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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
2/28

第1話 わたしはたぶん、まほうつかいです!

 目を開けると、どこまでも続く青空が見えた。それがショウトにはたまらなく嬉しかった。

 またここに戻ってこれた。何度も何度も繰り返した夢のようなゲーム世界。

 もう一度やり直しだ。二人きりの旅路は、まだまだ続くようだった。

 

 二人と言ったが、今の自分は一人きりで真っ白な砂漠のど真ん中に佇んでいる。

 

 空の青と大地の白。たった二色で構成された景色はあまりにもスッキリしすぎていて、どこか物寂しさを感じてしまう。

 

「俺は……ぐっ……」


 こめかみの辺りがズキリと痛む。記憶情報が改ざんされたのだろう。

 今回はどこまで覚えているのか。

 

 ――今回、か。

 

 そういう認識ができるあたり、巻き戻りの際に起こる記憶喪失はそれなりに軽い部類に思えた。

 

 まずは自分の姿をチェック。

 装備しているのはボロきれのようなマントと懐中電灯を思わせる端末器具。マントの内側は動きやすい布製の旅装だ。ゲーム的な表現をするなら『旅人の服』といった所か。


「俺の名前は……ぐおお……思い出せ俺! いけるいける! なんとかなるだろー!」


 バンバンと側頭部を叩きながら勢いに任せてひとりごちる。

  

「そうだよ俺はウラシマ・ショウト。普通の人間で、職業は戦士。年は十六……十七になったのか? ゲーム脳の戦闘狂でイノシシみたいに突撃する戦いが大好きだ。性格はたしか周りからバカとかアホとか言われたな……よし!」


 なんかめっちゃ覚えてるな。スラスラと思い出せた。だがそこまでだった。

 今まで何をしていたのか。どこで暮らしていたのか。砂漠のど真ん中で立ち尽くしている理由は……なんとなくだが理解できる。

 

 そして何よりも、胸の奥底に刻まれたあたたかな想いが確かに残っていた。


 そうだ。俺はいつも待っていた。ゲームのような――夢のような砂漠世界における唯一無二のパートナーが迎えに来る時を。

 その子の姿はぼんやりとしか思い出せない。雲っぽい見た目の女の子だった。

 

「……」 

 

 懐中電灯のような端末を握りしめ、ぐるりと体をひねって後方に突きつける。

 

「そこだーーー!」

「ひょえーーー! ノーノ―! わたし悪いIEMじゃありませんのです!」

 

 タイミングを見計らっていたのだろうか。真後ろには予想通り、かすかに記憶に残っていた女の子がびっくらこいてバンザイというか降参のポーズをしていた。

 

 空を思わせる青い瞳以外、何もかもが白一色の少女だった。


 特徴的なのは雲がまとわりついているようなふわふわモコモコの長い髪。

 装備しているのは砂漠の民が愛用する白いドレスだ。こちらもずいぶんとボロボロになってしまっている。

 

 正確な名称はカンドゥーラという男性用の装束なのだが、裾の長いワンピース型なので女性が着ても違和感はない。


「お見事です。その様子だと今回はいい感じに記憶が残っていそうですね、ショウト!」

「どうかな。君が大事な仲間だってのはわかる。でもそれだけだ」

「そうですか。では、せっかくなので……いつものアレ、やっちゃいましょう!」

「よーしやるかー!」


 いつものアレってなんだろう。とりあえず勢いでなんとかなりそうな気はする。

 少女はダンスでも踊るように軽やかなターンとともに語り始めた。

 

「わたしの名前はステラ。職業はたぶん、まほうつかいです。そしてこの砂漠は時間が巻き戻る夢の世界。人間の方々からすればゲーム世界のようなものでしょうか。わたしはこの世界で生まれ、あなたと出会い、共に長い旅をしてきました」


 びしっと空を指さして元気よく。


「そうですわたしこそが時間の迷子たる謎の少女!」

「謎の少女っていう前に思いっきり名乗っちゃってるよね!?」

 

 もっともなツッコミをスルーして、謎の少女(自称)――ステラは続ける。

 

「IEMのステラと申します。職業はたぶん、まほうつかいです!」

「どっちもさっき聞いたんだけどー!」

「大事なことを二回言うのはお約束ですのでー!」


 こんな感じで、何度も繰り返したらしいやり取りを経て、ショウトとステラは再開を果たしたのだった。







 地面が震えている。ゴゴゴゴと低く唸るような音が彼方から聞こえてくる。

 

「さぁさぁ、新しい旅の始まりですよ、ショウト!」

「うん……それはいいんだけど、俺たちはこの砂漠で何をすればいいんだい?」

「その辺はおいおい話していきましょう。まずは前進あるのみです!」

「おっけー。とにかく進み続ければいいんだな」

「ですです。向かうは東の果て。そこがゴール地点に設定されていますので」


 ステラが先導し、とったとったと軽やかに歩を進める。

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 腕を振り歩いていたはずのステラがぴたりと動きを止める。それどころか、ささやかに感じていた風の流れや雲の動きすらも完全に静止したのだ。 

 もちろんショウトの体も微動だにしない。だが意識ははっきりとしている。

 

 不可解な現象はそれだけに留まらなかった。

 

 ショウトの視界に謎のメッセージが表示される。

 

 

 

 ①まずIEMとは何かざっくりでいいから説明なさい。あんたの主観でいいから。

 ②これは強制イベントだからね? このままだと時間が先に進まないわよ?

 



 どう見ても選択肢というか実質一択肢だった。

 凄まじく怪しく思うものの、周囲の何もかもが動きを止めている。

 仕方ないのでショウトは①を選択した。




 ――IEM。ショウトの持つ知識から説明するなら、地球を滅ぼした敵種族モンスターだ。そいつらは地球の仕組みそのものをめちゃくちゃに改ざんし、この星から多くのものを奪っていった。

 

 例えば生命。『人間』に分類される種族の数はもう億の単位を切っているだろう。

 

 例えば大地。この真っ白な砂漠のように、地上の大部分は白色化してしまっている。

 

 それから、かつては世界中で日常的に活用されていた惑星規模のインフラストラクチャ――ネットワーク。

 

 要するにIEMとは、人類にとっては完全に敵側の存在なのだ。


 とはいえ、ショウト自身にそういう認識はあまりなかった。

 人類とIEMが戦争をしていたのは十年以上昔の話だ。

 ひどい戦いだったとは聞いている。だがそれがどうした。

 

 何が敵かは自分で決める。人間だろうとIEMだろうと関係なく。

 目の前にいるステラのように、良き隣人になれればいいとは思っているが。


 敵になるならそれはそれで大歓迎!


 闘争こそが人の本質だと誰かが言った。

 そう思う。とてもとてもそう思う。

 

 ショウトには目指す場所がある。辿り着きたい境地がある。

 戦いとは、闘争とは、その道のりに必要不可欠な要素に他ならない。

 目の前に立ちはだかるのなら、誰であろうとぶった斬って突き進むのみである。


 ウラシマ・ショウトとはそういう人間だった。 

 

 

 

 ③あらまぁ、ちゃっかり自己紹介まで済ませちゃってるじゃない。まあ特別に許してやるわ。この砂漠の主人公はアンタだもんね。そんじゃ、まったねー。

 

 

 

 時間が動き出す。敵種族の少女が何事もなかったかのように話しかけてくる。

 

「そうそう、この砂漠は『第一の砂漠』に入る前の……リスポーン地点? みたいなものなのですが、運がいいと何も起こらず次の砂漠に進めるんですよ」


 どうやらステラは今の謎現象に気づかなかったようだ。

 ならば、この件についてはひとまずスルーしておくのが無難な選択だろう。


「運がいいと、ねえ。そういう言い方だと明らかになんか起こりそうだけど」

「と言いましても最近はイベントなんかもさっぱりで、本当に何事もなく……」

「うん? どうしたのステラちゃん」


 再びステラが動きを止め、頭部に三点リーダを表示させて苦々しい顔つきになる。


 そこでショウトはふと思った。

 そういえば、先ほどから聞こえているこの地鳴りのような音はなんだろう。

 ドドドドド、という効果音が明らかに大きくなっているのだが。


「ダメみたいですね……」

 

 答えはすぐに判明した。ステラが明後日の方向を見ながら叫ぶ。


「――げえっ!? あれはもしや低確率で発生する殺意マシマシの極悪イベント!」


 つられてショウトも同じ方角に視線を移す。

 

「げえっ!? なんだあれ!?」


 ステラの行動がちょっとわざとらしく感じたが、なるほど確かに。誰だってこんな反応をせざるを得ないであろう光景がそこには広がっていた。


 どこからどうツッコミを入れたらいいものか。

 

 それは地平線の彼方から砂漠を埋め尽くさんと迫り来る――津波だった。

 

 どこまでも続く砂漠世界で、唐突に、水飛沫をあげ左右に広がる巨壁となってどしどしとこちらに向かっている。

 

「え、ちょ、待って。あれヤバくない? あんなん俺ら普通に死ぬよね?」

「死にはしませんが、飲み込まれると確実に巻き戻っちゃいますね」

「巻き戻ると最初から?」

「もちのロンです。まあ序盤ですし、運が悪かったと思い諦めるのが得策かと……」

「いやいやいや、何もせずに諦めるのはダメだよ。どうせゲームの世界なんだし、できることはなんでも試してみるもんさ」


 なんのイベントも起こらないゲームなんて虚無そのものだ。

 ゲームとは、物語とは、ほどよい刺激があってこそ楽しめるのだから。

 

 ステラもショウトの前向きな姿勢に触発されたのか、ぐっと両手を握りしめる。

 

「はい、その通りですね! ではあの津波に対してショウトはどのような対策を!?」

「そんなの決まってるさ」


 軽くストレッチをして、ショウトは一目散に砂漠の大地を駆け出した。


「逃げるんだよォーー!」」

「おっけーです! すたこらさっさーというやつですね!」


 そして元気よく逃走を始める人間の少年とIEMの少女。

 結構なピンチのはずなのに、全力で砂漠を駆けるショウトは不思議と安堵していた。


 またここに戻ってこれた。きっと何度も何度も失敗した。

 一人ではどうすることもできなかった。二人になってからでさえ多くの障害に阻まれ、些細な失敗から数えきれないほどリスポーンしてしまった。

 

 忘れ去られた旅の記憶。その中で、確かに覚えていることがある。

 

 ――俺は人間だから、外の世界には帰る場所があるはずだ。けれど、この子はまだゲーム世界の住人でしかない。

 

 それはほとんど幻のようなものだ。

 数多の情報によって構成された敵種族のモンスター。IEM。


「はい! IEMのMはモンスターのMです! と言いますか、悠長にモノローグをやってる場合じゃないですからーーー!」

「モノローグってなんだー!?」

「なんなんでしょうねーホント!」

登場人物紹介


ウラシマ・ショウト

本編の主人公。記憶がリセットされて巻き戻る謎の砂漠をさまよっている。

なお本人はそこら辺に関してそこまで気に留めておらず、ゲーム感覚で楽しんでいる様子。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 敬語でハイテンションでふわふわしたヒロインかわいすぎませんか……?ショウトとドタバタしながら仲良いのもかわいい…… [気になる点] 天の声がなんなのか気になりますー! [一言] 連載開始お…
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