第19話 『ハチドリ』
そこは禍々しきベースボール・スタジアムという感じの施設だった。
先ほどからバックスクリーンみたいなモニターにどこかの砂漠が映し出され、ウグイス嬢を思わせる美しいアナウンスが施設全体に流れている。
『……女王の第一フェーズ開始よりおよそ十五分後、謎の飛び入り参加者のためか三分間のインターバルが設けられました』
暗黒大陸にそびえる魔城の内部である。
どうやらどこかのスタジアムを再構成し城内に設置したものらしい。
――ふむ、魔王城に野球場とな? なんとも妙な話だが、コロシアムのように捕まえた人間を人間同士やモンスターと戦わせて楽しむ施設だと考えれば納得がいく。まったくもって魔王軍っぽい興行ではないか! ワハハハハ!
宇宙服の大男――レオナルドはそんな自分なりの解釈を魔軍司令クライスティナに提言したのだが、「そうだな、そういうのもアリか」と雑にあしらわれただけだった。
適当な観客席に座り耳ざわりのよいアナウンスに身をゆだねる。
スクリーンでは何やら波のようなエネルギーをまとった少年が複数の鳥型モンスターと交戦する場面が映っていた。
――ほう、あれはまさか人間か? 荒廃しきった砂漠だらけの世界でもあのような若者が生き延びているとは……なかなかに興味深い対象だ。
『乱入したのはどうやら人間の少年のようですが……それから五分後、彼は『ハチドリ』の分隊と交戦しこれを撃破。そのまま中隊規模の『ハチドリ』先遣隊の後を追い、『白』チームの拠点と思われる座標を目指し進んでいます』
スタジアムの中央付近、ピッチャーマウンドあたりに視線を移す。
そこにいるは解説者だ。絢爛な容姿の女性と言って差し支えないだろう。
ただしそれは人間としてではない。
魔族……鳥獣……? レオナルド的には『鳥人間』という呼び方がしっくりきた。
青黒水色、三色のロングヘア―と同じような配色の両翼に加え、派手めなオレンジ色の体毛だか衣服だかよくわからない恰好をした女性型モンスターだ。
レオナルドのイメージとしてその鳥型のIEMを表現するなら、
――ふむ、どうにもウグイス嬢のイメージが強いな。あるいはスッチーか。魔軍司令どのに言わせれば会話が通じる秘書みたいなポジションのようだが……だがしかし、何よりも彼女に感じたイメージは『戦隊モノの女幹部』である!
うむうむと納得しつつ、レオナルドはリラックスして鳥女性の解説を傾聴する。
『この特異点、どうやらかの夢の世界とは異なり、露骨な抜け道があるようです。お姉さま……ではなく、クライスティナ様はどのように』
彼女の名前は蜂鳥将軍代理、リョウコ・ジャニングバート。
魔軍司令補佐にして『ハチドリ』の最高指揮権を持つ有力者である。
それからもう一つ、彼女に関する重要な情報を付け加えるなら――
かつて人類に滅ぼされた鳥類の一種である。
「………………は? え? 待て」
観客席のどこかでアナウンスを聞いていた魔軍司令の第一声がそれだった。
スクリーンに映し出された砂漠の映像を確認し、思わず漏れた感じの一言だ。
「なぜあのバカが……まさか女王に挑むつもりか……? ここまで頭が悪いとは……」
どうやら例の乱入してきた少年に思うところがあるらしい。
なんだろう知り合いか? レオナルドは訝しんだ。
多少ヒステリックな面があるとは思っていたが、たかが人間一人を見ただけでここまで動揺するとは。
「ま、まあよい。『ハチドリ』よ、抜け道があるという事は、こちらから意図的に戦力を投入できるのだな。回りくどい手を使わずとも」
『可能ではありましょう。ですが、どう見ても罠では?』
「構わん。カスどもを使い潰せ。女王の意図と戦力を探るいい機会だ」
『ならば……』
アナウンサーことリョウコはしばし考えをめぐらし、こう答えた。
『わたくし自ら参りましょう。無論、配下の大隊も同行させます』
「許す。だが最低限の分身は残していけて。貴様にここで落ちてもらっては困る」
『もったいなきお言葉にございます。ぽっ……』
何やら魔王軍に動きがあるらしい。まあ自分には関係ないだろう。
レオナルドはあてがわれた自室で歴史的なロボットアニメでも見ようかと思い席を立つ。こう、研究用に。ヒマだとか遊びだとかではなく。
いやいやほんと、モンスター開発の参考にするのだよ。
離れた席からクライスティナに呼び止められる。
「魔軍将レオナルドよ、どこへ行こうというのかな?」
「ちょっと観たいアニメがあるのでね。この場は失礼させてもらう」
「…………」
劇毒のような殺気がスタジアム全体を包み込む!
「そう凄まれても困るのだがね。あの戦場で私にできる事は少ないのでは?」
「わざわざ本体が出向く必要はない。リョウコのように分身を使え。特異点での戦闘は上位のIEMにとって主戦場と言える。まずは何よりも体験してこい」
「ふむ……やれというならやってみせるが……あの少年と接触しても?」
その言葉を聞いて、魔軍司令は怪しげな仮面の下で凶悪に微笑んだ。
「楽しみにしているよ」
◇◇◇
小動物をいたぶるぐらいの感覚だったのだろう。
渡り鳥のように上空を移動する数百体の『ハチドリ』のうち、ショウトを狙って降下してきたのはわずか五体だった。
「こんなとこに人間だァ!?」「どういうこったオイ!」「知るか殺せ!」「殺せェ!」
ショウトの体にへばりつくニセステラは適当に成り行きを見物していた。
まず、コピペみたいなピンクのクソザコ鳥モンスターが何匹が降りてきた。
そいつらは明らかにショウトに敵意や殺意を持っており、戦闘は不可避だった。
「俺たちゃ『ハチドリ』の鉄砲玉よ! 一度飛んだら止まらねェーーーーーッ!」
鳥獣人といった姿をしているが、あいつらは基本的にチンピラの一種である。
頭の悪そうな言動と汚らしい嘲笑を儀式のように行うあいだ、ショウトはなんかぶつぶつと呟いていた。
「うーん試してみるか? 一秒ぐらいなら……なんとかなるだろ!」
リソースの効率的な運用方法でも考えていたのだろう。脆弱な人間は大変ねえ。
はやくこいつを言い訳の一切できない接待的な舞台でぶちのめしてやりたいわー。
どうせこの程度の相手なら楽勝でしょーとゴロゴロするニセステラだったが。
「あんぎゃあああああ!」
例えるなら一瞬だけジェットコースターのメインディッシュを味わったような。
視界がめちゃくちゃにグルグル回り天地が何度も逆転した次の瞬間。
五体の『ハチドリ』とかいう連中は全員が八分割ぐらいにスライスされていた。
ボトボトと砂漠に落ちる頭やら胴体やら手足やらがきっちり五セット分。
ついでのように何かが降ってきた。串刺しにしていたゴブリンだ。
ショウトはどれにも目をくれず西の空をにらんでいる。
「鳥野郎どもの集団が見えなくなった。あいつらどこに向かってたんだ?」
「んああああ! 今の何!? 急に変な動きしないでよバカ!」
「ちょっとした必殺技だよ。それよりお前なんか知ってる?」
舌打ちをしつつシステムメニューから地図を表示するニセステラ。
「そうねえ。あの方角だと『白』チームが配置された座標かしら」
「色じゃわかんねーよ」
「要は獣人の都にいた連中ね。一般人みたいなIEMが多かったしこのままだと……」
「全員殺されるか……うーん」
ショウトが悩んでいる。その姿をニセステラは意外に思った。
――あれ? こいつこんな薄情なやつだっけ? なんかこう弱者を守るヒーロー的なタイプって好きそうな感じあったけど……。
ニセステラとしても獣人の都の住人なんてゴミ以下なのでどうなろうと興味はない。
「どうでもいいならカンダタワー行っちゃう? そこのゴブリン(ゴミ)も死にそうだし」
「いやさ、あそこでどうしても分からなかった事が二つあるんだよ」
「なになに」
「俺を知ってる人たちがいた。もう一つはまあ、今となっちゃどうにもならないな」
「ふーん……」
ショウトが気にかけている二つの事柄。
そのどちらの答えもニセステラは持っていた。
もちろん教えてやる義理はない。
答え自体は下らないものだから、気が向いたら教えてやってもいいけど。
でもやっぱりアホみたいな事柄に悩む姿が面白いから教えてあげない。
アドバイスぐらいはしてあげるけど。
「じゃあそいつら普通にあんたの知り合いなんじゃない? なんとなくだけど、あんたって戦いの記憶より人の記憶の方が戻りづらい感じよね」
「それな。フォースエッジを起動してると体の動かし方が思い出せるんだよ。だから戦闘はもうほとんど問題ない。リソースのやりくりはともかく」
ふーんと興味なさそうに相槌をうつニセステラ。
「よかったわね。で、どっち行くのよ。北のカンダタワー? 西の『白』エリア?」
「なんつったっけ……鳥。ハチドリか。『ハチドリ』の後を追おう」
「そいじゃ使えるゴブリン(ゴミ)にもうちょっと頑張ってもらわないとね」
「ああ……」
スッとショウトが端末刀の持ち方を変える。杖をつくように。
「助かったよ。ありがとな」
ぼろきれを装備したゴブリンの眉間を貫き、そいつは砂に還っていった。
「は? こいつ殺してどーすんのよ。まーたエンカしながら進んでくの?」
「けっこう大きな戦いになりそうだからな。ちょっと……いや……」
西の空を見上げ、ショウトは不敵に笑った。
「めちゃくちゃにハチャメチャな策を使おう」
◇設定資料のような何か
『ハチドリ』
魔王軍が持つ軍団の一つ、蜂鳥軍団に属するモンスターの通称みたいなものです。
人間風に言うと田舎に住んでる人を田舎モンと呼ぶような感じですね。
基本的に野蛮なモンスターが多く、空を飛べて戦闘力も結構あるため厄介です。
クライスティナ氏いわく、
「歴代の蜂鳥将軍は性格が手を焼く連中ばかりで何度処分したかわからん」との事。




