第10話 ちびトカゲ、フォースエッジ、?????
謎の少年からコインをちゃりちゃりもらったショウト達。
不可解な報酬としてもらったコインは獣人の都でちゃんと使えるようだった。だがショウトは貨幣制度というものにあまり馴染みがなく、ついでに興味もなかった。
ゲーム的な商売の知識で理解だけはしているが。
「ステラちゃんなんかほしいものある? そういや聞きたかったんだよね」
「はいなんでしょう。むむむ??? はいなんでしょう?」
「うん。人間の世界で何かやりたい事はあるのかなって。ほしいものも」
なんとはなしにコインをあらためながら世間話に興じている。
「そうですねー! 簡単そうなところだと、こう味覚的な楽しみを体験してみたいです。スイーツ! ジューシー! あとはやっぱり人間のお友達がほしいですね」
「お友達かー。どんなキャラがいいかな」
「実はもう決めてあるんです。お約束にあるツンデレ! ツンデレ少女のお友達ー!」
「そっかそっか。ツンデレは基本だよなー」
よし、と話を切り上げ、食器を洗っているヤギ獣人の店主の姿を確認する。
「話は聞かせてもらった……マスター! この子にありったけのおススメ料理をふるまってくれ! なるべくスイーツマシマシで」
「ええーー!? そんな悪いですよショウト!」
「どうせあぶく銭だしここで全部使っておこう。俺はべつにいいや」
「でしたらせめて一緒に食べましょう!」
「そうしようか。マスターいけそう?」
軽い気分で問いかけたのだが、老いを感じるヤギ店主からの返答は驚くべきものだった。
『おお……誰かと思えばウラシマくんかあ。久しぶりだねえ』
「ん……ん!?」
『注文受け取ったよ。待ってておくれ』
そう言うや奥の厨房へ引っ込んでいく店主。
呆然と立ち尽くしているショウトにステラがふんわりと話しかける。
「お知り合いですか?」
「いや……ステラちゃんが知らないなら俺も知らないよ。だいぶ年食ってそうだし、誰かと勘違いしたのかな?」
やはり奇妙なものを感じずにはいられない。
とはいえ、ひとまず雑な結論で片づけておく事にした。
◇
ボケが始まっていそうなヤギの店主だが、その腕前は衰えていなかったようだ。
「はわわー! わたしまだ外の世界に着いたわけでもないのですが……ですがー!」
「すごいねこりゃ。ぜんぶの料理がウルレアアイテムのように輝いて見える……!」
注文通り、スイーツを中心に据えたヨーロッパ風のゴージャス料理が次々とテーブルに並べられていく。
ウェイトレスは十代半ばぐらいの狐耳の少女だった。例によってショウトの事を知っている様子なのだが、配膳を終えると事務的なあいさつだけでそそくさと立ち去っていった。『ほおお』とか『へええ』とか興味津々な素振りだけは隠そうとせずに。
そんなウェイトレスよりも気になって仕方ない連中が窓の外にいた。
「りっぱなごはんだー」「にんげんだー」「れべるさんだー」
べったりと、よだれごとガラスにへばりついているそれらは『緑色の肌』とレインコートみたいな子供向けのマントを装備していた。
「緑色の……トカゲちゃんたちですね」
「リザードマンってやつかな? 子供の?」
豪勢なスイーツ料理が並ぶ窓際のテーブル席である。
ステラがお招きすると三体仲良く嬉しそうに寄ってきたのだ。
「そうだよー! リジ―たちはリザードマンの幼体なの!」
「まだまだ弱っちいけど、オイラはいつか隊長みたいな立派なトカゲになるんだ」
「隊長はワニだけどね。アハハハ!」
トカゲというか爬虫類というか、とにかくそういう緑っぽい要素をのぞけば元気のいい子供にしか見えない。
雌雄の区別もつかない年ごろのベビーリザードマン。
そいつらはリジ―、アミット、ラスクと名乗った。
珍客……珍獣? 予想外の来客との騒がしいお食事会が始まる。
「あらまあ、みなさん慌てず食べましょう。スイーツは逃げたりしませんので!」
「ステラお姉ちゃんはレベル三だよねー? すっごーい! リジ―たちの大陸じゃレベル三は将軍さましかなれないんだよー!」
「わたしのレベルは飾りみたいなものなんですよね。偽者……とはまた違うのですが、本体はお空の上にいますので」
「リジ―知ってるよ。それブンシンのジュツってやつだー!」
三体の中で年長者らしいリジ―はステラに秒で懐いていた。
ステラ自身もまんざらではないようでお姉さん風を吹かせている。
「なあラスクくんよ。君らの隊長ってのは一体どれほどの猛者なんだい」
「クロコ隊長は強いぞー! 一振りで山とか割りそうなガチの強化型だからな!」
「それは楽しみだなあ。……コロシアムでなら後腐れなく戦えるか……?」
ショウトは一番男の子っぽいラスクとゲームバトル的なトークを弾ませている。
もう一体の幼いアミットはリジ―とステラにお世話されつつ元気に笑っている。
そんな他愛のない食事シーンが瞬く間に過ぎていき、
「しかし困ったな。こんな子供連れで砂漠越えなんてできないぞ」
「そうですよね……ねえみなさん。隊長さんとやらもこの都にいるのですか?」
「わかんなーい! アニキならけっこう近くに感じるかもー?」
「隊長の気配は遠いよな。そのうち来れると思うけどしばらくはダメそう」
独特の感覚器官で仲間の位置を把握しているのだろう。
保護者らしきトカゲやワニがいるなら一安心ではあるのだが。
「どっちにしても当面のおもりは必要か。ステラちゃんちょっと」
「はいなんでしょう!」
「いったん別行動しよう。俺はこの都の情勢を一通り探ってくるよ。コロシアムも見ておきたいし」
「ではリジ―ちゃんたちは任せてください。ふふふ、なんだかスパイや盗賊の活動みたいでワクワクしますねショウト」
「うん。まさにそういう気分で楽しみだったよ。じゃあいってくる」
「お気をつけてー!」
◇
陽気でノスタルジックなBGMが巡る大通りを駆け足で進みつつ。
ショウトは懐中電灯のような端末を胸元に掲げ呪文を唱えた。
「フォースエッジ、映像モードで起動。映像化情報式」
瞬間、ブウン……と端末から青色の光が生じ、一本の刀身へと姿を変える。
端末刀フォースエッジ。忘れていたわけではないが、なかなか使う機会がなかったショウト愛用のゲーム武器である。
街中でいきなり抜刀したのにはいくつか理由がある。
「……武器を抜いても住民の反応が鈍い。単に興味がないって話でもないよな」
例えばトカゲの子供達が相手ならリアクションぐらいは期待できるだろう。
獣人の都の住人とは、ステラやリジ―達のような個体としての認識があるIEMではなく、それこそゲームのNPCに近い存在なのかもしれない。
まあこのあたりの事情に深く関わるつもりはない。問題は次の理由だ。
「殺気……ってほどじゃあないな。強めの敵意か。多い……多くないコレ!?」
気分的な問題なのだが、戦闘体勢でないと気がゆるみすぎて索敵や探索に支障が出てしまう。ので周囲に危険が及ばない映像モードでの抜刀に踏み切ったのだ。
その結果、おびただしい数の敵意を感じ取ってしまった。
そこら辺でお祭りを楽しんでいるNPCっぽい人々のものとは絶対に違う。それなのに、敵意の発生源は都のどこにも存在しない。
あまりにも不自然だ。どういうことなんだこれ。都が二つあったりするのか。
「さっぱりだなー。誰か説明してくれよ。この都で何が起こってるんだ」
愚痴ってもどうにもならない。何かがおかしいのだけは確かなんだ。
何もかもがわからないが、わからないだけでは話が先に進まない。
「ダメ元でやってみるか」
ゆえにショウトは端末を起動した三つ目の理由を試みる。
「システムメニュー。ロケーションポイントを獣人の都に設定。NPCを含めた全キャラクターを検索……これはゲーム的なネット接続である、っと」
すぐに返事が返ってくる。脳内に響くような機械的な女性の音声だ。
『システムメッセージ:ユビキタスネットワークへの接続に成功しました。検索結果をお客様のナノマシンへ投影します』
「やっぱゲーム的なアプローチなら使えるんだな。ゲストログインってやつか?」
この馬鹿みたいに面倒なやり取りが現代のネットワーク利用法である。
呪文、ゲーム系端末、ナノマシン。三つの要素がそろわないとシステムは全てエラーを吐き、単なる煽りみたいなメッセージだけが返ってきてしまう。
かつて、ボタン一つで貴重な情報を入手できる時代があったという。
それはまさに現代のおとぎ話だった。
◇
「キャラクター数が千を超えてるのに実際に表示されてるのは百人ちょっとか。しかも結果表示の画面が重い。おんぼろだなあ」
右目の網膜に映し出された情報を精査しながら石畳を進んでいく。
「ねえ人間。私もスイーツが食べたいわ。買ってもいいのよ」
隣になんかいるのだがショウトはまったく気づいていない。
「リジ―ちゃんの話からすると、弱めのIEMが先行してここに来ちゃった感じなのかな? もしかしてカロン君らもか? あの二人はそこそこ強そうだったけどなあ」
「処理能力の問題でしょーね。青と赤は情報戦に慣れてる感じだったわ。ガキどもはどうでもいいからスルーしただけよ」
貴重な情報が隣からポンポン出ているのだがショウトはやっぱり気づかない。
「今後この都にリジ―ちゃんのアニキとか隊長が来るんだとしたら、わざわざ強さで時間差をつけた意味はなんだ」
「来ちゃ困るのよねえ。いやマジでさ。今でさえパンパンなのよ許容量が。そこにレベル二クラスがゴロゴロ入ってきたら完全にアレよアレ」
さすがに気づいて隣をチラ見する。だがショウトは見なかった事にした。
幻術にでもかかっていそうな気がしたからだ。
「……アレかあ」
「そうアレよ。世界の終わりよ。夢の世界が滅んじゃうわけ」
「…………」
「…………」
開けた場所に出た。噴水を中心に広がるちょっとした公園を思わせる空間だ。
噴水の周りには衛星のようにベンチが並んでおり、
「そんなわけだからさ、ねえ人間」
ショウトが幻術だと思った相手はベンチの一つによじのぼり、不安定な体勢で腕を組み、白くてふわふわな髪を揺らしてショウトを見下ろす。
それは、ルビーのような赤い瞳が印象的な、
「いい加減ループ世界も飽きたでしょ? さっさと壊すか救うかして。はよ」
ステラと瓜二つな容姿を持つ少女だった。
◇設定資料のような何か
・人間はネットワーク環境を完全に奪われているが、存在しないわけではない。
・ゲーム的なアプローチでのみゲスト権限での利用が許される。事もある。
・ゲスト権限によりゲーム関連の術式……スキルの使用が可能となる。




