第10話(1)
ドラマーで、8ビートを叩けないと言う人間は当然、いない。
4ビートが基本中の基本ながら、現代のロックバンドとして恐らく最も多用されているリズムは8ビートだろう。
そしてバンドにおいて、ドラマーに要求されていることはいろいろとあるだろうが、根底には正確なリズムを刻むことが常に要求される。ドラムのリズムが滅茶苦茶であれば、楽曲そのものががたがたになる。しかしながら人間である以上、正確にリズムを刻み続けると言うのもまた難しいものである。その為、ドラマーだけイヤモニを装着して耳元からクリックを流して叩くと言うケースもないではない。
けれど一矢は個人的に、クリックを聞きながら叩くと言うのは余り好きではなかった。レコーディングならばそれも良いが、ライブとなってくるとノリが狂う。他の音を聴いて、啓一郎の歌を聴いて、観客のテンションに煽られて叩くのがライブであるような気がする。
だからこそ時々、ひとりでスタジオにいる時などは、淡々と8ビートをシンプルな三点のみで刻む練習をしてみたりする。
スタンダードな120から、次いで180、今度は落として60。淡々とリズムだけを刻んでいると、実は遅いテンポの方が難しい。余り長々と叩いていると、少しずつ速くなりがちである。
それに飽きると、いろいろとおかずを乗せ始める。タムを交えて、シンバルを絡める。次第にそのまま手の動くままに叩き始め、自分たちの持っている曲などに移行していく。
(ウィンドチャイムでも買おうかなー)
現在一矢のドラムセットは、ロックバンドとして最もシンプルでスタンダードな形態と言えるセットである。シンバルはライドとクラッシュしか使用していないし、タムは12インチと13インチのツータム、そしてフロアタムだ。たまに楽曲の中で使用するウィンドチャイムなどはキーボードや打ち込みに頼っているが、打楽器に分類される以上、そしてGrand Crossにはパーカッションを担当している人間が他にいない以上、一矢が担当すべき楽器ではある。
3時間近くひとりで叩きっ放しで次第に飽きてきた一矢は、叩く手を止めてスティックをぐりぐりと顎に押し当てながら自分のドラムセットを見回してみた。つらつらとそんなことを考えている視界の隅で、スタジオについている擦りガラスの向こうに人の気配を見つけた。
嶋村家のスタジオは、庭の片隅にある小さな建物の中にある。出入り口から入ってすぐ、スタジオ沿いの短い廊下には擦りガラスがあり、防音扉には覗き窓のように縦長の細い窓もある。
そのシルエットから和希だろうと見当をつけて眺めていると、案の定、防音扉が開いて現れたのは和希だった。
「はよん」
「あれー?おはよー」
「……何よ。『あれー?』って」
「何で一矢がいるの?」
つくづく一矢が最初に来ていると異質に見えるらしい。スティックを握ったまま両手を頭の後ろに伸ばして壁に寄りかかりながら、一矢はへろっと舌を出した。
「改心したの、俺」
「それは嘘だな」
さらっと言いながら、和希は肩に引っ掛けたギターケースを床に下ろして、伸びをした。ついでにその口からふわふわとあくびが零れる。
「また寝不足なん?あんた」
「んー……ちょっとねー……」
「……そりゃあお盛んなことで」
ぼそっと言うと和希が脱ぎかけていた上着を一矢に向けて投げつけた。
「ぶほ」
「そうじゃないッ」
まんまと顔面に叩きつけられた上着がずるりと一矢の膝の上に落ちると、和希は赤い顔で一矢を睨んでいた。22歳にしてこれほど純情なのもどうかと思うが。
「違うの?由梨亜ちゃんとお泊りコースじゃないの?」
まさか啓一郎の前でそんな話を振ることは出来ない。和希と2人だからこそ言えることである。和希は片手を前髪に突っ込んで、整った顔を顰めた。
「まさか。高校生の由梨亜を外泊させるわけにはいかないだろ」
「そりゃまた健全な」
「普通」
「高校生だけど家に帰らないコなんか山のように知ってますが」
「それはそれ。これはこれ。人それぞれ」
端的に言って一矢から上着を受け取ると、それを手近なパイプ椅子に放り出して、和希は立ったままギターケースを開けた。
「そりゃそうれすけろね……。んでも会ってはいるんでしょ、ぽつぽつと」
「……ん。あんまり時間ないから、ゆっくり会えてるわけじゃないけど」
「ふうん?」
またスティックで顎をぐりぐりやりながら、ギターをスタンドに立てかけている和希を眺める。以前紫乃が「ファンだ」などと言って騒いでいたが、すらりとした長身と端正な顔立ち、大人びた雰囲気と物静かな仕草に柔らかな笑顔……和希に好意を寄せた女の子はいくらでもいたと思うが、和希にとっては由梨亜が初めての彼女だ。普通に考えても22歳で初めて付き合うと言うのは遅い方だろうかと言う気もするが、もてて来ているのならば尚更である。素朴な疑問が浮かんだ。
「和希って、何で今まで誰とも付き合って来なかったの?」
思いつきに過ぎない質問に、丁寧にギターケースを畳んでいた和希が顔を上げる。
「は?」
「は、と言われましても。素朴な疑問なんですが」
「そう?付き合うのって、そう簡単に出来るもの?」
「知りませんけど。それこそ人によるんじゃないですか」
「じゃあ、俺は付き合えなかったから付き合って来なかった」
「……」
そういうセリフは異性と縁遠い生活をしている人間が言うべきものであって、和希が言えば嫌味にしかならないと思うのだが。
とは言っても本人は至って真剣な顔で言っているので、無言で顎に一層スティックを押し付けていると、今度はバッグからノートパソコンを引っ張り出しながら和希がちらっと一矢の方に視線を流した。
「だって、一矢だって俺の知る範囲でずっと彼女いないでしょ」
「……うーん」
そこを一緒くたにされるのも複雑である。武人に以前言ったのと同じだ。不特定と思えば一矢もその一員として選択肢に含める女性も、特定と思えば視野から外れる。特別に異性受けが良かった経験は、和希と違って一矢はない。
と言って、確かに、好意を寄せてくれる人がゼロだったとは言わないが――京子のように。
「んでも俺、ロボッツのみらいと付き合ってたよ。ほんの一瞬」
「えええ?そうだったの?」
「何であんた知らないの?」
「何で俺知らないの?」
ロボッツと言うのは以前に時々対バンしていたバンドである。みらいと言うのはそこでサックスを担当していた女の子だ。期間限定と言うふざけた付き合い方を付き合っていると言っていいのであれば、と言う話ではあるが。
切れ長の目を丸くしてひとしきり驚くと、和希はパソコンケースをバッグに雑に突っ込んで立ち上がった。
「まあそれならそれはそれで良いけど……付き合うとかってさ、要は意思の疎通でしょ。片方がどう思っていようが、片方が明後日の方向を向いてたらどうなりようもない」
「そんであんたはとんちんかんな方向を向いてたってわけね」
「……否定は出来ない」
つまり好意を寄せてくれる人がどれだけいたところで、和希が向いている方向の『誰か』とは意思の疎通が図れなかったと言うことだろうか。
それなら適当なところで妥協のひとつもすれば良かったものを、馬鹿真面目な和希の性格がそれをさせなかったのだろう。
「なるほろね……」
そしてようやく向き合えたのが由梨亜だったと言うことか。
「それこそ、人それぞれだとは、思うけど」
ノートパソコンをMTRの乗っている汚い折り畳みテーブルに乗せて、転がっているタップで電源を繋ぎながら和希は笑った。
「どうしようもないもんをずっと引きずってたって、そんなのは単なる未練にしか過ぎないわけだし。過去を見てたって、人は前に向かって生きているわけだから」
「まあねぇ」
「出た結論に対してうじうじしてても仕方がないんだから、意思を伝えてくれる誰かを見つめてみるってのも、ひとつの選択なんだなあって最近気がついた、俺」
「好きになってくれたんだから、こっちも好きになれるつもりで見ようとしてみるってこと?」
「うん。最も意思の疎通を図りやすい手段ではあるよね。それに、今までは見ようとしてなかったから見えなかった相手の良いところってのもきっと見えてくるんじゃないかなあって思うよ。……ま、俺が気がつくのが遅いだけで世の中の人はとっくに気がついているんだろうけど」
自分が想う相手に自然に想われるなど、全く奇跡に過ぎない。人間が多過ぎて、出会いが多過ぎる。砂漠の中からようやく見つけたはずの宝石も、次に見つけた宝石の方が綺麗に見えると言うことは往々にして起こり得る。本当は、既に手に入れていたものの方が、自分にしっくり来るものだったかもしれないのに。
けれどそんなことは結果論で、後になってみないとわからないことだったりもする。
「でもまあ最初は、好きになった方が相手に『こっち見てみようかな』と思ってもらえるようエネルギーが必要なんだろうね」
言いながらパソコンとMTRを繋げた和希は、パソコンを起動させてソフトを立ち上げた。画面を操作するのをぼーっと眺めながら、一矢はスティックで顎を押さえるのをやめて軽く肩を叩いた。
「由梨亜ちゃんが明後日の方向を向いてたら、和希はそういう努力をしたんだ」
「………………どうかなあ」
ディスプレイを覗き込みながら、指先でキーボードを叩いていた和希が難しい顔で動きを止める。上げた顔に苦笑を浮かべて、一矢を見た。
「何も出来なかったかもしれない。わからないけど」
「そう?何で?」
「俺、由梨亜は最初啓一郎が好きなんだと思ってたんだよ」
「ああ」
それは以前、雑談の中でちらりと耳に挟んだ。最初の頃は頻繁に啓一郎と話している由梨亜の姿を見かけたし、和希のみならず一矢もそうなのだろうと思っていたのだから。由梨亜が和希への想いを啓一郎に相談してたに過ぎなかったことは、後になってわかったことだけれど。
何となくその頃の光景を脳裏に蘇らせていると、和希は立ったままだった腰をようやくパイプ椅子に落ち着けて寄りかかりながら、パソコンのエンターキーを叩いて一矢を振り返った。
「俺、何もしようとしなかった」
「何で?諦めるつもりだったわけ」
「だったんだろうね。自信、なかったし」
ディスプレイの中で、何か文字らしきものがめまぐるしく動いている。和希が良く使っている音楽ソフトだと言うことはわかっているが、それ以上のことは一矢は余り良くはわかっていない。恐らく起動中なのだろう。
「自信なかった?」
和希のその言葉が意外で、真顔で問い返すと、和希が笑った。
「そりゃそうだよ……俺、啓一郎と違って恋愛経験なんかほとんどないに等しいんだし、俺の方を見てくれるとは思えなかったもん」
「和希が?」
「どういう意味?」
「いや……どうってわけじゃないけど」
「だからさ。大体何をどうすりゃこっち向いてくれるんだか何か全然わからないし、だから、諦めてたんだろうな」
「……ふうん」
「目を逸らそうとしてた」
そういうものなのだろうか。
のそのそとドラムセットに囲まれた狭い椅子の上に無理矢理あぐらをかきながら、そっと首を傾げた。
自信がない――その気持ちは、わかる。自分もそうだ。こちらを向いてもらえるような何が自分にあるとも思えない。
けれど。
(和希は違うでしょ……)
女の子が靡く(なびく)要素など、いくらでもあるように思える。けれどその実、本人はそれをわかっていなくて尚且つ自信がないのである。
「意外に……その、何とか同じ方向見てたみたいで……だけど、怖いのは今も同じかな」
「そう?」
「うん……俺が音楽にかまけている間に、どっかよそ向いちゃうんじゃないかなって思うこともある」
パソコンのディスプレイは、既に作業を終えたらしくて静かだ。けれど和希はその画面をぼーっと眺めて、頼りない笑顔を横顔に覗かせた。
「今は由梨亜が俺の方を見てくれているのは知っているけど、他の誰かがそれこそ自分の方を向かせようと努力するかもしれない。俺がそばにいられない間に、由梨亜も『そっち見ちゃおうかな』って思わないとは限らない」
「そうねぇ……」
否定しろよ、と和希が笑った。それから続ける。
「でも、実際どこ向いてたってそういうふうに何があるかはわからないわけだし、人の気持ちは変わるんだし、維持するのはまた意思の疎通を図る以上に苦労して当然なんだろうけどさ」
「はー。んで、よそ向いちゃったらどうするわけ?そん時も諦めるの?」
「さあねぇ……」
赤いメッシュの入った前髪をかき上げて、和希が顔を伏せた。タッチパッドの上を指でなぞって、カーソルを操作しながら小さくため息混じりに答える。
「そりゃその時になんないとわかんないな」
「浮気とか?」
「考えさせるなよ。……でもさ、そういうのって結局俺の問題のような気もするんだよね」
画面上に開いたボックスの中から何かを選んでは貼り付けると言うような操作をしながら言った和希の言葉に、首を傾げる。
「俺の問題?」
「うん。俺の問題でしょ。許すとか許さないとかって。……重要なのは、彼女がどう思ってるかってことよりは、俺がどう思ってるかってことのような気がして。最近」
「うん?」
「前は、彼女がどこを向いてるのかが最重要事項な気がしてた。だけど今は違うような気がする。俺が彼女を好きなのであって、彼女が俺を好きでいてくれるから俺も好きなわけじゃない。向こうがどこ見てようが、それと俺の気持ちってのはまた別の話で、もちろんこっちを向いてくれているに越したことはないけど、それは本当のところはわかりようがない。別人だから」
「……」
「どこを向いてるとしても、俺が、どこを見ているのかが結局俺にとっては最重要事項なんだろうし、俺が彼女を見ているから彼女の気持ちが気にかかる。……これって、冷静に考えると二次的問題なんだなって気がするでしょ?」
「ああ……うん。そりゃあまあ、そうかもね」
「とさ、人間、誰しも間違えることがあるわけじゃん。間違える生き物だから」
一矢が『裏切る』と表現したことを、和希が『間違える』と表現したことが妙におかしかった。双方の考え方の違いが、選ぶ言葉に表れるような気がする。
「だったら間違えることはあるかもしれない。でも、実は間違ってたのは、俺の方を見てたことの方だったのかもしれない。そうだった時に彼女が俺から離れていったら、俺は頭がおかしくなるのかもしれないよね」
「他に好きな人が出来たの、とか言って?」
「聞きたくないけど、そう。そうして彼女が別の人を見るんでも……あるいは、どっかで間違えちゃって戻って来るんだとしても、その間俺はどう思ってるのかって方が大事なことで……俺が、彼女を好きなら、あれこれ言っても結局どうしようもないんじゃないかなって」
「どゆこと?」
「傷つくことも、嫌な思いをすることも、腹決めて覚悟して、いるしかないんじゃない?」
次の作業も終えたらしい和希は、足元に転がしたままのバッグを漁って新品のCD-Rを抜き出しながら、小さく笑った。
「傷ついても怒っても泣いても、好きでそばにいたいのが俺なんだから覚悟する以外にない」
「……」
「信頼関係って、最初からそこにあるものじゃないじゃない」
「……うん」
「作っていくものだから。この人の為だったら、傷ついてもそれでも良いって決めて、結果がどうなるかはわからないけど、その覚悟が前提にあってこそちゃんとした信頼関係って築いていけるもんだと思うんだよ」
「……そうかもね」
「だからさ……何の話でこんなことになったんだっけ」
「さあ」
締め括ろうとして、締め括るべきが何だったのかを話している間に忘れたらしい和希の言葉に吹き出しながら、それでもなかなか、意義のある雑談だったような気がする。
「……ま、いーや」
「ともかくも野沢センパイが由梨亜ちゃんを溺愛していることだけは俺にも良く理解出来ました」
「お前ねえ……」
パソコンにCD-Rを挿入しながら振り返った和希の顔は、また微かに赤い。へろへろと舌を出して見せる一矢に「ったく……」と小さくぼやいて、和希はまたパソコンの操作を始めた。
「何しとんの」
「次のさ、シングルの候補曲をこないだいくつか出したじゃん。あれで……今日、さーちゃん来るでしょ」
「うん。来るって言ってたね」
「だからまとめて数曲をRに焼いといて、広田さんに聴かせようと思ってさ。持って帰ってもらった方が早いから」
「ああ、だからこんな早くに来たの?」
「そう。みんなが来る前に焼いちゃおうと思ってて。まさか一矢がいるとは予想外だったけど」
「すみまへんね」
「いや別にいいんだけど。そんでね、俺、あの後勝手に候補曲を1つ増やして……今日、さーちゃんの前にメンバーに聴いてもらってどうするか考えようかなって思っててさ」
言いながら、和希がパシンとスペースキーを叩いた。MTRと繋がっているスピーカから儚い音量で打ち込みの音が流れ始め、MTRのフェーダーに和希が指をかける。レベル操作を画面上ではなく現物で行う為にパソコンとMTRを繋いでいるので、和希の動きにあわせてボリュームが上がった。
「結構、気に入る曲になりそう。みんなでアレンジしたら、良くなっていくはず」
「信頼関係?」
スピーカを見つめる和希の言葉に、一矢は先ほどの話題を引っ張って笑った。振り返る和希も笑って、頷いた。
「そう。これも、信頼関係。……実績を元にして、そうやって築き上げていくものでしょ」
◆ ◇ ◆
シャワーから、熱いお湯が噴き出してくる。湯気の立ち上るバスルームで、麻美と抱き合った熱の名残を洗い流しながら、ぼんやりと閉め切った窓ガラスを伝い落ちる水滴を眺める。
京子とは、あの夜から連絡が絶えていた。とは言ってもまだ5日目――気にするほどの期間ではないが、今頃どうしているだろうとふと考える程度の時間でもある。
そうしてあの日彼女に宣言した通り、自分は交際しているわけでもない女をこうして平然と腕に抱いているわけだ。京子を傷つけたままで。
バスルームから出ると、とりあえずジーンズ姿で部屋へ戻る。彼氏などではないから当然着替えなどを置いてあるようなことはない。
「麻美さん、シャワーありがとー」
借りたバスタオルを裸の肩から引っかけたまま、続き部屋のキッチンに立っている麻美に声をかけると、麻美が何やら小鉢を片手にこちらに歩いてきた。
「食べる?」
「何?肉じゃが?食べる」
「……一矢って上半身、良いカラダしてるのよねぇ……」
「……麻美さん。言い方がえろい」
「言ったでしょ。『カラダは好き』って」
「ええ、高笑いと共に頂きました。話題は肉じゃがじゃなかったの?」
麻美が片手に持ったままの小鉢からじゃがいもを摘みながら呆れると、麻美がそれこそいやらしい手つきで腕の筋肉をなぞりながらにやーっと笑った。
「……変態」
「失礼ね。だって意外に筋肉ついてるわよね」
「意外って何?大体俺が毎日どんだけ全身運動してると思ってんの?」
「全身?……うーん。まあ全身と言えば言えるかもしれないけど、基本的には下半……あいた」
何やら話題を誤解している麻美の額を軽く弾く。