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Magic Number  作者: 椿 英雄
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第6話:出発

 辰川の一件からちょうど一週間が経とうとしていた。

 たぶん俺の教育係は彼女だったのだろうが、今はその役目は完全に清水に移行していた。清水は聞けばなんでも教えてくれるのだが、生まれつき子供なのか練習に飽きてはちょっかいを出しに俺のところに来た。正直邪魔だったが、かまってかまってとされるとどうも弱い。自然、清水にはこの一週間で随分と懐かれてしまった。

 一週間という短い時間ではあったが、魔法の方もかなり上達していた。

 どうやら数字にはそれぞれ意味があって、その意味と俺が頭に描いたイメージが合致することで初めて使うことができるみたいだった。

 1は部屋を明るく照らす光の感じ、5だったら物が騒々しく動いているような感じ。

 また、数字の組み合わせ方でその効果は大きく違ってくる。

 たとえば、8と9を離して書くと目の前の視界が暗くなってしまうが、89と書くと空から雷が落ちてきた。

 数字と数字の間に十分の余白を空けることで二つの魔法を同時に使うこともできた。

 ほかにも条件や法則が存在するようだが、今のところは見つかっていない。イメージさえできれば、部屋にあった魔法書と同じぐらいの数の魔法を使いこなせそうだったが、まだ環境や状態に作用するような魔法しか使いこなせなかった。

 でも、まだ未熟なのを差し引いてもかなり優秀な魔法だと思う。先生や生徒たちも俺のレパートリーの多さに感心していた。

 この数字の魔法はそのままマジックナンバーと呼ぶことにした。いろいろ呼び方を考えてみたが、これが一番シンプルで分かりやすい。

 訓練が終わり、自分の部屋に戻ると、扉の前に辰川が立っていた。辰川は俺の姿を確認するとそっぽを向いてしまった。

「俺になんか用か?」

リフトを降りて辰川に走り寄る。言い出しにくいのか、気恥ずかしいのか、なかなか口を開こうとしない。

「お前処分決まったのか」

 少し心配だったので聞いてみた。辰川が俺に振り返る。

「おかげさまで処分も決まったし、謹慎も解かれたわ」

 まるで俺がいけないのだとでも言いたそうな口ぶりである。多少は心配していたので、むっときたが、とりあえず胸をなでおろす。

 また申し訳なさそうに辰川がうつむいてしまった。

「そのことでお願いがあって来たんだけど・・・」

 数秒の沈黙。

「なんだよ」

 いぶかしむ俺は少々声が荒くなってしまった。初日はあんなに強気で突っかかってきたくせに、今目の前にいる弱気な辰川がどうも気に入らない。

「言いたいことがあるなら言えよ」

 今度は優しく促す。辰川はだからその・・・と言い淀む。

「私と組んでほしいの」

「・・・」

 いまいち事情が呑み込めない。そんなに頑張って聞くことなんだろうか。ぽかんとしていると、さらに辰川がまくしたてた。

「だから!私の処分、終わらせるの手伝ってほしいって言ってるの。一人じゃできそうにないんだけど、私、友達って言ったら啓ぐらいしかいないから・・・啓があなたなら助けてくれるかもって」

 言いたくなかった一言を俺が無理やり吐き出させたような態度に一瞬腹が立った。

「それで、なんで俺なんだ?沢田とかいう子と連帯責任でやってくればいいじゃない」

 ちょっと意地悪な返事をしてみた。案の定、辰川は顔を真っ赤にして怒り始めた。

「そんなの無理に決まってるじゃない!なんで私があんな男と一緒にやんなきゃいけないのよ。私これでも一所懸命なのに」

 最後の言葉は小さくなってほとんど聞き取れなかった。さっきより深くうつむく。俺がいじめてるように見えるだろうなと思った。

「ごめん、ごめん。分かったよ」

 手を振って謝ったつもりだったのだが、辰川は「分かった」を「了解した」と受け取ったようだ。辰川の顔がみるみる元気になっていく。

「よかった。ちょっと来て」

 そう言ってリフトに飛び乗り、半強制的に連れてこられたのは学校の地下駐車場だった。そこらじゅうでかなり濃いめのスモークガラスが目に付いた。ここは何かの秘密結社か、と疑いたくなる。こんな場所があるとは想像していなかった。

 その中の一つに清水が立っていた。ぴょんぴょん跳ねて俺たちにアピールしている。

「こっち」

 とまたいつものように辰川に腕をわしづかみにされ、車の前に移動する。

 車の知識には疎い俺だったが、高そうだということは検討がついた。黒いボディに細いシルエットがかっこいい。

「やっぱり引き受けてくれたんだ」

 清水が俺の顔を覗き込み、にこっと笑う。

 俺はあいまいな笑顔で返す。

 三人で後部座席に乗り込むと、運転席に例のミイラ男が座っていた。ミイラ男がバックミラーで人数を確認すると、両脇に座っていた二人が口の端を上げて笑ってみせた。

「人数揃ったみたいだぁねぇ。それじゃあ、そろそろ出発するよぅ」

 ミイラ男がキーを回し、エンジン音が車内に響いた。

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