昼過ぎの契約
ジャック・ジュニアに呼び出されいぶかしげな気持ちの二人は道すがら顔を合わせる。
はてさて一体全体なにがはじまるのか?
『おう!マークじゃねえか?お前も小僧に呼び出された口かい?』
ナポレオンはメーカーズに向かって気さくに話しかける。
『うるせえ!じじい!俺はバランタインの顔でも久しぶりに見に行こうって思ってるだけさ!』
喧嘩するほど仲が良いとは良く言ったものである。
話し歩きをしていると時と言うのはあっという間にジャックの家へ到着した。
コンッ!コンッ!
メーカーズがドアをノックする。
『はーい♪今いきまーす♪』
バランタインが満面の笑顔で玄関の扉を開けた。
『家の息子がお呼び立てしたようで、本当にごめんなさいね。美味しいお茶とお菓子を用意したのよ。さあ、上がってください。』
二人は久しぶりに慣れ親しんだジャックの父であるジャックの家へと入っていった。
ジャックがあんなことになってからしばらくは身重のバランタインを気遣い顔を出していたのだ。それはこの漁村の皆がそうしていた。
しかし、気がつけばもう数年間も立ち寄っていないと気付きメーカーズとナポレオンは目を合わせて何か通じ合うものを感じるのであった。
『ようこそ!我が家へ!約束通り来てくれてありがとう!』
ボーイソプラノの良く響くジャックの声が部屋に響く。
『さあ、お二人ともお掛けになってくださいな。』
バランタインは応接間のソファーに二人を座らせてお茶とお菓子を用意しに行った。
『話は立会人の母さんが帰って来てからしようね!』
なんて言っている間にバランタインは戻ってきた。段取り万端だったのであろう。
『母さんありがとう!』
『バランタイン気をつかわせてすまないな!』
『久しぶりにバランタインのお菓子を食べれるぜ!』
ナポレオンとメーカーズはバランタインとは相当親しい間柄なのだ。
すると、ジャックが高級紙になにかしらの絵図面と数字がギッシリ書き込まれた資料を4部それぞれを全員に配った。
『!』
バランタインは先に目を通しているので、レディらしく上品に佇んで二人の反応を見ている。
メーカーズが口火を切った!
『おい!ジャックよ!これはお前が書いたのか?』
『そうだよ。』
『説明しろ!わからない部分が多すぎる!』
『おい。メーカーズ気持ちはわかるが少しは落ち着かんか?』
『そうだな。ジャックの潜水樽以来の衝撃でついつい興奮しちまったぜ!』
そうなのである!ジャックは朝食を終えてから僅かの時間で潜水艦の青写真とかかる経費等の事業計画書を書き上げたのであった。それは母であるバランタインでさえ驚きを覚える完成度であった。
『おい!ジャックよ!この数字が全然わからねえ!説明しろ!』
『はあ、メーカーズよ。お主に説明するだけ無駄じゃ!結局理解なんて出来んじゃろ?これはなざっくりと言うとじゃな。ジャックとメーカーズとわしの会社を合弁企業として合併させて潜水艦作成の事業をやり易くするための方便なのじゃよ。先に言って置くがわしはこの話しに乗るぞ。メーカーズよお前はどうするんじゃ?』
その後、かなりの質問をメーカーズさんから受けたのだが、メーカーズさんは納得せざるを得ない内容だとわかったようで、この事業計画に合意してくれた。
バランタインは頃合いを見計らった様に契約書を三人に手渡した。
『これはジャック・ジュニアがお二人の会社の借金ごと会社を買い取り、ジャック・ジュニア・グループの傘下に入って頂くという内容です。追加で資本投資もいたしますので安心して今までの事業と潜水艦作成事業に協力をお願いいたします。』
ナポレオンは嬉しそうに話し出した。
『来月か再来月に不渡り手形が出そうなタイミングでさあ、これは渡りに船だな。小僧よ!いや?オーナーか。なんでも良い!潜水艦作りに全面的に力を貸すぜ!よろしくな!』
メーカーズはバランタインには幼少のころから口喧嘩で勝てた試しがないので、数字がわからないのも放って渋々というか流れに任せてこの潜水艦作りに協力することにした。
『バランタインにも協力してもらうぜ!ジャック!助けてくれてありがとな!俺んとこも倒産寸前だったんだよ。』
こうして三人はペンを手に取り契約書にすらすらとサインをするのであった。
ジャック・ジュニアにとっては信長さまに一歩近づいた瞬間であった。
流石に三度目の人生(途中カニ)を重ねているだけはありますね!
母であるバランタインに事業計画書の隙を見出ださせなかった、ジャック・ジュニア!恐るべき才能を秘めた少年です。