プロローグ
立身出世ゲーム’キングダムストーリー’2002年にプレステーション用ゲームとして発売されたそれは、一人の平民が身分の高い女性を利用してどんどん出世し、最後には王になるという斬新なゲームだ。
いわずもがな、2002年のキングオブクソゲーの戴冠を戴くことになるが、俺はそれにどはまりした記憶がある。
小学の高学年の頃だったと思うが、手練手管を使い様々な身分の女性を誑かし、コネを使って出世していく主人公にこんな生き方があるのかと幼心に衝撃を受けたものだ。
身分の頂点に昇ればエンディングという簡単なゲームであるが、そのシステムには実は攻略特典が存在している。
攻略した多くの人はそのストーリーと内容の薄さから’なんじゃこらまじクソゲー’とエンディング後に見切りをつけたが、何度も攻略を繰り返した俺はその特典に気づくことになる。
ゲームを作った会社がなぜこれを公表しないのか意味がわからない。寧ろこの特典こそがこのゲームの醍醐味であるはずなのだが。
何度も何度もプレイし、目が悪くなって眼鏡をかける羽目になったほどだ。
・・・そして長い年月が経ち、俺は地元の中小企業で営業職としてつまらない商品を売り歩く毎日。
「はぁ~~。こんなクソアイスだれが買うか!」
俺は公園のベンチに腰かけ、足元にあるクーラーボックスを軽く蹴る。
その中にはうちの会社の新商品が入っている。バナナの形をしたアイスで味は毎回違う味がするという面白商品になっている。
’まあ面白いじゃん?’と当初は思っていたのだが、その味が問題だった。
から揚げ味だったり八橋味など誰得な味が8割を占め、バナナ味はなんと1割しかないという馬鹿げた商品だ。
サンプルさえも何味か分からないので営業先に紹介して食べてもらうのだが、大半が吐き出してしまうという狂気なアイスである。
勿論誰も店先に置いてくれないので、俺の営業成績は地を張っている。しかも俺だけがこのクソアイスの担当営業ときたもんだ。
「・・・遠まわしに辞めろってことか?」
会社の利益は毎年下がる一方。早期退職を募集しているぐらいだから使えない営業マンは言うまでもないだろう。
毎日のようにこうやって公園のベンチで黄昏ているのだから仕方ないのかな。
「よっし、休憩終わり。次の営業先に行きますか~~」
気のない掛け声をかけて重い腰を上げる。食っていくにははたらくしかないでしょう!
なんとか空元気を出して気持ちに勢いをつけ、公園から出た歩道に差し掛かったところでそれは起こった。
グオ~~~~~~~!!
と耳障りな排気音が自分に近づいてくるのが分かる。
異変に気づいて振り返れば、車道から反れて自分へまっすぐに向かってくるダンプ。
運転席を見れば、スマホを見ているのか下を向いている運転手。
’あっ。まずくない?’
と思ったのは一瞬のこと。瞬時に意識は何処かに飛んでいくのだった。
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’神魔の森’
リンガイア大陸の中央部に位置する巨大な森。その面積は大陸の7割を占め、人族は大陸周辺部に森を避けるようにして生活している。
神魔の森は人外魔境であり、人ならざる者の住まう地である。森を開拓しようとした国はことごとくが滅亡していることから、人々は森の怒りを恐れて足を踏みいれることを避けているのだ。
そして大陸には大きく4つの国が存在している。
北のアーベイン聖王国
南のロクセウム商業連盟
東のセラント帝国
西のリーン部族連盟
大まかに言えばこの4つの大国が森を取り囲むようにして存在している。4大国の関係はお世辞にも良好とは言えず、何年か置きに小競り合いを起こしているのだ。
まあ人が住める地が限られているのだから仕方ないのかも知れないが。
そして物語りはセラント帝国から始まる・・・
セラント帝国の15代皇帝フィクセン3世には美しい娘がいる。
その名もロキシー姫。その美貌は4大国1と吟遊詩人に唄われ、3大国の王族からは引っ切り無しに嫁入りの打診があるほどだ。
だがフィクセン3世はロキシーを手放したくなかった。亡き皇后譲りの顔立ちは年齢を重ねるとともに更に際立ち、城内の老若男女は彼女の美貌に顔を赤らめる。彼女は帝国の宝だ。他国には渡したくなかった。
娘の婚姻先が決まらぬまま数年。
娘が適齢期になる頃、頭角を現す若者がいた。その美貌は娘に劣らぬものがあり、多くのものを魅了するカリスマ性を持ち合わせている。
何を成し遂げたわけでもあるまいに、大臣やその部下からの評判は上々。そして立身出世する彼に娘は恋をする。
平民出身のその男に娘を・・・と躊躇した皇帝だが、娘の心中騒ぎをきっかけに止む無く首を縦に振ることになる。
そして皇帝は死期を迎え、息子が帝位を継ぐも、謎の死を遂げることとなる。
次々に帝位継承者が死に、最後に戴冠したのがロキシー女帝だった。
その夫は皇帝代行として絶対の権力を手にするのだった。
「気が付けばゲームの世界にいた・・・」
何を馬鹿なことを俺は言っているのか?現代人が聞けば’あっ、あれが噂の厨2!?’と呟くだろうその言葉に反応する人間は存在しない。
目の前を走る西洋風の馬車。その脇を中世風の服装で歩く人々。道端には馬糞やら動物?人?か分からない排泄物が辺り一面に転がっている。
そして正面の店先の看板娘を熱心に口説いている男がいる。
「あいつ、アレクサンダーちゃいまっか?!」
そんなえせ関西弁がでるほど平常心を保てない俺がいた。
「なんでこんなところにキングダムストーリーのアレクサンダーが・・・」
立身出世を重ね、最終的に皇帝代行となるアレクサンダーが目の前にいるのだ。