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誰でも行ける異世界の話。  作者: 9アルさん
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EP4:『なんだとはご挨拶だな』

「おっ、ラキじゃねぇか奇遇だな」


「なんだゼノンか」


「なんだとはご挨拶だな。久しぶりの再会だというのに」


 重たい雰囲気を壊すような言葉とともに木の陰から姿を現したのは黒いコートに包まれた見た目30代ぐらいの男だった。

 腰には剣を携えており、ゼノンと呼ばれた男の背後にはもう2人の男性が連れられている。

 軽い口調の男に対し、ラキは真面目な声で返事をした。


「大丈夫だ。同職の知り合いだ」


 ラキはそう言って手にかけていた刀を鞘へと戻す。

 ラキは大丈夫というのならなら害はないのだろうがなんとなく警戒心はまだ解けなかった。

 固くなっているヘキルをよそにゼノンは会話を続ける。


「ラキの腕ほうがかなり上で最近は会うことがあまりないんだが、腐れ縁でな。ギルドのランクもSだからおめェら2人がかりでも勝てねぇんじゃねぇか?どうせその『フォレストドラゴン』も一撃で倒したんだろ?」


「二撃だ」


 饒舌な会話を聞く限り、冒険者としての2人の関係はかなり長い付き合いのように感じられる。

 ゼノンの後ろの男たちは面識ないようだが、ドラゴンを数撃で倒したことを聞いて驚愕の顔を浮かべていた。

 ラキはいともたやすく両断していたのだが、普通はそうはいかないようだ。


「ところで連れがいるなんて珍しいことしてんな。みたところ戦闘とかしたことなさそうな動きだが」


「プレイヤー召喚に不具合があったらしい。夕食を探している最中に見つけたから助けたんだ」


「へぇ、つまり襲っていたのはこのドラゴンか。そういえば自己紹介が遅れたな。俺はゼノビオス・ブラウン、ゼノンでいい。それで後ろのこの赤い防具の奴がオレスト、斧持っているのがランブロスだ。ヘキルちゃんでいいんだな」


 さっき教わったばかりだが正直、ノーヒントで名前を当てられたみたいでビビる。

 ラキと同じく、“ゴッドアイ”をみて名前を確認したのだろう、こちらが名乗る前に名バレしていた。


 ヘキルは会釈をし、よろしくと伝えた。


「それで、ラキはどうするつもりなんだ?そっちもまだ攻略終わってないだろ?」


 そういえば、まだヘキルがどうなるかは決まっていない。

 “能力(アビリティ)”をとりあえず確認はしていたのだが実際ラキの依頼についていくかどうかは判断下しかねていたのだ。

 ヘキルの気持ちはまだ変わっていないことには違いはないのだが。


「いや、それがなヘキルは“能力”持ちでな、今回の攻略には支障なさそうなんだ」


「“能力”持ちっていってもレベル1なんだろ?“能力”っつうのはんなに便利なものだったか?」


 このときヘキルがレベル1と指摘され赤面しかけたのだが、声には出さず胸の内側にしまった。

 この世界に来たばかりだといっても、ゲームのような世界でレベル1と言われるのは落ち込む。

 ゼノンには口ぶりから察するに少々無遠慮なところがあるのかもしれない。


「聞いて驚くな、彼女は“神憑き”だ」


「ホントか、それならかなり珍しいじゃねぇか、それ。じゃあ、ある程度は既にステータスにボーナスがついているのか」


 ゼノンは声を荒げてヘキルの方へステータスのボーナスについて言及してくる。

 ヘキルは今初めて、ボーナスのことを知ったのに加え、まだ自分のステータスを確認していないので何とも言えなかった。

 困惑するヘキルに助け舟も出さずにラキはその間に倒木のところに行って丸太の輪切りを増やした。

 切られた時の勢いで切り出された椅子は近くを転がる。


「どうせここで寝泊まりするつもりなんだろ?ドラゴンの肉余ってるから食え」


「お、それはありがてぇな。いただくぜ」


 そういうとゼノンはオレストとランブロスを連れて大量に余っているドラゴンの肉を切り出しに向かった。

 ゼノンから解放されたヘキルはラキが作った簡易椅子を運ぶのを手伝おうと一つ抱えてみる。

 切り出された椅子は想像してたよりもずっしりと重く、軽々しく持ち上げていたラキにはいかに筋力があるかを痛感させられた。

 楽しようと転がして椅子運び、焚火の周りに設置する。

 作業をしている最中、ラキはヘキルに耳打ちをしてきた。


「“転生(トランス)”のことは内密にしておけ。味方でも奥の手は出来るだけ晒さない方がいい」


 そのことはヘキルも同感なので素直にラキに同意の意を示した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「コイツはいつもソロで行動していてほとんどパーティを組まないからな」


「パーティを組まない?」


 ゼノンが指を指すラキの方を向いてみたがラキは目をそらした。

 ドラゴンの肉にかぶりついているゼノンからはアルコールの匂いが漂っている。

 酒が入ってるはずなのにゼノンには酔っている雰囲気が感じられない。

 タフそう見た目の通りに酒には強いらしく、そうでもなければモンスターの蔓延る中で飲酒をなどはしないだろう。

 もともと饒舌な性格なので酒で口が軽くなっているのかどうかも分からなくなっているのも否めないが。


「大方、気恥ずかしいんだろ?案外かわいいところもあるからな」


「いや私はかわいくなんか――――――」


 ラキに意外とかわいいところがあるのはヘキルも同意する。

 実際に、ヘキルがラキに抱き着いたときにとったラキの女々しい反応を思い出した。

 ゼノンは笑いながら酒の入ったボトルを高く持ち上げ、ぐぃっと呑む。

 今までの会話の流れ的にはゼノンとラキが主導権を握っており、ヘキルを含めた他3人がちょこちょこ口を出すような感じだ。

 さっき言っていたギルドの上下関係があるのかゼノンの後ろについていたオレストとランブロスは敬語で喋ってた。


「そういえば、ランブロスは鍛冶が専門だからヘキルちゃんに武器ぐらい作ってやれるんじゃねぇか?」


 ゼノンは次の肉を手に取りながらそう提案した。


「本格的に剣を打つことは出来ませんが、弓矢ぐらいならイケます」


 ランブロスは食べ終わった串代わりの枝を焚火に投げ入れながら答える。

 健康的な肉体に焼けた肌の色ののランブロスは見た目、若手の鍛冶屋というような風貌だ。

 ゼノンの進言通りにラキに同行するなら武器は持っておいた方がいいのは事実で、戦わないにしても護身用に持っておくに越したことはない。

 ヘキルもぜひお願いしたいということを伝える。

 

 武器づくりの了承をしたランブロスは材料を取りに立ち上がり、席を外した。

 戻ってきたのは、ゼノンが酒の入ったボトルを一本空けたぐらいのころだった。

 手には細めの若木数本に、剥ぎとられた木の皮、他には黒い石のようなものを持っている。


「ここはいい材料が多いですね。より質のいいのを厳選していたら遅くなりました」


 そういうとランブロスは元の席に座り、ジーパンのような長めのズボンからナイフを取り出した。

 武器を作るところを見ることなどはないので、ヘキルはまじまじと見つめる。

 ランブロスは採取してきた細い木を持ち、ラキの高速皮むきよりも早く木の皮をはがしていく。

 もはやその動きは熟練された職人の作業というより機械が行っているような感じだった。


 戦闘に関してももそうだが、この世界の技術力は元の世界より遥かに卓抜している。

 ヘキルはこの世界でやっていけるかどうかが少し心配になるほどの高水準だ。


「さすがはドワーフ仕込みは違うな」


 ヘキルの隣で作成過程を覗き込むゼノンが感嘆の声を漏らす。

 ドワーフというのはファンタジーの中によく出てくる小人の名称だ。

 扱われ方は高度な鍛冶や工芸技能を持っていることがほとんどで、手先が器用な種族である。

 

――――“能力”でドワーフになることもあるかもしれないけど、このスピードはさすがに気持ち悪い――――


 ランブロスはほんの30秒ほどですべての木の皮を剥がし、剥がした皮と材料として持ってきていた皮から繊維を取り始める。

 みるみるうちに縄が出来ていき、皮の剥かれた細い木を一本取り出し、ナイフで形を整え縄を張って弓が出来た。

 ここまでの製作時間はたった2分ほどで残像を残すような速さに躊躇のない手の動きは凄さより不気味さが先に出る。

 弓が完成すると次にナイフを焚火で少し炙り、黒い石のようなものを親指大ぐらいの大きさにそぎ始めた。

 重く硬そうな石がまるで豆腐を切っていくかのようにサクサクとそがれていく。


「それは?」


 あまりにも異様な光景にヘキルは思わず、質問してしまった。


「物珍しいですか?これはただの鉄鉱石ですが、このナイフの方は少々特殊です」


 そういうとランブロスは手に持っていたナイフを急に垂直に地面のほうへ落とした。

 ナイフは地面で跳ね返ると思った否や、そのまま(つか)のところまで深く刺さった。

 音のなく地面を切り込むナイフを見てヘキルは目を丸くする。


「簡易工具代わりにならないかと思って打ったナイフです。少し火で炙れば竜の鱗だって斬れます」


 椅子の高さから落としたナイフが深く刺さるなんてよほど切れ味がいいのだろう。

 鉄鉱石をどんどん切っていくのをみて、ヘキルも試してみたくなったりする。


 先端を火であぶった木にその切って矢じりの形にした鉄鉱石を装着させていく。

 矢がどんどん量産されていき、材料の木が無くなったところでそれはストップした。

 ついでに余った木の皮と縄で矢を収納するホルスターまで作ってくれた。


「ちょっと弓が固いかもしれませんがある程度は使えるでしょう」


 そういって渡された弓矢は間に合わせものでない非の打ち所のない一品だった。

 森の木々から取ってきた材料のはずなのに手にしっかりとなじみ、ランブロスの技術の凄さを痛感する。


 試しにホルスターから矢を一本取り出し、近くの木に向かって射った。

 幹のど真ん中に命中し、しっかりと突き刺さる。


「問題なさそうだな」


 ゼノンは感想を漏らす。


「エンチャント、どうせならラキさんお願いします」


 そういうとランブロスはラキに向かって何かをお願いした。

 ラキは少しうなずくと、ヘキルのもとへ近づいて出来た弓に手を触れる。

 ラキが目を閉じると触れられた弓は少し輝きだし、しばらくすると収束した。


 何かが終わった弓をラキから貰う。

 今何をしたのかという疑問をラキに投げかけてみた。


「魔力付与だ。この辺りは炎を苦手とするモンスターが多いから、矢が火矢になるようにしといた」


 ランブロスがわざわざラキに頼んだのはたぶん魔力の大きさとかだろう。

 だいたいこのようなものは魔力が大きいほど威力が高いことが多い。

 このなかでは一番戦闘力が高いラキに頼むのは妥当だ。


 ヘキルは二人にお礼をいい、まずは弓を弾く練習をし始めた。

 火の加減は使い手の意識で決まるらしく始めは火のない状態から慣らしていく。


「なあ、ラキ。ここからはシリアスなんだが」


 弓矢をいじくっているヘキルを見ているラキに向かってゼノンは少々重い雰囲気の言葉を放った。

 ラキは反応して、ゼノンの方に目線を向ける。


「チート組がこの辺をうろついているらしいんだ」


「ああ」


 焚火の火は揺れ、夜は更ける。

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