第14話 みんなあつまれコロシアム
「やばい。ちょい急用ができたわ。あとよろしく」
負け惜しみにしか聞こえない捨て台詞だった。
青ざめて冷や汗ダラダラのニセステラは逃げるようにピューっと飛んでいく。
「おうおう! ここで逃げんのか~? 掌握型? の分際でよォー!」
ショウトは悪ノリで煽りまくっている。
「うっさいわね! すぐにイベントが発生するから、それで判断して。最初の話」
最初の話とは。
少し考えて、世界を滅ぼせだの救えだのの話かと思い当たる。
「……あの時のか。言ったはずだぞニセステラ。この世界の在り方を選ぶのは俺じゃない。俺はただ、ステラちゃんと一緒に砂漠ゲームを攻略していくだけさ」
「ふん。好きにすればー?」
遠くからべーっと舌を出し、ニセステラの姿が入り組んだ路地へと吸い込まれる。
その向こう側では巨大な建造物がドドンと自己主張していた。
ドーム状のドでかい建物である。間違いない。あれこそが、
「コロシアムッ! つっても、お気楽なバトル大会やってるわけじゃなさそうだな」
おそらくニセステラの行動には、コロシアムで行われている『何か』のヒントがちりばめられていたのだろう。
不自然に数が少ない住民の秘密もあそこでわかる可能性は高い。
よくわからない連中だった。
なぜか喫茶店のマスターやウェイトレスがショウトの事を知っていたり。
そこそこ強そうなのにキャラ付けが雑でペラペラな存在感しかなかった門番たち。
冒険者風のIEM。商人風のIEM。獣人の家族を模したIEM。
謎の兄妹、カロンとシャロン。ちびトカゲどもにトカゲA。バードマン。
ステラもまた、旅の始めから今回の冒険に対する疑問だらけだったように思う。
あらゆる問題点や疑問点がじわじわとコロシアムに収束していくような感覚。
それが今、自らの脳内で明確に結びつき、ショウトは力強く確信した。
コロシアムこそが、第一の砂漠における最終決戦フィールドであると。
それが選ばれたのは単なる偶然か。あるいは誰かの思惑だったのか。
――そんなの、別にどっちでもいいさ。
ショウトは静かに微笑んだ。愛用の端末刀を構え、決戦の地へと歩き始める。
そのつもりだった。
「ショウト兄ちゃん。オイラたちね、暗黒大陸で一回殺されてんだ」
喫茶店にいるはずのちびトカゲ――ラスクが数メートル横で呆然と語っている。
「それはいいんだよ。弱肉強食はオイラたちの掟だし、軍団同士の戦争になればどっちかは絶対にこうなっちゃう。暗黒大陸じゃよくある事なんだ」
殺された? 暗黒大陸? 軍団同士の戦争? なんだそれ。聞いてないぞ。
「むしろラッキーだったよ。こっちに転生してきて、お祭りとか親切なNPCとか、初めて見た人間の兄ちゃん、レベル三の姉ちゃんに仲良くしてもらえた。すげえ楽しかったんだ」
知らないワードはこの際無視だ。
ラスクのセリフが遺言のように聞こえる。そちらの方がずっと重要だろう。
「なあラスク。お前たちは……」
語りかけようとしたショウトの言葉を、反対側から現れたアミットがさえぎった。
「なんかゴメンネ、アハハハ! ショウト兄ちゃんたちは『クロヘビ』の雑魚モンスターなんて忘れて、先へ進んで。やりたい事をやってくれるのが一番嬉しいよ」
この都に来てからというもの、やたらと発言がさえぎられている気がする。
普段ならまあいいかで済ます場面だが、ここばっかりは譲れない。
「アミットもだ。お前たちは、また死ぬつもりなのか?」
「しょうがないよ。悪いのはオイラたちだ」
「しょうがないよね。アタシたち、迷惑みたいなんだもん」
「そこがわからないよ。俺やステラちゃんはもちろん、ここの人たちだってお前らを受け入れてるように見えたんだけど?」
少しの沈黙。そしてラスクとアミットは順番に話し始めた。
「転生する時、最初に声が聞こえたんだ」
「なぜここへ来てしまったの。この世界にあなたたちの居場所はどこにもないって」
「今思うと、あの声とステラ姉ちゃんの声はそっくりだった」
「きっと夢の主さまだよね。そのお方が定めたルールなら、受け入れるしかないよ」
「…………」
どうして。
そう簡単に自分の命を諦めるんだ。
といった感じの説得文句をショウトが必死に探していると、ラスクとアミットの言動があまりにも不可解なものへと変化し始めた。
「フラグの成立を確認しました」
「あらかじめ設定されていたイベントを実行します」
「……は?」
いきなりなんだ。意味不明にもほどがある。
同時に、崩壊しきった噴水広場の空気が重々しく変化していく。
あまりにも不気味だった。
うかつに動けば取り返しのつかない事態に陥りそうな。
そんな予感と得体の知れない恐怖が合わさり、ショウトはその場に立ちつくす。
ラスクとアミット。二体のちびトカゲはそれぞれ瞳を赤く発光させ、機械的な言動を続けている。
「システムメニュー強制起動」
「第三種管理者権限の代行を要請」
まるで双方の言葉が混ざり合い、反響、共鳴するかのように。
語り手なんてどっちでもいいとでも言うように。
「発動承認」
「第三種管理者権限の発動を代行」
自分の命を諦めかけていたはずの子供たちが。
「ユニークスキルの発動シーケンスに移行」
別れの言葉でもなく、感謝の言葉でもなく。
「掌握条件の確認。ロケーションを獣人の都に限定」
ただただ不自由に、わけのわからないメッセージを言わされ続けている。
「対象、レベル二以下のIEM」
「効果時間、目的ポイントへの到着まで」
「システムオールクリア」
この世でもっとも不自由なもの。
それは子供だ。
どこにでもいける自由な発想と、誰とでも触れ合える純粋な心。
それらを持っているからこそ、世界の広さを恐れ、他者との不和に怯え。
自らの内に引きこもっていく。
それは成長する過程で誰もが乗り越えなければならない試練ではあるのだろう。
だからこそ、未熟で純粋な心を持つ子供たちをゲームの駒のように弄ぶ蛮行など。
自由を標榜するショウトにとって、何よりも見過ごせないものだった。
そして事態は、ラスクとアミットが同時に放った一言により混沌を極めていく。
「ユニークスキル、『みんなあつまれコロシアム』!」
一瞬、そよ風のような――無害なエネルギーが周囲を駆け巡っていく感覚があった。
酸素が体内に取り込まれていくような。
次の瞬間。
獣人の都において、怒涛のごとき流れが発生した。
◇
あちこちの路地から大量の砂煙が上がっている。
同時に大勢のダッシュ音。それから、歓声のような悲鳴のような。
「みんなー! あつまれー!」
「わあい!」
「のりこめー!」
「コロシアム! ずっと閉鎖中だったコロシアムの封印がとけられた!」
「こうしちゃいられないクマー!」
「門番なんてやってる場合じゃないワン! まっしぐらだワン!」
「そうだ! 俺たちはコロシアムのために生み出されたんだ!」
「今こそ最後の役目を果たすときじゃ!」
「こんなの絶対おかしいと思うけど逆らえないよおおおお!」
「うおおおお! 乗り込めぇええええええええええ!」
カオス。
それ以外にどう表現すればいいのか。
集団となって走り続ける住民は中央通りを越え噴水広場を越え、何もかもを無視してコロシアムへと突き進んでいった。
悪い意味で楽しそうだった。歪み切った愉悦。狂気。そんな言葉が浮かぶ。
流れが収まった頃にはラスクとアミットの姿もなかった。
同じようにコロシアムへ向かったのだろう。
向かわされた、というのが正しいかもしれないが。
「…………なんだこれ」
ショウトは一歩も動けなかった。
せめてちびトカゲを保護しようと動きたかったが、全ての思考が奪われていた。
いや、ダメだ。思考を止めるな。
ニセステラはイベントが起きると言った。
都の住人と、それからちびトカゲのような部外者らしき連中すべてがコロシアムに集められる。
そういうイベントだったのだろう。
他にも手掛かりになりそうなワードは聞き取れた。
管理者権限。ユニークスキル。
どちらもなんかすごそうという感想しかわいてこない。
ここは考えるよりも動くべき時か。
今までで一番わけのわからない状況だが、コロシアムに答えがあるという確信はより強まっている。
「行くしかない。よなあ!」
気合いを入れ直し、重力が百倍になったように重かった体を動かそうとした時だ。
「あの、すいませんショウト」
背後から声をかけられた。
出鼻をくじかれてばかりだが、その声はあらゆる不安を拭い去ってくれるものだった。
「どうやら話さなければならない時が来てしまったようです。この世界の状況と、それから……あの子の事を」
ちびトカゲのリジ―を抱えるステラは、かつてないほどに真剣な表情でそこに立っていた。
◇設定資料のような何か
管理者権限
特定のIEMが特定のエリアにおいて、システムやルールを追加、修正する時に使える感じの権限です。
これの影響もあり、現代の地球はゲーミング化されています。
ユニークスキル
種族を問わず、登場人物がそれぞれ自分で考えたオリジナルスキルです。
強力なスキルというよりは、キャラクターの性格や戦闘スタイルを表す感じの役目を持っています。




