向けて提言した。
「よし、みんなチカラを貸してくれ。今がこの戦いのターニングポイントなんだ。勝敗の境い目なんだ。一番熱いシーンかもしれないんだ!」
おっさんは快諾し、ネコAはヤレヤレという感じで了承し、モブ少女は「やっぱそういう流れか〜……」と諦めがちに受け入れた。
◇◇◇
作戦は大きく分けて二つ。
嵐の原因をショウトが取り除く。
他のメンバーでその時が来るまで持久戦をする。
すでに風の暴威は元の強さに戻りつつあった。遠からず鳥人間みたいな形をしたカマイタチ現象も復活するだろう。
白の砦が再び嵐の結界で閉ざされようとしている。内部からの破壊および脱出の可能性は検証のしようがなかった。
結界が再始動すれば全滅が確定する。
そういう認識で挑むしかない戦いなのだ。ここは。
一方、白チームは壊滅状態だが、わずかに生き残った重症者が瓦礫の中で息絶えかけていた。
彼らを放っておけないというのがモブ少女の主張で、そこに異を唱える者はいなかった。
「作戦名はどうするよ!? やっぱ何かのゲームから、こう嵐をぶち破る的なやつを付けたいところだなー!」
「ショウトくんはもうちょい危機感を持ってほしいんですけど! 著作権的な意味でも!」
「名前とな。ウーム、作戦A以外に思い浮かばんニャ」
若い衆をたしなめるように、デリフォードが静かにつぶやく。
「……裂空の電撃戦」
「なにそれかっこいい!」
「よっしゃじゃあそれで!」
「おお……ははは、おじさんのセンスもまだまだ現役だな!」
とまあ、全滅間近だというのに緊張感など微塵も感じさせない雰囲気ではあるのだが。
作戦名『裂空の電撃戦』が今まさに始まろうとしていた。
登場人物紹介
NPCのモブ少女
ショウトの幼馴染。なのだがとある事情から意識だけがこの世界に巻き込まれており、自分が人間なのかNPCなのかはっきりと認識できていない。基本的にショウトの邪魔をしたくないと思っているので名前や正体を明かすつもりはない。明かしたところでショウトはたぶん覚えてない。
ネコA
ステラの眷属。眷属にはIEMが自分の肉体から生み出すタイプと契約により主従関係を結ぶタイプがある。ネコAは前者であり、ステラが自分の髪の毛に『かわいさのお約束』を込めて生み出した。その結果、世界一可愛いものは猫であるという共通認識により猫の姿になるのだが、性格の設定を決めていなかったためよくわからんやつになってしまっている。年食った感じの話し方だが声は高い。あと無性。
デリフォード寺井
カロンの眷属で主従関係を結んだタイプ。元人間のおっさん(名古屋勤務のサラリーマン寺井)がIEMに転生し異国の地で騎士団長となった(姿はほとんど元のままなので普通に人間にしか見えない)。青銅騎士団は戦力としては心もとないが生真面目で民草からの人望が厚い感じの組織。招集にもすぐ応じてくれる。
※今年最後の投稿ができてよかった。
読んでくれた方もそれ以外の方もまた来年よろしくおねがいします!




