第3話
「俺はそこにいない。いづみには手を出すな」
「あなたがこんなことをしなければ、いつまでも一緒にいられたのに!」
フンという鼻息一つで、話し合いはもう終わってしまったらしい。
「戻ってきてください。今なら……まだ間に合います」
「何が? そう思っているのは重人、お前だけだ」
「すぐに隊長が来ます。逃げるなら逃げて!」
一瞬見せた飯塚さんの、その表情を俺は絶対に見逃さない。
「飯塚さん!」
通信が切れる。
濡れた足元で、電線からの火花が散った。
「どうして来たのよ」
そうつぶやいたいづみに、竹内は自らの警察手帳を掲げた。
「ナンバー19大沼いづみ。公務執行妨害で現行犯逮捕する」
瞬間、竹箒は動いた。
その場から跳び退く。
電柱に取り付けられたボックスから、無数の釘が飛び出した。
「この私に、あんたたちへの傷害罪まで付け加える気?」
彼女の足が一歩下がる。
箒を強く2回右に引いてから、ドンと下に押しつけた。
次の瞬間、彼女の姿は穴に消える。
「逃げたか?」
「当たり前だろ」
駆け寄ってはみたものの、すでにマンホールの蓋は固く閉ざされていた。
竹内は端末を取り出す。
「隊長からの指示だ。ミラーへの通信発信源を特定、そっちへ向かうらしい」
竹内は端末を見ながら歩き出す。
「なぁ、いづみはど……」
「隊長の指示だ」
俺はもう一度ペットショップを振り返った。
いづみはもしや、おとりにされた?
だけど、飯塚さんにその気がないのなら……。
いや、違う。
首を横に振る。
憶測は単なる憶測でしかない。
俺は竹内の背中を追いかけた。
「飯塚さんはここから北西にある基地局から発信してるっぽい。その受信範囲から想定される地域に招集がかかってる」
「俺たちも今から向かうのか?」
「いや」
竹内は端末を見ながら言った。
「一旦コンビニに戻れだとよ」
「従うのか?」
「それしか方法が思いつかない」
俺には隊長が何を考えているのか、さっぱり分からない。
だけど隊長が未だかつて、指示を間違えたという記憶もない。




