PR1:『引きこもりの少女』
頭の中の構想に技術がついていけない――――――――
炎天下の中、逃げ水の他に揺れる影があった。
一定のスピードで歩いているそれは生気というものを感じさせない。
機械のような動きをするそれが少女自身だということに気が付くのには時間がかかった。
揺れる振り子のような思考力、はたらかない頭はここが夢のなかであろうという判断を下した。
まるで第三者の目から自分を見ているようなその空間は自分自身の動きをコントロールするのも困難である。
意思という制御の外れた自分の足はただ一直線に歩いている。
周りには歩行人はいないが、その理由を推測する気力などは持ち合わせていなかった。
視界を再び自分の方へ戻すと無意識な少女の口は動いていた。
しゃべっているということは分かるが、自分が何を言っているのかはわからない。
感覚は完全に孤立していた。
「い――う――ん――あ――?」
前方に無機質な赤い光が照らす。
本能的にそこは立ち止まらなければいけない意識が起こる。
意志とは逆に暴走する自分の身体、感覚が遠ざかっていくのはこれが初めてではなかった。
壁越しのように聴こえるようなアラートを無視した身体は赤い華を無理やりに見せつける。
急に黒塗りになるような光景に吐き気を催すが気持ち悪さと裏腹に視界がくっきりとし始めた。
血塗られた笑顔に倒れているのは自分。
触れてはいけない過去が露見し、意識の自分は涙を流す。
自分は覚えていないはずなのに。
――――――私は泣いた
そこで目が覚めた。
はたらいていない頭がさっきまでの夢を振り返る。
自分が死ぬ夢というのは吉夢に値するらしいがいい気分はしない。
朝から精神的に疲れる、しかも今日はそれに加え身体の方も何やらずきずき痛み、布団の中に寝ていたはずなのにまるで地面の上に寝ているかのよう――――――
「うわ、なんで道端で寝てんのよ」
少女が目を開けて認知したことは幅3メートルほどの道のど真ん中に自分が寝っ転がっているという事だった。
周りは木々が連なっており、視界の悪い陰湿な雰囲気の森になっている。
舗装のされていない地面のおかげで衣服は汚れ、慌てて土を手で払い立ち上がった。
意識が明瞭になり周りに注意を払うと上の方から気配を感じた。
「うそでしょ――――」
上を見てみるとカラスやスズメが飛んでいるわけではなく、目測10メートルはありそうな怪鳥が大空を旋回している。
顔には角、鮮やかな色の羽毛に鋭い爪、口にくわえている獲物はたぶん大トカゲ。
少女は血の気が引いていくのを感じながらため息をつく。
大きな風が通り過ぎ少女の黒髪を躍らせた。