三題短編「アイス・お茶・パソコン」
「準備万端!」
今日は母が外出している。ここに夢のような娯楽に浸かる準備が完了した。
クーラーボックスを開き、アイスとお茶を放り込む。
だるだるの部屋着、ガンガンについた冷房、口さみしくなれば隣のボックスがある。
ドライアイスまで用意してクーラーボックスを持ち込んだ私に死角はない。
ふははは、この最強の布陣にかなうものなどいるまい……!
さてさて、今日はどんなゲームを、あるいは動画鑑賞でもしようか。
目の前のモニターがいつもより輝いて見えた。
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「さ……寒い」
どうしてこうなった。私はがたがたと震えて頭から毛布を被っていた。
いつの間にか極寒地獄に変わり果てたここは自室。
冷房を切り、毛布を被り、それでも震えは収まらない。
じわじわと冷やされた体はもはや熱源とは程遠く、毛布も保温の役割を成さない。
クーラーボックスは閉じられた。中身は既にゴミ箱と腹の中である。
光を放つモニターも、今では自分をずっと縛り付けていた魔性の牢獄に見える。
「駄目だ、何かあったかいものあったかいもの!!!!」
ばん、と戸をあけ放つ。夏の暑さが体を焼くが、芯までは届かない。
寒くて止まっていられないとばかりにドアを乱暴に閉め、だだだだっと階段を駆け下りる。
「煩いわよ!」
母の声だ、いつの間に帰っていたのだろうか。
「ごめんなさいちょっとあったかいもの用意してー!」
「今度は冷房でやったわねこの馬鹿たれ!」
前科一犯、ここに再逮捕。犯人は「今度は行けると思った」などと供述しており――――