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第5話

「竹内、重人を頼めるか?」


「俺、あんま得意じゃないんっすよね。こういう役割」


上りの階段が見えている。


竹内の手に、エアカッター発生装置が握られる。


その両脇に張られたタイルが、ボロボロと崩れ、剥がれてゆく。


そのタイル一枚一枚が、手裏剣のような小型ドローンへと姿を変えた。


「私がやるわ。風圧で一気に押し流すから、その間に走りなさい」


地下通路の天井から、金属格子が落下した。


伸縮するいくつもの足の先にタイヤがついている。


小さなブロックをいくつも連結させてつなげることで、柔軟性を確保したムカデ型の強化プラスチックロボットは、長い体をくねらせ垂れ下がった。


飯塚さんの手が空を斬る。


ムカデの体はそれを避けようと、一瞬にしてパーツごとに分かれた。


破壊された2ブロックだけを残して、すぐに再結合する。


「狙いはいづみの持っているそれだ」


彼女は右腕を高く掲げる。


それを大きく横に振ると、空気の壁が動いた。


小さなドローンたちは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


ムカデは地を這った。


飯塚さんの左手が真横に低く空を斬る。


30㎝四方程度のムカデは、水平に裂けた。


「走れ」


駅地下の駐輪場へ入る。


そこから地上へと向かうスロープを駆け上がった。


最後尾の飯塚さんは振り返る。


咥えたタバコに火をつけ、すぐに放り投げた。


タイミングよく爆発したそれは、厚い煙幕を張る。


通常の出入り口には規制線が張られていた。


入場制限されている群衆の背後を、早足で通り過ぎる。


その瞬間、地下で爆発音が響いた。


「撒けたかしら」


いづみはボソリとつぶやく。


「どうせ自動追尾システムか何かだ。今回はもう、後は任せよう」


ふっと微笑んだ飯塚さんに、いづみも笑みを浮かべる。


「そうね。新人くんもいるし、今日はそれで十分よ」


そう言うと、急に彼女は真顔になった。


「反省会しなくっちゃ」


乗り捨てた軽自動車には、見知らぬ人間が2人座っていた。


いづみは回収した銀のケースを彼らに手渡す。


「すみませんね。お世話になります」


「ご苦労さまでした」


車はゆっくりと走り出した。


いづみはそれに、ひらひらと手を振る。


が、振り返ってからが怖かった。


「じゃ、コンビニで」


ギロリとにらむその顔は、まさに氷の女王そのものだ。


彼女は飯塚さんの腕に自分の腕を絡めると、並んで立ち去った。


竹内はため息をつく。


「まさかお前、ここから一人では帰れないとか、そんなことは言わないよな」


今いる駅の名前は分かる。


「か、帰れるよ」


「どっちが先にたどり着くか、競争しようぜ」


「は?」


「これも訓練の一つだ」


竹内は端末を胸のポケットにしまった。


「じゃあな。もう勝手に始まってるっぽいし」


人混みの中に、背の高いほっそりとした黒髪が消える。


時計はちょうど20時を回ったところだ。


俺はため息をついてから、仕方なく次の駅に向かって歩き始めた。

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