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’キングダムストーリー’がなぜクソゲーと呼ばれるのか?
ストーリーは攻略対象との会話主体で、選択肢の良否によってその後の展開が変わっていく。いわゆる恋愛ゲームのはしりだと思ってくれていい。
ただ十何年前のゲームである為か恋愛に特化した内容ともいえず、中途半端なものに仕上がっている。
そしてそのゲームシステムの中でも一つだけ’これは’と思えるものがある。それは神魔の森での戦闘に挙げられる。
人外魔境の地であるその森には魔物が潜み、その強さは人類の比ではない。
森の中心に行けば行くほど現れる魔物は強くなり、その奥には神が住むとも魔人が住むとも言われているのだ。
主人公のアレクサンダーも度々神魔の森に立ち入る場面があるが、それはあくまでも魔物が死んだ後落とす金が目当てであって、森を攻略する為ではない。
多くのプレイヤーが「戦闘パートあるやん!?」と地にまで落ちた製作者の評価を上げるが、しばらくするとその評価は急降下する。
それもそのはず、いくら魔物を倒しても主人公のレベルは1のまま。永遠に強くならない主人公は森との境でちまちまと最下級の魔物を倒すしかないという糞仕様。
クソゲーの評価をもらうのは当たり前のことだった。
プレイヤーが早々に見切りをつける中、俺はゲームクリアを何度も繰り返す。それは攻略対象との会話で、選ぶ台詞の違いによってストーリーが変わるという楽しみがあったからだ。女王の代行になったり、貴族ややり手の執政官にと、さまざまなエンディングが用意されていた。
そして迎える10回目のエンディング。いつものごとく達成感を味わいながらエンドロールを見終わった後’よし、もう一度’とリセットボタンを押そうとした瞬間。
ピロン!という音とともに表示される’クリアボーナス’という文字。呆然と画面を眺める俺。ただ暫くしても画面は切り替わらない。
疑問符を浮かべながらもリセットボタンを押した後、現れたオープニングは見慣れたものとは違うものだった。
幼い頃に両親を貴族の気まぐれによって殺されたアレクサンダー。彼は失意とともに親類から親類へとたらい回しにされる日々。そして心も体も傷ついた主人公が最後に行き着いたのは王都の暗部、スラム街だった。
生きるため盗み殺しを繰り返すアレクサンダー。悪事を働くたびに心の奥底に封印した良心が疼く。そんな毎日を過ごす中、転機が訪れる。
スラムの縄張り争いに敗れた主人公がふらっと訪れた廃屋。敵に見つからないよう光を灯さずに部屋の片隅に腰を落ち着けたその時。地下から漏れる一筋の光。
その光に導かれる様にして地下へと続く階段を降りると、そこには古びた装飾の箱が祭壇の上に置かれていた。
箱から漏れる光が彼を導く。両手で恭しく蓋を開けると、そこには変哲もない剣の鍔があった。そして刀身のない鍔に施された宝石が彼に反応してか光を強める。
あまりの眩しさに目をつぶるが、その光は主人公を強く照らして一瞬にして消えてしまう。
まるで人外の何かが彼の中に入ってきたようなそんな感覚。湧き出る力。
鍔を握るその姿はまるで物語で語られる英雄そのもの。
それより新たな物語がはじまる。
まず変わったのはレベルが上がること。手に入るはずがなかった経験値が覇王の剣で倒すことによって体に取り込まれるのだ。
そしてセラント帝国のみだった世界観が広がり、4大国を行き来することが出来るようになる。
それとともに開放される仕様は無限大。まさしく神ゲーと呼ばれるにふさわしいものだった。
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1年間俺はスラムで生活し、あらかたのマップは記憶している。目的の廃屋を見つけるのはそう難しいことではなかった。
今にも崩れそうな扉を慎重に開け、中の様子を伺う。
「・・・うん。誰もいない」
俺は後ろ手に扉を閉め、廃屋に足を踏み入れる。窓という窓がない為、日中であるというのに中は真っ暗だ。ゆっくりと壁を伝うように歩を進め、腰を屈め視線を低くしながら周囲を注意深く伺う。
慎重に観察すること数分。視界に入り込む一筋の光。全身から汗が滴り落ちるも冷える体。緊張のあまりかコントロールのきかない足を叱咤し、光の正体を暴く。
不自然に積もった廃材を丁寧にどけるとそこには地下へと続く階段があった。
その先はやはり光が不自然なほど溢れている。躊躇することなく階段を降りるとそこには。
「やっぱりあった・・・祭壇だ」
ゲームのごとく箱から光が溢れ、部屋を隅々まで照らしている。暫くその様子を見て変化がないことを確認した俺は一歩一歩部屋の中心へ歩を進める。
そして目の前の箱を見下ろすと、おもむろに蓋に手を添えた。
視界を遮る程のまばゆい光。俺の中に取り込まれる力。しかしそれは一瞬のこと。収まった光のその先には・・・
「これが覇王の剣」
主人公を英雄へと導く剣がそこにあるのだ。