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!?砂漠から始まるお約束だらけのゲーム的なロ―ファンタジー  作者: ハル山ルチロ
空の青、大地の白
16/28

第15話 どこにでもあるクソゲー

あらすじ:獣人の都の人々すべてをコロシアムへと移動させたニセステラ。その常軌を逸した光景を目にしたショウトはステラと再会し、この世界で起きている事件の概要を知るのだった。

 空が茜色に染まり始める頃だった。

 

「移民問題、とでも言いましょうか」


 四角い城壁に囲まれた獣人の都。

 立方体のブロックが立ち並ぶメインストリート。

 創立記念祭の残滓と思しき、主人を失った出店の数々。

 

 それらが石畳の通路に長い影を落とし、行く手をさえぎるように光を拒んでいる。

 

「リジ―ちゃんたちがここへ来た問題と、私にそっくりなあの子がヤンチャしている問題。言うまでもなくこの二つは関連しています。ただし、根っこの部分はまったくの別問題なんです」

 

 広場のすみっこ、何かの屋台横のベンチにショウトとステラは座り込んでいた。

 ステラは覚悟を決めた表情で、ショウトは考えをめぐらすように。

 

「……この世界がゲームの中だとすると、ニセステラはシステムに干渉できる管理者クラスで、ちびたちが外の世界から流れ込んできた移民の一部って感じなのかな」

「そうですね、例の鳥獣型IEMやトカゲAことアニキさんが所属するグループ。これだけでも千に近い勢力のようなのですが、他にも複数、同時期にこの世界へやって来た方々がいるみたいで」


 他の方々と聞いて真っ先に思い浮かんだのはカロンとシャロンだ。

 青と赤のローブを装備した、おそらくは金髪の若い兄妹。

 

 あの二人の目的はなんだろう。

 

 トカゲ連中やバードマンは暗黒大陸から転生してきたようなイメージだったが。

 

 カロンたちも自国から追放されたとか、逃避行の末追っ手の凶弾に倒れて転生、みたいなバックストーリーをなんとなく想像する。

 

「ともあれ、招かれざるお客さんであるのは間違いないのです。ここはあの子に任せて移民モンスターを一網打尽にしてもらうのもアリアリでしょう。砂漠は本来の姿を取り戻し、私たちは次なるステージを攻略するのです!」 

 

 考えていると、ステラがちょっと聞き流せないレベルの発言をしていた。

 

「ステラちゃん、それマジ!? 俺らそんなスタンスでいいの!?」

「半分ぐらいは本気です。わたしたちの立場は、どちらかと言えばあの子の……ニセステラの側ですから。それに、ニセステラは掌握型の特性に『レベル二以下のIEM』という条件をつけていました。おそらく管理者権限でも同じ事をするでしょう」


 それがどういう意味なのかショウトにはよくわからない。

 

 掌握型の特性。これがモンスターを自在に操る能力というのはわかる。

 だが管理者権限は――なんだろう、ルールを作るチカラとでも考えればいいのか。


 例えばニセステラは、意図的にステラとの接触を避けていたようなフシがある。

 そんなやつが『コロシアムはレベル二以下専用の施設なのよ!』みたいなルールを作った場合……

 

「あいつ、ステラちゃんを徹底的にのけものにする気か」 

「それなんです! わたしはたぶん、コロシアムで行われる『何か』に対してまったく干渉できません。ぶっちゃけ役立たず確定みたいなもんですよ! でも……」


 しゅんと視線を落とすステラ。膝の上ではちびトカゲのリジ―が眠っている。

 トカゲ少女のつるつるした緑色の頭部をステラがそっと撫でる。

 

「わかっています。子供たちはどんな種族であれ大事なものです。守ってあげたい気持ちだって持っています。それでもこの世界にはもう、移民の方々を受け入れられるほどのリソースは残されていないんです」


 本当にそうなのかとショウトは疑問に思う。


「うーん、ニセステラが原因だと思うんだけど、ここらの砂漠って最近妙にハッスルし出した感じなかった? エンカ率がめちゃくちゃになってたりさ」

「ありましたありました。新しい管理者としてアレコレやっていたのでしょうね」

「あいつなら持ってるんじゃあないかな。大量のリソース」

 

 自分から言い出しておいてなんだが、議論の余地がないような気がする。


「ええとその……あの子が余分なリソースを使ってこの世界の修復やら拡張やらしてくれるような子に見えました?」

「ああ、うん。ないわ。絶対にない。この世界だってはよ滅ぼせとか言ってたしなあ」

「それ一番困っちゃうパターンですよわたし! ここが滅んだらわたしも一緒に消えてしまいますし。もうほとんど八方ふさがりで……」

「…………ん?」


 今なにか、驚愕の事実を明かさなかったか?


 ショウトから強烈な閃きがピコンと浮かびそうになっている。

 

 ステラは目を閉じ、悲愴な声でかすかにつぶやく。

 

「このままでは、わたしの世界は……わたしが本当に守りたかったものは……」

「…………わかった」


 ショウトがはたと立ち上がり、黒と茜色に染まった広場を見ながら呆然と答えた。


「全部つながった。夢の世界とステラちゃんの関係。君が守りたかったもの。君が守れなくなってしまうもの」

「はい……もう、隠す意味もありませんから」


 そこからショウトは、儚くうなだれるステラにいくつかの質問をぶつけた。



 




「やっぱりクソゲーじゃん!」


 それがステラの隠し事を完全に理解したショウトの第一声だった。


「夢の世界が滅んだらステラちゃんも消える!? ステラちゃんが消えても夢の世界ごと滅ぶ!? そんで何もしなくても近いうちに滅ぶし今すぐクリアしても結局滅ぶ!? は~~~~~~」


 ダメだこりゃという感じで天を仰ぐショウト。

 

「クソゲ~~!」

「その通りです! こんなもんくそげーですよくそげー! ですが、でも……」

「うんうん。吐き出したい事があれば全部ぶちまけるといいよ」


 ステラに優しく対応しつつ、あ~マジクソと雑にぼやく。

 

 夢だかゲームだかよくわからないこの世界の正体、というか本質とは。


 プレイヤーの望みがどうあがいても叶わない、八方ふさがりの超絶クソゲーだった。

 はいクソ~!

 

 伝説のアクションゲームで例えると、どのルートを攻略しても桃のお姫様が偽者だったりボス亀に篭絡されたりするようなものだ。

 

「本当にくそおぶくそですよね、わかります。それでもこの世界は……わたしが生まれ育った場所で、わたしと一緒に育った子たちがいて、わたしが作った子たちがいて……本当に、たいせつな場所になってしまったんです。切り離したくない。でもショウトについていってみたい。でもそうすればこの世界は確実に消滅してしまう」


 諦念のこもった表情でステラは俯いていた。

 

「わたしに出来たのは、ただ弱まっていく世界の輪郭を繋ぎとめる事だけでした。もう、どうすればいいのかわかりません」

「……ステラちゃん。これ見て」

「なんでしょう」


 端末刀を待機モードに戻し、巻物を紐解くようにウィドウパネルを引っ張り出す。


 モザイクだらけのホーム画面だ。相変わらず何がなんだかわからないが、ディレクトリを掘ったりコントロールパネルらしきウィンドウをいじくりまくる。

 

 一つのアプリケーションが立ち上がった。画面は当然のようにバグっている。

 

「??? 何かのゲームですか?」

「これはね、どこにでもあるクソゲーなんだ。それはもうひどいクソゲーさ」

「と言いますと……『レベルを上げてパワーで殴る』ような?」

「うーんもうちょっと手前の時代かな……『最初の雑魚がふっかつしゃ』的な」

「その時代ならば……『たし○の挑戦状』?」

「いい感じだ。『段差で即死ランナー』!」

「なるほどー! 『○ンコイ』!」

「いいじゃんいいじゃんー!」

「歴史に残る伝説のクソゲーですね、わかります!」

「いぇーい!」


 テンションを上げハイタッチしつつショウトは驚愕していた。

 いま列挙されたのは、ステラの言う通りどれも数百年前に歴史に刻まれた最高級のクソゲーたちだ。

 

 それはコンピューターゲームの黎明ともいえる時代だった。

 

 ネットのない時代に様々な大人の事情で生み落とされた数多くのクソゲーは、しかしプレイヤーたちの圧倒的な熱量によって、まるで正史とは異なる歴史を進もうとするかのように巨大なうねりを生み出していき――

 

 ともあれ、ステラがそういう話を一瞬で理解して合わせてくれたのが嬉しかった。

 同時に、恐ろしくもあった。

 ナノマシンによるスローテンポなネットワーク通信なんて比較にすらならない。 

  

「すごいなステラちゃん。これがIEMのネット能力なのか……」

「いやまあ、さくっとギュギュっちゃいましたけどもー!」


 気を取り直して、という感じでステラが改めて尋ねる。

 

「それでですよショウト。このどこにでもあるクソゲーさんで何を伝えようとしているのでしょうか」

「そうそう、これをね」


 画面に残っていたコントロールパネルらしきウィンドウをいじっていく。

 

「こうして」


 ゲームアプリと同じモザイクアイコンを発見。タップしてコマンド選択。


「こうだ」


 アプリは完全にアンインストールされた。

  

「ハイ俺の勝ち~! クソゲー完全攻略~!」

「……は? ちょいすいません、意味がいまいち」

「クソゲー、ケシタ、オレ、カッタ」

「なぜ急にカタコトに!? と言いますかそうはならんでしょう!?」

「なってるだろー! いまここに一つのゲーム世界が幕を閉じたのだ。アプリの再ダウンロードは滅多にできないし。これは勝ち申したよ」


 ステラから大量のクエッションマークが放出されている。『???????』


「あのあの、まっとうなゲーム攻略を楽しんでいた頃のショウトはどこへ?」

「俺だってまともな攻略手段があればそうしたいさ。でもダメじゃん。詰んでる! 詰んでるんだよステラちゃんは。だから……そう!」


 なんか必死に言い訳を並べるような形になってしまった。

 咳払いで調子を戻す。

  

「……八方ふさがりだと思うなら、その壁ごとぶった斬っちゃえばいいんだよ。発想を飛躍させるんだ。そんで思いついたらなんでも試してみるもんさ。少なくとも、俺の剣はそのためにあると思ってるよ」


 フワッフワなアドバイスだし正直自分でも何が言いたいのかよくわかっていない。

 

 この『巻き戻る世界』という詰みゲーの壊し方すら不明な現状。

 ショウトがいま確実に言える事なんてたった一つしかない。

 

 ステラの状況が詰んでいて、誰かに助けてほしいと思っているのなら。

 自分はいつでもステラのために端末刀を振るうつもりなのだ。

 

 ただし、それは世界を救うためでも壊すためでもない。

 

 不可解な世界で出会えた、妹のように大切なヒロインの望みを叶えるために。


 そう、ヒロインの願いを叶えて自由なスタイルでゲームを攻略する。

 それが記憶のあやふやなショウトの行動理念だった。




 ショウトはステラの正面にひざまずく。

 不格好という言葉が何よりも似合いそうな騎士のマネゴトである。

 

「さて姫よ。俺が思うに、ニセステラとかリソースの薄い住民とか暗黒大陸からのお客さんとかさ、そういうのは今どうでもいいんだよ。大した問題じゃない」

「その辺まさに問題の真っただ中のような気がするのですが……続きを」

「そうじゃない。続きを言うのは君だ」

「えぇ……」

 

 ステラが困惑している。『?????????』

 どうもこっちの言いたい事がまったく伝わっていないようだ。

 仕方ないので代弁するっきゃない。

 

「念のため確認するけど、ステラちゃんのざっくりとした望みはこうだ。よね?」


 一つ、ショウトと一緒にまっとうな砂漠攻略を続けて外の世界へ脱出する。

 一つ、脱出後も元いた夢の世界を完全な状態のまま維持し続けていく。

 一つ、人間の世界で新しい暮らしを始める。

 

「……はい! 大体そんな感じです。でした」

「過去形!? もしかして諦めてる!?」

「もう無理ゲーのような気がして。ニセステラはやる気のないアルバイトみたいな立場のようですし、移民の方々だって」

「だーかーらー!」


 灰色の髪をくしゃくしゃとかき回し、真剣な表情を作るショウト。


「たぶん何度か前の俺も言ったと思うけど、もう一度だけ言っておこう」

 

 失った記憶を思い返すように。


「君を人間の世界へ連れていく。俺の剣はいま、そのためにある」

「はい……」

「ステラちゃん、君の望みを聞こうッ!」

「この世界を……守ってください!」

「それは無理だってば!」

「ズコーーーー!」


 盛大にそこら辺を滑るステラ。睡眠中のリジ―が真上に飛んでいく。

  

「いいかねステラちゃん。この世界は君なんだろう? だったら、その未来は君が決めるんだ。俺は部外者だから、そこに関しちゃ大して役に立てないと思うよ」

「と言われましてもー!」

「……でも、できる事はある」

「と言いますとー!?」


 白亜の建造物の向こう側。ドーム状の巨大な建物を見やる。

 

「トカゲA、ラスク、アミット。あいつらだって部外者だった。部外者の問題は部外者同士でケリをつけるさ。だから君は、どんな反則技を使ってもいい。自分にできる事をやるんだ」


 よろよろと起き上がるステラ。いいタイミングで落ちてきたリジ―をキャッチ。


「……わかりました。なんとか頑張ってみます!」

「その意気だよ。気合いがあれば大抵なんとかなるもんだ。ただ」

「ただ?」

「パワーの節約は、もうできないかもしれないな」

「わかります。こうなってしまった以上、なんとかなる事を信じましょう!」

「おー!」


 かくして、舞台はコロシアムへと移るのだった。


※ニセステラは「やる気のないバイト」というより「バイトの立場を利用して好き勝手してやろう」みたいな考えで動いてます。

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