第18章 第1話
疲れた体を引きずって、ようやく家に戻った。
明け方4時過ぎ、家族の顔も見ていない。
寝静まった玄関にそっと足音を忍ばせ階段を上ると、見慣れた自室にほっとため息をついた。
自分一人がようやく寝転がれるだけのスペースに入り込み、体を休める。
目を閉じる気にはなれなかった。
何も考えられない、何も思いつかない。
体の疲れが全ての思考能力を奪っていったかのようだ。
ただ無心に時を過ごす。
朝日が登るとともに、室温も上がり始める。
遠くで鳥たちのさえずりが聞こえる。
ふと視界に入ったルーターが、駆動していないことに気づいた。
そうだ。
母さんに電源を落とされてから、結局ムカついたまま何にも触っていなかった。
このまま放置していても、どうしようもない。
とりあえず立ち上げないと。
いつかはどうせ、やらなくてはいけないことだ。
電源を入れようとして、ふとその手を止める。
あれ?
天命のシステムがダウンしたんだったら、俺のパソコンはどうなった?
スタートボタンを押す。
冷たく冷えていた基板に、電気の血が流れる。
息を吹き返したそれは、正常に作動し始めた。
すぐに携帯端末を初期化し、俺のパソコンに残されたデータから天命を再ダウンロードする。
本部のウイルス駆除はもう始まっている。
動く。
天命がちゃんと動いている。
感染を免れたのは、俺だけじゃないはずだ。
飯塚さんは? ダウンと再起動を見越して、潜伏ウイルスを仕込んでいることだってありえる。
だとしたらこれは、一時的な回復でしかないのか?
これから先、こういった停止と復旧を繰り返し、徐々に全体を破壊していくつもりなのだろうか……。
俺はふと思い返し、R38の情報を探した。
しかしそれは、飯塚さんの放ったウイルスによって消されたのか、やはり極秘事項として本部の検索項目から外されたのか、確認はできなかった。
わらにもすがる思いで、いづみへのアクセスを試みる。
当たり前のようにつながらないことに、俺は指をキーボードから下ろした。
やっぱり無理か。
ほんの短い期間を共に過ごしただけの俺でも、置いて行かれた疎外感を感じている。
ずっと一緒にいた竹内の気持ちを、俺はようやく理解できたような気がした。
どうしようもない無力感に襲われる。
窓の外を影が横切った。




